002 淫じゅ……いやいや、神獣目覚める 2
うむ。
……下着である。
それも、成人女性の……。
ここは、この辺りを仕切っている、フレイヤとかいう名の女性が住んでいるところ、……お城だ。
そしてその中の、フレイヤの自室。
仕事部屋とかではなく、プライベートな部屋だ。
……なので当然、収納庫や衣類収納家具とかがあり、その中には、下着とかもあるわけで……。
よし、これだけたくさんあれば、1枚や2枚なくなっても気付かれないだろう。
フレイヤは美人だし権力者らしいし、みんなから崇められているようなのだ。
……だから、そんな女性の下着をくすねて売れば、結構良い値が付く。
鑑定魔法で、本物であることは証明できるからな。
そう。この世界には、『魔法』があるのだ……。
いや、それも、『幼女の編隊が飛んでいる』という時点で、丸分かりだけどね。
実は、以前からこのお城から色々とちょろまかして小遣い稼ぎをしているのだ。
俺は、『ふわふわのもこもこ』で可愛いから、このお城にはフリーパス、顔パスで入れるんだよ。
誰かに会っても、可愛く小首を傾げてつぶらな瞳で見詰めれば、笑顔で手を振ってくれるのだ。
そして、無くなっても気付かれにくく、誰もあまり困らないモノ……消耗品とか、大して値の張らないものとか……をいただいて、売り払うんだ。
大したお金にはならないけれど、身体が小さな俺が旨いものを腹一杯食べるくらいの稼ぎにはなるんだよなぁ、これが……。
いただいたモノを運ぶために、収納魔法というかアイテムボックスというか、そんな魔法を会得するくらい頑張ったんだよ、俺……。
何せ、この小さな身体で、手が肉球だ。そういう魔法がないと、いただいたモノもお金も持ち運べないからね。
母さんはそういうのを不便に感じないのか、そういう魔法を使っているのを見たことはない。
だから、この魔法は俺が自分で身に付けたんだよ。
……いや、勿論、あちこちで聞いて廻って、教わったんだけどさ。
そして、少しずつお金を稼いでいたんだけど、前回、当たりを引いたのだ。
フレイヤの、下着。
たくさんあったから、1枚くすねたんだよ。
……そうしたら、思わぬ高値で売れた。
美味しいモノを、何度も腹一杯食べられるくらいの高値で……。
これは、今回もお世話になるしかないよな、勿論!
この可愛い俺様の糧となれるなら、この下着も本望であろう。うむうむ……。
とにかく、フレイヤの下着を1枚、いただいて、と……。
「よし、これで当分の間、軍資金には困らないな。
売り払ったお金で、旨いモノを食べて、贅沢を……」
「ふぅん、贅沢するんだ……」
びくん!
背筋に悪寒が走り、身体が硬直した。
「……美味しいモノを食べるんだ、ソレを売って……」
ギギギ、という音が聞こえそうなぎこちない動きで、ゆっくりと首を回して後ろを振り返ると……。
満面の笑みを浮かべ、しかし目は全然笑っていない、……悪鬼羅刹が立っていた。
「フ、フフフ、フレイヤ様……」
戦乙女達の親玉。
かなりの権力者。
俺がいつも媚びを売って甘える振りをしているから、この城に出入りするのを黙認してくれている、女主人。
……いや、可愛いからね、生後半年くらいの俺。
メイドさんとかも、ちょっと甘えれば食べ物をくれたり首の周りを掻いてくれたりする。
もう、モテモテだ。
……で、いつも笑顔で優しいはずのフレイヤが、鬼のような形相で……。
「何か、下着が1枚なくなっているような気がしていたのよ……」
「……きっ、気のせいでは?」
「そして先日、『フレイヤ様の下着』とかいう怪しげなモノが、オークションで高値で落札されたという情報を掴んだのよ……」
……ヤ、ヤバい!
「に、偽物では?」
「落札者の家を急襲して現物を押さえたところ、鑑定魔法による証明書が付いていたわ……」
「……」
「…………」
「「………………」」
「お前かああああぁ〜〜っっ!!」
どごぉ!
思い切り、蹴り飛ばされた! 魔力を乗せた、強烈なキックで……。
俺の小さな身体と未熟な身体強化魔法で耐えられるはずもなく、吹き飛んだ身体は開けっ放しになっていた部屋の出入り口から飛び出て、同じく開けたままになっていた廊下の向かい側の部屋へ飛び込んで、……何かに派手に衝突した。
「きゃあっ!」
……え? 何だか可愛い悲鳴が聞こえて……、空間の裂け目のようなものに吸い込まれ……、イカン、身体強化! 防護障壁! 魔力全開イイィ〜〜!!
* *
「フェンリルの仔だから可愛がってあげていたというのに、この悪行三昧……。
まあ、手加減してあげましたから、魔力の半分ちょっとが消し飛んで、気絶した程度でしょうね。
それくらい、ひと晩寝れば回復しますわね……。
今回はこれくらいで勘弁してあげますけれど、今度何かやらかしたら、親にクレームを入れてあげましょう。
フェンリルの女王は、自分の子供を溺愛するということですが、躾には厳しいと聞きますわ。一度、思い切り叱られればいいのですよ!」
「フレイヤ様、何やら大きな音がしましたが、何かございましたか?」
大きな音を聞きつけたらしく、使用人のひとりが慌ててやって来たようである。
「ああ、ウェリト。向かいの物置の中で伸びている子を、医務室へ連れて行って頂戴。
さすがに、意識が戻るまで放置しておくのは可哀想ですからね」
「は? は、はぁ、分かりました……」
そして使用人は、扉が開いたままになっている物置を覗き込み、その中で伸びていた若いメイドをお姫様だっこで抱え上げ、医務室へと連れて行ったのであった。
指示された通りの場所に、指示された通りに気絶した者がいたため、何の疑問も抱かずに……。
そして勿論、一流の使用人が、なぜメイドがそんな場所で気絶しているのかを主人に問うような愚かな行為など、するはずがなかった……。




