016 フェンの能力 3
「……じゃあ、次は魔力量の確認をするわよ。
一番魔力消費が激しい、魔力の全身放出をやってちょうだい。
全周からの攻撃が来て避けられない時に、身体中から魔力を放出して攻撃を防ぎ、身を護るための魔法なんだけど、魔力の消費量が半端じゃないのよ。
周りに被害を及ぼさないし、結果が早く分かるから、簡易的な魔力量の測定に使われるの。
魔力が枯渇しそうになったら、早めにやめなさいよ。でないと、気絶しちゃうからね」
「分かった。じゃあ、始めるぞ……」
ぶぅん……
「……」
「…………」
「「………………」」
ぶぅん……
「……」
「…………」
「「………………」」
ぶぅん……
「……」
「…………」
「「………………」」
「……いつまでやってんのよ!!」
「もう、宮廷魔術師長や魔法師団長の記録の10倍を軽く超えてるよ……」
驚きを通り越して、もはや呆れるしかない、セリアとリゼル。
そして……。
「でも、まあ、これでお姉ちゃんの実力試験の時の謎は解けたよね」
「……まぁ……、そうね……。
それで、フェン、魔力量はどれくらい減った感じ?」
「減った感じは、全然しない。誤差の範囲内かな?」
「何よ、それええぇ〜〜っ!!」
魔力量の少なさに悩み続けたセリアにとって、受け入れがたき事実。
今はそれが我が物となったことを喜ぶべきところなのに、複雑な想いで、素直に喜べないのであった……。
* *
あれから旅を続け、野営の度にフェンの能力調査を行い、……セリアとリゼルは、考えるのをやめた……。
人外。
……いや、元々、人間ではないが……。
規格外。
化け物。
「底知れない魔力量もだけど、どうしてそのちっこい前脚で岩を砕けるのよ!
フェン、あんた、本当に狼なの!」
「それ以前の問題として、どうして私達よりも頭がいいの? 普通、いくら使い魔とはある程度意思疎通ができるようになるとはいえ、それはせいぜい『マスター、好き』とか、『わかった』とか、『お腹空いた』とかの、簡単な思考や感情だけだよね?
フェンみたいに、普通に人間が会話するみたいに意思疎通ができたりはしないよね?
いったい、どうなってるのかな?」
セリアとリゼルに追及されても、フェンに言えるのは、この言葉だけであった。
「知らんがな……」
「あ、それと、俺は狼じゃないらしい、って言ったよな?
俺は、フェンリル、って種族らしいぞ。
狼だと言われるのはすごい侮辱であり、屈辱なんだってさ。母さんがそう言ってた。
……でも、どう見ても狼の一種にしか見えないし、珍しい種族だと思われたら誘拐されるかもしれないから、ここでは狼ってことにしとくか……。
時には、都合上、『犬』ってことにしてもいいぞ。村人やら子供やらを怖がらせたくない時とかな」
「こんな、生後数カ月のもふもふを怖がる者なんか、いないわよ!」
「そうそう!」
「……言われてみれば、確かに……」
セリアとリゼルの言葉に、反論できずに納得する、フェン。
「……じゃあ、明日は町に行って、宿屋に泊まるわよ。
フェンの能力確認も終わったし、リゼルの見習い登録と私の指導ハンター登録、……つまり、私達のパーティ登録をしなきゃならないからね。
そして、それよりも重要なのは……」
「「そろそろ、お風呂に入りたい!!」」
風呂がある宿屋は滅多にないし、そういう宿屋は宿泊料が馬鹿高い高級なところだけである。
……しかし、ある程度の町であれば、平民向けの風呂屋がある。
普通は、洗面器1杯の水かお湯で身体を拭くくらいであり、平民にとって風呂は贅沢である。
ふたりも、今まではそれで済ませていたのであるが……。
やはり、いくら子供とはいえ、女性は風呂に入りたがるものであった。
* *
キィ……
軋み音と共に扉が開き、……ふたりの少女が入ってきた。
ここ、クリムの町の、ハンターギルドに……。
ひとりは、15~16歳くらいの少女。
ハンター装備の馴染み具合から、数年間は見習いかハンターとして活動してきたものと思われる。
そしてもうひとりは、まだ10歳前後に見える少女。
身に着けたハンター装備が、新品ではないが全く身体に馴染んでおらず、身のこなしからも、見習いに成り立てだと思われる。
……そして、年長の方の少女の左肩には、犬が乗っていた。
白くてちっこい、ふわふわのもこもこが……。
どうやら犬は眠っているらしく、肩にお腹をくっつけて、前後に手足をだらりと垂らした、……まるで狩ってきた獲物を肩に担いでいるかのような状態である。
それが獲物ではないということが分かるのは、夢でも見ているのか、その白いもこもこが時折ピクピクと動いているからであった。
……見慣れない少女が、ふたり。
扉を開けて入ってきた時から、ギルド内にいたハンター達からの視線が集まっていた。
仕事の依頼人か、ハンター仲間か。
そして、カモであるかどうか……。
あまりあからさまにではないけれど、見慣れぬ者に視線が集まるのは、当たり前のことである。
そして、ふたりの少女は受付窓口の方へと向かった……。




