【聖女のスープ:聖なる救済院で、子供たちの骨が砕ける音を聞く】
「そのスープの具材が、昨日まであなたを『お母さん』と呼んでいた子供だとしたら。あなたは、その味をどう形容しますか?」
【甘美なる奇跡:呪われた施し】
神聖カロリング帝国の辺境、エッセン地方。 ここは帝国の中心である華やかな「陽光の平原」とは対照的な場所だ。エッセンは黒い森の端に位置し、険しく切り立った鉱脈の山々に囲まれた低地で、天然の湿気溜まりとなっていた。季節は春。しかし、エッセンの春は決して「生機」を意味しない。それは終わりなき「泥濘期」の象徴であった。
細く、粘りつくような春雨が終日街を洗い流している。腐敗した鉛の塊のような厚い雲が、日光を細切れに、そして暗淡としたものへと切り裂いていた。空気には土の匂いだけでなく、遠くの炭鉱から排出される廃気と、腐りかけた木材の生臭さが混じり合っている。ここでは、あらゆる衣服、積み上げられた文書、そして住民の肺に至るまで、カビ臭く拭い去ることのできない湿気に浸食されていた。
「女神の息吹が、あなたの眉間の憂いを見事に晴らしてくださいますように」
泥にまみれた街の中心通りで、アリアは被災した人々の間を優雅に通り抜けていた。 彼女は一塵の汚れもない純白の長傘を差している。灰黒色、暗褐色、そして汚れで構成された背景の中で、アリアの純白の修道服はあまりにも不釣り合いで、まるで泥沼に落ちた白鶴のようであった。彼女は軽やかに裾を持ち上げ、水たまりを正確に避けながら歩く。その足取りは、爪先がこの汚れた大地に一度も触れていないかのように軽やかだった。
「修道女様、聖なる光の御加護を……麻痺していた夫が、昨夜ようやく安らかに眠ることができました」
一人の老婆が道端に膝をつき、枯れ枝のような手を震わせながらアリアの衣の端に触れようとしたが、その神聖さを汚すことを恐れて手を止めた。
アリアは足を止め、ゆっくりと腰を落とした。白く、温もりがあり、微かに白檀の香りを漂わせる手を伸ばし、老婆の荒れた手の甲を優しく包み込む。 「それはきっと、女神様があなたの祈りを聞き届けられたのでしょう。これは救済院特製の安らぎのハーブです。お持ち帰りなさい」 アリアの微笑みは、雲間から差し込む春の陽光のように温かく、その声は柔らかく磁気を帯びていた。そこに偽りを感じる者など、一人もいないだろう。
(なんて安っぽい感謝かしら) アリアは内心で穏やかに思考した。ハーブの屑を少し施すだけで、これほどまでに純粋な信仰が手に入る……。この魂の質感、貧相ではあるけれど、誠実であるという点だけは評価できるわ。
視線の先では、街の検問所に駐屯する治安騎士たちが背筋を伸ばし、彼女に敬礼を送っていた。鋼鉄と冷血の職業軍人たちの背後には、彼女の妹であるクリア ――「魔法術士団長」としてこの辺境の生殺与奪の権を握る女――の影があった。
アリアは慈悲深い眼差しを収め、通りの突き当たりにそびえ立つ建物へと向き直った。周囲の朽ち果てた家々とはあまりに対照的な、壮麗な建築物。 それが「聖十字救済院」である。 沈んだ雨幕の中で白い外壁が微かな光を放ち、高くそびえる尖塔は鉛色の空を突き刺していた。エッセンの住民にとって、そこは最後の避難所であり、飢えと病の中で唯一「奇跡」を感じられる場所だった。
アリアは黒鉄で作られ、十字の聖印が刻まれた大門へと歩を進める。彼女が動くたびに、物資を運んでいた救済院の下僕たちは慌てて頭を下げ、息を殺して道を譲った。ここでは、彼女こそが絶対的な中心であり、泥濘の中を歩く神の代弁者なのだ。
春雨は依然としてしとしとと降り続き、エッセンの街全体を、ある種の柔らかな絶望の中に浸していた。
救済院の重々しい黒鉄の門を押し開くと、外気の中にあったカビ臭さと鉱滓の湿気は一瞬で遮断された。 大聖堂の内部は、初めて足を踏み入れる者を畏怖させるに十分な光景だった。灰色のエッセンの街とは、まるで別世界のように。壁面は純粋な白大理石で築かれ、床のタイルは鏡面のように磨き上げられ、天蓋から吊るされた銀製の長明灯を映し出している。空気にはもはや土の臭いはなく、代わりに高価な乳香と没薬が混ざり合った祭壇の香りが漂っていた。それは、むせ返るほどに甘美な香りだ。 その神聖さはあまりにも純粋で、むしろ非人間的なほどであった。
アリアは純白の傘を閉じ、傍らに控えていた下僕へと手渡した。彼女は音もなく中央の通路を歩む。両脇には雪のような白い長椅子が並び、その最奥には雲を突くような女神像が鎮座している。その慈悲深い瞳は、罪業に満ちたこの街を見下ろしていた。
「平安があなたと共にありますように」 アリアは振り返り、彼女を追って教会に入ってきた卑小な影に目を向けた。 それは、先ほど門の外で長い間彷徨っていた母親だった。これほどまでに白く神聖な殿堂の中で、その母親はまるで目を刺すような「汚れ」に見えた。乱れた髪からは泥水が滴り、破れた衣の襞には黒い鉱粉が入り込んでいる。彼女が一歩踏み出すたびに、鏡のような床に汚らわしい泥の足跡が残された。
彼女は一人の少年を抱えていた。その子は骨が浮き出るほど痩せ細り、薄い衣の下から背骨の輪郭がはっきりと見て取れた。灰白色の顔、固く閉じられた目。ただ、小鼻が微かに動いていることだけが、彼にまだ細い息があることを証明していた。
「助けてください……修道女様……この子を……」 母親は祭壇の前で崩れ落ち、額を冷たい大理石の床に激しく叩きつけた。鈍い音が響く。彼女の声は、長年の飢えと泣露によって、ひどくかすれていた。 「エッセンにはもう食べ物がありません……私も……もう限界なのです……」 彼女が顔を上げると、涙が石炭の灰にまみれた顔を伝い、恐ろしい溝を描いていた。「この子を救済院へ入れてください。たとえ下働きでも、雑用係でも構いません……生きていけるのなら。私にはもう、食べ物を噛み砕く力も残っていません。
この子が温かいスープを一口でも飲めるのなら……私は、何だって差し出します……」
彼女は震える手で、腕の中の少女を高く掲げた。まるで、子羊を捧げるかのように。
アリアはゆっくりと階段を下りた。純白の裾が床を掠めるが、母親が持ち込んだ泥がつくことは微塵もない。母子の前で立ち止まった彼女は、わずかに身を屈め、芸術品のように完璧な手を伸ばして、枯れ木のように軽い少女を受け取った。
「あなたの犠牲は、女神様がすでにご覧になっています」 アリアの指先が少女の枯れ果てた額をなぞる。微かな脈動の中に残る、生命の最後の震えを感じ取っていた。
(これが『絶望』の味かしら? 最高の下ごしらえだわ) アリアは心の底で密かに感嘆した。
「この子は、相応しい『救済』を得ることでしょう」 アリアは顔を上げ、涙を流して感謝する母親に、完璧な慈悲の微笑みを向けた。
「この子は聖域の一部となり、私たちと共にあり続けます。永遠に離れることはありません」
母親は歓喜に震えて泣き叫び、狂ったように頭を下げて感謝を述べた。しかし、背を向けて奥殿の闇へと消えていくアリアの瞳に、深淵のような冷酷さが宿っていることに、彼女は気づかなかった。
奥殿の入り口では、クリアが柱に寄りかかっていた。手にした平凡な木製の杖をもてあそびながら、口角を皮肉げに上げている。 「また『志願した』供物なの? お姉様」
アリアは答えず、ただ少女を抱いたまま、地下へと続く薄暗い回廊へと足を踏み入れた。そこは、煮えたぎる青銅の釜へと通じている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
あの湯気を立てるスープの香りは、皆様の元まで届きましたでしょうか。この物語を綴る際、私は常に自問自答しています。「絶望の淵に立つ人間にとって、残酷な真実と、温かな嘘。救いになるのはどちらなのだろうか」と。
アリアの慈悲は本物です。そして、お腹を満たすその幸福感もまた、偽りなき現実です。 ただ、その温もりの代価は、真っ白な大理石の床下へと隠され、言葉を発することのない「砕かれた骨」へと姿を変えただけなのです。
「……アリアの癒やしの微笑みの裏で、妹・グリアがいかにしてその『絶対的な重力』を振るい、素材を神聖なるスープへと変えていくのか。
もしあなたが、その甘美な味の裏にある『凍えるような悪寒』を感じてくださったのなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
次なる救済の場でお待ちしております。」




