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紫黒の魔術師  作者: 銀杖
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第1部:紫の瞳と灰色の少年 第2話 灰色の編入生

今回はユウの視点でした。


――編入初日の朝、ユウ・シェリス視点。


朝靄に包まれたアトレイア魔術学園の広大な敷地に、僕は足を踏み入れた。灰色の髪が冷たい朝露にわずかに濡れている。制服の襟元をきっちり締め、背筋を伸ばす。しかし心の奥では、不安と緊張が渦巻いていた。


新しく編入したばかりの僕に、この学園の厳しい現実はすぐに見えた。教室の窓からは強烈な魔術の光が漏れ、登校している他の生徒たちが華やかな魔術談義に興じている。


だけど僕は、その輪の中に入る資格なんてない。


()()()()()


それが、僕の周囲で囁かれている言葉だ。前の学園では派手な魔術が使えず、地味な“共感魔術(レゾナンス)”しか扱えなかった僕は、誰にも期待されていない。派手な攻撃魔術に憧れ、挫折した自分を責める気持ちがあった。


階段の陰から、ちらりと冷たい視線を感じた。すれ違う生徒たちの目は、まるで僕の存在を軽蔑しているかのようだった。


「ここで、僕は何を示せるだろう」


校舎の壁沿いを歩きながら、自問する。僕の力は地味で、誰の役にも立たないかもしれない。けれど、魔術の真髄は必ずしも派手さだけじゃないはずだ。


学園の片隅で、僕は自分の胸をそっと押さえた。


「共感魔術……心の繋がりを紡ぐ力。僕にはそれしかないけど、それを信じたい」


朝の光は優しく差し込み、芝生の緑がまぶしい。そんな中、僕の心は少しずつ落ち着きを取り戻していった。


周りははざわつく声で溢れた。新入りの僕は、声の主役にはなれなかった。むしろ、小さな溜息と共に「あれが…」と呟かれるのが聞こえた。


「僕はここで、変わりたい」


そう思いながら、僕は校舎を抜けて裏庭へ向かった。人気のない静かな場所で、息を整えたかった。


裏庭には朝露に濡れた草花が揺れていた。まだ人影はなく、清々しい空気が漂っている。


ベンチに腰を下ろし、少しだけ目を閉じる。体中に流れる緊張を解きほぐし、深呼吸を繰り返す。


この静かな時間が、僕に少しの勇気をくれた。


そして、ふと目を開けると、ベンチの少し先に一人の少女が座っていた。


黒髪を風になびかせ、深い紫の瞳が遠くを見つめている。


リリス・アークフェイン。学園でも名高いアークフェイン家の令嬢だ。


その姿には、お嬢様らしい優雅さと、隠しきれない強い意志が宿っていた。


僕は鼓動を抑えきれず、思わず小さな声で尋ねていた。


「――あの、隣、いいかな?」


静かな朝の裏庭に、僕の声がそっと響いた。


――ここから、僕の新しい物語が始まる。

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