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魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第2章】新米冒険者はデータの夢を見るか?

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幕間:論理的育成(ロジック・コーチング) ~おじさんの教育方針~①



 本当なら、俺は今ごろ、宿のバルコニーで誰にも邪魔されず、昨日買ったばかりの少し高い茶菓子を口にしているはずだった。

 

 だが、俺の目の前には、不機嫌そうな顔をした二人の若者が立っている。

 一人は、おどおどした様子で自分の杖を弄んでいる、18歳くらいの少女、セリア。

 もう一人は、生意気そうな目つきで俺を睨みつけている、15歳くらいの少年、クラウスだ。

 

「……サトウ。こいつらは、これからのレアルトを背負って立つはずの若手なんだがな」

 

 ギルドマスターのゾルダンが、困ったように髭をなでながら俺に言った。

 

「……セリアは才能はあるが、本番になると術式が乱れる。クラウスは腕はいいが、連携を無視して自分勝手に動き、あげくの果てには戦利品を誤魔化そうとする。……正直、俺の手にも負えん。貴様のその『論理』とやらで、このバグ持ちどもを叩き直してやってくれんか」

 

 俺は、心の底から深いため息をついた。

 バグ持ち。……そう呼びたくなる気持ちはわかる。

 だが、俺には彼らの姿が、どこか懐かしく、そして放っておけないものに思えてしまった。

 

(……18歳と15歳か。……うちの娘と息子も、ちょうどこれくらいだったな)

 

 遠い世界に残してきた家族の面影。

 親の言うことを聞かず、自分の殻に閉じこもり、あるいは力任せに壁を突破しようとして傷つく。

 それは「不具合」ではなく、ただの「未熟なアルゴリズム」に過ぎないことを、俺は経験として知っていた。

 

「……ゾルダンさん。俺は教育者じゃありません。……ただの監査役ですよ」

 

「わかっている。……だが、貴様なら『効率的』な答えを出せるはずだ。……頼む、一週間だけでいい。こいつらの面倒を見てやってくれ」

 

 押し切られる形で、俺の「有給休暇」は若手二人の「メンター(指導役)」という激務に書き換えられた。

 

 

 翌朝。俺は二人を連れて、ギルドの訓練場の片隅にいた。

 

「……あ、あの、サトウさん。……私、何をすれば……。……やっぱり、魔導書を読み直した方がいいんでしょうか」

 

 セリアが震える声で尋ねる。彼女は真面目すぎるのだ。自分を追い込み、理論で自分を縛り付けている。

 一方のクラウスは、地面に座り込んで欠伸あくびをしていた。

 

「……けっ。おっさんに何が教えられるんだよ。……どうせ『根性出せ』とか『規律を守れ』とか言うんだろ? ……そんなの聞き飽きたんだよ」

 

 俺は何も答えず、左腕のデバイス『Link』を起動した。

 

「……二人とも。……まずは、あそこにある訓練用のカカシを攻撃してみてくれ。……セリアは魔法を、クラウスは剣を。……いつも通りでいい」

 

「……え? ……は、はい!」

「……ふん、一瞬で終わらせてやるよ」

 

 セリアが杖を掲げ、たどたどしい詠唱で火球ファイアボールを放つ。だが、それはカカシのかすめる程度で、不自然に霧散した。

 クラウスは、鋭い踏み込みから剣を振るった。確かに速い。だが、その一撃は重心が崩れており、カカシを斬った後、彼は危うく転びそうになった。

 

「……終わりか?」

 

 俺は冷淡に問いかけた。

 

「……す、すみません。……やっぱり、私には才能が……」

「……おっさん! 今の速さが見えなかったのかよ!? ……あんなカカシ、俺の敵じゃねえ!」

 

 俺は、デバイスから空中へ、二人の動きを記録した「ログ」をホログラムで投影した。

 

「……いいか。……今から、君たちの『不具合バグ』を可視化する」

 

 ホログラムに映し出されたのは、二人の体の動きに「骨格データ(スケルトン)」が重畳された映像だった。

 

「……セリア。……見てろ。……君の魔法が乱れるのは、詠唱のせいじゃない。……杖を振る瞬間に、右足の重心が5センチ後ろに逃げている。……体が『失敗する恐怖』で無意識に防御姿勢を取っているんだ。……魔力の出力が、その筋肉の緊張でノイズに変わっている。……君に必要なのは復習じゃない、ただの『脱力』だ」

 

「……えっ? ……足の……重心?」

 

「……次にクラウス。……君の剣は速いが、無駄が多すぎる。……見てみろ、この赤いライン。……剣を振る際、肩が上がりすぎて、力が横に逃げている。……だから一撃の後に姿勢が戻せない。……君が戦利品を誤魔化すのも、実力不足を『数』で補おうとする焦りからだろ?……論理的に言えば、君は自分のポテンシャルを30%も使えていない」

 

 クラウスが、言葉を失って画面を見つめる。

 自分の動きが、これほどまでに無惨に、客観的な数値として解体されたことは一度もなかったのだろう。

 

「……根性も規律も、今の君たちには必要ない。……必要なのは、自分という『システム』の正しい仕様つかいかたを知ることだ」

 

 俺は、デバイスの設定を切り替えた。

 

「……さて。……ここまでは『現状分析』だ。……次は、君たちの『成功イメージ』をレンダリングする」

 

『了解。……Soro2・シミュレーション・モード、起動。

 ……対象:セリア、クラウス。……最適化後のモーション・データを生成中……。

 ……投影を開始します』

 

 二人の目の前に、もう一つのホログラムが現れた。

 

 そこに映っているのは、今の二人とは似て非なる姿だった。

 無駄な動きを一切排除し、流れるような動作で魔法を放つセリア。

 力みなく、最短の軌道で敵を両断し、完璧な残心ポスト・プロセスを決めるクラウス。

 

「……これ……。……私……なの?」

 

 セリアが、夢を見るような瞳でその映像を見つめる。

 

「……今の君たちの延長線上にある、数日後の姿だ。……俺が、この映像通りの動きができるように、君たちの『コード』を書き換えてやる」

 

 俺は、おじさんらしい少し意地悪な笑みを浮かべた。

 

「……ただし、俺の指導は効率重視だ。……無駄な休憩も、無駄な練習もさせない。……その代わり、俺の言う一歩、一秒、一呼吸。……すべてを『仕様』通りに動いてもらう。……いいな?」

 

 セリアは力強く頷き、クラウスは照れ隠しに鼻を擦りながらも、その目は、初めて希望という名の輝きを宿していた。

 

 

 おじさんの「教育」という名のデバッグが、今、静かに動き始めた。


 幕間(前編)を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 

 自分の不甲斐なさを数値で突きつけられつつも、同時に「最高の自分」を映像で見せられたセリアとクラウス。

 おじさんの徹底した「仕様書」通りの指導が、彼らの眠れる才能を揺り起こしていきます。

 

 後編では、いよいよ彼らの「実地研修」へ。

 おじさんの指揮の元、バグが消えた若手二人が見せる驚愕のパフォーマンスとは……。

 

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