その3 銀色の髪の少女
急に車の前に現れたのは、銀色の長い髪をきらめかせた美少女だった。しかし顔立ちは俺と同じ日本人なのが、ちょっとチグハグな印象だ。
俺より少し年下かな?
吸い込まれそうなアイスブルーの瞳は俺を映していた。見つめられるとドキドキしてしまう綺麗な瞳から目を逸らせない。
そんな俺をよそに、シュアンは再び銃を手にした。
車内からじゃ声が聞こえないのでわからないが、少女は地面を指さしてなにかを訴えているようだった。しかし、窓からの見える範囲には地面意外になにもない。
シュアンは警戒しながらドアを開け、銃口を向けながら外に出た。こんな少女にも銃を向けるなんて容赦なしか。
「なんのつもりだ!」
シュアンの威圧的な言葉に少女は答えず、後部座席に回り、突然、ドアを開けた。
ロックはかかってなかったのか?
「動くな! 撃つぞ!」
シュアンの叫びを無視して、少女は無言で俺の手をつかみ、座席から引っ張り出した。俺はなされるがまま、
「わあっ」
あえなく地面に転がり落ちた。
次の瞬間、
ドドッ!
轟音が響いたかと思うと、車体が空中に吹っ飛んだ。
「えっ?」
なにが起きたかわからず愕然としている俺の目の前に、地面から円筒状にダストが噴き出していた。さっきダストは引き離したんじゃなかったのか? いや、さっき俺を追いかけてきたものとは形状が違うようだが、あちこちにいろんな形で出現するのか? 地表を揺らしながら飛び出したダストの勢いで砂や小石が飛び散り、俺は直撃を受けた。
「痛っ!」
その上、弾かれて上空を舞った車体が落下してくる。
「えええっっ!」
地面に座り込んだまま、上空から迫る車体を見上げてただ狼狽えている俺の腕を銀髪の少女が掴んで強引に立たせた。女の子とは思えない強い力で俺は引きずられるようにその場から移動させられた。
ガシャン!
間一髪、車が地面に激突した。
あのまま腰を抜かしていたら……ゾクッ!
運転手のロボットは可哀そうだが車体と共にスクラップになっただろう。俺も下敷きになるところだったと思うと背筋が凍り付いた。
銀髪の少女はこうなるとわかって助けてくれたのか? などと、考えている暇はなかった。ダストはまだ勢いよく噴き出している。
少女はすでに駆け出していた。
「あたしたちも逃げるわよ!」
シュアンは少女の後に続き、俺も訳がわからないまま慌てて走り出した。
速い……。
俊足の俺が追いつけない。
シュアンの足元は靴底から空気が噴射し、ホバーボードみたいに浮きながら移動している。ずるい! 走ってないじゃん!
一方、先頭の少女は……、裸足?
焦土から、瓦礫が散乱している廃墟の中に逃げ込んだが、裸足で大丈夫なのか? でも人の心配している場合じゃない、ダストが迫ってるんだ。振り向く余裕はないが、命の危険を背中にヒシヒシと感じた。
廃屋の陰に入ったところで少女が足を止めた。
続く動作でマンホールの蓋を開けた。
チラッと振り返って目で合図すると、その中に入った。
シュアンと俺も迷わず続いた。
下水道は鼻がもげそうな悪臭が充満していた。
ホバーボードみたいな靴で体力を使ってないシュアンは少し不快な顔をしているだけだが、全力疾走した俺は悪臭を大量に吸い込んで、ゲロしそうになりながらヨロヨロと二人の後を追った。
あのダストがいつどこから飛び出してくるかわからない恐怖に怯えながら、俺は酸欠で苦しい上、ガクガクの足を引きずるように歩き続けた。
なんでこんな目に遭わなきゃならないだよ! 冒険と言うには過酷過ぎやしないか? 考える間もなくただ巻き込まれてるなんて!
横道に入ると、狭い階段がさらに地下へと続いていた。
階段を降りきると、奥に表面が錆びた鉄の扉があった。
ギギィと音を立てながら、少女が扉を開けるとまた頑丈そうな扉があった。
次の扉を開けると、その奥には部屋があった。
入口こそ狭かったが、奥の部屋はけっこう広かった。
マンションの一室のようなリビングダイニングは20畳以上あるだろう、元の世界と同じ普通の住宅内に見えた。ドアが3つあったのでその奥にも部屋があるのだろう。
「ここはシェルターなの?」
入室したシュアンは目を丸くしながら見渡した。
「すごい!」
シュアンは本棚を見つけて駆け寄った。
「戦前の書籍じゃないの!」
手に取りながら目を輝かせた。
「よく残ってたわね、貴重なモノだわ」
子供のようにはしゃぎながら見ていると、奥のドアが一つ開いた。
「聞きなれない声がすると思ったら、お客さんなの? 珍しい」
腰の曲がった老婆が現れた。