012 実技試験 4
「今回の実技試験において、敵役を務めました、Cランクパーティ『破魔の剣』。
その所属魔術師である、セイレッド。故意によるハンターギルド基本規約違反により、ハンターランク剥奪の上、ハンターギルド除名とします」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかったのだろう。口を半開きにして、ぽかんとした顔の魔術師。
仲間のパーティメンバー達も、愕然とした表情をしている。
それも無理はない。ハンターギルドからの除名は、魔術師としてまともな職に就くことができなくなるということなのだ。
そりゃ、大店のお抱え魔術師とか、軍の魔術兵として下士官か士官待遇で、という魔術師もいるけれど、それはあくまでもまともな魔術師の場合だ。
……決して、ギルドを除名処分となったクズ達じゃない。
それに、お抱えや軍に入った魔術師も、普通はハンター資格を維持できるだけの最低限の依頼はこなし、ランクを保っているものだ。
魔術師仲間との関係を保ち、情報の入手ルートを維持するために。
たまに小遣い稼ぎに依頼を受けるために。
……そして、今の仕事が嫌になれば、いつでもハンターに戻れるのだという逃げ道の確保のために……。
なので、ある程度の魔法が使えるのにハンター資格のない魔術師というのは疑問に思われ、なぜ資格がないのかを調べられ、……そしてやらかしが露見する、というわけだ。
金で悪事に手を染めるような者を雇う商会も軍もない。
買収されて敵と通じたり、盗賊の手引きをしたりする可能性が高い者が、まともな職に就けるわけがないのだ。
魔術師が何か言おうとしていたけれど、それを遮って、ギルドマスターが宣告した。
「弁明は不要だ。あれを見て、誤解だとかお前が無罪だとか考える者はいない。
途中までは上手く誤魔化していたつもりだろうが、我々が今までに何回試験に立ち会っていると思うのだ? 攻撃対象の恣意的な偏りなど、すぐに分かるわ! そういうことを確認する担当の者がいないとでも思っているのか?
それに、焦ったのか、後半はあまりにもあからさまだっただろう?」
あ、魔術師、がっくりと肩を落としてる。
弁明をあきらめたのかな?
「……で、お前に聞きたいことは、ただひとつ。誰に頼まれたか、ということだ。
この期に及んで下手に隠し立てすると、ますます立場が悪くなるだけだぞ。
もう、悪事は露見しているんだ。お前を破滅させた奴の罪まで、全てお前が被ってやるのか?」
あ~、これは……。
「……ヴァルト様です。領主様の、御子息の……」
うん、知ってた。
だって、私を不合格にさせたい者って、他にいないもの……。
それに、領主としての立場でヴァルトの父親が列席するのは分からなくもないけれど、ヴァルトがこの場にいる理由が、他にないものね……。
つまり、魔術師の自供を待つまでもなく、ギルドマスターや領主様達は首謀者が誰かということを知っていた、というわけだ。
いや、だって動機がある者はひとりしかいないし、ヴァルトが私に対して色々と手を回していたことは、大勢が知っている。
私達のチームの実技試験が、残り時間僅かとなった時。
私がなかなか魔力切れにならないので焦り、明らかに不自然な程私への攻撃を増やした時点で、監視役の人やギルドマスター以外の人達にも、何が起きているのか、そして誰が何の目的でそんなことをしでかしたのか、丸分かりだったと思うよ……。
そして、この場にいる全員の視線がヴァルトに集中すると……。
「……それが何だっていうんだ!」
開き直ったよ……。
まあ、今更『知らない』とか『俺じゃない』なんて言っても、通るはずがないよね。
この魔術師には、そんな嘘を吐く理由も、偽証によって更に自分の状況を悪化させる理由もないからねえ。
「俺は、別に犯罪行為を行ったわけじゃない! ただ、ギルドの試験を少し邪魔しただけだ。
だから、警備隊に連行されるようなことはないし、ただの『貴族の悪戯』程度で済む話だ。
普通ならばせいぜいハンターギルドから軽い罰則が与えられる程度だろうけど、ハンターギルドの懲罰権は、ギルド関係者にしか及ばないはずだ。
そして俺はまだ見習いであって、登録された正規のハンターじゃないから、ギルドにどうこう言われる筋合いはない!」
そううそぶくヴァルトだけど……。
「いや、お前は既に正式なハンターで、ギルドの懲罰対象者だぞ?」
「……え?」
ギルドマスターの言葉に、ぽかんとした顔のヴァルト。
「お前、さっき合格を言い渡されて、すぐに書類にサインしたじゃないか。
だから、その時点でお前は正式にFランクハンターとしてギルドに登録されてるんだよ」
「な……」
少し焦ったような顔をしたヴァルトは、しかしすぐに落ち着いたようだ。
「でも、ハンターは『経歴不問』だよな! 過去に犯罪歴があろうと、ハンターになる以前のことは不問で、過去は詮索しない、というのが大原則のはずだ! だから、ハンターになる前のことは関係ない!」
今回のことは、正式にハンターになる前のこと。そう言いたいようだけど……。
「あ~、お前が魔術師を買収して悪事を唆したのは、確かにハンター登録する前だったかもしれんが……。
でも、奴がそれを行動に移したのは、お前のハンター登録の後だよな? そしてお前は、自分の目的のためにそれを制止することなく遂行させた。
つまり、お前のハンターギルドに対する悪事は、ずっと継続していたわけだ。お前がハンターとして正式登録した時も、その後も、ずっとな……。
つまり、どういうことかと言うと、……完全にアウト、ってわけだ。
確かに、警備隊に突き出すような案件じゃないが、厳正なハンター採用試験における不正行為、他のハンターに対する悪質な妨害行為として、我がハンターギルドからひとりの新米Fランクハンターに対して厳しい処罰が与えられるには充分な行為だということだ……。
あ、貴族だとか何だとかは関係ないぞ。
ウチは、貴族どころか、王宮からの圧力にも屈しないからな。
ハンターギルドに圧力かけて無視されりゃ、いい笑い物だし、全国のハンターギルドがそいつとその関係者、関係組織からの依頼を受けなくなるからな。護衛依頼も、魔物の討伐依頼も、何もかも……。
だから、そんな馬鹿な真似をする権力者はいないぞ」
「…………」
ヴァルトの奴、黙り込んじゃった……。
「ひとつ、訂正しておく」
あれ? 領主様が口を挟んできたよ? オブザーバーかと思っていたのに……。
ハンターギルドに対しては領主様もゴリ押しできないのでは、と思っていたけれど、さすがに自分の息子のこととなると、そうも言っていられないか……。
「その男は、貴族ではない。
当家とは一切関わりのない、ただの平民だ」
「え……」
信じられない、というような顔で、領主様を見詰める、ヴァルト。
そりゃ、そうだろう。
助け船を出してくれるものと思っていたら、まさかの『当家とは無関係』宣言だもの……。
他の人達は、驚いた様子もない。
みんな、それが当然のことだと思っているのだろう。
……勿論、私もそう思う。
だって……。
「当たり前だろう」
領主様は、必要最小限の発言しかしないらしく、何の説明もなかった。
なので、仕方なく、ギルドマスターが呆然としたままのヴァルトに説明してあげるようだ。
「さっき言っただろう、ハンターギルドを敵に回した者には、『全国のハンターギルドが、そいつとその関係者、関係組織からの依頼を受けなくなる』と……。
だから、もしお前が領主様の息子のままであれば、ハンターギルドは領主様からの依頼は一切受けないし、領主様が関係されているところからの依頼も受けなくなる。
……それで、領地の運営に支障が出ないと思うか?」
「う……」
言葉に詰まる、ヴァルト。
そして、再び領主様が口を開いた。
「……そういうことだ。
何、お前の他にも、使用人に産ませた子供はいる。次のを引き取れば済むことだ。
今から孕ませることもできるしな。
ああ、お前の母親は、ちゃんと面倒を見るから、心配するな。
アレは、心根のいい女だ。俺は本当に気に入っておるのだ。ただ身体目当てで手を出したわけではない」
……最低だ! コイツ、最低の男だああぁっ!!
そもそも、本当に気に入っているなら、どうして妊娠が分かった途端、邸から追い出したんだよ!
他の人達も、領主様を見る視線に蔑みの感情が籠もっているような気がするよ。




