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【血溜まりの謝幕と残虐の余韻:神性と獣性の終着点】

大聖堂内に鳴り響いていた、耳をつんざくようなパイプオルガンの音が唐突に途絶えた。代わりに入り込んできたのは、息が詰まるような、粘り気のある静寂だ。


空気中には、固形化しそうなほど濃厚な血の臭いが充満し、晩香玉チュベローズと燃え尽きた香膏の香りが混じり合う。それは催淫的な効果を帯びた、堕落の気配であった。クレスタは祭壇の中央、ドラノ伯爵が事切れた場所に静かに佇んでいる。彼女の足元にあるのはもはや冷たい大理石ではなく、権力者たちの血が作り出した暗紅色の湖だった。温かい液体が黒いレースの裾を濡らし、重く湿った感触が、皮膚を通じて彼女の神経を執拗に舐め回す。


「ふう……っ、あ……」


クレスタは大きく呼吸した。空気を吸い込むたび、肺が鮮血で満たされるような充足感に包まれる。 彼女はうつむき、鮮血で緋色に染まった自らの手を見つめた。指先には、ドラノ伯爵の喉管を断った際の激しい震動と、少年の肉を紙のように裁断した際の滑らかな手応えが、まだ熱く残っている。聖薬によって増幅された「生殺与奪の絶対権力」は、いかなる麻薬よりも猛烈な快感となって彼女の脊髄で爆ぜ続けていた。


「コツ、コツ、コツ」


重厚で規律正しい軍靴の音が、血色の沈思を破る。ルートヴィヒ公爵が、残骸と化した肉片を踏みしめながら、娘へと歩み寄った。惨緑色の燭火に照らされた漆黒の軍礼服は冷徹で威厳に満ちているが、彼がクレスタに向ける眼差しは、彼女を溶かさんばかりに熾烈であった。それはもはや道具を見る目ではない。無数の命を糧に咲き誇る、最も完璧な「悪の華」を愛でる者の目だ。


「見事な姿だ……」 公爵はクレスタの前に立ち、靴が汚れることも厭わず、血に濡れた面紗ベールを白手袋の手で震えながら持ち上げた。 「これこそが貴様に相応しい色だ、クレスタ。この世のいかなる宝石も、他人の鮮血ほど貴様の肌を美しく飾ることはできまい」


クレスタはゆっくりと顔を上げた。面紗の下の紅眸こうぼうは、飢えた獣のような迷幻の光を放っている。彼女は退くどころか、血塗られた頬を親愛を込めて父の掌へと擦り寄せた。


「お父様……ご満足いただけましたか?」 官能的な震えを帯びた囁きが漏れる。 「この葬儀……私が貴方のために用意した……『紅の絨毯』は……」


彼女は舌先を出し、掌の縁に残った血を一舐めした。その瞳には、報酬を渇望する病的な愛欲が満ちている。この瞬間、大聖堂は神聖な殿堂であることを辞め、罪と絶頂を共有する父娘の巣窟へと成り果てた。

祭壇の上方では、アリアの神の如き笑い声が再び響き渡り、血塗られた終幕のさらなる深淵へと幕を引き上げた。


それは、神像が崩れ落ち、万物が死に絶えた後にのみ許される儀式であった。 権力者たちの死骸が積み上がった大聖堂の祭壇の前で、ルートヴィヒ公爵は猛然と力を込め、クレスタの華奢な身体を、粘りつく血に塗れた冷たい石壇の上へと押し倒した。聖餐せいさんを供えるための銀盤が床に落ち、鋭い金属音を立てるが、すぐに二人の激しい吐息に掻き消された。


「これが望んでいた報酬か、クレスタ……」


公爵の声は砂紙のように掠れ、彼は血に浸った黒いレースを粗暴に引き裂いた。布地が悲鳴を上げて弾ける音は、道徳という名の鎖が粉々に砕け散る音そのものだった。 二人の肌が赤き月光の下で重なった瞬間、クレスタは絶望的なまでの呻きを上げた。それは苦痛ではなく、体内の「聖薬」と父への狂愛が交じり合った極致の噴出。彼女は「創造主」である父の権力的な身体が、自分を粉々に砕き、飲み込もうとする力で覆いかぶさってくるのを感じた。


公爵の逞しく、無数の殺戮を命じてきた掌が彼女の脚を強引に割ったとき、クレスタは官能的な戦慄を伴う震え声を漏らした。


「——っ! ああ……お父様……!」


この禁忌の結合に、優しい睦言むつごとなど存在しない。あるのは野獣が食らいつくような独占欲だけだ。 公爵が最後の防壁を破り、強硬に彼女の身体を貫いた瞬間、自分を創り上げた存在に完全に満たされる充足感が、クレスタの理性を断絶させた。 律動のたび、石壇の上の血が押しつぶされ、「じゅるり」と不浄な音が響く。彼女はまるで祭壇に捧げられた供物のように、内側から父権的で侵略的な熱い力に洗礼され続けていた。


彼女はルートヴィヒの首に強く縋り付き、その背中の筋肉に指を深く食い込ませ、血が滲むほどの跡を刻んだ。自らの血と、相手の汗を完全に融合させようとするかのように。


「あ……は……もっと……もっと深く……」


絶頂の中で仰け反る彼女の顔は、醜くも妖艶に歪んでいた。血と晩香玉、そして父の汗が混じり合った空気を貪欲に吸い込む。公爵の呼吸は重く乱れ、普段の高潔な意志が、律動とともに彼女の深淵へと一滴残らず注ぎ込まれていく。 これは、魂と肉体の双重の腐食であった。


ルートヴィヒは、血に塗れ、眼を血走らせながらも狂おしいほどに美しい娘を見つめ、「完璧な作品」への執着がついに最後の一線を越えた。彼が彼女の内で爆発した瞬間、両手でその喉を強く締め上げる。その窒息感と噴出する熱量に、クレスタは絶望的な快感の中で最後の叫びを上げた。


「はあぁぁ——っ!!」


彼女の瞳の紅光は、性愛の戦慄の中で混沌とした緋色へと拡散した。公爵がその瞬間に見せた震え――それは名誉も地位も、そして人間性さえも投げ捨てた後に残された、最も原始的で歪な愛欲であった。

祭壇の影で、アリアはこの惨劇の中で交わる父娘を注視していた。二人の肌に飛び散る血飛沫を見つめ、聖母のような慈悲と、悪魔のような残酷さを湛えた微笑を浮かべる。 「なんと素晴らしい洗礼。この罪の味……涙が出るほど美味だわ」


極限の官能刺激の中で、クレスタの魔力は公爵の腐った野心と激しく共鳴した。粘膜の一寸一寸が震え、血液の滴の一滴一滴がこの冒涜を祝福している。彼女はただ欲望を受け入れているのではない。彼の魂を喰らっているのだ。


石壇の上で最後の熱が静まったとき、クレスタは四肢を投げ出し、肌の上で冷えていく血と汗を感じていた。自分にのしかかる、帝国の命運を握る男を見上げ、彼女の口角には「絶対的な勝利」の笑みが浮かんだ。


この瞬間から、公爵は彼女のあるじではなく、彼女の囚人となったのである。


【残陽下の秘教と新生】


大聖堂内の血生臭い気配が、凍てつく空気の中で凝固していく。祭壇の上での交わりがついに終わりを告げ、ルートヴィヒ公爵は緩慢な動作で立ち上がった。彼は血に汚れた軍礼服のボタンを優雅に留め直す。その仕草は、先ほどまでの冒涜がまるで神聖な儀式であったかのような、静謐な威厳に満ちていた。

その時、重厚な青銅の扉が再び耳障りな摩擦音を立てて開いた。


「——実に見事な、感嘆すべき演目でしたな」


祭壇の下、深い陰影の中から、治安騎士団魔法術士団長——クリアが緩やかに姿を現した。 クリアは、無惨に解体され支離破碎となったドラノ伯爵の死骸を平然と跨ぎ越え、石壇の縁に残された、二人の体液と鮮血が混じり合う液体を枯木のような指で掬い取った。そして、それを舌先に乗せ、細かく味わう。

「公爵閣下、聖女様の予言は成就いたしました」 クリアは毛のよだつような微笑を浮かべ、祭壇の上で力なく横たわり、瞳を虚ろに彷彿させているクレスタへと向き直った。 「『聖薬』は公爵家の血脈と完全に融合いたしました。今やクレスタお嬢様は、この世で最も完璧な『母体ホスト』となられたのです」


ルートヴィヒは冷徹な一瞥を彼に投げた後、自らの手で広大な漆黒の外套ケープを広げ、全裸で血に塗れたクレスタを包み込み、その細い身体を横抱きにした。


「後片付けをしておけ、クリア」 公爵の声は、いつもの冷酷さを取り戻していた。 「今日起きた出来事は、オーベルドルフ家が『異端の襲撃』に遭った悲劇の伝説としてのみ語り継がれることになる」


葬儀が終わってからの数週間、公爵領は不気味なほどの静寂に包まれていた。 公爵邸に戻ってからの生活は、あの息の詰まるような「日常」へと回帰したかに見えた。


白昼、彼らは帝国で最も畏怖される父娘であった。豪華に装飾された食卓の両端に座り、ルートヴィヒは依然として威厳ある峻烈な家長であり続け、クレスタは高雅なシルクのドレスを纏い、レースの手袋をはめた手で、皿の上の半熟レアのステーキを優雅に切り分ける。二人が交わす会話は帝国の政務や社交界の噂話であり、あの大聖堂の祭壇で繰り広げられた暴行など、まるで一度も存在しなかったかのようであった。


しかし、夕陽が西に沈むたび、優雅な表象の下に隠された「依存アディクション」が、正確な時間を刻んで目覚めるのである。


夜の公爵書房。重い扉は固く閉ざされる。 密信が山積みになった机の上で、権力の象徴たる巻宗ロールの間で、クレスタは令嬢としての偽装をすべて脱ぎ捨てる。彼女は血に飢えた蔦のように父の身体に絡みつき、その肉体を求めた。


彼らの交流は以前よりも密接に、そしてより厚顔無恥なものとなった。ルートヴィヒは帝国の命運を握るその両手で、もはや蒼白ではなくなったクレスタの肌を幾度も弄り、クレスタは彼の耳元で、神々さえ戦慄させる呪詛と愛の言葉を囁き続けた。


この夜の「報酬」こそが、彼らが昼間の間、聖人の如き仮面を維持するための唯一の支えとなっていたのである。


【緋紅の胎動】


惨劇から数週間。 公爵邸での生活は、窒息するような「日常」を取り戻したかのように見えた。 昼間、彼らは帝国の秩序を守る冷徹な父娘として、優雅にステーキを切り分け、政務を論じる。だが、陽が落ちれば書斎の門は閉ざされ、クレスタは父に絡みつく血に飢えたつやとなる。あの夜の「報酬」は、彼らを繋ぎ止める唯一の酸素となっていた。


しかし、変化は確実に訪れた。 ある朝、鏡の前に立つクレスタは、平坦な腹部に宿る異様な熱感に指を触れた。


「うっ……」


喉をせり上がったのは胃酸ではなく、晚香玉の香りを帯びた透明な粘液。鏡の中の自分は、どこか神聖で、かつ狂気的な母性を宿し始めていた。


「グリアの言った通りだ……貴様は最高の『器』だな」 背後からルートヴィヒが歩み寄り、彼女の腹部を包み込むように抱きしめた。その手は、かつてないほど熱く疼いている。


「お父様……」 クレスタは満足げな笑みを浮かべ、父の胸に身を預けた。 「感じますわ……あの血の葬礼で芽生えた何かが……。私の中で、鮮血を求めて蠢いているのを」


それは単なる生命ではない。聖薬、狂気、そして禁忌の血脈が交じり合って産み落とされる「新しき神」の予動。 二人の影は朝光の中で重なり、歪な螺旋を描く。聖女の計略、公爵の野心、そしてクレスタの肉体が結実させた、最も冒涜的な果実がそこにいた。


【真紅の禁断果実:公爵令嬢の秘め事】—— 完

お読みいただき、ありがとうございます。 血と肉、そして禁忌の交わりを経て、物語は「次世代の恐怖」へと足を踏み入れました。クレスタの内に宿った「新神」が、帝国の未来をいかに赤く染め上げるのか。

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