第１４章
その時、応太の背後から、猫耳のようなヘッドセットをつけたピンク色の髪の少女、A-setが姿を現した。彼女はソファの背もたれに手を置き、応太と伊達の会話を伺っているようだった。
「応太ん、なにやってるの？」彼女の声には、わずかな驚きが混じっていた。
応太は、彼女に顔を向け、少し焦ったような表情で答えた。「警視庁の伊達さん」彼は、A-setに伊達を紹介するかのように、伊達の方を指し示した。
A-setは伊達の顔をじっと見つめ、その青い瞳をわずかに見開いた。彼女の表情には、困惑と、ほんの少しの好奇心が入り混じっていた。「えーと、あなたは…」彼女は、伊達の正体が掴めない様子で、言葉を詰まらせた。
応太は、A-setの困惑を察したかのように、伊達の方を振り返り、改めて彼女に説明を始めた。「ゆうべの件で、ぼくに話を聞きに来たんだ」
A-setは、応太の言葉に、ハッと目を見開いた。彼女の猫耳ヘッドセットがぴくっと動き、その表情は一瞬で驚きに変わった。「ってことは、刑事さん！？」彼女の声には、興奮と、わずかな畏敬の念が混じっていた。彼女は、まるで本物のヒーローに会ったかのように、キラキラとした瞳で伊達を見つめた。
伊達は、A-setの反応に、微かに口元を緩めた。彼は、猫耳をつけたアイドルに、自分が刑事であることを紹介されるという状況に、少しばかり面白さを感じているようだった。
A-setは、さらに興奮したように伊達に詰め寄った。「嘘！ 私、本物の刑事さんに会うのって初めて！」彼女の声は、普段のライブパフォーマンスで見せるような、はつらつとした明るさだった。彼女は、目を輝かせ、まるでファンが憧れのアイドルに会ったかのように、伊達を見つめていた。
その時、アイボゥの無機質な合成音声が、ロビーに響き渡った。「伊達、血中のアドレナリン濃度が増加している」
伊達は、アイボゥの言葉に、わずかに眉をひそめた。
アイボゥは、さらに続けた。「どうしたのか…？」
伊達は、改めてA-setに向き直った。「いや、なんでもない…」彼は、アイボゥの指摘を軽く流すように呟いた
「ひとつ確認させてくれ」伊達は、真剣な表情に戻り、A-setに問いかけた。彼の声は、これまでの雑談から一転して、刑事としての冷静さを取り戻していた。
A-setは、姿勢を正し、伊達の言葉を待つように視線を向けた。応太もまた、二人のやり取りに注目している。
伊達は、A-setをまっすぐに見つめ、確認するように尋ねた。「きみがA-setということで間違いないな？」
その問いに、A-setは満面の笑みを浮かべた。彼女のピンク色の髪がわずかに揺れ、猫耳のようなヘッドセットが光を反射する。彼女の表情は、まるで自分が舞台に立っているかのように、自信と輝きに満ちていた。
「ネット界の揮発性溶媒、あせとんこと、A-setです！」彼女は、両手を広げるようなジェスチャーをしながら、明るく朗らかな声で自己紹介をした。
応太は、A-setの自己紹介を聞いて、まるでファンがコールを叫ぶように、興奮した声で彼女の名前を連呼した。「ふとん、すいとん、あせとんちゃん！」
A-setは、応太のコールに、さらに満面の笑みを浮かべた。「ぼっかぼか！」彼女は、まるでそれが当然の反応であるかのように、喜びを表現した。
応太は、さらに勢いをつけて叫んだ。「おとん、プラトン、あせとんちゃん！」
A-setは、嬉しそうに頷いた。彼女の表情は、ファンからのコールに応えるアイドルのそれだった。
応太の興奮は止まらない。「5！」彼は、指を一本立てて、カウントを始めた。
A-setは、応太のカウントに合わせて、さらに笑顔を深めた。「敬おう！」
応太は、さらに大きな声で叫んだ。「500メガトン、あせとんちゃん！」
「伊達、ここは磁場が乱れている」その声には、いつもより若干の緊急性が含まれているようだった。「早急に退散すべきだ」
アイボゥは伊達の無反応に、さらに重ねて忠告した。「伊達、手を」
しかし、伊達は依然としてA-setに視線を向けたままで、アイボゥの言葉に反応しなかった。
アイボゥは、まるで伊達の行動を予測しているかのように、警告を強めた。「伊達、手を出したりするなよ」
「バーカ、誰がこんなクソガキなんか…」
伊達は、小さくため息をつき、すぐに応太に訂正した。「ああ、すまん、応太のことだよ」彼は、A-setを巻き込むつもりはなかったとでも言うかのように、軽く頭を下げた。
A-setは、伊達と応太のやり取りに、少し呆れたような表情を浮かべた。しかし、すぐに持ち前の明るさを取り戻し、伊達に微笑みかけた。彼女は伊達の言葉を冗談だと受け取ったようだった。
A-setは、にこやかに頷いた。「少し前に18歳になりました」彼女の声は、どこか得意げで、大人になったことを誇りに思っているようだった。
「ってことは、高3か」
A-setが「どんな関係って言われても…」と呟いた時、応太が口を開いた。
彼の頬は僅かに紅潮し、得意げな表情を浮かべていた。「女神と召喚獣みたいな関係だよ」
「召喚獣？」目の前の少年が口にする言葉は、あまりにも現実離れしていた。
A-setは、応太の言葉を聞いて、可愛らしい笑い声を上げた。「あはは、でも召喚獣っていうよりは正義のヒーローじゃない？」
応太は、A-setの言葉に、照れたように顔を覆った。「やめてよぉ～、なんか照れちゃうなぁ～」
「あせとんちゃんがピンチになったら」「いつでもどこでも駆けつけて、必ず守ってあげるんだ」その言葉には、A-setへの揺るぎない決意が込められていた。
伊達は、応太の言葉に、わずかに眉をひそめた。「くっ、こいつ…」
伊達は、応太の奇妙な興奮を無視するように、静かに口を開いた。「ああ、そうだ、いいことを教えてやろう」
応太は、伊達の反応に気づかず、あるいは気づかないふりをして、さらに言葉を続けた。
「あーあーあー！！」彼は、まるで舞台のクライマックスを演出するかのように、大声で叫んだ。
「あのTo-Witterの書き込みについてだが…」
その時、伊達の隣に座っていた応太が、A-setを心配そうに見上げた。「わ、わかったよう…」
「応太、今日からおまえは召喚獣…」伊達の言葉は、突然、応太に向けられた。彼の口元には、微かな笑みが浮かんでいた。
応太は、伊達の言葉に驚き、目を丸くした。
伊達は、応太の反応を楽しむかのように、わずかに口元を緩めた。そして、再びA-setに視線を戻し、真剣な表情で問いかけた。「それって、沖浦みずきさんのことですよね？」彼の声には、事件に関する確かな情報が含まれていた。
A-setは、さらに言葉を続けた。「この事務所の社長、沖浦連珠っていうんですけど」彼女は、事務所の奥にある、控えめに光るロゴの方を指し示した。そのロゴは、まるでハートのような形をしていた。「みずきちゃんはその娘さんで…」彼女の言葉は、みずきの家族関係と、この事務所との繋がりを明らかにした。
A-setは、伊達の視線を受け止めながら、話を続けた。「たまにここにも遊びに来ることがあって…」彼女の声には、みずきとの親しい関係性が示唆されていた。
「まぁ、他にもいろいろと理由はあったりするんですけど」A-setは、言葉を選びながら付け加えた。「基本的にはそんな感じです」彼女は、複雑な状況を簡潔にまとめようとしているようだった。
