王子様の魔法のKiss
気付いたとき、セルマはベッドに横になっていました。右手は、ベッド脇に座ってうつ伏せになっているエミディオが握っていました。
「これは、おとぎ話なのかしら」
セルマはぼんやりとした頭のまま、呟きました。
「これは現実に起こったことだよ」
エミディオが目を覚ましていました。
「セルマ、僕は君にもう一つ謝るべきことがある」
「茶瓶と芳香油以外で?」
「そうだ。僕は、10歳の頃、8歳だった君の年齢を奪ってしまったんだ」
「どういう意味?」
「僕は10歳のとき、どうしても大人っぽく見られたくて、王宮に来ていた女の子の年齢を吸い取ってしまったんだ」
「エミディオは他人の年齢を吸い取れるってこと?」
「そのとおり。僕は多分、いやきっと、君の年齢を10年分奪ってしまった。だから君は8歳から成長できなかった。君の体がおかしかったわけじゃない。僕の頭がおかしかったんだ」
「そんな事って、アリなの?」
「アリなんだ。僕が、魔法使いだから」
「は?」
「秘密だよ、王族のうち、何人かは魔法が使えるんだ。古代の技が、王族の中ではまだ生きているんだよ」
「それは、科学では証明できてないの?」
「ああ。できてない。もちろん、明かしてはいけない。そういうものとして受け入れることが、魔法を使う条件だから」
「面白そう」
「でも研究してはダメ」
「ちぇ」
セルマは口を尖らせました。エミディオはその先っぽをすかさずかすめ取っていました。
「魔法の研究はダメだけど、僕の研究ならいいよ」
「エミディオの研究?」
「そう、僕とその周辺環境の研究。僕が知らない僕のことを、君が調べて、僕に教えてよ」
エミディオがもう一度軽いキスをすると、セルマは口の端の片方をあげて笑いました。
「それが、エミディオの役に立つなら」
「ここで、お願いが1つある」
「なんでも言って」
セルマの唇と、触れるか触れないかのところで、エミディオは止まりました。
「僕と結婚してください」
セルマは自分の胸がドキドキ鳴っているのが聞こえます。
「もちろん」
2人は唇を重ねるとキスをしました。この後の人生を分かち合うような、長くて深いキスでした。
やがて2人は多くの人に祝福されながら、盛大な結婚式で、永遠の愛を誓いました。セルマの姿? それはもちろん、16歳の姿で。
おとぎ話篇、これにて完結です。風味だけでも残っていれば、嬉しいです。さて、次は番外篇エミディオの日記。彼のつぶやきを覗いてみましょう。