ともだちは不法侵入者
その男はエミディオと名乗り、何日かおきに、爆発小屋へ顔を出すようになりました。最初は、瓶を壊した謝罪。次は、姉の結婚祝いの材料だったという中身の重要さについて知ったが故の謝罪。その後は何かにつけて城下の流行菓子や小さな装飾品、貴重本などを持ってくるようになりました。なかなか外に出ないセルマにとって、男はいつの間にか重要な情報源となっていました。
この日も、エミディオは夜中の爆発小屋へやってきていました。
「セルマ、今回は何の実験?」
「今は、前と違う花から芳香油をとる用意。明日抽出する」
「今度はどんな成分のよてい?」
「日焼けや火傷によく効く予定」
乾燥した花の甘い香りがする小屋の中で、エミディオは椅子の上でひざを抱えて座っていました。セルマはいそいそと蒸留器を組み立てています。
「エミディオ、面白い話して」
「じゃあ、運輸副大臣の話」
「それ、面白いの?」
「うーん、更迭前の副大臣は樽腹で有名だったのに、更迭された後あっというまに痩せ細ったってだけだから、どうだろう。あまり面白くないかも」
「興味深いよ。運輸副大臣は横領とかで更迭されたの?」
「いや、人事担当者に賄賂を贈って、親族を重要ポストに置こうとしたらしい」
「そういうのって、結構な金額を渡すんでしょう? その出所は怪しくないかな」
「そこは知らないなぁ」
「運輸副大臣の奥さんの親戚が、財務官だった気がするから、そこが一番おもしろそうなのに」
ぷうっとほおを膨らませたセルマを抱きしめると、髪の毛をわしゃわしゃと混ぜました。完全に子ども扱いですが、これがお別れの挨拶代わりです。
「次会う時には、調べておくよ」
「うん。ばいばい」
「またね」
こうして2人は夜の爆発小屋で、情報交換を楽しんでいるのでした。
セルマは結構大雑把な性格の様子。
運輸副大臣は樽腹で、しかも黒いひげを生やしています。きっと。