【断頭台の円舞曲】
【終焉の旋律:狂乱の処刑】
マークが極度の興奮に喘ぎ、クレスタの最後の防壁を抉り取ろうとしたその瞬間——世界の「音」が死んだ。
「あ、ああああああ——ッ!!」
マークから人間ならざる悲鳴が上がった。クレスタを犯そうと伸びた彼の手は、真紅の魔力に触れた瞬間、酸を浴びたかのように皮肉が剥離していく。クレスタはゆっくりと立ち上がった。その動作は暁の中に目覚める眠り姫のように優雅で、引き裂かれたはずのドレスは、今や滝のごとく流れ落ちる真紅の魔力外套へと変貌していた。
「オーベルドルフ閣下。貴方は今……この手で私に触れたのかしら?」
クレスタは悪趣味な品々に満ちた小屋を見渡した。壁に掛けられた冷たく錆びついた拷問具たちが、月光を反射して凍てつくような輝きを放っている。 「これほどの『玩具』を揃えていらっしゃるのですもの」 クレスタは血溜まりの中を軽やかに踏みしめた。巨大な大鎌——「真紅の処刑人」が床を引きずり、「スゥー……スゥー……」**と乾いた摩擦音を立てる。 「その用途を、貴方自身が体験しないのはあまりにも勿体ないわ」
彼女の細い指が壁の鉄具をなぞり、先端に無数の返しがついた「荊棘の鎖」の上で止まった。 「が、はっ……た、助け……て……」 マークは床を絶望的に這いずり、長い血の跡を残していく。 クレスタの手首が僅かに動くと、鎖は毒蛇のように飛び出し、正確にマークの足首を絡めとった。返しが皮膚を突き破り、腱を抉る「プシュッ」という音が響くと、クレスタは愉悦に瞳を細めた。彼女が軽く引くと、マークの肥大した肉体は逆さ吊りにされ、梁へと吊り上げられた。鮮血が彼の胴体を伝い、ボタボタと長テーブルを叩く。 そこは、先ほど彼が彼女を犯そうとした場所だった。
「はぁ……」 クレスタは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。マークが激痛に痙攣し、鎖と骨が擦れ合う「ギィギィ」という軋み音は、世のいかなる交響曲よりも甘美に響いた。
クレスタはテーブルの上から、皮剥ぎ用の「鋼鉄のナイフ」を手に取った。 「私に許しを乞う姿が見たいと、先ほど仰いましたわね?」 彼女は逆さ吊りのマークの前へ歩み寄り、恐怖で歪みきったその顔にナイフの先を滑らせた。そして、優雅に刃を落とす。一太刀目は、汚濁に満ちた息を吐き出していた唇を。二太刀目は、猥雑な言葉を垂れ流していた舌を。
「——パタッ、パタッ」 肉塊が血溜まりに落ちる音は、驚くほど清らかに響いた。 クレスタの太ももを粗暴に這い回っていたマークの手は、今や残骸のような指骨を晒し、激痛に狂ったように震えている。クレスタの冷徹な視線は、彼の体から下へと移り、尿と汚れにまみれた股間で止まった。
「そして、この最も汚らわしい欲望の源……」 彼女は、まるで無機質な物品に評定を下すかのように囁いた。 「無能な種馬に、繁殖の権利などありませんから」
大鎌が空中で、極限まで精密な弧を描いた。 「——ズシャッ!」 木材が断たれるよりも鮮烈な破断音と共に、マークの膨張した性器とその周辺の肉は、無慈悲に「切除」された。恐怖と苦痛による失禁の穢物と共に、それは血の海へと墜落した。
「——パタッ、ボトッ」 肉塊が落ちる音。 喉の奥に詰まったマークの掠れた絶望の咆哮と共に、クレスタは体内の万雷の如き「渇き」が急速に引いていくのを感じた。それは、長く断たれていた中毒者が、最初の一服の純粋な鴉片を吸い込んだかのような感覚。 最後に彼女は大鎌を振り上げ、マークという失敗作の芸術品を、中心線に沿って緩やかに、そして正確に「両断」した。
降り注ぐ血の雨が、彼女の真紅の外套をさらに艶やかに染め上げる。 クレスタは血肉の泥濘のただ中に立ち、真紅のレースの手袋をはめた指先で、頬に飛んだ温かな血を拭い、そっと舐めた。罪悪と恐怖の混じった、微かに甘い味。 「ふぅ……」 彼女は長く、濁った吐息を漏らした。渇きは完全に癒やされ、代わりに雲の上にいるかのような平穏が訪れた。 彼女は外套を整え、優雅に扉を開く。夜風が吹き抜けると、背後の小屋は罪深き拷問具やマークの残骸と共に、暗紅色の魔法の炎の中へ消えていった。
「おやすみなさい、オーベルドルフ閣下。素晴らしい……『おもてなし』でしたわ」
【沈黙の残火】
小屋の残骸が暗紅色の魔火の中で爆ぜる音は、まるで無数の罪深き魂が最期の告解を行っているかのようだった。
クレスタは月光と火影の境界に静かに佇んでいた。巨大な鎌「真紅の処刑人」は、すでに無数の晶緻な血の塵へと姿を変え、彼女の指先へと吸い込まれていく。彼女は自らの手を見つめた。半透明の真紅のレースの手袋の下、殺戮の飢えによって引き起こされていたあの狂おしい震えは、今や完全に凪いでいた。
それは、極致の安寧。嵐の後の深海に身を沈めたような、冷たく、静かで、満ち足りた静寂。
「ふぅ……」 彼女は長く濁った吐息を漏らした。空気中の血生臭さと薪の焦げた匂いが、この瞬間だけは何よりも清々しく感じられた。しかし、潮が満ちるように理性が急速に回帰する。この「吸毒」にも似た余韻は長くは続かない。社交界の猟犬たちが、すぐにこの異臭を嗅ぎつけるだろう。
彼女は鮮血のように艶やかな真紅の外套を解いた。魔力の収束と共に外套は夜風に解け、その下から無惨に引き裂かれた純白のドレスが姿を現す。 暴力的に剥ぎ取られた襟元、肩に残されたマークの、吐き気を催すような歯形と痣。
「本当に……粗野な男」 クレスタは嫌悪に眉を寄せた。彼女は虚空から、あらかじめ用意していた「着替え」を取り出した。それは空間魔導具に納められた、今着ているものと寸分違わぬ予備の晩餐会用ドレスだ。こうした「突発的な事態」に備えるのは、彼女の長年の習慣であった。
彼女は燃え盛る廃墟の傍らで、人目を憚らず更衣を始めた。月光が彼女のしなやかで冷徹な背の曲線をなぞり、火光が不吉な金の縁取りを添える。優雅な動作でリボンを締め、スカートの皺一つ一つを丁寧に伸ばしていく。最後に、特製の薬液を肩の傷口に垂らした。
——チリッ。 薬液は瞬時に肌を修復し、驚いた後のような淡い蒼白さだけを残した。
そして、彼女は最も重要な仕上げを行った。自らの完璧な顔に、あえて細い血痕を刻み、長く美しい髪を無造作に乱した。それは、見る者に凄惨な逃走劇を想起させる「受難の演出」であった。
「これで……私は被害者よ」 もはや「拷問具」や「人体切断」の痕跡すら判別できぬほど焼き尽くされた小屋を一瞥し、彼女は転がるように翡翠宮の方角へと駆け出した。 森の縁。晩餐会の灯火は未だ輝かしく、優雅な弦楽の調べが微かに漂う。クレスタは光の射す範囲に踏み込んだ瞬間、冷徹な表情を霧散させ、代わりに心引き裂くような脆弱さと恐怖をその身に纏わせた。
「助けて……誰か、助けて……」 その震える細い叫び声は、踊られていたワルツを冷酷に断ち切った。
【疑惑の追悼】
翡翠宮の朝は、昨夜の星空が嘘のように、鉛色の深い霧に閉ざされていた。 オーベルドルフ侯爵家の領地境界線。昨夜の小屋は今や焦げ茶色の祭壇と化していた。銀灰色の鎧に身を包んだ数十名の家子騎士たちが現場を封鎖し、その表情は朝露よりも沈痛であった。
「……魔獣の仕業ではないな」 マークの父、オーベルドルフ侯爵は廃墟の中心に立っていた。幾多の戦場を潜り抜けた血走った眼が、地面から「回収」された肉の破片を凝視する。火災によって証拠の大部分は消失していたが、いくつかの骨の断面はあまりに平滑で、吐き気を催すほどの芸術性を帯びていた。
「侯爵閣下、現場にてクレスタお嬢様のドレスの断片、および……」 副官が膝をつき、震える手で銀盤を差し出した。そこには高熱で半ば溶けかかったルビーの指輪と、一房の焦げた、歪な形状の……肉塊があった。
「マークの愚か者が。女好きではあったが、奴は家伝の護符を身につけていたはずだ」 侯爵の声は氷のように冷たかった。 「一瞬で防壁を砕き、これほどの『解体』を施すとは……これは我が家への挑発だ」
その頃、クレスタは公爵邸のテラスにいた。 厚手の純白の羊毛ショールを羽織り、湯気の立つ紅茶を手にしている。顔色は透明に近いほど蒼白で、まぶたは微かに赤い。昨夜自ら刻んだ傷跡には精緻な包帯が巻かれている。傍目には、暴風雨の中で辛うじて生き残り、しおれてしまった弱々しい百合の花そのものであった。
「お嬢様、オーベルドルフ侯爵閣下がお見えです」 老管家の報告に、微かな恐れが混じる。 「お通しして」 クレスタはカップを置き、縁を指先でなぞった。殺戮の余韻はまだ完全には消えておらず、これから対峙する強大な圧迫感に対し、彼女は病的な興奮を覚えていた。
侯爵がテラスに足を踏み入れた瞬間、空間の酸素が奪われたかのような錯覚に陥る。彼は礼を失し、クレスタの目前まで歩み寄った。その重厚なマントからは、濃厚な血の臭いと焦げた臭いが漂っていた。
「クレスタ嬢」 侯爵は重槌のような声で彼女を見下ろした。「我が不肖の息子は、昨夜最期までお前と共にいたのだな?」
クレスタの身体が微かに震え、怯えたように肩をすくめた。手中のティースプーンがトレイに落ち、「チリン」と甲高い音を立てる。 「……はい」 彼女は顔を上げた。瞳には晶緻な涙が蓄えられ、声は痛々しく震えている。 「マーク閣下は月景色を見せてくださると……けれど、突然、森の中から赤い影が飛び出してきて……。あれは、悪魔でしたわ。怖くて、侯爵閣下……マーク閣下は私を護るために、私を突き飛ばして……」 彼女は顔を覆い、細い肩を激しく上下させて啜り泣いた。
侯爵は身を屈め、怒りに満ちた顔をクレスタに近づけた。 「我が騎士たちが現場で貴殿のドレスの破片を見つけた。マークはバラバラに解体され、まともな骨一つ残っておらん。それなのに、貴殿は顔に小さな傷を一つ負っただけで、こうして優雅にお茶を啜っているのか?」
「それは、マーク閣下の英勇がもたらしたものですわ!」
クレスタは突如声を張り上げた。瞳には涙と、憤怒と恐怖の入り混じった光が宿る。 「あの赤い怪物が現れたとき、彼は私を逃がしたのです!『走れ』と私に叫んで……。侯爵閣下は私を疑うと同時に、御子息が最後に示した名誉さえも疑うというのですか!」
「名誉だと? マークがどのような種か、この私が一番よく知っている」 侯爵は冷笑し、その眼に蛇のような執拗さを湛えた。 「あ奴が貴殿を見ていたのは名誉のためではない。発情した獲物を見る眼だ。あのような小屋へ連れ込んだ目的は、貴殿も私も知っているはずだ。だからこそ問いたい。クレスタ、あ奴がテーブルの上で貴殿の服を引き裂こうとしたとき、その『怪物』はどうして正確にあ奴だけを殺し、その下にいた貴殿を傷一つ負わせずに見逃したのだ?」
侯爵は冷徹に彼女を射抜く。社交界で数多の嘘を暴いてきた彼にとって、目前の少女の恐怖はあまりに真実味があり、完璧すぎた。しかし、戦士としての直覚が告げている。この脆弱な皮膜の下に、魂を凍てつかせる深淵が潜んでいると。
「悪魔、か?」 侯爵は蒼白な顔のすぐ傍で囁いた。鼻先が彼女の髪に触れるほどの距離だ。 「もし悪魔だというのなら、なぜそ奴は貴殿という美しい花をただ一輪残し、私の息子を三十六の肉片に分かちたもうたのだ?」
「分かりません……ただ大きな衝撃音がして、マーク閣下の悲鳴が……」 彼女は震える手で両目を覆った。「温かな液体が私の顔に飛び散るのを感じました……あれは、これまでの人生で聞いた最も恐ろしい音でした。肉塊が無理やり引き裂かれるような……。私は逃げる以外に何ができたというのです? 侯爵閣下、貴方は私もあのような血の泥になれば満足だったのですか?」
「私は『肉塊が引き裂かれる音』などと言ったか? クレスタ嬢」 侯爵の声が突如低くなり、致命的な罠を孕んだ。「私はただ『支離滅裂に死んだ』と言っただけだ。貴殿のその描写……あまりに生々しすぎる。まるで、至近距離で観察していたかのようではないか」
テラスの空気は、この瞬間完全に凍結した。 クレスタはゆっくりと眼を開いた。その瞬間、瞳の深淵から破壊を象徴する紅い光が弾けそうになる。侯爵の計算高い顔を見つめながら、彼女の口角は狂気的な弧を描きそうになっていた。
侯爵の圧迫感に満ちた視線が、自分の偽装を剥ぎ取ろうとしている。その一秒、彼女の内の「渇き」が叫んだ——殺せ。この傲慢な老いぼれも解体してしまえ。彼の骨はきっと、マークよりも硬く、響くはずだ。
しかし、彼女はただ頭を垂れ、一筋の涙を正確に侯爵の手甲の上へと落とした。 「分かりません……本当に、何も……」
これは、音のない博弈。愛子を失い怒りに燃える猛獅子と、羊の皮を被り心に氷を宿した餓狼。
その時、老管家の急ぎ足の足音が静寂を破った。 「侯爵閣下、公爵閣下がお戻りです。書斎へとお越しくださいとのことです」
クレスタは一瞬にして全ての圧迫感を収め、再びショールの中へと縮こまり、怯える少女へと戻った。 「侯爵閣下、どうかお心強く……」 彼女は微かに囁いた。涙の跡はまだ乾いていないが、その微笑は戦慄を覚えるほどに冷たかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
ついに解放されたクレスタの本能。かつて父の地下牢で見た「赤色」を、彼女は自らの手で再現しました。マークという男を文字通り「解体」していく過程で、彼女の理性が崩壊と同時に至高の安寧へと至る描写は、この物語の核心的な官能美でもあります。
「無能な種馬に、繁殖の権利などありません」 この一言に込められた、生物としての優劣を決定づける冷酷な裁き。彼女にとって殺人は消費であり、渇きを癒やす唯一の手段なのです。
次なる血の悦楽でお待ちしております。




