【禁忌へと続く誘い(いざない)】
【禁忌へと続く誘い(いざない)】
庵の入り口で、エルビアの氷のように冷たい指先がシールの頬をそっと撫でた。少女の瞳に宿る、焼き付くような熱烈な光を見つめながら、エルビアは確信していた。もし今夜、このまま彼女を冷え切った庵に残すか、あるいはあの村へ帰してしまえば、この芽生えたばかりの温度はすぐに消えてしまうだろうと。
彼女には理由が必要だった。この少女を理にかなった形で占有し、凡塵から引き離すための口実が。
「シール、あなたの気配が乱れています」エルビアは伏し目がちに言い、翡翠の瞳に月光を反射させ、わずかな狡黠さを滲ませた。彼女はゆっくりと身を屈め、鼻先をシールの耳朶に触れんばかりに寄せ、囁き声で続けた。「森の最深部には、魂を清める甘露が湧き出る泉があります。あそこでなければ、あなたの内の闇を祓うことはできません」
「あなたと一緒にいられるなら、どこへだって行きます」シールは考える間もなく答え、両手でエルビアの肩をより強く掴んだ。
その純粋な答えを聞き、エルビアの胸には満足げな溜息が漏れた。いわゆる「怨気の侵食」など彼女が編み出した嘘に過ぎない。真の「闇」とは、今まさに彼女の内で渦巻いている、この支配欲に他ならないのだから。
「では、私を離さないように」エルビアはシールの膝裏に腕を回し、彼女を横抱きにした。「あそこは凡人の禁域であり、私だけの隠し場所。一度入れば、私の許しなくして、あなたは二度と家への道を見つけることはできないでしょう」
シールはエルビアの首筋に顔を埋め、清冷な苦薄荷の香りを深く吸い込んだ。「家なんて帰りたくない……エルビア様、私を連れて行って」
その誓いとともに、エルビアの姿は一筋の翡翠の残像と化し、森林の最も深く、最も禁忌とされる濃霧の中へと消えていった。
「エルビア様……どこへ行くのですか?」シールが小声で尋ねる。彼女の手は無意識に精霊の羽のように薄い長袍を掴んでいた。指先が触れる相手の氷のような肌に、彼女は思わず身震いした。
エルビアは彼女を見下ろした。翡翠の瞳は暗闇の中で微かに光を放っており、それは人ならざる、原始的な獣性を孕んだ魔力の輝きであった。「火明かりも、噂話も届かない場所へ。神々の目さえも届かぬ場所へ行くのです」彼女の声は低く、真夜中に氷が割れるような響きを持っていた。
「目を閉じて」エルビアが静かに命じた。
シールは素直に瞼を閉じた。次の瞬間、足先が湿った地面を離れるのを感じた。耳に届くのは林間の風音ではなく、低周波の、神秘的な「ウゥーーン」という唸りだった。まるで無数の植物が同時に深く呼吸しているかのような音。そして無数の柔らかな蔓が、彼女の足首や腰を優しく包み込み、より高く、より深い闇の中へと導いていくのを感じた。
「何が聞こえても、私を離してはいけませんよ」エルビアの吐息がシールの耳元で、清冷な苦薄荷の香りを伴って漂う。
「離しません……死んでも離さない」シールは頑なに答え、顔をより深く埋めた。
絹を引き裂くような「チッ」という音が響くと同時に、シールの周囲から冷気が一瞬で消え去り、代わりに濃密で粘り気のある熱気と芳香が押し寄せた。その香りは強引に鼻腔へと入り込み、彼女の意識を混濁させていく。
エルビアの両足が再び大地を捉えた時、彼女はゆっくりと腕を解いた。シールが目を開けると、目の前の景色に息を呑んだ。――そこは禁じられた山谷。月光の下、晩香玉の花海が白い波濤のように、音もなくうねっていた。
「これが最後の問いです、シール」エルビアは月光を背負い、その顔は影に覆われ、ただ長い耳の輪郭だけが浮かび上がっていた。「一度この花海に踏み入れば、あなたの体からは人間の気配が消え失せ、私の刻印だけが残る。それでも、こちらへ来ますか?」
月光が水のように、世に忘れられた谷の深淵へと降り注いでいた。そこは開けた場所ではなく、そびえ立つ断崖と密不透風な古木に囲まれ、空気が凝固し、あらゆる音が沈黙に飲み込まれている。残っているのは、遠くで低く響く微かな夜風の音だけ。エルビアはシールを抱きかかえ、彼女たちだけの秘密の聖域へと軽やかに降り立った。
無数の乳白色の晩香玉が夜の闇に咲き誇り、その花弁は月光を受けて微光を放ち、眩暈を覚えるほどに甘美な、毒蜜のような香りを放っている。その香りは切り取ることができそうなほどに分厚く、土の湿り気と植物のムスクが混ざり合い、窒息しそうなほどに濃厚であった。
【秘密の花園の誓約】
シールの足先が花海へと踏み入れた瞬間、幻覚を呼び起こすほどの官能的な衝撃が、津波のように押し寄せた。
ここにあるのはもはや流動する風ではなく、脂膏のように濃厚な香気によって築かれた迷宮であった。クリーミーな甘ったるさ、腐敗した植物の辛み、そして野生的なムスクが混ざり合ったその香りは、実体を持っているかのように重く、シールの呼吸とともに肺腑へと潜り込む。頭はふらつき、両足からは力が抜けていった。
「うっ……すごい香り……香りが強すぎて、泣きたくなる……」 シールは身体をかしげ、ベルベットのように厚い苔の上にへたり込んだ。
エルビアがゆっくりと歩み寄る。その一歩一歩に音はなく、ただ長袍が花弁を掠める「サ――サ――」という微かな音だけが響く。月光が彼女の影を長く引き、影の中で繊細な精霊の耳がピクリと震えた。彼女はシールの乱れた鼓動の律動を捉えていた。
「この花はエルフの言葉で、『危険な愉悦』と呼ばれています」 エルビアはシールの前で片膝をつき、幽暗の中で翡翠の瞳を、捕食者のような深い光で燃え上がらせた。「凡人がここに長く留まれば、魂は香りに溶かされ、二度と元の世界へは戻れなくなるでしょう」
エルビアは氷のように冷たい指を伸ばし、シールの顎を優しく持ち上げた。 静まり返った山谷に、極めて細か、けれど鮮明な音が響き渡る。それはシールの胸の中で「ドクン、ドクン、ドクン」と狂ったように打ち鳴らされる鼓動の音であり、エルビアの指先が肌を掠める際に生じる、微弱な電流が空気を走るような「ジリッ」という魔力の共鳴音であった。
「エルビア様……」 シールの瞳は虚ろになり、脳内は濃厚な晩香玉の芳香によって最後の防衛線を破壊されていた。彼女は自ら少しだけ身体を寄せた。少女の持つ、微かな汗と石鹸の香りを孕んだ暖かな体温が、氷のように冷徹な精霊の魔力の中で、異様なほど際立ち、誘惑的に漂った。
エルビアの呼吸もまた、わずかに重くなる。彼女は頭を垂れ、墨色の長髪を帳のように垂らして、二人だけの狭い空間を外界から切り離した。死寂とした闇の中で、緊張のあまり生唾を飲み込むシールの清らかな音と、微かに苦い薬草の香りを帯びたエルビアの急がな吐息が、禁じられた序曲を奏でる。
「震えていますね、シール」 エルビアの唇がシールの耳元に触れる。その氷のような触感にシールは全身を激しく竦ませ、細かく密集した鳥肌が立った。
「これは恐怖ゆえですか? それとも……私があなたに何かをすることを、期待しているからですか?」
言い終えると、エルビアの指先はシールの項からゆっくりと滑り落ちた。露に濡れた薄い麻布の衣越しに、その火照った肌の上で、危険な輪郭を描き出しながら。
【肌の刻印】
シールは微かな、砕け散るような吐息を漏らした。羊脂玉のように白く冷徹なエルビアの手が、ついにシールの熱を帯びた肩を捉えた。極限の寒冷とシールの中の燥熱がぶつかり合い、眩暈を覚えるほどの快楽を呼び起こす。
「あなたの温度が……この花海を焼き尽くしてしまいそうだ」 エルビアは低く囁いた。その声には、彼女自身さえも初めて覚える渇望が潜んでいた。
彼女は優雅かつ決然とした手つきで、シールの腰に巻かれた無骨な、露で重くなった麻の帯を解いた。布地が滑り落ちる「サラリ」という音とともに、初雪のように純白でありながら情動に淡く染まったシールの肌が、月光の下で露わになった。
エルビアは身を屈め、長い精霊の耳を昂揚に震わせた。彼女は急いで貪ることはせず、その長い指先でシールの背骨を一節ずつなぞるように滑らせていく。
「ん……っ、ああ……」 シールは足先を丸め、湿った苔の上を無意識に足の裏で擦った。苔が押し潰される「ジリ、ジリ」という音が響く。
エルビアの口づけは、花弁に降りた霜のように冷たく、微かに苦い薬草の香りを伴ってシールの鎖骨へと落ちた。そこでは少女の脈動が狂おしい速さで打ち鳴らされている。エルビアは瑞々しい肌の上で何度も愛撫を繰り返し、ついにそこへ、花びらの紋章のような淡い紫色の痕を残した。
「これは、標記です」 エルビアは顔を上げ、翡翠の瞳に否定を許さぬ占有欲を宿した。「この瞬間から、森はあなたの匂いを覚える。あなたの血液も、呼吸も……すべて私の魔力に染まるのです」
大気中の魔力の唸りは、より重く沈殿していった。エルビアの接触に呼応するように、咲き誇る晩香玉が精霊の欲望を感知したかのように花弁を微かに開閉させ、さらに濃厚で、甘い蜜を含んだような香気を放ち始めた。
シールは震える手を伸ばし、エルビアの冷ややかな首筋に縋り付いた。シルクのようなエルビアの黒髪が自分の胸元を掠め、そのこそばゆい刺激に彼女は思考を完全に放棄した。
「なら……全部、持っていって……」 シールは泣き出しそうな声で顔を上げ、エルビアのより深く、狂熱的な侵略を受け入れた。晩香玉に溺れるこの聖域の中で、少女が纏っていた温かな石鹸の残り香は、一滴、また一滴と、精霊の清冷で覇道的な気配に飲み込まれ、変質していった。
【魂の沈淪】
山谷に満ちる晩香玉の芳香はついに頂点に達し、大気の中に微光を帯びた薄い霧となって凝結していた。この窒息せんばかりの甘美さの中で、エルビアは己の本能を完全に解き放った。
彼女はシールをその腕の中に強く抱き寄せた。精霊の氷のように冷徹な肌と、少女の火のように熾熱な体温が、狂おしく求め合い、擦れ合う。シールは断続的で虚ろな呻きを漏らし、その魂はエルビアの強大な魔力に牽引されるがまま、暴風雨に揺れる木の葉のように、唯一の港である彼女へ必死にしがみついていた。
「エルビア……エルビア……」
その名を呼ぶシールの声を聞きながら、エルビアは目を閉じた。少女の純粋で、一片の留保もない愛が、汗と吐息を伝って己の体内へと流れ込んでくるのを感じる。その瞬間、彼女はある種の錯覚に陥った。
――数百年前のあの火災はすでに鎮火し、自分はついに凡人の手によって真の「救済」を得たのだと。
二人の呼吸は次第に同期し、鼓動の音と魔力の共鳴は重なり合って、地響きのような低い轟鳴となり、静寂なる花園に長く、長く、尾を引いた。
しかし、絶頂が去った後の余韻の中で、エルビアの心臓が唐突に激しく脈打った。彼女は感じてしまったのだ。シールの熾熱な情愛を受け入れた己の体内の深淵が、不協和音を奏でるような、ぎらついた飢餓感を伴う脈動を上げたのを。
それはより暗く、より永遠に近い渇望であり、この束の間の美しさを影からじっと覗き込んでいるかのようであった。
【林外の私語と陰影の萌芽】
初光が森林の厚い霧を突き抜けるより早く、森の縁にある村はすでに眠りから覚めていた。
老村長の家では、数人の壮年の樵たちが囲炉裏を囲んでいた。火床の薪が「パチッ」と火花を散らし、彼らの顔に不安と猜疑が混ざり合った陰影を落としている。
「シールの奴……昨夜も帰ってこなかった」一人の猟師が低く吐き捨て、拳を重く膝に叩きつけた。「あの『尖り耳』についていくのを見た奴がいるんだ」
「あの魔女が俺たちを救ったのは事実だ、それは間違いない……」もう一人がためらいがちに口を開くが、その眼差しには恐怖がぎらついている。「だが、あの狼を殺した時の姿を見たか? あの黒い蔓は、まるで地獄から這い出てきたようだった。シールを連れ去ったのが、本当にただの話し相手としてなのか?」
「噂じゃ、エルフは凡人の精気を吸って不老長寿を保つっていうぜ……」
「黙れ!」老村長が一喝したが、その手もまた震えていた。彼は窓の外の漆黒で神秘的な森を見つめる。かつての感謝は、流言と恐怖の発酵によってすでに腐敗していた。
「もし今日中にシールが戻らなければ……『騎士団』に助けを求めるしかない」老村長は沈痛な面持ちで、退路を断つような決意を込めて言った。「結局のところ、森の主が、俺たちの眠りを妨げるような怪物であってはならないのだ」
その時、早朝の寒風が村を吹き抜け、枯死した老木の枝を揺らして、骨が擦れ合うような「ギィィ……」という音を立てた。村人たちの疑念と偏見は、今や火のない「燃焼」となって、静かに、けれど確実に秘密の花園へと這い寄っていた。




