「これが戦いの風よ」、完全思考同期型装甲巨兵(ドレス)、聖女機、”ホーリーメイデン・オリジン”撲殺。
さて、ラルーアとピジョンブラッド。
どちらが聖女にふさわしいのか。
「大変だあ」
過去に何人も聖女を出したことがある歴史ある”ティーベ修道院”。
ファイハット王都から遠く離れた辺境地に立っている。
ある日、村人が大慌てで飛び込んできた。
「バグズが、村の裏山の向こうにっ」
「バグズが出たんだあ」
◆
”バグズ”
惑星マナの原住生物である甲殻生物(カニやエビの仲間?)。
大きさは牛くらいから子犬くらいまで。
小さな腰に六本の蟹のような足。
大きなあぎとを持つ三角形の頭を持つ。
群れで行動し人を襲う。
◆
小さな村なら全滅もありうる、危険生物だ。
ざわ
修道女たちがざわめく。
「コンス修道長」
一人の修道女が呼んだ。
「わかりました、そちらに向かいましょう」
四十代半ばの修道長、コンスが言った。
「聖女、ラルーアと、シスターアコ、シスターコズーネに出撃準備をさせなさい」
「「はいっ」」
「お願いします」
村人が深く頭を下げた。
ゴゴゴゴゴ
チチチチ
近くの森から鳥が飛び立つ。
「チャーチ級装甲移動建築物、”ティーベ修道院”出力全開」
「浮上」
コンス修道長が指示をする。
「「はいっ」」
ブリッジで複数の修道女が答えた。
村の外れに立つ、”ティーベ修道院”が白い煙を出しながら、空に飛び上がった。
この世界の建物は大抵飛ぶ。
向かうは村の裏山である。
◆
「聖女、ラルーア」
「あら、元聖女ですわ、シスターアコ」
ファーストビル教原理派の聖女、”ピジョンブラッド”に聖女の選考で破れている。
でも、原理派の聖女機、”ホワイトメイデン”は何か嫌な感じがするのですけど。
背中に翼が生えた機体だ。
静かな聖堂。
膝をついて、静かに祈りを捧げる姿は、一枚の宗教画のようである。
彼女たちの後ろには、三体の装甲巨兵。
うち二体は、ファーストビル教に標準装備された、
半思考同期型巨兵、”ソーヘイ”
修道院に配備されているため、顔と胸部装甲が女性型、”乙型”である。
二機の真ん中にあるのは、
小柄な女性型、完全思考同期型装甲巨兵”ホーリーメイデン・オリジン”
祈りを捧げるような形で駐機している。
三人が巨兵に乗り込んだ。
パチパチ
二機の”ソーヘイ”は沢山のスイッチやツマミを押し、上向きに空いた大きめの胸部装甲を手動で下げる。
聖女機は、椅子だけしかないシンプルな操縦席に、
「思考同期、”ホーリーメイデン・オリジン”起動」
つつましやかな胸部装甲が下から上に音も無く閉じた。
◆
ブー、ブー
「目標上空、出撃準備」
格納庫に赤いランプが回る。
床の一部がスライドして開いた。
ビュオオオオ
風が入ってきた。
ガチガチガチ
キシャアア
眼下はバグズで一杯だ。
「巨大照明灯で怯ませますっ」
「降下準備をっ」
「「「了解」」」
「照射っ」
まばゆいライトでバグズを怯ませた。
「降下っ」
巨兵三機が、修道院から飛び降りる。
”ソーヘイ”は盾にメイス。
”ホーリーメイデン・オリジン”は両手に重力制御された、巨大なモーニングスター二本。
両手首に、重力制御用の光のリングが光った。
「うふふふうう、さあっっ、撲殺の時間ですわよおおお」
元聖女、ラルーアが叫んだ。
「うらああああ」
シスターアコと、シスターコズーネも続く。
「シスターアコ、クラツカーですわああ」
「これこそ戦いの風ですわよおお」
両手のモーニングスターを振り回す。
しばらくした後、バグズが殲滅された。
ちなみに、バグズは食べるととてもおいしいので、村人たちに喜ばれるのである。
装甲お嬢様シリーズ、第十弾。