表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第2章】新米冒険者はデータの夢を見るか?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/22

幕間:論理的育成(ロジック・コーチング) ~おじさんの教育方針~②



 三日間の徹底した「フォーム矯正」を終え、俺たちはレアルト近郊の『霧枯れの森』にいた。

 

 ここは低ランク冒険者の登竜門だが、時折、迷宮から溢れ出した強力な魔物が迷い込む「バグの多い」エリアでもある。

 今日の任務は、この森に居座った『フォレスト・オーク』三体の討伐。セリアとクラウスにとっては、初めての「実戦形式での試験」だ。

 

「……サトウさん。心臓の音が、耳元まで聞こえてきそうです……」

 

 セリアが杖を握りしめ、青白い顔で呟く。

 

「……セリア。心拍数115。……想定の範囲内だ。……俺が昨日教えた『呼吸のパッチ』を思い出せ。……深く吸って、三秒止めて、肺の空気をすべて吐き出す。……酸素濃度を安定させれば、魔力の出力エラーは起きない」

 

「……は、はい。……吸って……吐いて……」

 

 俺はデバイスのバイタルモニターを確認しながら、隣のクラウスに目をやった。

 あんなに不遜だった少年は今、自分の剣を凝視し、かつてないほど静かに佇んでいる。

 

「……クラウス。……焦るなよ。……君の仕事は、敵を倒すことじゃない。……俺が指定した『座標』に、君という剣を配置し続けることだ。……それだけで、勝てるように計算してある」

 

「……わかってるよ、おっさん。……俺は、ただの『パーツ』に徹すればいいんだろ」

 

 その声には、投げやりな響きはなかった。……プロの道具としての、静かな覚悟があった。

 

 ――ガサッ!!

 

 森の奥から、腐った肉の臭いと共に、巨大な影が三つ現れた。

 身長二メートルを超える、筋骨隆々のオーク。一振りの棍棒で人間の頭を砕く、暴力の化身。

 

「――迎撃セッション開始だ。……相棒。二人の視界に『ARガイドライン』を投影しろ」

 

『了解。……最適解パス、描画完了。

 ……佐藤。……これより先、一ミリの誤差も許されません。……演算を開始します』

 

「……クラウス、右から来る一体に正対しろ。……三歩前、そこで静止。……セリア、クラウスの右肩越しに射線を確保。……第一階層火炎術式、出力40%で待機」

 

 俺の声が、デバイスを通じて二人の脳内に直接響く。

 オークが咆哮し、突進してくる。その圧力に、セリアの足がわずかに震えた。

 

「――セリア! ……左足の重心を3%前へ! ……地面の反力リアクションを感じろ! ……今だ、放てッ!!」

 

 俺の号令と同時に、セリアの杖から紅蓮の炎が放たれた。

 

 それは、これまでの彼女のような「不安定な爆発」ではなかった。

 まるで精密なレーザーのように、最短距離を、最高効率で貫く火条。

 

 ドォォォォォォンッ!!

 

 先頭のオークの胸部を、炎が正確に射抜く。

 急所を焼かれた巨体は、一歩も進むことなく、その場に倒れ伏した。

 

「……え……? ……当たった……? ……私の魔法が、あんなに真っ直ぐ……」

 

「感心するのは後だ! ……クラウス、残り二体! ……斜め左、45度! ……二歩踏み込んで、水平に振れ! ……力むな、遠心力だけでいい!」

 

 クラウスが地を蹴った。

 

 かつての彼は、速さを見せつけようと無駄な大振りを繰り返していた。だが、今の彼の動きは、まるでおじさんの書いたプログラムのように、美しく、冷徹だった。

 

 オークの棍棒が振り下ろされる。

 クラウスはそれを、わずか数センチの首の傾げだけで回避し、その勢いを殺さずに剣を横一文字に滑らせた。

 

 シュパッ、という軽い音。

 

 二体目のオークの首が、重力に従って地面へと落ちる。

 

「――三体目、セリア! ……クラウスの影に隠れている奴を狙え! ……座標(X:12, Y:45, Z:02)! ……残りの魔力、全部叩き込め!!」

 

「――はいっ!!」

 

 セリアの瞳に、かつてない自信の光が宿る。

 彼女はもう、失敗を恐れていなかった。おじさんの示す「数字」の通りに動けば、世界は正しく変わるのだと、魂が理解していた。

 

 最大出力の火球が、オークの脳天を直撃し、森に激しい爆鳴が轟いた。

 

 

 数分後。

 静寂が戻った森の中で、俺たちはオークの死骸を前に立っていた。

 

 セリアは自分の手を見つめ、クラウスは荒い息をつきながら、自分の剣を鞘に収めた。

 

「……すごいや。……一回も、危ないって思わなかった。……おっさんの指示通りに動くだけで、あんなデカい奴らが、ただの『動かない人形』みたいに見えたぜ」

 

 クラウスが、初めて晴れやかな笑みを見せた。

 セリアも、涙を浮かべながら俺に駆け寄ってきた。

 

「……サトウさん、ありがとうございます! ……私、初めて……魔法が自分の手足になったみたいに感じられました!」

 

「……感謝なら、君たち自身に言いな。……俺はただ、君たちの持っている『ポテンシャル』を最適化しただけだ。……君たちが努力した三日間が、正しく『出力』された結果だよ」

 

 俺は二人の頭を、不器用ながらも優しく撫でた。

 



 会社員時代、俺は部下たちの成長を、これほど素直に喜べただろうか。

 失敗を責め、進捗に怯え、彼らを「使い捨ての駒」のように見ていた自分を、少しだけ恥じる。

 

(……ああ、いかんな。……俺も、すっかり『親父』の顔になってるな)

 

 遠い空の向こうにいる、俺の娘と息子。

 彼らが、壁にぶつかり、自分の価値を見失いそうになった時。

 俺は、こんなふうに「道はあるんだ」と、論理的に示してやれただろうか。

 

 

 夕暮れのレアルトへ戻る道中。

 二人の若者は、これからの夢や、新しく覚えたいスキルの話で盛り上がっていた。

 

「……サトウ殿。……素晴らしい。……ギルドの教官連中が、貴様に教えを乞いたいと言ってきているぞ」

 

 出迎えたゾルダンが、満足げに笑った。

 

「……お断りですよ。……俺はもう、有給をこれ以上消化されたくない。……明日から、一週間は宿のバルコニーから一歩も出ません」

 

「ははは! ……まあいい。……貴様が残した『育成マニュアル』は、大事に使わせてもらおう。……サトウ、貴様は最高のエンジニアだが……案外、最高の『父親』でもあるようだな」

 

 ゾルダンの言葉に、俺は少しだけ照れ臭くなり、足早に宿へと向かった。

 

 

 宿のバルコニー。

 ようやく手に入れた「一人だけの時間」。

 

 俺は冷えたエールを一口飲み、二つの月を見上げた。

 

『佐藤。……一つ、予定外のデータがあります。

 ……セリアとクラウス。……二人のデバイスへのアクセスログを確認。

 ……彼らは、あなたから受け取った「最適化された動き」の映像を、何度も見返しています。

 ……彼らにとって、あの映像は「理想の自分」という名の、何物にも代えがたい宝物になったようです』

 

「……そうか。……なら、レンダリングした甲斐があったな」

 

 おじさんの脳内には、若者たちの輝く未来のログが、幸せなノイズとして響いていた。

 

 そして。

 

「……さて。……休暇が終わったら、次は『女神像』の監査だったか」

 

 俺は、デバイスの画面に表示された次なる案件―資料を、ぼんやりと眺めた。

 

 美少女の意匠。失われた色彩。古代の魔導回路。

 

 くたびれたおじさんの「効率化」は、次世代の若者を導き、いよいよこの世界の「美と神秘」の深淵へと、その指を伸ばそうとしていた。


 幕間(後編)を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 

 才能のなさを嘆いていた少女と、力に溺れていた少年。

 佐藤さんの「論理」という名の魔法は、彼らの未来を明るく書き換えてしまいました。

 

 これにて幕間は完結!

 いよいよ次回より、本編第3章が始動します。

 【第3章:監査役の意匠再構築グラフィック・ハック ~失われた色彩と女神のバグ~】

 

 王都から届いた「女神像の劣化」という謎の不具合。

 おじさんが手がける「美麗な意匠の復元」とは一体……。

 

 続きが楽しみになりましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援いただけると、おじさんの有給休暇が少しだけ報われます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ