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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第二部 いつもご馳走を食べ、ご婦人達の面倒をみよ。 第一章 王国改革
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ティゲルゼにて

本文


 カーヤとアーノルトをジュリアス義兄さんに預けたあと、運河でプチ・インテーラへ向かうために俺とセキヒはティゲルゼへ戻る。直線的に移動しようとすると集落そばを突っ切ることになり速度をあげられない陸上よりも、運河の方が早く帰れるのでジープも乗せて俺専用蒸気船リベルテで移動するんだ。


 蒸気船リベルテは、将来エリザベスと世界中を遊覧するために建造した船で、水棲魔獣対策用の攻撃・防御系魔石や悪天候時の漂流や停泊時に必要な設備が装備してある。およそ時速四十五ノット(時速八十キロ程度)で移動も可能だけど運河内は二十ノット程度で航行する。


 また蒸気を利用してスクリューを回しているけれど、更に速度を上げたいときは魔導タービンでスクリューを回すことも可能だ。これは魔力消費量を考慮してのこと。


 蒸気を発生させるために使用する初級的な火属性魔法の方がタービンを直接魔法で回すよりも魔力消費量が少ない。瘴気で覆われているリガータの森のような魔力を集めやすいところでならエネルギー・ストレージタイプ魔石の消費を気にすることはない。だけど、陸でも海でもリガータの森ほど魔力が濃いところなど滅多にないから、エネルギー・ストレージタイプ魔石に魔力を集めるために時間がかかるんだ。


 ティゲルゼに戻り港へ着くと船長ゼイガスが、俺達を運ぶためだけでなく、購入した食糧や資材の搬入を見守りながら待っていた。海焼けした赤黒い肌と、周囲より頭一つ分高いところにある赤茶けた髪が目印になってすぐ見つけられた。


 ゼイガスは子どもの頃から漁船に乗り、海で遊んで育った。こぢんまりとしていたらしいが自分の船も持てるようになり、商船の護衛を生業にしていたという。だけど海賊との戦闘で船を失い、さらに護衛役としての仕事を果たせなかったと膨大な借金を背負い困っていた。そこで腕の良い船長を探していた俺は、彼の噂を聞いて会ってみたんだ。


 俺は海のことは判らないから、ベネディクト元侯爵……今はお義父さんに詳しい人を紹介して貰ってゼイガスの技量を確認したり、港で彼の為人(ひととなり)を調べた。そして信用できそうな人物と判断し、彼の借金を肩代わりして雇うことにしたんだ。


 今は船での仕事に素人のリンクス達の教育係兼蒸気船リベルテの船長として働いて貰っている。


「やあゼイガス、お待たせ!」

「久しぶりですね、リカルド様。荷物の搬入はもうじき終わります。ジープを載せた頃には出港できますよ」


 リンクスとアドリアが開発した黒のサングラスを片手にエメラルドグリーンの瞳で微笑む。

 

「プチ・インテーラにはどのくらいで着く?」

「今回はどこにも寄りませんから、昼夜航行すれば二日といったところですね」

「そうか、二日程度なら補給も要らないか」


 ティゲルゼからプチ・インテーラの間には、西ドゥラーク、アレーゼ南、アレーゼ西の三箇所停泊所がある。通常はそれらの停泊所で荷揚げや荷下ろしがある。または次の取引きに向けた面談や契約が行なわれ、停泊すると長ければ二~三日は時間を必要とする。そういった用事が今回は無い。

 ……みんな俺を早くエリザベスのもとへ送り届けようとしてくれているんだな。感謝しちゃうよ、ほんと。


「ええ、リカルド様が戻られる前にアレーゼ南で物資は降ろし済みですし」

「物資?」

「トラック4台とトラクター5台、それと魔獣肉などリガータの森産食材ですね」


 高額な商品を毎回注文するアレーゼ領。領地が順調に栄えているようでなによりだ。ふむふむと感心している運河入り口方面が騒がしい。周囲を見回すと、出航しようとしていた船がその動きを止めたり、港を警備している兵が海から離れるように叫んでいる。


「魔獣が出た! 討伐部隊が向かっているから心配するな。落ち着くまで海に近寄るなよ!」

 

 水棲魔獣が出たらしい。だが俺とセキヒはもちろんゼイガスも慌てたりしない。《《褐色の戦士》》がこのティゲルゼにずっと常駐しているし、ドゥラーク領の騎士にも俺やリンクスから魔石が渡されているのを知っているからだ。


 相手が竜族並みの力を持つ魔獣ならばさすがに大変な事態だけれど、そんな魔獣はそうそう居ない。というかそこまでの魔獣の話など聞いたこともない。俺が知らないだけで、この世界にはとんでもなく強い魔獣が居るのかもしれない。でも出遭ってしまったらその時はその時だ。ヴェイグの力を借りながら対策を練れば良い。そしていずれは竜族の力を借りなくても対処できるようになればいい。

 ……とりあえず尻尾巻いて逃げるさ。


「じゃあ船に乗って事態が落ち着くのを待っていましょう」


 岸に並ぶ船のほとんどは帆船だ。帆船には風を受けるための帆を張るマストがある。スクリューで動く蒸気船にマストは必要ない。最近はうちの船以外にも蒸気船が泊まってることもあるけど、リベルテはそれらの船より二回りほど大きい上に、羽を広げた真龍ヴェイグを模した漆黒の船首像があるからひと目見れば判る。船体は暗緑色で水竜スイシの鱗が張られている。こうしておけば水竜を恐れて魔獣は近寄ってこないらしい。

 

 リベルテに乗り込むと、南側にある運河入り口で高い水飛沫があがっているのが見えた。


「一頭じゃありませんね」


 セキヒが鋭い視線を向けている。


「大丈夫か?」

「スイシが鍛えていますから問題はないかと」

「スイシも訓練してたのか?」

「はい。陸上や空中の魔獣対策はソウヒが、水中の魔獣対策はスイシがそれぞれ。異常種相手でなければリンクスで十分倒せると言ってました」


 技術があがってリンクスが錬石した魔石もかなり強力な魔法の発動を可能にしているしな。それにしても……、


「異常種? 初めて聞いたな」

「リガータの森だと(ぬし)とダークエルフが呼ぶ個体ですね。同じ種類の魔獣の中でもひときわ身体が大きく、魔力量も多い個体のことです」

 

 ああ、(ぬし)ならば判る。五年ほど前に遭遇しセキヒが倒してくれた。

 確かにそれまで見たこともない巨体のフォレストアリゲーター。一般的なのフォレストアリゲーターはワニ四頭分程度なのだが象二頭分ほどで、怪獣映画に出てきても不思議じゃないサイズだったな。


 セキヒが相手したから、俺にはその強さがどの程度のものなのか判らない。だけどあっさり倒してはいなかった記憶がある。いつもなら拳や蹴りを頭部や腹部に数発入れておしまいなのに、魔獣の手足を封じてから仕留めていた。

 ……当時は何とも思わなかったけれど、今思いだして判った。異常種とは、化け物じみて強いセキヒでも多少は工夫して倒す必要がある魔獣なのか。


 かなり離れているここでも判る高い水柱が、海中から浮かんできた蛇のような魔獣と共に周囲の船より高くあがる。


「おしまいです」


 セキヒが指さした先には二名のリンクスが大きく開いた魔獣の口目がけて銃口を向けている。

 俺が使っている拳銃タイプじゃなくライフルスタイルの銃だ。拳銃タイプは多様な魔法を発動させる機能に特化していて、ライフルスタイルは魔石を交換して発動魔法の種類を変えるタイプ。そしてもう一つ、属性反応魔石を弾丸のように撃ち出す機能もある。 属性反応魔石は、相反する二種類の属性因子が濃い魔力と混合されている。相反する属性因子を含む魔力が術式で制御されていない状態で、更に光属性因子を混ぜられ活性化すると爆発する。つまり属性反応魔石とは爆弾とほぼ同じ類いの魔石だ。


 攻撃対象が放つ魔力が濃い場合、こちらが放った魔法は弱体化するか無効化させられる。そういった相手を破壊する場合に、この属性反応魔石を使用する。口内で反応させれば頭部が、飲み込まれて胃袋まで到達すれば腹部が急激な圧力の発生で吹き飛ぶ。……竜種にさえも大きなダメージを与えられる兵器だ。

 

 岸壁に立つリンクスが引き金を引くと、黒光りした属性反応魔石がライフルの銃口から魔獣の口内へ撃ち込まれる。一から二秒の後、腹に響くような轟音と共に蛇のような魔獣の頭が弾け飛んだ。魔獣のぐったりとした身体が海面を打って広い範囲で水柱があがる。騒めく水面をリンクスは油断なく見つめている。


「水棲魔獣の討伐も慣れたようだな」

リンクス(かれら)も必死ですから」


 ……そうだよ。人間社会から追い出されたけれど、辛い時期を長く過ごさずにヴェイグと出会いセキヒやソウヒに守られてきた俺と違って、リンクスは皆生まれてからずっと周囲から蔑まれて生きてきた。リガータの森でも王国内部でも、食べ物を手に入れるため、少しでも眠れる場所を探し、暗い未来に絶望しそうな自分を支えて毎日耐えながら生きてきた。


 それが傭兵、錬石師、魔石利用した商品開発という生きるための道を見つけて、今や貴族からも頼られる集団に変りつつある。俺に出来たのは最初のきっかけを与えることだけで、後はみんなそれぞれの努力の結果だ。幼い子達の成長を助け、傷ついた仲間を癒やし、お互いに支え合いながら居場所を守っている。


 ……みんな凄いよ、ほんと。


 戦いが終わった海上を眺めていると「出港します」とゼイガスが声をかけてきた。出航合図の汽笛が鳴り、先ほどまでの戦いなど無かったかのように運河を目指してリベルテは南下していく。


 運河の入り口に差し掛かると、数人のリンクスがこちらに手を振っているのが見えた。手を振り返すと、その中の一人がリベルテに向かってジャンプしてきた。


 ……おいおい、いくら鍛えていて跳躍に自信があるといっても危ないじゃないか。岸と船の間にはだいたい七メートルほど開いていたんだからさ。


 日に焼けたのか、それとももともとの地肌の色なのか、薄い褐色肌を持つ締まった身体の女性が片膝をつくような姿勢で甲板に着船した。


「リカルドさまぁ!」


 腰に魔法拳銃をさげ、革製のベスト姿の女性は《《褐色の戦士》》発足当時、隊長ヴィアルと共に貴族軍撃退に参加していたので見覚えがある。名前は確か……イハテ……そうイハテだ。

 彼女は立ち上がると笑みを見せ、軽い足取りで近づいてくる。


「久しぶりだね、イハテ。元気そうでなによりだけど動いている船に飛び乗ってくるのは危ないぞ」

「大丈夫ですよぉ。こいつがあれば倍の距離でも飛び乗れますから」


 そう言って腰の魔法拳銃をポンッと叩く。

 まぁ風属性の魔法を空中で下方に放てば飛躍距離は稼げるだろうけれど無茶はしないで欲しいよ。


「あ、セキヒ様もお久しぶりです!」


 イハテは横に立つセキヒにペコリと頭を下げ、セキヒは軽く頷いた。


「今はティゲルゼで働いているんだな」

「はい」


 白い歯を見せて嬉しそうにイハテは近況を話す。

 イハテは褐色の戦士一番隊の隊長に就いている。ヴィアルは総隊長に昇格したようだ。

 一番隊は総勢二十名でティゲルゼ周辺から西ドゥラーク領停泊所までの巡回と保安を任されている。特にティゲルゼの港周りは水棲魔獣が多く出没するからイハテを含む五名が常駐していて、半年ごとに二番隊と交替して休暇をとっている。


 ……この数年で褐色の戦士も人数がかなり増えたみたいだもんな。王国南部からリンクスがどんどんやってきて傭兵業に就く者もそれなりに居ると聞いた覚えがある。正確な数字は知らないけれど、今は確か百五十名くらい居るはず。そういや、弟子が増えたとソウヒが喜んでいたな。


「リカルド様は、これからプチ・インテーラへ戻るんですか?」

「そう。二ヶ月ほど北部に出張していたんだよ。ま、三ヶ月ほどしたらまた北部へ行くけどね」

「あ、ああ、うちらの製造班も北部で仕事があるって、仲間の誰かが言ってました。それですか?」

「そうそう、多分それ」

「そっかあ、うちらで一番稼いでるとこだけど、みんなのためにもっともっと稼いでほしいな」


 リンクスの成人……十五歳以上は全員年俸制。

 プチ・インテーラに建てられた混血児(リンクス)のための仲間集団で財団的性格を持つ組織《《ソシアス》》。彼らの年俸はソシアスが決めている。リンクスが請け負った仕事の報酬は全てソシアスがプール・管理し、加入している成人メンバーの給与もここが支払う。未成人メンバー、傷病等で働けないメンバー、これから出てくる老年メンバーの生活費もソシアスが出す。


 ソシアスは戦闘班、食糧の生産加工班、美容液関連研究製造班、生活環境整備維持班などの部署のトップによる合議制で運営されている。コンコルディア王国南部やリガータの森で暮らしていたリンクスがプチ・インテーラに集まった。一気に人数が増えたため、俺がやっていた程度の支援では間に合わなくなったんだ。そこで人間や亜人との生活では与えられなかった職業訓練、教育(読み書き、戦闘、錬石など)を提供する組織を作ることとなった。


 また、製造班当初の加入メンバーは美容液の爆発的な売り上げがあったため、全員がちょっとした商人並みの収入を手に入れた。魔獣や賊から生活を守っていた戦闘班の数十倍の収入となったことに、彼らは罪悪感を持つようになりソシアス設立のきっかけとなったんだ。

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