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【血色葬禮的圓舞曲:饗宴の幕開け】

【静寂を切り裂く黒曜石】


オーベルドルフ領の大聖堂は、今日、陰鬱な鉛色の雲層に覆い尽くされていた。風に混じるのは、腐敗した落葉と、死を弔う焚香が入り混じった重苦しい異臭。この壮麗な建築物は、マーク・フォン・オーベルドルフの残骸が土へと還るのを見届ける場となるはずだった。


だが、クレスタにとってここは、開演を待つばかりの贅を尽くした「露天厨房オープンキッチン」に過ぎない。


鏡の前で、彼女は最後の「衣装直し」を終えた。 それは極めて大胆で、侵略的なまでの美を湛えた喪服。黒いレースが白鳥のような細い頸を絞めるように包み込み、窒息しそうなほどのコルセットが、彼女の曲線を今にも折れそうな黒曜石の彫像へと変えていた。スカートの裾には無数の暗紅色の砕石ダイヤが散りばめられ、彼女が動くたび、乾いた血の滴のような鈍い光を放つ。


「お嬢様、このドレスは……あまりに艶やかすぎはしませんか?」 老管家が膝をつき、震える手で彼女の足首にリボンを結びながら問う。


「艶やかかしら?」 クレスタは彼を見下ろした。面紗ベールの奥で、聖薬に火を灯された紅い眼が妖しく明滅する。 「マーク閣下が黄泉の国からでも、誰が見送りに来たか一目で分かるようにして差し上げたいのよ」


彼女はルートヴィヒ公爵の腕を借り、大聖堂へと足を踏み入れた。金縁の黒い軍礼服を纏った公爵と、漆黒のドレスを纏った娘。薄暗い回廊を行く二人の姿は、永夜を巡視する「血色の帝王と后妃」そのものであった。


【偽善と貪欲の調味料】


大聖堂内の空気は、湿り気を帯びて重く沈んでいた。 パイプオルガンの重低音がアーチ状の天井に激突し、それは聖なる讃美歌ではなく、死にゆく巨獣の喉鳴りのように響く。厚いステンドグラスがその振動に耐えかね、「チリッ……チリッ……」と微かな悲鳴を上げた。


「コツ、コツ、コツ」 ルートヴィヒとクレスタの足音だけが、貴族たちの静止した呼吸の中で異様に高く響く。 クレスタの感覚は、周囲のあらゆる音を「食材」として解体していった。 シルクのドレスが擦れ合う「サ、サ……」という音は、草むらを這う無数の毒蛇のよう。恐れおののく貴族たちの急すぎる呼吸音。そして、自命に溢れた男たちが彼女の白皙のうなじを盗み見、唾を飲み込む「ゴクリ」という野卑な音。


数百の視線が突き刺さる。 マークの死への同情、公爵の権勢への畏怖、そして「刺のある白百合」であるクレスタへの、哀悼の仮面の下に隠された卑劣で粘着質な性的幻想。


……ああ、この匂い。 クレスタは微かに顎を上げ、空気中に充満する「恐怖・偽善・貪欲」を貪欲に吸い込んだ。聖薬の作用下で、それらの負の感情は実体を持った「辛香料スパイス」へと昇華され、彼女の食欲を激しく突き動かす。


隣を歩く公爵の腕に力がこもるのを感じた。ルートヴィヒは隣の「完璧な芸術品」を見つめ、その瞳には娘への病的なまでの迷信的な愛が溢れていた。


「見ろ、クレスタ。屠殺を待つ子羊どもだ」 公爵の声は、二人だけに許された狂熱を帯びていた。「奴らが貴女を憐れめば憐れむほど、後に上げる悲鳴は甘美になる」


「ええ、お父様」 クレスタは公爵の肩章にそっと頬を寄せた。金属の冷たさと、父の体温の熱さ。その極端なコントラストに、彼女は満足げな吐息を漏らす。黒いベールの奥の瞳は、すでに前方の祭壇をロックオンしていた。そこから漂う、晩香玉と魂の渇きが混じった致命的な香りを、彼女は見逃さなかった。


【血塗られたワルツの幕開け】

アリアが法杖を高く掲げると、先ほどまでの神聖な祈祷は、突如として難解で歪な古の呪文へと変貌した。 「さあ、始めましょう。この苦い悲しみこそ、最も甘美な鮮紅へと変えるのです」


その瞬間、クレスタは体内の束縛が完全に弾け飛ぶのを感じた。彼女の目に映る世界はもはや教会ではなく、鮮烈に震える肉塊が並べられた巨大なディナープレートと化していた。そして彼女自身は、父と「姉妹」に仕えるため、ナイフを手に取った最も優雅な給仕ウェイターであった。


アリアの最後の呪文が結ばれた瞬間、教会内を支配していた重苦しい静寂が爆発した。


「——殺しなさい」


クレスタは心の中で満足げな溜息を漏らす。公爵の腕に添えていた細い手を猛然と引き抜き、黒いレースの手袋が虚空に緋色の軌跡を描いた。灼熱の魔力が注ぎ込まれ、巨大な鎌「緋紅処刑者スカーレット・エクゼキューショナー」が影を突き破って現れる。刃が石床を擦り、火花を散らす音は、まるで興奮した獣の叫び声のようだった。


惨緑色の燭火に照らされた陰影の中で、ドラノ伯爵の肥満体は恐怖に激しく震えていた。後退しようとするが、膠着した空気の粘り気に両足が縛り付けられ、死神の如く忍び寄る黒いレースの影をただ見つめることしかできない。


「伯爵閣下、貴方の霊魂は……本当にアリアの言った通り、ひどく臭いますわね」 クレスタの声は慈悲深いほどに甘く、だがドラノの耳には弔鐘のように響いた。


「——カシャッ!」 それは鎌が空気を切り裂く鳴動。クレスタは即座に命を奪うことはしなかった。優雅に旋回し、巨大な刃の先を精密なメスのように使い、まずは彼の右膝を叩き斬る。ドラノは悲鳴を上げながら膝を突き、砕かれた骨の音が、静寂の教会内に清脆で心地よく響き渡った。


「この最初の一撃は、私に向けられたその卑しい視線への返礼です」 クレスタは微かに笑い、黒い面紗ベールが彼女の呼吸に合わせて揺れる。再び腕を振るうと、鎌は半空で完璧な円弧を描き、伯爵の胸元を薄く掠めた。高価な深藍色の礼服が、その下の皮膚ごと綺麗に切り裂かれ、震える肋骨の列が剥き出しになる。


「プシュッ——!」 鮮血は噴き出すのではなく、まるで魔力に吸い寄せられるように鎌の血溝へと集まり、クレスタの指先へと流れ込む。


「あ……が……頼む……助けて……」 ドラノの唇は青ざめ、大量の失血によって朦朧としながら、宝石の指輪を嵌めた手でクレスタの裾を掴もうとした。


「助ける? いいえ、伯爵閣下」 クレスタは身を屈め、血に濡れた刃をそっと彼の喉に当てた。絶望に震える喉の震動を肌で感じながら。 「これは『救済』ですわ。貴方のその汚らわしい脂肪と貪欲をすべて削ぎ落とし、純粋な苦痛だけを残して差し上げる……これこそが最も神聖な進化だと思いませんか?」

彼女は一気に刃を跳ね上げた。 ドラノ伯爵の悲鳴は瞬時に途絶え、くぐもった気泡の音へと変わった。喉は精密に切り開かれたが、脊椎はあえて傷つけない。クレスタは彼に意識を保たせ、生命が一滴ずつ零れ落ちる恐怖を味わせ続けた。


次第に光を失っていく瞳に映る最後の光景。それは、クレスタがゆっくりと面紗をめくり、薬に酔いしれたような迷幻さと、悪魔のような残酷さを湛えた緋色の微笑みであった。


「なんて綺麗な断面かしら」 彼女は感嘆し、指先に付いた温かい血を自らの唇にそっと塗りつけた。 もはやドラノは権力の頂点に立つ伯爵ではなく、父と聖女を喜ばせるために解体された「高級食材」に過ぎなかった。無惨な死体は祭壇の前に転がり、純黒の絨毯との間に病的なまでのコントラストを描き出す。

「ああ……はぁ……なんて美しい色」 クレスタは目を閉じ、血色の雨に酔いしれる。祭壇の方角からアリアの魔力が絶え間なく流れ込み、見えない手が彼女の腰を抱き、この献祭を導いているかのようだった。

影の隅では、ルートヴィヒ公爵が腕を組んで佇んでいた。血溜まりの中で舞い踊る娘、かつて華奢だった身体が今は毀滅的な美に満ちている。彼の呼吸は荒くなり、倫理を超越した「狂愛」が胸中で燃え盛っていた。 「これこそが私のクレスタだ……」彼は低く呟き、瞳には癲狂した自尊心が溢れる。「殺せ、すべてを赤く染め上げ、私の元へ戻ってこい」


教会内は真の修羅場と化した。聖騎士の重甲がぶつかり合う音、貴族たちの絶望的な命乞い、そしてクレスタの可憐で冷酷な笑い声が交錯する。


最後、クレスタはドラノ伯爵の残骸の前で足を止めた。血に染まった手で優雅にスカートの裾を持ち上げ、祭壇のアリアと、影の中の父に向かって、深く謝幕カーテンコールの礼を捧げた。


彼女が顔を上げると、面紗は鮮血で透け、その妖艶な顔には絶対的な狂気を宿した緋色の瞳が燃えていた。


クレスタは振り返り、ドラノの長嫡男を見据えた。少年はすでに股間を濡らし、声にならない悲鳴を上げている。


「次は、若い部分の番ですわね」


お読みいただき、ありがとうございます。

葬儀という神聖な場を、自らの「厨房」へと変貌させたクレスタ。父・聖女・魔女の三者が織りなす狂気の円舞曲は、ついに最初の犠牲者を供物として捧げました。

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