第16章
伊達が差し出した写真に、応太の表情が硬くなる。先ほどまでの、アセトンに夢中な少年はどこにもいなかった。
「うん、ゆうべブルームパークで見た、あの人でしょう…?」
応太の言葉に、伊達は核心を突く質問を投げかけた。
「名前は灘海硝子…」
伊達の視線は、応太の反応を注意深く観察していた。アセトンもまた、その小さな瞳を応太に向けている。
「ネットのニュースで見たんだ」
応太はそう答えたが、伊達の顔には不審の色が浮かんだままだった。
「もしかしておまえ、彼女の子どもが誰なのか知らないのか?」
その問いに、応太は驚きを隠せない。
「え、子どもがいるの、この人…?」
応太の反応に、伊達は内心で舌打ちした。これでは話が進まない。
「私も知りませんでした…」
アセトンゥもまた、知らないと告げた。彼女の情報収集能力からすれば、これは珍しいことだった。だが、今回のケースでは、彼女の思考は既に別の方向に動いていた。
(どうやらふたりは、硝子がみずきの母親だとは気づいていないようだな)
アイボゥのナレーションが、伊達の頭に直接響く。その言葉に、伊達の思考も追いついた。
(苗字が違うからか…)
写真の硝子と、伊達が共に暮らすみずき。彼らの関係性を示す重要なピースが、ここで初めて示唆されたのだ。
伊達の視界には、AI Insightモードによって、硝子の写真とみずきの顔、そしてアイボゥの持つ情報が提示される。
(硝子は灘海で、みずきは沖浦…)
そして、さらに情報が追加される。
(硝子が沖浦蓮珠の同僚だったことも、まだ報道されてないしな)
目の前の少年は、硝子とみずきの血縁関係に気づいていない。そして世間もまた、硝子が伊達の相棒である沖浦蓮珠の同僚だったことを知らない。