想像してみてください、暗殺者の姿を。
次の日、セルマは異変に気付きました。まず、背丈が前より少しのびました。つぎに胸が、ちょっとだけ生えてきました。そして、ついにアレが来たのです。生物学的に女性であるから起きる現象、成長していないと思った体が、成長している証です。
知識だけはありましたから、事後処理は完璧です。汚れたものは、手順通りに風呂場で洗濯し、既に干してあります。
いつか私も赤ちゃんを授かれるのだろうか、と思いながら、セルマは母に手紙を書きました。ちょっと父には伝えにくいからです。
セルマが侍女に手紙を渡そうと呼び鈴に手を伸ばしたとき、すっと、その手が絡めとられました。
「こんにちは、お嬢さん」
侍女の格好をしたその人は、多分、昨日の夜の黒い影でした。
「今日は何の用ですか」
「主人は、君に用がないんですよ」
侍女の姿をした男はにこりと笑いました。
「でもね、自分は君に用がある」
セルマの口をハンカチで押さえると、男はセルマの手を捻り挙げて自分に引き寄せました。
「君、とってもいい実験サンプルになるよ。不老の研究に貢献する、いや、不死の研究にまで貢献するやも知れない」
男は、セルマのほほをぺろりとなめました。
「それに、君の脳は知識と知識欲の塊、さぞ良い知識保管場所になるだろうねぇ」
それはちょっと素敵かもしれないとセルマは思いました。だんだんと体が想い通りにならなくなってきました。男はセルマの重心が不安定になるのを感じて、そろそろセルマを運び出そうか、としたとき、部屋の扉が開きました。エミディオです。
「貴様! 彼女から離れろ!」
部屋に入るなり騎士の剣をぶんどって振りかざすエミディオは、戦い慣れしていなさそうです。
その様子を見た後、セルマはまぶたを支えきれず、意識も遠くの方へ放り出してしまいました。
セルマが、ちょっと素敵かもしれないと思ったのは、脳がデータバンクになるという発想。自分のことは置いといて、そんなことを考えちゃってます。
呼吸を通じた麻酔って、気絶するまでに結構時間掛かるらしいですね。歯医者の麻酔は割とすぐ効いてきた気がするから、やっぱり注射ってすごいですね。