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退屈な 日々にうんざり してたけど  作者: 弍口 いく
第1章 なんで焦土の真ん中に?
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その8 なんか笑顔がわざとらしくて

 翌朝、目を醒ますと、腰に手を当て呆れ顔のシュアンがみおろしていた。

「なんで一緒に寝てるのよ」

 語気が厳しいシュアンの言葉に、アサギは布団の中に潜り込んだが、

「たくぅ」

 シュアンは容赦なく布団をはぎ取った。


「もう朝食の用意、出来てるわよ、今日はカガミハラを案内するから、早く起きなさい」

 俺たちを急き立てた。そして、

「アンタ、変なことしてないでしょうね」

 と俺に耳打ちした。

「するわけないだろ!」

 疲れ果てていたのが幸い、変な気を起こす前に眠ってしまったのだが……。そんな俺の気も知らないで、アサギは寝起きスッキリした顔でキッチンに向かった。後でちゃんと言っておかなければ、もう俺のベッドに潜り込んじゃダメだって。


 朝食後、俺とアサギは、休暇を取ったシュアンにカガミハラ内を案内してもらった。

 想像していたSFの世界とは違い、シュアンの家がある居住区は普通の住宅街って感じで、元の世界と変わらなかった。

 繁華街にはスーパーやショッピングモールがあり、多くの人々が行きかうありふれた風景。


 シュアンの話によると、この町はマザーコンピューターがある中心部から放射状に造られて、人口の増加とともに今もなお拡大し続けているらしい。昔の城下町ってイメージだろうか、城主はアカネで、きっと何重にも護られていて、一般庶民はお城に近付けないんだと落胆した。


 アサギはずっと居心地悪そうにオドオドしていた。ずっと外部で生活していたので、一度にたくさんの人間を見たのは初めてだったんだろう。人々の話声や喧騒は初体験、様々な音にいちいちビクッとして、そのたび俺の手をギュッと握った。その指先は冷たく、小刻みな震えが伝わった。


「ヒイロは怖くないの? こんなに大勢の人の中にいても」

 アサギは蚊の鳴くような声で言った。

「なにが怖いんだ? みんな同じ人間じゃないか」

 俺は別世界から来たけど、シュアンをはじめ、ここにいる人々は元の世界の人間となんの変わりはない。

「でもみんな別々の人間よ、一人一人違うことを考えてるのよ、それも言葉とは別の」

 言葉とは別のって?


「誰がなにを考えてるかなんてわからないだろ」

 俺は笑ったが、アサギは黙り込んで俯いた。

 え?

 まさか、心が読めるって言うのか?


 顔をあげたアサギはなにも言わなかったが、まっすぐ見る瞳は俺の心の声にこたえて、『そうよ』と言っていた。

 でも、そんなことって……。


「あたしは……ここの人たちと違うのね」

 再び俯くアサギを見て、シュアンは、

「育った環境が違うだけよ、すぐ慣れるわよ」

 と呑気に微笑んだ。

「学校にも通えるし、友達もすぐに出来るわよ」


 そう言って、俺たちが入学する予定の学校へ案内してくれた。



   *   *   *



「アサギと同じ14歳の子供たちが通うFスクールよ、ヒイロは記憶喪失で正確な年齢はわからないけど、知能からするとここが妥当らしいわ」

 本当はもうすく16だから、Eのはずだが、お頭は1ランク下ってわけか。


 校門をくぐると両脇に花はついていないが桜と思われる木々が並び、正面に3階建ての校舎があった。右手には体育館とプールも見えた。俺が通っていた高校と雰囲気は変わらなかった。

 ちょうど昼休みで、俺たちを見かけると、全員がにこやかに挨拶した。それはシュアンの制服が外部調査員のものだったからだろう。昨夜、シドが『危険な任務につく外部調査員は尊敬されてるんだぜ』と自慢してたから。


 一人の男子生徒が駆け寄った。

「こんにちは」

 人懐っこい笑みを浮かべながら俺とアサギを興味津々に見つめた。たぶん美少女アサギのほうに心ひかれたんだろうが、アサギは俺の腕をキュッと握りながら背中に隠れた。

「君たちが噂の外部から来た子なの?」

 男子生徒はかまわず続けた。

「そんな話、誰から聞いたのよ」

 シュアンは困り顔

「噂になってますよ」

 どこの世界も噂が広まるのは早い。


「僕はマキオ・F1602です」

「この子たちはヒイロとアサギ、噂通り、番号が決まり次第この学校に入る予定よ、その時はよろしくね」

「はい!」


 マキオの接近をきっかけに、遠巻きに見ていた他の生徒も続々と近づいて来た。

「外部から来たんですって」

「どんなところなんだ? 危険がいっぱいなんだろ」

「どんな生活してたの?」

 等々…、たちまち取り囲まれて質問攻めにあった。みんな好奇心に瞳を輝かせている、そして揃って爽やかな笑顔で……なんかその笑顔がわざとらしく見えて不快感を覚えた。


「ちょ、ちょっと待ってよ」

 人混みにもみくちゃにされて収拾がつかなくなり、シュアンは慌てた。

「さあ、みんな下がって」

 道を開けてもらおうとしたが、生徒は集まるばかりで行く手をふさがれた。

 その中混乱の中で、

「アサギ?」


 いつの間にか彼女の姿は消えていた。


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