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退屈な 日々にうんざり してたけど  作者: 弍口 いく
第1章 なんで焦土の真ん中に?
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その2 砂煙に追いかけられて

 雑草一本生えていない、焼けて黒ずんだ大地が広がっていた。

 点在する無残に破壊された建物の残骸に太陽がジリジリと照り付けている。

 そんな場所に俺はポツンと立っていた。


 肌を刺す強烈な陽光、じっとしていても汗がじわじわ滲んでくる。

 あの瞬間、俺は異世界に転移してしまったのか?

 これが……異世界?

 なんだよ! どうせならもっと優雅な世界に来たかった、中世の城風とか、緑に囲まれたメルヘンチックな森の中とか、はたまた近未来的なSFの世界とか……、なんでこんな殺伐としたとこなんだよ!


 などと悠長に考えている暇はなかった。

 モウモウと立ち昇る砂埃がこちらへ向かってくるのが見えた。竜巻か? こんな快晴の日に? それがなんなのかわからないが、得体の知れない恐怖に鳥肌が立ち、逃げなきゃ! と、走り出した。


 もし召喚されたのなら、勇者になって魔剣なんかを授かって、得体の知れないモノだって、一振りで消し去ってしまえるパターンじゃないのか?

 なのに、なんで、ただ必死で逃げてるんだ?


 砂埃は確実に接近している。

 避難できる場所はないかと視線を巡らせたが見つからない。

 く、苦しい、も……もう走れない。

 追いつかれる。

 飲み込まれる。

 体力の限界と同時に絶望感が押し寄せた。


 その時、どこからか現れた美しい流線型の車が、息も絶え絶え走っている俺に並走した。

 車といってもタイヤはついてないし未知の乗り物だったが、後部ドアがスライドして開いたのが目の端に入り、迷わず飛び込んだ。


 直後、その乗り物はスピードを上げ、砂埃との距離をたちまち広げた。

 俺は遠ざかる砂埃に振り返りながらホッと息をついた、ひとまず命拾いしたようだ。膝がガクガクしている、転ばずに飛び乗れたのは奇跡だった。


「助かったぁ、ありが……」

 お礼を言おうと向き直った俺は言葉を飲み込んだ。目の前に銃口を突き付けられたからだ。


 俺に銃を向けている人物はフィットしたパイロットスーツがプロポーションの良さを際立たせる美女だった。ウエーブのかかった髪、勝気そうな瞳が印象的で、俺より少し年上、17、8歳だろうか? 日本人に見える。

 運転席の人物は、うしろ姿なので確信はなかったが人間ではない、妙な頭の形から想像するとロボットみたいだ。


 銃といっても日本の警官が持っているような拳銃ではなく、レーザーガンって感じだ。ここは俺がいた世界より科学が進歩しているSFチックな世界なんだろうか? それなら焦土の向こうにはきっと超近代的な都市があるんだ。

 で、この人は俺を助けてくれたんじゃなかったのか?


「お前、何者だ?」

 お前呼ばわりかい。

 威圧的だが弾むような明るい声、敵意というより好奇心いっぱいのまなざしは、子供のように煌めいていたが、手にしているのは本物の銃に違いない。

 何者と聞かれてもどう答えたらいいものか、自分が置かれている状況を把握していない俺は即答できなかった。


 よほど情けない顔をしていたのか、実際泣きたい気分だけど、俺の困惑に気付いた美女は溜息をもらしながら銃口を下げた。

「あんなところを走ってる人間なんて怪しい奴に決まってる、この辺りは無法地帯、危険な野盗だらけだから……、わかってたんだけど、あんまり必死で逃げてたから、つい」

 助けたのは失敗だったと言わんばかりに口をすぼめた。


「野盗じゃなさそうだけど」

 俺は普通の高校生です、と言いかけたがやめた。この世界に高校があるかわからなかったし……。

「あたしはシュアン・D5004、カガミハラから来たのよ、お前、名前は? 言葉はわかるよね」

 言葉は理解できる、というより日本語だった。カガミハラとは地名なのだろうことも想像できた。

「俺はせき陽彩ひいろ

「セキヒイロ?」


 勘違いされたようなので言い直した。

「名前は陽彩、名字が関だよ」

「名字があるのか、外部では番号がないのね、で、どこから来たの? あんなところでなにしてたの?」

 矢継ぎ早に質問されても困る。


 口ごもった俺を、シュアンは改めて訝しげに観察した。

「近くにシェルターがあるの?」

「シェルター?」

「一人じゃないでしょ? 他にも生き残りがいるんでしょ?」

「……わからないんだ、気がついたらあそこにいて」

 ここがどういう世界なのかわからない、別の世界から来たなんて、彼女に打ち明けていいものかわからない。

「記憶がないってこと? 頭でも打った?」

 そう! それだ! それで通そうと飛びついた。


「そうかも知れない」

 俺はわざとらしく頭を抱えた。

「なにもわからないんだ、名前以外なにも思い出せなくて……」

 とりあえず今はそういうことにしておこう。

「困ったわねぇ」

 俺も困ってる。


「この辺りはダストも発生するのよ」

 あの砂埃のことか?

「ダストって、なに?」

「正体はまだ解明されていないの、12~3年前から頻繁に出没するようになったらしいわ。アレに飲み込まれたら廃人になっちゃうし、放り出すのも酷だわね」

「……」

 直感に従い逃げて正解だった。

 とりあえず保護してもらえそうだ。


 車窓から、果てしなく続く焦土を見て、これは戦争の爪痕だろうと思った。自然災害には見えない、人工的に破壊されたものだ。どんな兵器を使ったのかはわからないが、文明の破壊だけでなく生態系も崩して、あんな得体の知れない現象を生み出したのか?

 人々の生活はどうなってるんだろう?


 とにかくここは別の世界、俺が今まで暮らしていた世界の常識は通用しない、俺はどこへ連れていかれるのだろう、シュアンは悪人には見えないが、彼女たちが住むカガミハラに行ってアレコレ調べられれば、俺がこの世界の人間じゃないことがバレてしまうかも知れない。そうなったら俺はどんな扱いをうけるんだろう、不安に押しつぶされそうだ。


 その時、急ブレーキがかけられた。


「わあっ!」

 急停車につんのめって、前のシートに顔を突っ込みそうになった。

 今度はなんだ?!

 顔を上げると、フロントガラスの向こうに女の子が立っていた。


 銀色の長い髪が太陽の光に反射して輝いている。真っ直ぐこちらを見つめる瞳は透き通るようなアイスブルー、陶器のような白い肌に整った顔立ちの美しい少女だった。

 紺色のノースリーブのシンプルなワンピースの裾が微風に靡いていた。


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