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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第二部 いつもご馳走を食べ、ご婦人達の面倒をみよ。 第一章 王国改革
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対抗策

 リンクス達の手に職を……と始めた錬石だった。彼らには他の種族よりも魔石や鉱物などの対象に含まれる物質への感受性が優れている者が多い特徴がある。だから属性因子を含む様々物質を選別して魔石の純度を上げ高品質にする錬石という作業に向いていると考えた。


 その成果ははっきり現れ、錬石スキルの適正が乏しいリンクスでも、無色透明ガラス製造に使う砂から不要な鉱物を除去する技術を身につけられている。


 リンクスの仲間集団ソシアスの中で錬石関連部門の稼ぎが最も多い。それは美容液はもちろん今や健康の維持に重要と皆に考えられており大衆浴場や魔導自動車など魔法を必要とする作業で使用する魔石を作っているからだ。十五歳未満の未成人でも錬石の基本技術を身につけたら手伝うのだが、コンコルディア王国の平民並みに稼いでいる。ソシアスは人手が足りない部署ばかりだけど、傭兵派遣部門と並んで人材育成にかなり力を入れている。


 錬石は読み書きなどと一緒に五歳から教育する。この技術さえあれば、魔石の利用が必須のこの世界でなら貧困と縁の無い生活が一生約束される。鍛冶職でも農民でも傭兵でも利用可能な技術だから、自分の就きたい仕事を選べるようにもなる。

 だからソシアスとして錬石の教育と訓練には、魔獣討伐訓練と同様に最も力を入れている。


 錬石部門には教育・製造・研究と大きく三つの部署がある。

 簡単な術式なら魔石に刷り込める方法を見つけ出したテレサなどは研究部署に所属している。そして俺が今から会うボルクも研究部署に所属している。


 テレサは錬石技術の応用で魔石に霊力を書き込む方法や書き込める術式の研究をしているが、ボルクは魔石や様々な鉱物の性質を研究している。錬石では、魔石の大きさや純度などで書き込み可能な術式は変わる。この錬石作業の効率向上に役立つ発見したのがボルクだ。他にも、魔石が真球に近いほど発動させる魔法の威力が高くなることを見つけ出した。


 マギレウムの安価な代替品は俺とボルクの共同研究で見つけ出した。世に出ると大問題になる発見だからこの発見は俺とボルク二人だけの秘密となっている。


 錬石研究所はプチ・インテーラではなくリガータの森にある。森にある……今では創石研究時に利用する俺の家に並んで建てられている。錬石技術はリンクスにとって最重要な技術で他に漏らしたくないから、瘴気と魔獣に守られているリガータの森に置いてあるのだ。

 ……錬石研究所と言っても、知らない者からはちょっと裕福な平民の二階建て一軒家にしか見えないんだけどね。


 研究所の一階にボルクの研究室がある。テレサ達「術式・錬石技術研究班」は二階だ。

 俺はボルクの研究室に向かった。



・・・・・

・・・


「よう! ボルク~、頼みがあって来たんだ」


 他人行儀な挨拶などせず、部屋の中央に置かれた丸テーブルで幾つかの魔石を工具でイジっている赤茶色の髪を短く刈ったボルクに近づいた。


「リカルド様、お久しぶりです。頼みですか? なんでしょうか?」


 椅子から立ち上がろうとするボルクを片手で制して、ボルクの正面に置かれた椅子に座る。


「俺達の秘密のアレを使って、小型の……事務机に置いても邪魔にならないサイズの……魔導扇風機を急ぎで作って貰いたい」

「その程度でしたら、以前使っていた私の扇風機をいじればいいので、明日まで時間を貰えれば用意できます。ですが……アレは隠しておくという話ではありませんでしたか?」


 強い好奇心を隠そうともせず、前のめりに俺の目をのぞき込んできた。


「ああ、公にするつもりはないよ。ただ、ちょっとした脅しに必要なんだ」

「……脅しですか。ということは、マギレウムの製造販売関係者が相手ですね?」

「その通り。マギレウムを使わないほうが楽で安く済む方法があるのに、今まで通り利用してるってのにな」


 悪い笑みを浮かべてボルクの緑の瞳を見返す。


「あの技術はマギレウムの代替品を作るだけでなく、魔道具の製造方法そのものを変えられますから……」

「判っている。マギレウムだけじゃない。様々な鉱物の価値も変えてしまう。俺やリンクスの切り札と言っても過言じゃない技術だ」

「私もそう思います。魔石とマナの両方を操作できる技術があれば……」

「そんな技術をもつのは、俺とリンクスのごく一部だけだがな」

「原料はタダ同然ですしね」

「あの技術が無ければ今のところ捨てるしかないモノだからな」


 ごく一部のリンクスの一人がボルクだ。理屈が判っても、特に感度の高い繊細な錬石技術が無ければ作れない。だけど必要な技術があれば大量にアレを作れる。製造時に魔法を使うし、求められる魔力量も膨大だけど、そこはエネルギー・ストレージタイプの魔石や能石で補えるから問題は無い。とにかく必要なのは技術だ。


「明日の昼までに作っておきます」

「頼んだ。時間があれば俺自身で作るんだけど」

「聞いてますよ? エリザベス様がご懐妊だとか。おめでとうございます」

「ありがとう。そうなんだ。エリザベスの体調管理に必要なモノを用意するのに忙しくなるってのに、面倒な話を持ってきたヤツがいるんだよ」

「リカルド様とエリザベス様の幸せに水を差そうだなんて……。恐れ知らずですね」

「だからさ。アレを見せつけてやれば大人しくなるだろうよ」

「黙らせてやりましょう」


 悪い笑みを浮かべて頷くボルクに片手を出して握手した。


「じゃあ俺は、妊婦に不足しがちな栄養を摂取できる食料集めと、崩れがちなホルモンバランスの安定をサポートする魔法術式の研究に入るよ」

「こちらはお任せ下さい。アレの製造を止めてくれるようにと相手が泣いて頼んでくるようなモノを作ってみせます」

「頼む」


 ボルクには珍しい魔獣の魔石を届けてやろう。それが一番喜ぶ報酬になるだろう。

 最近力を持て余してるセキヒに頼めば喜んでやってくれるだろうしな。


 錬石研究所を出て、術式研究のために俺の家へと向かった。といっても、隣だけどさ。


◇◇◇


 術式の理屈を覚えたうえでイメージ記憶し、霊力に載せて魔石を創る。有り余る金に任せて王国中から集めた魔法術式本こそ創石の命だ。いつか王国だけじゃなく大陸中の魔法術式本を集めたい。本にはない術式があるなら、それも聞いて回りたい。エリザベスと旅行できるようになったら必ず世界中を回ろう。それが今の俺の夢だ。


 魔法術式を学べば学ぶほど判ってくることがある。魔力が魔法として機能する仕組みは謎だけど、術式自体には科学的な視点がある。何かの事象には必ず原因と結果があり、術式に沿った魔法を発動すると誰がやっても同じ結果になると考えられている。そこには神だの悪魔だのといった神秘的な存在が入ってない論理的な思考が感じられる。


 治癒魔法が良い例だ。病気の原因を神秘的な理由に求めていない。まるで病理学を学んだかのような内容が術式に記されている。高度な魔法術式を開発した古の貴族達は、とても論理的な思考を持っていたんだろうな。


 何代かにわたって魔力生成量が減り続け、高度な魔法を使用できなくなってからは、高度な術式を学ばなくった。論理的な思考で世界を探求するより、減った魔力で発動可能な魔法をどう活かすかに力を注いできた。それは魔獣との争いが続いている世界では当たり前の反応だったんだろう。


 錬石技術が進歩せず、俺の創石能力でしか高度で複雑な術式の魔法を発動可能な魔石を生み出せないなら、今後も魔法に論理的な思考など必要ないのかもしれない。


 だけど、魔力生成力が衰えた世界には科学こそ必要。俺はそう考える。

 過度に魔法に頼らずに、様々な技術を発展させていく。それができればこの世界はもっと住みやすい世界になるんじゃないだろうか? 


「何をお考えです?」


 いつの間に部屋へ入ってきたのか、研究所には一緒に行かず、俺が頼んだ食材の確保に動いて貰っていたセキヒが背後から声をかけてきた。まあ、俺の自室の扉はいつも開いてるし、セキヒやソウヒには自由に入っていいと言ってあるしね。


「いや、たいしたことじゃないよ。魔法術式についてちょっとね」

「そうですか。リカルド様から依頼されました食材を集めて参りました」


 頼んだのは、妊娠中に不足しがちな栄養素を摂取できる食材だ。前世での妻が懐妊した時に覚えた知識で集めて貰った。

 葉酸は焼き海苔から、カルシウムは牛乳から、ビタミンAや鉄分は多く含む野菜からエリザベスに摂取して貰うつもり。海苔以外はプチ・インテーラで簡単に手に入る。この世界で海苔は一般的じゃないけれど、海沿いの村では食しているから移動がちょっと大変だけど飛竜のセキヒなら手に入れるのは難しくない。


「ありがとう。あとはソウヒに頼んで……エリザベスの感想を聞きながらメニューを決めてもらおう」

「ソウヒにはしっかりと伝えておきます」

「ソウヒに任せておけば安心だな」


 俺やエリザベスが喜ぶからと、ソウヒは頑張ってくれる。護衛では冷静なセキヒに頼りがちなので、料理では自分こそがと暇さえあればメニューを考え、様々な食材を使って研究している。その腕前は王宮料理人ですら及ばないのではないかというレベルだ。「プチ・インテーラで店でも開いたら?」と言ったことがあるんだけど、料理の面でもリンクスの中に弟子がいるらしく、「そちらは弟子に任せ、私はリカルド様とエリザベス様のために料理したいのです」と返してきた。いつかソウヒが喜ぶことをしてあげなくちゃとエリザベスといつも話しているんだ。


「悔しいですが、料理ではソウヒに勝てません」


 残念そうにセキヒは暗い表情を見せる。


 ヴェイグの憑坐(よりまし)となった時から、セキヒとソウヒはずっと身近に居てくれた。それは俺の中で再生を待つヴェイグを守るためだったのは否定しない。だけど、身体と命だけでなく俺の気持ちも大切にしてくれたんだ。


 この大陸のどこにも居場所なんて無い。安心して暮らせる場所なんてない。

 家を追い出され、人の住む場所でも疎まれていた俺はいつも感じていた。孤独で心はいつも不安で張り詰めていた。


 そんな俺に居場所をくれたのはダークエルフと人間のリンクスであるアドリアと彼女の祖父のブルーノ親方だ。

 おかげでダークエルフの集落の近くで暮らせるようになった。だけど俺には身を守る手段も生活を続けていく手段もなかった。


 創石の力が身につき、自分で身を守り、生活できるようになるまで支えてくれたのがセキヒとソウヒだ。

 俺を支える本当の目的がどこにあろうと、彼らにただただ感謝している。俺にとっては兄であり、師であり、仲間でもある。セキヒとソウヒ。何が得意だとかそんなことに関係なく、二人はどちらも大切だ。


 これから何が出来るのか判らないけれど、俺と一緒に居て良かったといつか感じて貰えるようになりたいもんだ。


「俯かないでくれよ。ソウヒは料理大好きなうえに、十五年近く努力してきたんだ。だけどセキヒはその間、他のことは二の次にして俺の身の回りを気遣い続けてくれたじゃないか。俺にとってはかけがえのない二人だよ」

「こ、これは……情け無い姿をお見せしました。申し訳ありません。そうでした。もう一つご報告が御座います」


 気を取り直し暗くなりかけた表情をいつもの締まった表情へ戻し、セキヒは新たな報告を始めた。

 報告の中身は、アルザングの動きの陰に北部と中央の貴族が居るということだった。これはエリザベスが依頼している諜報員達からの情報だという。


「エリザベスがそんな依頼を」

「リカルド様の周辺はもちろんこの大陸中に目を光らせていらっしゃるようです」

「王国内はともかくメフルナーズにまで?」

「商人のネットワークを利用されているのでしょう。商人ならば大陸中どこにでもおりますし、情報を集めるのは彼らの本能のようなものですから」

「そうだとしても彼ら大勢と手を組めるというのは……、ああ、そうか。うちと既に懇意な商人だけじゃなく、これから取引したい商人からも情報を集めているのか」

「きっとそうです。交易を主要産業としているドゥラーク領で育ったエリザベス様です。商人とのやり取りはよくご存じなのでしょうね。それに、ご両親や姉君の助言もいただいているでしょう」


 裏が読めてきた。美容液を皮切りに様々な商品を看板に大陸中で商機を広げ経済面での影響力を増したドゥラーク領。安定した大量の食料生産と、リンクスの新たな商品開発に必要な材料を供給しているアレーゼ領。ここ数年で王国内の確かな地位を築いた二領を面白く思わない貴族達が、俺やリンクスを批判し南部二領の力を削ぐために動いたんだろう。


 北部だけじゃなく王族と近しい中央貴族にも俺達に敵対する勢力があることにはまったく驚かない。

 いくら王族に力を貸している俺達でも、彼らから見れば所詮は平民以下の蔑まれる存在。そんな俺達が王国内で大きな顔をしているように見えるだけでも腹立たしいのだろうな。

 ここらで痛い目に遭わせてやろうと考えても不思議じゃない。


 それに……マギレウムの価格が高くなれば、質は低く埋蔵量も多くないとは言えマギレウム鉱山を多く持つ北部や、新たな発想と錬石技術を駆使して造るリンクスにその質は及ばないけれど、伝統的な魔道具を雅な装飾を施して造る工房を多数抱える中央の収入は増える。

 

 マギレウム高騰の責任を俺とリンクスへ押しつけ、値上がりしたマギレウムが生む利益を手に入れようということなんだろう。南部を田舎と侮っていた彼らが、経済面から影響力が増したドゥラーク領とアレーゼ領と対抗可能な状況を作り出そうとするのも理解できる。


「判った。セキヒ、報告ありがとう。今夜にでもエリザベスから詳しい話を聞くよ。まあ今回は、北部や中央の貴族の企みを潰すのは簡単だ。エリゼベスには体調のことだけ心配していて大丈夫と伝えるさ」


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