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退屈な 日々にうんざり してたけど  作者: 弍口 いく
第1章 なんで焦土の真ん中に?
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その6 すみずみまで調べられて

 全身がすっぽり包まれるカプセルの中に俺は横たわっていた。

 睡眠ガスを吸わされたようで俺は意識を失っていたようだ。まだ意識がハッキリしない。


 朦朧とした頭では考えがまとまらない。突然、焦土の真ん中に放り出されてから、どのくらい経ったんだろう? 次々遭遇する非日常な出来事に圧倒されて、時間の感覚もなくなっていた。

元の世界はどうなっているんだろう?

 俺が突然いなくなって、大騒ぎになってるんじゃないだろうか?


 誘拐事件になっているか、家出人扱いになっているか? どっちにしても、両親は心配してるだろうな。このまま帰れなかったら姉は喧嘩相手がいなくなって寂しく思うだろうか? 前夜のつまらない口論が最後の会話になってしまうことが心残りだ。


 自分はこれからどうなるんだろう?

 戻る方法はあるのだろうか? 湧き上がる不安に苛まれた。


 シュアンが救難信号で呼んだ飛行物体に乗り込み、俺とアサギはカガミハラに連れて行かれた。

町の端っこに着陸したので全貌はわからない。

 外部から侵入できないように、高い塀と電磁バリアで護られるらしい。


 到着すると、俺たちは厳重に隔離された。

「検査が終わったら会えるから」

 シュアンはそう言って、さっさと行ってしまった。


 残された俺たちはロボットに誘導され検査室へと連れて行かれた。アサギは不安そうにギュッと俺の手を握っていたが、無理やり引き離されて、別々に検査に回された。拒否することも出来ずに、指示に従うしかなかった。

 外部からバクテリアやウイルスを持ち込まないためと聞かされたが、検査の多さから、それだけではないと、おバカな俺でも察しがついた。


 何時間経過したのだろう、得体の知れないガスを吸い込まされた俺はカプセルの中で眠っていたが、目覚めて間もなくカプセルが開いた。

 とたんアサギに抱きつかれた。


「良かったわね、異常なしだって」

 後ろに立っていたシュアンは、パイロットスーツ姿ではなくシンプルな制服に着替えていた。どんな検査をされたのか、異常の基準はわからなかったが、とにかく検査にはパスしたようだ。

「アサギは?」

「彼女も大丈夫よ」

 シュアンの笑みを見て俺はホッとした。


 シュアンの横には小柄な中年男が不自然な笑みを浮かべながら、後ろに手を組み、偉そうに立っていた。七三に分けた髪、眼鏡のレンズを輝かせたザ・インテリっといった雰囲気、ツンと顎を突き出して俺とアサギを見下ろしていた。


 俺はアサギに抱きつかれたままカプセルから出て立ち上がった。

 いつの間に学生服からスウェットの上下に着替えさせられていた。裸にされたってことか? 制服はどこへやったんだろう、返してもらえるのか?


「ロイロ博士、二人の検査を指揮してくれた科学者よ」

 ロイロは眼鏡の下からジロリと俺を見た。

「外部育ちの人間で完全な健康体は珍しい、よほど設備が整ったシェルターで生活していたんだな」

 この感じ悪い男に素っ裸にされて調べられたと思うとゾッとした。アサギは女の子なんだぞ、俺より不快な思いをしてるんじゃないかな。アサギはロイロの視線から逃れるように俺の背中にすっぽり隠れていた。


「快適な生活空間だったようで、最初はある程度の人間が住むコミュニティだったらしいです。古い書物も残っていて、戦前の貴重な資料だと思ったのですが、残念ながら昆虫の群れに襲われてしまいました。詳細な報告書はのちほど改めて提出します」

「二人はその書物を読んだのかな?」

 俺は大きく首を横に振った。アサギは俺の背中に顔をうずめたままだ。

「ヒイロはそのシェルター育ちではないようなんです。なぜか記憶を失くしているみたいで、どこから来たのかは不明です」

 博士は訝しげな目を向けた。


「外部にはどのくらいの人間が生息しているのだろう」

「調査中ですが、あちこちにコミュニティがあるようです」

「それらの生態を知りたいな」

 生態って、まるで実験動物みたいな言い方に不快感を覚えた。マッドサイエンティストに囚われたような恐怖に身の毛がよだった。


「君たちには、また後日、話を聞かせてもらおう、これからも研究に協力してもらわなければならないしな」

「研究って?」

 ロイロは答えず、ただなにかを含んだ笑みを浮かべた。

「今日のところはこれで」

 そして背を向け、部屋から出て行った。


 不気味な笑みが背筋に悪寒を残した。


「ロイロ・A0105、あの人はお偉いさんなのよ、Aからはじまる番号は24年前、カガミハラで最初に生まれた人間よ、その後、2年ごとに生まれてBは22歳、Cは20歳、Dのあたしは18歳ってぐあいに年齢がわかるのよ」

「あの人、24歳なのか? もっと老けて見えるけど」

 40くらいの中年に見えたし。

「本人に言っちゃダメよ」

「だろうな、プライド高そうだから」

 自分は特別で、天才だと自負しているタイプなのだろう。


「博士は突然変異ミュータントの研究をしているのよ」

 ミュータントって、エックスメンみたいなののことか?

「巨大化した昆虫を見たでしょ、っていってもあたしたちが生まれた時にはすでに大きかったからわからないかしら」

 あれの原型は恐らく知っているゴキブリだ、とも言えずに口ごもった。


「元は小さな昆虫だったらしいのよ、世界が焼き尽くされたとき、奇跡的に生き残った個体が突然変異してあんなになったらしいのよ」

 突然変異ってそういうことなのか? じゃあ、

「巨大化した人間もいるのか?」

「今のところ発見されてないけど、外部にはいるかもね」

 そんな漫画があったなぁと思い出してゾッとした。


「っていうのは冗談で、人間の場合は体質よ、過酷な環境で生活できることが異常だから」

「でも、俺たちは異常なしって」

「そうなのよ、だから博士は解明しようとしているの、要因は脳にあるんじゃないかと考えているのよ」

「脳って……」


「人間の脳って、まだ解明されていないことばかりだそうよ、人間は脳のすべてを使っているわけじゃないのよ、でも、もし100%使うことが出来たらどうなるか」

「それがミュータント?」

 やっぱりSFの世界だ。

 この世界ではそれが現実になっているのか?

「ロイロ博士はそれを解明しようとしているのよ」

「どうやって?」

「心配しないで、頭を開いて脳を切り刻んだりしないから」


 シュアンは笑ったが、俺は不安が拭いきれなかった。ロイロの薄気味悪い笑みには悪意が潜んでいたと感じる。もしかしたら、自分が普通じゃない――この世界の人間ではない――と気付いたのかも知れない。

 でもそれなら異常なしとは言わないだろうし……。

 いやいや、油断させて、なにか企んでいるのかも。


 不安が恐怖に変わり身体が震えた。

 あのまま外部にいても、巨大昆虫や謎のダストは危険だし、人間がたくさんいる場所のほうが安全だと思ったんだけど、ここも安全だとは思えなくなった。


 アサギが俺の気持ちを察したのか、手をギュッと握った。彼女も同じように不安なのだろう。

 でも、あれこれ考えたってどうにもならなし。

 それより今は、


 ギュルルル。


 なにか食べたい。


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