その1 なんか面白いことないかなぁと思ってはいたけれど
見渡す限り焦土が広がっていた。
焼けて黒ずみひび割れた地面は雑草一本生えることを許さない。無残に破壊された建物の残骸が点在し、それらに太陽がジリジリと照り付けている。俺はそんな場所にポツンと立っていた。
これは夢? にしては生々しすぎる。
もしかして流行りの異世界転生なのか?
いいや、鏡がないから確認はできないけど、学生服のままだだし姿は元の自分だ。記憶もはっきりしている。
じゃあ、召喚されたのか?
さっきまで学校へ向かう見慣れた道路を歩いていた。それが一瞬にして得体の知れない場所に移動したのだ。突っ立っているだけで汗がじわじわ滲んでくる肌を刺す太陽光の下で、俺はただただ困惑していた。
えっとぉ……。
どこにも人影はない、それどころか生き物の気配すら皆無。
いつまでもここに突っ立てるわけにもいかないよな、かと言って……どうしたらいいんだ? 頭真っ白で回らない。
しかし、悠長にしている暇はなかった。
向こうにモウモウと砂埃が立ち昇っているのが見えた。
砂埃を立てているモノの正体はわからないが、漠然とした恐怖が押し寄せ、汗は冷や汗に変わった。
このままだと飲み込まれる。
とりあえず逃げなきゃ!
俺は当てもなく走り出した。
* * *
俺、こと関陽彩、は15歳の普通の男子、この春、めでたく高校に入学したばかりだ。
高校生になれば今までとは違う新しい世界がひらけると期待していた。毎日、スキップしながら登校したくなるような、変化にとんだ日々が送れると思っていたのだが、実際は、特になにもない平凡な毎日が淡々と続くばかりだった。
俺は求めていた。
なんか面白いことないかな~って。
可愛いクラスメートと出会って恋に落ちる。でも彼女を狙うライバルが次々と現れてトラブルに巻き込まれるけど、それが彼女との絆を深めて……なーんて少女マンガみたいな夢物語を空想するのは2コ上の姉貴の影響だろう、少女マンガは家に山ほどあるし。でもさ、ヒーローはたいてい身長180センチ越えのイケメンに決まってる、そんな奴、普通の高校生でそうそういるもんじゃないのにさ。
それはともかく、現実はそんなロマンチックなことが起きるわけもなく、家と学校を往復するだけの日々、いいかげん飽き飽きしていた。
……が、
まさか、こんな目に遭うなんて!
俺はいつものように眠い目を擦りながら学校へ向かっていた。
「おはよーっす!」
追いつきざま、背中を思いっきり叩きながら声をかけたのは、幼稚園、小学、中学、高校までもずっと一緒の幼馴染、加賀見成司だった。
「朝からテンション高すぎ……」
俺はよろめきながら溜め息を漏らした。
「お前が低すぎるんだよ? つまんなそうな顔してさ」
「実際、つまんないから」
「なんにもしないで帰宅部やってるからだよ、なんでバスケ部入らないんだ? もう怪我は完治してるんだろ」
こいつは……なんで朝から触れられたくない話するんだよ、今日一日ブルー決定だ。
小2のミニバスから中学までバスケットをやっていた。165センチのバスケ選手としては恵まれない身長だが、持ち前の運動神経と反射神経の良さで、スピードだけは負けなかった。俺は頑張った、誰よりも多く、死ぬほど練習した。
でも……。
中学生活最後の試合、リバウンドで巨体選手に吹っ飛ばされて負傷した。たいした怪我ではなかったが、折れたのは心のほうだった。
努力では埋められないモノがあると思い知らされた。
俺は恨めしそうに成司を見上げた。一緒にミニバスをはじめた時は俺のほうが大きかったのに、いつの間にかグングン伸びて差をつけられた。プレーでは負けないように頑張ったが、身長だけはどうしょうもない、現在180センチ、そしてまだ伸び続けている。高校でもバスケ部に入部、すぐにレギュラー入りした。
あ……いたじゃないか、少女マンガの王子様が、性格は雑だけどなかなかのイケメンだし。俺だってブサイクじゃない、と自分では思ってるけど、成司の横にいると霞むのは否めない。
「お前、朝練は?」
「あ……寝坊しちゃって」
頭を掻きながら苦笑いする成司。そう言えば中学時代もよく寝坊で朝練サボッてたっけ。それでもコイツはレギュラーから外されたことはなかった。ちなみに俺は一度も練習を休んだことはない。ちょっとでもサボればすぐレギュラーから外されるギリギリのラインにいたからだ。その甲斐あって、リバウンドで吹っ飛ばされるまではレギュラーの座を守り抜いた。
進学した高校はバスケの強豪、俺の実力ではどんなに努力してもレギュラーどころかベンチ入りも可能性は低い。万年補欠で我慢できる性格じゃないのはわかっていたので、怪我を口実に入部を見送った。
そんな訳で、いままで練習に費やしていた時間をどう過ごしていいかわからないから暇を持て余して退屈なんだ。目標を失ったから面白くないとわかっていたのだが……。
成司のせいでそんなことを思い出してブルーになった時、柴犬ユズの散歩をしている大河内咲良さんが前方に見えた。
大河内家と関家は隣同士で家族ぐるみの付き合いがある。咲良さんは美人なのになぜか婚期を逃して独身のまま定年を迎えた初老の婦人、今は高齢のお母さんの介護をしている。
いつも身なりはきちっとしていて、実年齢よりかなり若く見えるので、俺にとってはいつまでも優しいお姉さんだった。ユズも子犬の時からの馴染みなのでよく懐いていて、俺に気付くと迷わず突進してきた。
「ダメよ、ユズ!」
止めようとする咲良さんを引っ張るユズのテンションはマックス、尻尾をフリフリ俺の足に飛びついた。
「元気だなぁ、お前も」
いつものように頭を撫でてやると、その手をペロペロと舐めた。
「汚れちゃったわね、ごめんなさい」
咲良さんはユズが足をかけた制服のズボンを気にした。
「大丈夫ですよ、このくらい」
それより舐められた手のよだれが気になるし。
「おはよう、これから学校なのね」
「あ、おはようございます」
「ユズ、お兄ちゃんはこれから学校だから、帰ったら遊んでもらいましょうね」
と言ったが、ユズの興味はすでに塀の上を歩いている茶トラの猫に移っていて、尻尾を振りながら吠えかけていた。よく見かける野良猫だ、いや、どこかの飼い猫かも知れない。
突然、茶トラの猫はこともあろうに俺の頭に飛び移った。
「わあっ!」
不意の攻撃に怯んだ俺はよろめいて、後ろから来たベビーカーにぶつかりそうになった。持ち前の反射神経でうまく避けられたと思ったが、少し接触してしまったようだ。
「すみません! 大丈夫ですか」
「ええ、大丈夫ですよ」
ベビーカーを押すお母さんの言葉を聞いてホッとした。倒していたら大変なことになっていた。
それにしても!
「お前えぇっ!」
俺は茶トラを下ろそうと頭に手を伸ばした。
ユズは容赦なく再び俺の足に飛びつく。
バランスを崩した俺は茶トラを頭にのせたまま、今度こそ尻餅をつく羽目になってしまった。
次の瞬間。
突如、巨大な光が出現した。
目を開けていられない眩い光。
なにが起きたのかはわからなかったが、たまらず目を閉じた。
すると身体がフワリと浮いたような感覚に襲われ、地に足がついていない恐怖、不安が混じり合った。
そして次に重力を感じた時、俺は焦土の中に立っていた。
読んでいただきありがとうございます。
まだまだ続きますのでよろしくお願いします。