015 フェンの能力 2
「……属性魔法、とは?」
「ええと、ただ魔力をそのままぶつけるんじゃなくて、火とか水とか土とか風とかに変換して使う魔法、かな……。
セリア達は、ただ魔力を『力の塊』として投げつけているだけだよな? そうじゃなくて、魔力で炎を生み出したり、水球にしたり、氷の槍にしたり……」
「どうやって作るのよ、そんなもの! できるわけがないでしょ!」
「……え? そうなの?」
「あ、あんたはできるの? その、属性魔法とかいうの……」
「いや、できないけど?」
「「何よ、それええぇ〜〜!!」」
思い切り呆れる、セリアとリゼル。
「あんたの、ただの妄想じゃないの!」
「……まぁ、確かにそうなんだけど……」
あくまでも、属性魔法というのは前世で読んだ小説や漫画、アニメ等による知識であり、フェンが自分で使っているわけではない。
(あ~……。まあ、俺が母さんから教わったのは、身体強化魔法と防御魔法だけだもんなぁ……。
でも、そのふたつを教わっていなければ、あのフレイヤの蹴りと界渡りに耐えられなくて死んでたよなぁ、絶対。
ありがたきは母の愛、か……。フェンリル母さん、ありがとうな!!)
フェンは、前世の両親にも感謝しているが、今世で自分を産み、育て、愛情たっぷりに色々と教育してくれたフェンリルの母親にも、心から感謝している。
なので、この世界に飛ばされたこと自体はそんなに気にしてはいないが……あの世界にも、ほんの数カ月いただけなので、別に郷愁とか思い入れとかはない……、母親にだけは心配させたり悲しませたりさせたくない、という思いと、恩返しをせずに終わるということには、忸怩たる思いがあった。
しかしそれも、どうしようもないなら仕方ない。
この世界で幸せに生きることが、母親に対する恩返しになると信じるしかなかった。
「あ、そうだ! 収納に、何か入ってなかったっけ……」
フェンが、突然思い出したかのように、そんなことを口にした。
「……収納?」
「うん、収納魔法。亜空間の中に物を入れておける魔法。
ほら、俺って物を持ち運べないだろ? だから、自分で考案して、会得したんだ。
母さんは別に不便には感じなかったのか、こういう魔法は使っていなかったけどね」
固まる、セリアとリゼル。
そして……。
「な、ななな……」
「何よ、その、ワケの分からない魔法はっっ!!」
属性魔法すらないこの世界に、収納魔法など、あるはずがなかった……。
「ええと、中にあるのは……、水と、食べ物と……」
いつ何があるか分からないので、慎重派であるフェンは、常に食べ物と水は大量にストックしている。
この世界に来てからは、セリアが用意してくれる食べ物を食べているので、手を付けていないが。
あくまでも、これは備蓄食料なので……。
「……そして、これは……、フレイヤの下着?」
「な、ななな……。
何て物持ってるのよ、あんた!
……そして、何なのよ、その破廉恥な下着は!
そんなの、もう下着じゃないわよ! ただの布切れよ、布切れっ!!」
確かに、女性の下着はドロワーズ、それもかなり防御力が高そうなヤツが主力であるここの常識から考えれば、現代日本のものに近いフレイヤの下着は、些か刺激が強すぎる。
「ええと、他には……」
セリアの突っ込みはスルーして、収納魔法の中身を確認するフェンであるが……。
「干からびたミミズ、干からびたカエル、干からびたセミ……」
「捨てなさい!! どうしてそんなもの大事に取っているのよ!」
「いや、男の子っていうのは、そういうもの……」
「捨てなさい!!」
そもそも、生後半年のフェンリルが、そんなに値打ちがあるものや役に立つものを持っているはずがなかった。
まだ、食べ物と水を入れているだけ、立派である。
……しかしそれも、前世の記憶があってのことなので、そう褒められるようなことでもないが。
* *
「……じゃあ、今からフェンの能力の検証を行います」
「何を、藪から棒に……」
あまりお金がないため、当然、宿屋に泊まるのではなく野営が主となる。
そして今日は、まだ陽が沈まないうちに野営の準備を終え、セリアがそんなことを言い出したのである。
「これから、ハンターとして活動するのよ。フェンがどれくらい戦えるのか確認しておかなきゃならないでしょうが……。
まあ、まだ幼いからあまり期待しているわけじゃないけど、それでも少しは役に立つかもしれないし、どれくらい危なくなったら助けてあげなきゃならないとか、色々と把握しておかなきゃならないのよ。
……それと、フェンの魔力量も確認しておきたいしね……」
最後のものが、かなり重要であった。
あの実技試験のことから鑑みて、論理的に考えれば、フェンの魔力が極めて大きい、という結論になるのであるが、どうしてもそれは信じがたい。
ならば、検証作業を行うしかなかった。
これは、以後のハンターとしての活動を左右する、非常に重要なことである。
「じゃあ、まず、これを折ってみて」
「ん? 分かった……、えい!」
ポキリ
セリアに指示された木の枝……折れて、地面に落ちていたもの……を、右の前脚で簡単にへし折った、フェン。
「じゃあ、次はこれ」
ポキン
「割と力があるわね。じゃあ、あれを……」
ボキリ
「……そこの、立木を」
ベキッ
「…………そっちの、ちょっと太いやつ……」
バキッ
「……」
「「…………」」
「どうしてそんなに簡単に折るのよっ!!」
「いや、知らんがな……」
「……。
じゃあ、次はもっと太い、あっちの木を……」
「お姉ちゃん、それ以上やると、自然破壊になるよ!
木々だって生きているし、森の恵みは木のおかげなんだからね!」
「う……、それもそうか……」
リゼルの指摘に、素直に納得するセリア。
年下ではあるが、正義感が強くて頭のいいリゼルからのこういう指摘は、セリアはいつも無下にするようなことはない。
「……だから次は、そっちの岩でやってみて」
「折れる! 俺の前脚が折れちまうよっ!!」
あまりにも無情なリゼルの指示に、さすがに文句を言うフェンであるが……。
「別に、脚が折れるほど本気でやらなくていいよ。無理だってことが分かればいいんだから。
このまま少しずつ難度を上げていると、時間の無駄だよ。
だから、明らかに無理なところで『無理』ってことを確認して、次に、それとできたやつの真ん中くらいのを試す。それを繰り返せば、できるのとできないのの境目を見つけるのが早くなるでしょ?」
「あ、なる程……」
「どう? リゼルは頭がいいでしょ!」
「どうしてセリアがそんなに自慢そうなんだよ……。
5歳も年下の妹に負けて、そんなに自信たっぷりな顔をされても……」
「う、うるさいわよっ!」
「まぁ、いいや。割れるわけのないこの岩を、怪我をしない程度の力で、と……」
どごん!!
「……割れたわね……」
「……ううん、これは『割れた』んじゃなくて、『砕けた』って感じだよね……」
「「どういうことよ!!」」
「知らんがな……」




