013 実技試験 5
「……邸から追い出したのは、妻だ。私ではないぞ……」
みんなからの視線の意味に気付いたのか、領主様が慌ててそう付け加えた。
はいはい、ソウデスカ……。
正妻には、逆らえなかったのか。
そしてその奥さんも亡くなったから、もう文句を言う者はいない、ってことか……。
「ま、とにかく、ハンターギルド所属、正式なFランクハンターである、ただの平民の、ヴァルト。ハンターランク剥奪の上、ハンターギルド除名とする。
併せて、全てのギルドは本人、及びその関係する者からの依頼は一切受け付けないものとする」
ギルドマスターからの、正式な告知が行われた。
これでもう、ヴァルトはハンターにはなれない。
それどころか、碌な働き口もないだろう。
ヴァルトを雇えば、そこからの依頼をハンターに受けてもらえなくなる。
商隊の護衛も、採取依頼も、雑用とかも……。
それが分かっていて、何の後ろ盾もないヴァルトを雇うところなど、あるはずがない。
これから先、仕事がなくて困るのは私ではなく、ヴァルトの方だ。
「本件は魔術師ひとりの単独犯行として、ハンターパーティ『破魔の剣』は、当事者である魔術師を除き、お咎めなしとする。新たな魔術師を仲間に入れて、引き続き仕事に励んでもらいたい」
呆然としていた『破魔の剣』の5人は、慌ててギルドマスターに頭を下げた。
下手をすれば、連帯責任として何らかの罰を与えられても文句は言えないところなのであるから、この決定はとてもありがたいはずだ。そりゃ、頭くらい下げるだろう。
用は済んだと、領主様は黙って立ち去った。
他の人達は、まだ全員そのまま動かない。
まだ、何かあるの? それとも、部外者である私とヴァルトが立ち去るのを待っているのかな?
……しかし、あの領主様、見下げ果てたヤツだな……。
そう思い、領主様が去って行ったドアの方を見ていると、支部長さんが何か言ってきた。
「あれでも、領主としてはまともな部類なんだよ。お家お取り潰しとかになって他の貴族が領主になった場合、ほぼ確実に民の暮らしは今より悪くなる。
だから、女好きなことくらいはあまり気にしていないんだよ、領民達は……。
女好きというのも、無理矢理、というのはやらない。あくまでも、一応は合意、という形は取っているしな。恋人や婚約者がいると言えば、素直に諦めてくれるらしいし。
金も、ちゃんと渡すらしいしな……」
「…………」
確かに、そりゃまともな部類だ。……貴族としては……。
まあ、平民の中にも、もっと悪い奴はいるしね。
そう考えれば、貴族としては、そう悪い人ではない……のか……?
認めたくない! 認めたくないけど!!
……とにかく、ヴァルトの順風満帆な貴族生活が終わりを告げたということだけは、ここにいる全員が、はっきりと認識しただろう。
勿論、ヴァルト本人を含めて……。
ヴァルトも動く様子がないから、ここは私が先に立ち去るしかないか。
……でも、その前に、言っておくことがある。
「ヴァルト、どうしてあんなことをしたの?
普通に、自分のパーティに誘ってくれていれば、私、移籍したのに……。
そりゃ、今まで養成してくれたパーティには申し訳ないけど、ヴァルトが私を追い出させるために払ったお金、あれだけのお金を渡せば、快く移籍させてくれただろうね、多分。
……そして、次の新人の養成を始めただろうと思うよ……」
「え……」
愕然。そして、呆然。
そんな顔をしている、ヴァルト。
「そんなに不思議なこと? 私達、結構仲が良かったよね?
……今となっては既に過去形だけど、少なくとも、ヴァルトが私に対して悪意ある攻撃を仕掛けてくるまでは……」
「あ……、え……」
赤くなったり蒼くなったりの、ヴァルト。
でも、それはもう二度と実現することのない、『選択されなかった未来』だ。今更何を言ったところで、何の意味もない。
「もう、二度と私達姉妹には関わらないで。
もし私と妹の5メートル以内に近付いたり、触れようとした場合には、攻撃の意図ありとして問答無用で攻撃魔法を放ちます。……致死レベルのものを……。
また、人を雇っての嫌がらせや加害行為も、私達にそういうことをする動機があるのはあなただけだということをここにおられる皆さんがご存じであることから、すぐに黒幕は分かるでしょう。
そしてギルド加盟者であるハンターが、ギルドから受けた処分により怨みを抱いた者による攻撃を受けた場合、……ギルドがどんな報復措置に出るかは、当然、知っていますよね?」
ハンターギルドには、部外者に対する司法権はないけれど、世の中、そんなものはなくても、人を追い詰める方法は、いくらでもある。
……そう、いくらでも……。
言うべきことは、言った。
そして私は、静寂に包まれた会議室を後にした……。
* *
「お姉ちゃん!」
外に出ると、フェンを腕に抱いたリゼルが待っていた。
「……結果は?」
「勿論、合格よ!」
「やったあぁ〜〜!!」
「おめでとう、セリア!」
祝福の言葉を掛けてくれた、リゼルとフェンだけど……。
「フェン! 近くに人がいるのに、喋ったら!」
「あ、いや、これは本当に声に出して喋っているんじゃなくて、精神感応みたいなものだと説明しただろ、前に。
……だから、俺が意思を伝えたいと思った相手にしか伝わらないんだ。
黙ったまま伝えてもいいし、ガウガウと声を出しながら伝えてもいいんだけど、長台詞の時は黙っていないと、吠え続けるのは変だからな。
ちなみに、今は黙ったままだから、セリアは仔狼に話し掛けている痛い人に見えていると思うぞ」
「嫌ああぁ〜〜!!」
「いや、だからそれが、仔狼相手に一方的に話し掛けて、突然叫びだした痛い人に……」
「ぎ……、うぐぐぐぐ……」
再び悲鳴を上げそうになって、何とか踏み止まった。さすがに、これ以上の恥は晒せない。
「じゃあ、予定通りに?」
「うん、プランAで」
「分かった……」
リゼルからの確認の言葉に、そう答えていると……。
「セリア……」
後ろから、声を掛けられた。
「あ……」
そこにいたのは、2年半の間、私を見習いハンターとして育ててくれた、元パーティメンバー達。
……元、だ。
「ハンター試験、合格したんだってな! おめでとう!!
……それでだな、これからもうちで一緒に……」
あ~……。
「私は、先日パーティから追い出されました。金貨数枚で売られて……。
どなたか、他の方とお間違えでは?」
「「「「「…………」」」」」
多分、実技試験を見ていて、私がなぜか普通の魔術師以上のたくさんの魔力量を得たらしいと知ったのだろう。
元々、精度や応用には自信があった。私の弱点は、魔力量が少ないということだけだったのだ。
それが、人並み以上の魔力量を得たとなれば……。
何でも言うことを聞き、よく働く、優れた魔術師。
……惜しくなったのだろうな、自分達が金貨数枚で売ったものが……。
「パーティは、自分の命を預けられる、信頼のできる者達で組むものですよね?
少なくとも、金貨数枚で自分を裏切って売るような者達に命を預ける間抜けはいませんよね、長生きしているハンター達の中には……」
「「「「「…………」」」」」
元パーティメンバー達は、さすがに『恥』というものを知っていたのか、黙って頭を下げた後、肩を落として去っていった。
しつこく絡まれずに済んで、助かった……。
まあ、無理矢理パーティに引き戻されたところで、以前のように献身的に働いたりはしないし、肝心なところで魔法を失敗するかもしれないものね。
信頼できない者とは、パーティなんか組めるはずがない。
……そして、私はもう彼らをカケラも信頼していない。
だから、絶対に無理なんだよ。
そしてそれは、彼らにも分かっているはずだ。彼らも、馬鹿じゃないんだから……。
もしかすると、勧誘というのは建前で、本当はただ謝罪したかっただけなのかも……。
そして、『お前は俺達から捨てられたんじゃなく、俺達がお前に捨てられたんだ』ということにして、私があまり傷付かないようにと配慮して……。
いや、確かめようのないことを想像しても、何の意味もないか。
彼らと私は2年半を仲間として過ごし、そして別れ、もう二度と共に過ごすことはない。
……ただ、それだけのことだ。
「帰ろうか……。
あ、今夜はお祝いでご馳走だよ! 高い食材を買って帰るよ!」
「「おおっ!!」」




