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春の海辺で

 コープからの連絡を受けて、ユリアは海岸へと急いだ。アルベルトを捨てた、あの海岸だ。

 事件から半年余りが経っていた。この半年、ユリアはずっと気が気ではなかった。いつ事件が発覚するかと、そればかり考えていた。

 早く春になってくれ。春になって、海氷とともに南の国へ流れていってくれ。

 そればかり願っていたのに。

 春になった途端、死体が発見されてしまった。どうやらユリアの目論見と異なり、割れた海氷の隙間にアルベルトの死体が浮かんでいたらしい。

 ユリアが見つけた割れた海氷。あれは、ユリアの腕が下に届かないくらい、分厚かったのだ。そもそも、それほど厚くなければ、ユリアとアルベルト、2人の体重を支えられるはずがない。

 ユリアは、それに気付かなかった。

 悪態を吐きながら、ユリアは車を走らせた。雪はここ数週間のうちに解け、1階が完全に露出していた。道路は除雪車により整備され、安全に車を走らせられるようになっていた。

 落ち着け私。ユリアは自分に言い聞かせた。死体が発見されることは、想定していた。発見されたときのために、わざわざアルベルトを着替えさせたではないか。部屋着から、日曜日に着ていた外出着へと。警察の話では、本当に出社していたらしい。私服だったので、遊びに行ったのだと思っていたが。

 警察が死体を調べれば、殺されたことはすぐにわかるだろう。問題は、いつどこで誰に殺されたのか。それを警察が掴めるのか。

〔掴めないはずだ〕ユリアは思った。〔死んでから半年も経ってる。死体の証拠能力も失われているはずだ〕

 海岸には、既に報道カメラが来ていた。野次馬もちらほら見える。車を降り、「KEEP OUT」と書かれたテープに近づくと、海岸の方からコープがやって来た。

「お待ちしておりました、奥さん」

 半年前と変わらない表情で、コープが言う。

「こちらへ来ていただけますか? 一応、身元の確認をしていただきたいので」

「わかりました」

 テープをくぐり、波打ち際に張られた青いビニールテントに向かう。報道カメラがユリアを捕らえようとするのを、制服姿の警官が制した。

 テントの中には、アルベルトの死体がそのまま横たわっていた。それを見てユリアは、う、と顔をしかめた。

 アルベルトの体は、雪だるまのように膨れ上がっていた。姿はユリアが着せた格好のままだったが、それが破れそうなほどパンパンに膨らんでいた。

 その一方で、死体の損傷は激しくなかった。冷たい海の中に閉じ込められていたため、腐らなかったらしい。体が膨れ上がっているのは、体内の細菌の作用だ。これではなにか証拠が残ってしまっているかもしれない、とユリアは焦った。

「ご主人に間違いありませんね?」

 ユリアは目を背けながら答えた。

「はい」

 コープはアルベルトの死体に歩み寄り、頭の横に屈んだ。死体に一度手を合わせてから、ユリアを見上げた。

「ところで奥さん」

「なんでしょう……?」

「ご主人はどうやら、誰かに殺されたようです。後頭部に殴られた痕がありました」

「殺され……?」

 やはりばれたか。しかし警察は、どこまで掴んでいるのだろう。確かめたくて、ユリアは尋ねた。

「誰に、ですか?」

 するとコープは立ち上がって、ユリアを見据えた。ユリアは内心の動揺を隠すように、無表情を作った。

「それはもちろん」

 だが内心の動揺を見抜くように、コープが言った。

「あなたにですよ、奥さん」

~読者への挑戦状~


以上で「問題編」は終了です。

コープはいかにして、ユリアの犯行だと見抜いたのでしょうか。

すべての手がかりは、「問題編」のどこかに隠されています。

是非コープの立場に立って、ユリアの犯行を立証してみてください。



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