エピローグ
*****
あの後、高鳥が作った天使領域が完全に消滅すると、僕とナナセは元いた校舎の屋上に帰ってくることができた。
ナナセは元気になったと思ってたけど、実は相当弱っていたらしく、自分で立つことすらできなかった。そこに飛ぶような勢いで閏間さんがやってきて、僕の身体に異常がないことを確認すると即座にナナセを拉致してどこかに行こうとしていた。
「ナナちゃんには治療が必要」
「うん。だから、僕もついて行くよ」
「その必要はない」
そんな不毛なやりとりを繰り返していたところ、治療はナナセの自宅で行うと閏間さんが宣言しだした。そしたらナナセも同行を拒否しだして、結局僕は行けなくなった。
せめて連絡先を教えてほしいとお願いしたら、ナナセがぎゃあぎゃあと騒いだものの、閏間さんはあっさりメッセージアプリのIDを教えてくれた。
*****
その後は学校に戻る気にもなれず、ヒナノを探してあてもなく彷徨ってみた。すると知らない番号から電話がかかってきて、つまりそれがヒナノからの連絡だった。
『ヨミせんぱい? 生きてたんですね』
「うん。助かったよ、ありがとう」
『でしょー』
「あれってどうやったの? 急にクロノゾールが出てきたけど」
『あ、知らないんでしたっけ。クロノゾールには自機を転送する能力があるんですよ』
「転送だったんだ……。てっきり瞬間移動かと思ってた」
『まー似たようなものですね。天使領域のせいで転送先の空間を直接定義できなかったので、せんぱいのスマホを使わせてもらいました』
「それってスマホでできるの?」
『音が鳴るという現象と、それが起きる時間を指定して、それが起きる場所を無理やり定義したんです。まあ、厳密にはあたしが頑張って書いた転送コードがあるんですけど、どーせヨミせんぱいに言ってもわかんないですし』
「いろいろ手を尽くしてくれたのはわかったよ」
『わかればいいんです。ところで、あの通話あったじゃないですか』
「閏間さんの?」
『そーです。あのときのリアせんぱいを見せてあげたかった……。カオはぜんぜん無表情なんですけど、すっごい焦ってて。意味不明な通話になっちゃって、ずっとあわあわしてて。あの人、めっちゃ可愛くないですか?』
「……わかる。可愛いよね」
『ね! ちょっと好きになっちゃいました。なんて、そんな話をしてる場合じゃないんですよ』
「え、なに?」
『クロノゾールが完全に破壊されちゃったんで、今全力でアリバイを作ってるんです。多分バレたらやばい……すみません。時間ないので、また話しましょう!』
電話はそこで途切れた。
なんだか悪いことをしてしまったかもしれない。次に会ったときは、いろんな漫画を貸してあげよう。
*****
その翌日。
六月二十日、火曜日。
違和感があった。廊下側最後尾のナナセの席がなかったし、誰も彼女の話をしていない。隣の窓際の席、高鳥が座っていた場所は空席のままいつまでも放置されてるのに。
もしかして、また殺されてリセットされたとか……?
心配になって閏間さんにメッセージを送ってみると、すぐに返事が返ってきた。
『ナナちゃんなら無事』
『安心して』
その後げっそりしたゆるキャラのスタンプが送られてきた。それ大丈夫じゃないときに使うやつなんだけど、本当に大丈夫なんだろうか。
『今日学校来るんだよね?』
返信すると、すぐに既読が付く。
『天界から存在を特定されにくくなるように霊的性質を書き換えた。その際に情報的な繋がりも一度消す必要が』
中途半端なところでメッセージが送られてきた。かと思えば、
『後で話す』
と説明を投げられてしまった。
「今日さ、転校生来るらしいよ」
「え、そうなの?」
「ほら、あの席。あそこに座るんだって」
たまたま、そんな会話が聞こえてきた。『あの席』とは、僕の隣の、窓際の空席のことだ。
チャイムが鳴り始めるかどうかというタイミングで、閏間さんは音もなく早歩きで教室に滑り込み着席した。なんだか疲れ切った顔をしていたように見えたのは気のせいだろうか。
「はーい皆さんおはようございます~」
そしてチャイムが鳴り、担任の中田が入ってきていつもの朝の挨拶を済ませる。生徒たちが着席した後、中田はおもむろにそのことについて喋りだした。
「今日から転校生が一名、クラスの仲間に加わります。舞羽さん、入ってきてください」
はい、と聞きなれた声が扉の向こうから聞こえてくる。
扉を開けて転校生が入ってきた。
髪は銀色で、柔らかそうなロングヘア。顔立ちはこれ以上ないくらい整っていて、瞳はきらきらと輝く金色。セーラー服を着た身体は華奢で、スカートから伸びる脚は白くてほっそりしている。
その転校生は、頭頂部のアホ毛をぴょこぴょこさせて歩いていた。彼女はチョークを手に取って黒板に自分の名前を書くと、ふわふわの銀髪を揺らして振り向く。
教室はしんと静まり返って、彼女の言葉を待っていた。窓の外は晴れ渡り、柔らかな光が差し込んでいる。その少女は、朝の光を受けてきらきらと輝きながら、天使のように微笑んだ。
そして、こんな自己紹介をした。
「舞羽ナナセです。ヨミの恋人です。よろしくお願いいたします」
ここまでお付き合いいただいた読者の皆様、誠にありがとうございます!!
少しでも楽しんでいただけたなら作者冥利に尽きます。
(なお本日9時ごろにおまけのイラストを追加予定です)
さて、「舞羽エンジェループ」はこれにて終了となりますが、既に次弾は準備中です。
次はバリエーション豊かなメカが登場するロボバトルものになります!
今後もお付き合いいただけるという方は、そちらにもご期待いただけますと幸いです。
最後にお願いとなってしまって申し訳ないですが、是非いいねや評価などいただけるととても嬉しいです!!
これからもこんな感じで色々な作品を制作していきたいと思いますので、今後とも何卒宜しくお願い致します!