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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第一部 情に棹させば流される    第一章 傭兵隊結成
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アドリア救出(その一)

 慌てながら説明してくれたブルーノ親方の話をまとめると、いつも鉄を購入している店がある、アレーゼ領の西側にあるクラウン領までトラックで向かった。それが今朝のことらしい。早ければ昼過ぎに、どんなに遅くても夕飯前には帰宅できる距離だ。


 親方が家に戻ったら、灯りが点いていなかった。そこで工房も含めて探したけれど、トラックもないし帰宅した様子もない。近所の人に訊いてみても今日アドリアを見かけた話は聞けなかった。


 親方の足でクラウン領まで移動するには遠すぎる。だから車両がある我が家まで駆けてきたらしい。


「頼む! クルマを貸してくれ! あいつに何かあったら亡くなった娘に顔向け出来ん」

「親方、落ち着いてくれ」


 血走った群青色の瞳の親方の肩を両手で押さえる。


「これが落ち着いていられるか!」

「俺達がアドリアを探す。必ず連れ帰るからここで待っていてくれ」

「馬鹿を言うな! アドリアが心配でジッとなんかしていられるか!」

 

 肩に乗せた俺の手を振り払う。

 断ってもジープの天井に飛び乗って着いてきそうだ。


「……判った。一緒に行こう。だけど一つ約束して欲しいことがある」

「何だ、何でも言って見ろ。アドリアを助けるためなら何だって約束してやる」

「よし、これから俺達がすることは他言無用にしてくれよ。それじゃソウヒ。ドライアドに伝えてくれ。俺の恩人が危機だ。力を貸して欲しいってな。闇の真龍ヴェイグの憑坐(よりまし)の頼みだと言って良いから」


 「ドライアド? 精霊じゃねぇか、なんだってそんなもんと知り合いなんだ」とつぶやく親方を無視してソウヒに向き直る。


「あんな奴らに頼むなど……命令してやらせればいいんですよ」

「ソウヒ、文句ならこの件が終わってから聞く。だから今は急いでくれ」

「わ、わかりました!」


 調理着を着替えもせずにソウヒは扉の外へ走り去る。俺は壁にかけた袋を手に取り、セキヒにも指示を出す。


「セキヒはジープを準備してくれ。俺はいくつか魔石を用意しておくから」

「畏まりました」


 魔法拳銃用の魔石を取り出し、回転輪胴部にある穴六箇所全てにはめ込んだ。


「親方行くぞ!」


 親方を連れて家の前に止められたジープに乗り込む。


「おい、ソウヒとド、ドライアドは乗せなくていいのかよ」


 人の姿に化身している竜のソウヒは、人型のまま走ってもジープに追いつけるだろう。ドライアドを背負っても同じだ。アドリアを連れ帰る際には、彼女が乗っていったトラックで帰ることになるから、共に帰るためにはジープも必要になるんだけどね。


「大丈夫。親方心配するな」


 俺の指示を待つセキヒに一つ頷く。セキヒはアクセルを踏んでジープを闇の中に走らせた。


◇◇◇


 クラウン領の手前でソウヒとドライアドを見つけた。

 こんなに早く到着してるってことは、ソウヒは竜型に戻って移動したのだろう。ま、それでもいい。今は時間が何より重要だ。早くアドリアを見つけて助けなければならない。


「急な頼みを聞いて貰ってすまないな」


 俺はクルマのライトに照らされているドライアドに話しかけた。


「いえ、ヴェイグ様の憑坐の頼みであれば、私どもは拒否できようもありません」


 薄着を纏った女性が軽く腰を折る。


「すまないな。それで早速だけど、俺の恩人を見つけて貰いたい。クラウン領内にまだ居ると思うんだ。彼女の姿は、今から俺が思い描くから読み取ってくれ」


 精霊は他者の感情に敏感で、こちらが抵抗しなければ思念も読み取れる。土の精霊ノームの眷属である樹精霊ドライアドも同じことができる。これは龍核となったヴェイグが意識を失う前に教えてくれた知識の一つ。

 ドライアドは白すぎるほど白い手を俺の手に重ね瞳をのぞき込む。数瞬の後「はい、もう結構ですよ」と手を離し、口の中で何かをつぶやき始めた。


「このクラウン領中に在る木々達へ読み取った女性のイメージを送りました。彼女を見かけた者達から報告が入ってくることでしょう。しばらくお待ちください」


 離れていても木々達と情報を共有できるのがドライアドの能力。見たもの聞いたものを伝え合える。この能力故に、ドライアドは森の監視者と呼ばれている。アドリアを探すにはうってつけの能力だろう。


 木々達と会話しているのか、ドライアドはまた口の中でブツブツとつぶやいている。その様子を見守りながら俺達は待った。

 時間にして四半刻、地球で言えば三十分も経った辺りで「見つけました」と俺の目を見る。彼女の碧眼には自信が感じられ、信用して動こうという気にさせられた。


「クラウン領の外れにある家畜用の建物の中に囚われています」


 今居るところからどのように進めば良いかを訊き、セキヒと親方にジープに乗るよう伝える。


「今日は無理を言ってすまなかった。ソウヒ、森まで送ってあげてくれ」


 ドライアドに頭を下げたあとソウヒに指示を出した。だけどソウヒは不満顔。


「えー! 私も暴れたいのにー」

「その気持ちは明日魔獣にぶつけてくれ」

「はあ、仕方ありませんねぇ。ではお気を付けて! セキヒ、判ってるな?」


 俺には溜め息をついて見せ、その後セキヒに鋭い視線をソウヒは向けた。


「あえて口にするまでもない。リカルド様に傷一つつけさせん」


 堅苦しいまでの真面目な表情でセキヒは答え、すぐに背を向けジープへ乗り込んだ。


◇◇◇


 以前魔獣に襲われたのかもしれない。ドライアドが教えてくれた場所には、ボロボロに崩れた塀や壁が目立つ家が数軒。街外れで農家を営んでいたらしい場所だが、廃家の周囲の草木にも人の手が入った様子は無く生え放題で、当然人の気配はない。


「こんな所に監禁されてるのかぁ、アドリアも災難だな」


 灯りは小さなものですらまったく見当たらない。俺が持つランプ型の道具からの灯りだけが辺りを照らしている。この分だとどこかの家に誰かが居れば、俺達は既に気付かれているだろう。

 荒れた土地に壊れかけの家ばかりの場所に人が夜更けに居るというだけで怪しいだろう。だからどこかに人が居ればこちらの様子を伺いながら息を潜めて隠れている。もしそんな状況じゃないならここには誰も居ないのだろう。


「何を呑気なことを言っとるのだ。早く助けるぞ」

「親方。確実に、安全に助けるためにまず落ち着こう」


 焦る親方をなだめながら、セキヒに天井も壁も壊れてる家から内部を確認し、確認を終えた家から燃やしていった。燃やすために使用したのは、親方が作った魔法拳銃にはめ込んだ熱変動上昇系魔石を使った魔法。


 可燃性のものはある決まった高温に達すると燃える。例えば木材なら、火があれば二百五十度程度で、火がなくても四百五十度程度に達すと燃える。また木材内部で蓄熱されていれば百五十度程度でも発火する。だから火を放った方が楽に引火させられるのは知っているし、火を見せつけた方が良い場合もあるだろう。


 だけど、自分に向かってくる火を見たら瞬間的に危険を感じるだろう? 避けようとするし手段があれば防ごうとするのは自然なことだ。だから効果が発動時点で判るような魔法は状況次第で使わない。

 何より、銃口から火を放ったら、銃を持ってる俺まで熱いじゃないか。

 俺の見たものが燃えるまで高温になればそれでいい。


 中を確認してアドリアが居ない、残骸となってる家を燃やし始めた。 

 一軒……二軒……三軒……。

 もう俺が持つランプの灯りなど必要ないほどに周囲が赤く照らされている。


「そこまでにして貰おうか!」


 ほぼ原型を留めている家が三軒ほどあり、そのうちの一軒から出てきたのは革鎧を着た中年の男。燃える家の炎に照らされ赤く映える髭面がこちらを睨んでいる。数歩近づいて止まり、髭に覆われた口を再び開いた。


「見慣れない奴らがうろついていると思ったら、家に火をつけてまわってやがる。何を考えてんだ!」

「この村はいつからこんな有様に?」


 髭面の問いには答えず何事もないかのように聞き返した。


「そんなことてめぇの知ったことじゃねぇだろ! さっさと帰れ!」


 苛ついてるのは判る。近くで家が燃えているんだから不自然じゃない。でも燃え移るほどの近くが燃えてるわけじゃないから、出てきた背後の家をチラチラ見るのはいただけない。そこに何かありますよと教えてくれてるようなものだ。


「こちらに知人がいると聞いてやってきたんですが、ご存じありません?」

「てめぇ……何か知ってるようだが、余計な詮索しないでここから黙って立ち去った方が身のためだぜ?」

「ですから、知人が居ないと判れば帰りますよ? あなたの後ろの家の中、ちょっと見せていただけませんか?」

「調子に乗るんじゃねぇぞ……」


 髭面が腰から剣を抜き、ジリジリと擦り寄ってくる。俺に剣が向けられると背後のセキヒから殺気が伝わってくる。


「おいおい、ディック。まだか? そろそろ領主様が引き取りに……ってなんだそいつら」


 ディックと呼ばれた髭面男の背後の家からもう一人男が出てきた。髭は生やしてないが身体はディックより一回りでかい。


「こいつらはなんだってんだ? おい、そこらに燃え移ってるぞ。早く消さないと……」

「ダンダ、おまえは火を消せ。俺はこいつらを始末する」


 男二人の声はでかい。だが家から他に出てくるものは居ない。


「親方、あの家の中にアドリアが居るはずだ。行ってくれ。俺とセキヒはこいつらを捕まえる」

「わかった! 気をつけろよ? 目の前の奴は腕に覚えがありそうだからな」


 仕事用ハンマーを手にした親方が俺達と髭面(ディック)を大きく迂回して家に近づく。気が逸ってるのは明らかだけど、それでもディックから目を離さずに徐々に家の扉へ近づいていた。

 俺は腰のホルスターから魔法拳銃を取り出し、輪胴の上部に青い魔石が見えるよう回転輪胴を回す。そしてディックに向けて早速引き金をひいた。


 ――これで親方がアドリアを連れ出す邪魔はできないな。

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