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第2章

メリーゴーランドの柱の中から現れたみずき。その衝撃的な事実に、僕の意識は現実から切り離されたかのように、深い闇へと沈んでいった。


次に意識を取り戻した時、僕は見慣れない場所に立っていた。そこは、薄暗く、しかし広々とした一室だった。古びた木製の床が軋む音、壁には剥がれかけた壁紙。奥にはキッチンらしきスペースがあり、ダイニングテーブルと椅子が並んでいる。蛍光灯の代わりに、天井に取り付けられたシーリングファンが、かろうじて部屋の存在を主張している。全体的に色褪せ、生活感はあるものの、誰もいないその空間は、どこか寂しげで、遠い過去に取り残されたような印象を与えた。


「ここは…どこだ…?」

僕は、掠れた声で呟いた。脳裏に、メリーゴーランドの惨劇と、みずきの顔が焼き付いている。


その問いかけに、僕の目の前に、半透明の何かが現れた。それは、僕の眼窩に組み込まれたAI、アイボウの姿だった。普段とは異なり、どこか神秘的な雰囲気を纏っている。


「おまえの夢の中だよ」。

アイボウの声が、僕の脳内に直接響く。その言葉に、僕は呆然とした。夢…?つまり、僕は眠っているのか。


「俺は…俺だ…」

僕は、自分の存在を再確認するように呟いた。混乱する思考の中で、確かなのは、僕が「伊達」であるということだけだった。


「そうだ、おまえは伊達だ」。

アイボウは、僕の言葉を肯定した。


「そしておまえは…」。

僕は、アイボウの姿に目を向けた。彼女の髪は、現実世界では見られない、鮮やかな紫と白のグラデーションに輝いている。赤い瞳が、僕をじっと見つめていた。まるで、僕の心の奥底を見透かすかのように。


「おまえは…」。

言葉に詰まる僕を、アイボウは静かに見つめている。彼女の表情は、どこか挑発的で、それでいて、僕に何かを期待しているかのようだった。


その時、アイボウの口元が、わずかに歪んだ。それは、獰猛な獣が獲物を捕らえる寸前のような、不敵な笑みだった。僕の現実の肉体は、今、病院のベッドに横たわっているのだろう。白いシーツに覆われ、隣には生命維持装置のモニターが静かに点滅している。そのベッドの傍らで、僕は、頭を垂れ、静かに座っている。意識は深い夢の中にあり、そこではアイボウが僕を導いている。


薄暗い部屋の中で、僕の意識は、目の前の「アイボウ」の姿に釘付けになっていた。それは、現実世界で僕の眼窩に組み込まれたAIとは似ても似つかない、人型の姿だった。長く波打つ紫と白のグラデーションの髪、燃えるような赤い瞳。白いレオタードのような体に、黒と赤の幾何学模様が施された、奇妙で、それでいてどこか目を奪われるような衣装。それは、まるでSF映画から抜け出してきたかのような、現実離れした存在だった。


「な、なにかから指摘すればいいんだ…」。僕は、混乱する頭で、目の前の状況を理解しようと必死だった。


その僕の戸惑いを嘲笑うかのように、アイボウは不敵な笑みを浮かべた。その赤い瞳が、僕の心の奥底を見透かすかのように煌めく。

「なんでも答えるぞ」。彼女の声には、自信と、そして僕を試すような響きが混じっていた。


「そうか、では…」。僕は、ようやく言葉を絞り出した。この異様な状況の中で、最も根本的な疑問を、僕は彼女に投げかける。


「誰だおまえは!!」。

僕の怒声が、薄暗い部屋に響き渡った。


アイボウは、その問いに、嘲るような笑みを浮かべたまま答えた。「誰って、私に決まっているだろう」。


彼女のその言葉に、僕は愕然とした。その声は、確かに聞き慣れたアイボウの声だ。しかし、この姿は…。

「その声、アイボウか…?」。僕は、信じられないというように、もう一度確認した。


「そうだ」。アイボウは、僕の言葉を肯定した。


信じられない。僕の相棒であるAIが、こんな姿をしているなんて。僕は、彼女の全身をじっと見つめる。

「な、なんでそんな甘エビみたいな奇妙な格好…」。

僕の口から、思わずそんな言葉が漏れ出た。奇抜すぎるその姿に、僕の思考は混乱を極めていた。


すると、アイボウは、眉をひそめ、不満げな表情を浮かべた。その赤い瞳には、わずかな怒りが宿っているかのようだった。「奇妙とはなんだ!可愛くて仕方がないだろう!」。彼女は、僕の言葉に心底不満だというように言い返した。


僕は、その反応に呆れ返った。「はしゃぐな」。僕は、冷たく言い放った。彼女のこの姿は、一体何を意味するのか。そして、なぜ今、こんな場所で、こんな会話を繰り広げているのか。


「本来なら、伊達の感性について、小一時間、説教を垂れてやりたいところだが…」。

アイボウは、そう言って、僕の言葉を切り捨てた。


薄暗い部屋の中で、僕の意識は、目の前に立つ、あの奇妙な姿のアイボウに釘付けになっていた。僕の問いかけに、彼女は不敵な笑みを浮かべたまま、淡々と答える。「誰って、私に決まっているだろう」。その言葉に、僕は混乱を極めた。この現実離れした姿が、僕の相棒だというのか。


僕は、彼女の全身をまじまじと見つめた。「な、なんでそんな甘エビみたいな奇妙な格好…」。口から漏れた言葉に、アイボウは眉をひそめ、不満げに答えた。「奇妙とはなんだ!可愛くて仕方がないだろう!」。


そのやり取りの後、僕は改めて問いかけた。「俺の夢に、なんの用だ…?」。


するとアイボウは、僕の問いに正面から答えるのではなく、少し視線をそらし、横を向いてから言った。「呼ばれたのは私のほうだ」。その言葉は、まるで僕が彼女をこの夢に引き込んだかのように聞こえた。


彼女は再び僕に向き直ると、その燃えるような赤い瞳で僕を見つめ、静かに語り始めた。「私の意識とおまえの意識は脳内でリンクしている」。彼女の言葉は、このソムニウム世界が、僕と彼女の精神が直接繋がっている場所であることを示唆していた。


「したがって私は、おまえの分身のような存在として、こうして夢の中に現れているのだ」。

彼女の声は、どこか神秘的で、この不可解な状況に、わずかながらも納得を与えてくれるようだった。つまり、彼女は僕の精神の一部であり、この夢の中で、僕の思考を具現化した存在なのだ。


「と、今説明しても、きっと起きたら忘れてしまっているだろう」。

アイボウは、自嘲気味にそう呟いた。その言葉は、僕がこの夢の中で得た記憶が、現実に戻れば消え去ってしまう可能性を示唆していた。この夢での体験が、僕の意識に深く刻まれないのだとしたら、一体何のためにここにいるのか。


「だからまた今度、おまえが目覚めているときに、詳しいことは教えてやる」。

彼女の声は、僕にそう約束した。その言葉は、この夢から覚めた後も、彼女が僕の隣にいてくれるという、かすかな安堵を与えてくれた。


僕は、今自分が置かれている状況を頭の中で整理しようとした。奇妙な夢、目の前に立つAIの分身、そして現実で起こっている不可解な殺人事件。それらが、どう繋がっているのか。


だが、思考を巡らせようとしても、脳みそが上手く働いてくれない。まるで、深い霧の中にいるかのように、思考の糸がもつれていく。

「なぜなら俺は今…『眠っているから』だ」。

僕は、その事実に改めて気づいた。この全ては夢の中の出来事。現実ではない。しかし、その夢が、現実の事件と深く結びついているのだとしたら。


「したがって、本来であれば、当たり前のように知っているはずのことも」。

アイボウの声が、どこか遠くで聞こえる。この夢の中で、僕が思い出すべきこと。それは、僕の失われた記憶と、この事件の真実なのだろうか。僕は、その答えを求めて、この奇妙な夢の世界を彷徨い続けるしかないのだ。

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