12.黒の死神は穏やかに眠る
程なくして、誰かが通報したらしい警察がサイレンを鳴らしながら到着した。
だが、到着時点で既に解決していた亜人事件に、現行した警察達は愕然とする。
たまたま都立高校で亜人事件──凶悪犯による事件が発生し、たまたまその高校に保安局員が三名も通っていて、たまたま早期解決が可能だった。なんて……誰だって一度は耳を疑うような話だ。
疑心暗鬼となった警察からの事情聴取を受け、身分証明のために保安局員の局員証を提示するなどし、累達は話した事が全て真実である証明をした。
その結界、校内の被害に関してはお咎めなしとの判断を下された。
やがて、警察と累達は揃って頭を抱える事になる。
──この正体不明の凶悪犯、どうしようか……と。
顔写真や髪の毛等を確保し警察のデータベースにて個人の特定を行ってくれるよう、累が話をつけた時。
タイヤの音を響かせて、一台の黒い国産車が学校の前にてダイナミックに停車した。
その扉をバンッ、と開け放って現れたのは、スーツを身に纏う筋骨隆々な男。片手でスマホを操作し、誰かに電話をかけつつ男は車の扉を閉める。
群衆の間を縫って校門まで一直線に歩いて行き、男は懐から局員証を出しながら警察に声をかけた。
そして、迷わず警察と事後処理について話し合う累達の元に向かい、
「その様子だと無事片付いたようだな」
「篤さん!」
「アツシ!」
自分の部下達に声をかけた。事件解決の立役者たる若者三人の上司の登場に、警察は慌てて敬礼する。
「もしや、彼らが先程言っていた特殊部隊の……」
「ああ、俺がこいつらの上司だ」
「やはり! お疲れ様です!!」
「ハイハイ。で、累……例の凶悪犯について分かってる事を話せ」
警察を軽くあしらい、篤は累に視線を送った。累とアリスより明らかになっている情報を全て聞き、篤は通話相手に話を振った。
「──って、事らしいが……該当しそうな記録はあるか、真昼?」
《うーん……三件ぐらいあるんだけど、そのうち一つは既に凶悪犯が死亡してる件のはずだから、該当しそうなのは二件。変幻自在な能力なら、多分こっちの……ええと、二年前から東京の各地でたまに起きてる裏稼業連続殺人の犯人だと、わたしは思う》
「そうか。じゃあその線でこの凶悪犯について洗い直すから、色々準備しとけ」
通話越しに聞こえてくる幼い少女の声に、警察があんぐりと口を開ける。
《はーい! あっ、累くんとアリスくん! お兄ちゃんは無事? 怪我とかしてない?》
「大丈夫やで真昼ちゃん。今はぐーすか眠ってはるよ」
《そっか。お兄ちゃんの事、ちゃんと連れて帰ってきてね》
「任せろマス、ワタシが責任取って連れ帰るデスネ」
そうして、通話は終了した。こんな状況だからこそ学校は臨時休校。警察が校内の安全を確保した後、生徒達は荷物を取りに戻って帰宅するよう指示された。
そんななか、京夜達は一足先に帰宅する事に。保安局として凶悪犯の身柄を預かり、全員で篤の車に乗り込んで保安局へと向かったのだ。
ちなみに、凶悪犯は累の妖術によって完全制圧された状態で、トランクに適当に詰め込まれた。
「累、京夜は何枚ぐらいタブレットを食ったんだ?」
「ええと……元々五枚ぐらいストックがあった筈やねんけど、三枚になっとるから……」
京夜の鞄を漁りながら、助手席の累が見たままに報告すると、
「二枚か、まあまあ食ったな。それだけあの凶悪犯が強力だったって事か」
車を運転しながら、篤は小さくため息を一つ。
タブレットと言うのは、京夜が途中で食べた板チョコのような見た目のものであり……その正体は何人もの人間の血を混ぜてそのまま固めた、その名も輸血タブレット。
しょっちゅう貧血になる京夜のために保安局の技術班と医療班が共同で作り上げた、長期保存の効くタブレットである。
最初は輸血パックやペットボトルだったのだが、鮮度維持が難題という事で。いっその事チョコのように固めてしまえばいい! と誰かが言ったのを皮切りに、開発が進められた独自の技術で実現させたのが、あの輸血タブレットなのだ。