004 見習いの少女 1
「……強力な使い魔、来い! 強力な使い魔、来い! 強力な使い魔、来い……」
怪しげな言葉を呟きながら森の中を歩く、ひとりの少女。
年の頃は14~15歳くらいで、新米、もしくは見習いハンターのような服装・装備である。
「何とか、試験日までに強い使い魔を! そう強くないにしても、せめて魔力量が多い使い魔を手に入れないと……」
この国では、10歳になるとハンター……雑用や薬草採取から、魔物狩り、商隊の護衛等、様々な依頼を受ける、何でも屋……の見習いになれる。
一人前ではなく、半人前としてどこかのパーティで荷物持ちや雑用等をしながら鍛えてもらう、養成枠である。
分け前は一人前のハンターより少ないが、まぁ、食ってはいける。
……そして、15歳になると、一人前のハンターになるための試験を受けることができる。
それに合格すれば、正規のハンターとして、皆と同じ額の分け前が貰えるようになる。
この少女、セリアは、先日遂に15歳の誕生日を迎え、数日後には初めてのハンター試験を受ける予定であった。
試験を受けて不合格になれば、それから半年以上経たないと次の受験ができない。
そういう縛りを入れないと、毎週受け続ける者が出るため、それは仕方のない規則であった。
なので、両親を亡くし妹とふたりで暮らしているセリアは、数日後に迫った初めての受験において、どうしても合格しなければならなかった。
もしこの試験に落ちると、また半年間、薄給の見習い生活を続けなければならないからである。
そしてセリアには、更にどうしても今回一発で合格しなければならない理由があった。
……それは、敵の出現と、それに続く裏切り者達のせいであった……。
見習いハンターは、自分だけで活動することは認められていない。
必ず、指導役の正規のハンターと一緒に、つまりパーティとして行動しなければならない。
それは、ひよっこが簡単に死ぬことを防ぎ、そして一人前のハンターとして必要な知識と技量を身に付けさせるためである。
そして教育し育ててやる代わりに、正規のハンター達はひよっこを安価で雑用や荷物持ちに使えるというわけである。
ひよっこが15歳になり試験に合格、一人前になれば、殆どのパーティは新人ハンターとしてそのまま正規のパーティメンバーにしてくれるし、もし試験に落ちても、半人前のまま面倒を見てくれて、半年後の再挑戦まで待ってくれるのが普通である。
……通常であれば……。
しかし、そこに奴が現れた。
セリアの幼馴染みである、同い年の、ヴァルト。
幼い頃からの遊び仲間であり、悪い奴ではなかった。
……そう、『なかった』。過去形である。
同じ、貧乏な平民仲間。
母ひとり子ひとりの母子家庭であるヴァルトと、両親を一度に亡くし妹とふたり暮らしのセリアは、結構気が合い、良き友人同士であった。
共に、12歳の時にそれぞれ別のパーティの見習いとなり、母を、妹を食べさせるために頑張った。
辛いこと、苦しいこともあったが、親がいないとか貧乏だとかはこの世界では普通のことであり、それなりに楽しい日々であった。
……ヴァルトに、父親からの迎えが来るまでは……。
半年前のある日、ヴァルトと母親の前に遣いの者が現れ、父親がヴァルトと母親を引き取る、という命令を伝えた。
……『命令』である。拒否権はない。
ヴァルトの母親は、以前領主の邸で働いており、ヴァルトはその時に領主のお手つきによってできた子供であった。
そして、妊娠が分かった時点で僅かな手切れ金を渡されて追い出されたのであるが、1年前の流行り病で領主の妻、そして子供達が次々と死亡、残ったのは男子ひとり、女子がふたり……。
そのため、跡取りの予備として、そして何事もなければ跡取りを補佐して働かせるためにと、ヴァルトを母親込みで引き取ることにしたのである。
これが王族だとか上位貴族だとかであればともかく、地方の貧乏男爵家であるため、平民の血が、などと騒ぐ者などいなかった。
元々、裕福な商人の娘とかを娶ることもあったし、自分が気に入った女性との子供、そして確かに自分の血を受け継いだ者であるため、使用人に産ませた子ではあっても、領主は自分の跡継ぎにすることには何ら忌避感は抱いていないようであった。
まあ、それも正妻との間にできた息子……最後のひとり……が子を成す前にその身に何か起こらない限り、あくまでも予備、部屋住みの身にすぎないのであるが……。
正妻の息子も、自分が健在である限り相手が後継者の座を狙えるような立場ではないこと、そして自分に害を成すことなどできないということを理解しているためか、別に悪感情を抱くようなこともなく、『自分の身に何かあった時には、父と妹達を頼むぞ!』と、ちゃんと兄弟として接してくれた。
なので、何の問題もなかった。
……男爵家側には……。
そう、問題は、ヴァルトの方であった。
貧乏な母子家庭でギリギリの生活をしていたヴァルトは、自分と同じく見習いハンターをしながら妹を育て、カツカツの生活をしているセリアに『お付き合い』など申し込める余裕はなかった。
……男爵家に迎えられるまでは……。
この辺りの領主である貴族家の一員。
いくら貧乏貴族とはいえ、平民とは違う。少なくとも、食べるものがないというようなことはなく、跡継ぎではなくとも、平民とは較べ物にならない生活ができる。
……そして、気に入った平民の女性を、妻や愛人にすることも……。
普通に、正攻法で申し込んでいれば。
セリアが恋人として交際してくれる可能性はあったかもしれない。
……しかしなぜか、ヴァルトは愚かさからか物恥ずかしさからか、悪手に出た。
セリアがお世話になっているパーティに領主の息子として、貴族として圧力を掛け、セリアが試験に落ちたら、半年後の試験まで面倒を見ることなく、その時点でパーティから追い出すよう命じたのである。……幾ばくかのお金を掴ませて……。
その目的は、セリアの居場所と収入源をなくさせ、自分が新たに作るパーティに加入するしかない、という状況に追い込むことであるのは、誰の目にも明白であった。
真面目で気立てが良く、そして美少女であるセリアは男受けが良く、幼馴染みであるヴァルトが何とかセリアに『仲の良いお友達』以上の関係になれるようにと必死であったことは、周囲の者達は皆、気付いていた。
男の子達はヴァルトのことを『セリアを狙うライバル』と思い、そして大人達は、微笑ましく思っていたのである。
……ヴァルトが男爵家に引き取られ、権力で無理矢理、という行動に出るまでは……。
なぜ、普通に交際を申し込まなかったのか……。
断られることを恐れたのか。
自分の方が立場が上だからと、自分から『申し込む』とか『お願いする』とかいうことをするのが嫌だったのか。
……それとも、貴族である自分が平民の娘を正妻にすることはないと、セリアを愛人扱いするつもりだったのか……。
以前はヴァルトのセリアに対する見え見えな態度を微笑ましく見守っていた町の者達や先輩ハンター達も、いきなり手にした地位と権力を使ったヴァルトの強引なやり方に眉を顰め、そのあまりにも愚かなやり方、悪手に、呆れていた。
しかし、そんな状態のヴァルトに忠告しようにも、今、諌めるようなことを言っても、聞きはすまい。
そして、忠告者に対して牙を剥くに違いない。
余計な真似をして、領主の息子に敵視されるのは得策ではない。
他者の忠告を受け入れない愚かな者が失敗するのは、自業自得。
そう考えた町の者達やハンター達は、真面目な見習いハンターとして目を掛けてやっていた者、……そして今は関わり合いになりたくない愚かな貴族の息子に成り下がった者に、自分の方から積極的に話し掛けることはなくなった。
ヴァルトから話し掛けた場合は、きちんと相手をするが……。




