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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第二部 いつもご馳走を食べ、ご婦人達の面倒をみよ。 第一章 王国改革
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それぞれの思惑(その一)

「ファニア様、このまま続けさせて良いのですか?」

「……ラーブか。良くはない、だがゴッドラン領内のことゆえ、どうすることもできまい」


 並んで歩く馬上から、リカルド達に同行させ情報を集めさせている侍従のラーブが不安と憤りが混じった声が聞こえる。


「そもそもマキア家当主に女性が就くなど……」

「北部の長い歴史の中では、女性の当主も居たがな」


 北部では伝統的に戦場で力を示した者が当主となる。女性でも当主に相応しい力を知らしめた者は居た。だがその数は圧倒的に少なく、女性当主など例外的な存在だった。


「ですが、それは戦場で力を示した女性ですよね」

「時代は変ったのだ。魔法力の衰えた貴族が昔と同じ生き方はできぬよ」


 魔法力の多さと技術を活用して当主としての力を男性も女性も領民へ示してきた。ここ百年ほどの間に魔法力が衰えた我々貴族だが、より一層の研鑽を積んできた。大規模な魔獣や賊との戦いがあれば、率先して先頭にたって軍を指揮し敵を葬る力を示してきた。それでも魔法力を誇った時と違い、少なくない損害を出し苦心してやっと勝利を掴めるようになってしまった。


 そんな状況下で昔の貴族と同じかそれ以上の魔法力を発揮できる道具をリカルドは開発し、当主に大きく及ばない力しか持たない侯爵夫人等が王宮騎士団を圧倒し捕縛しうる力を与えた。この事実は武力を重んじる北部貴族だからこそ他領地の貴族よりも驚き恐怖している。


 北部貴族らしくあろうと日々修練を怠らなければ、中央や南部貴族よりも優れた存在でいられるという自負が損なわれた。リカルドの開発した道具があれば北部貴族の矜持など消し飛ぶのだと知らされた。


 その上、混血児の傭兵部隊活躍による派兵機会の減少で、食糧を確保するための資金を手に入れ辛い状況に追い込まれてしまった今、何かしら手を打ち、これまでと異なる生き方を見つけ出さなければならないのだ。

 この点で納得できたからマキア家当主エイーネの主張に賛同するのだ。……もちろん条件付きではあるが。


「では、混血児や平民の指示に従って生きると? そのようなこと……耐えられません!」

「そうではない。利用できるものは利用しつつ、北部貴族の伝統と秩序を守らねばならんのだ」

「ファニア様、そのような手があるのでございますか?」

「食糧や資金を手に入れられる手段があるというのなら、その手段は何としてでも手に入れよう。兵や領民を食わせられなければ北部貴族の不名誉になろうからな。しかし機を見て、主導権を握らねばならない」


 戦いには駆け引きが必要になる。力押しだけで勝てる戦いなど、魔獣相手でも余程の力量差がなければありえない。弱ったフリをして油断させることも時には必要なのだ。だが戦いは最後に立っている者が勝つのだ。最後に平民達の上に立っていれば貴族の勝利なのだ。


「それはどういう……?」

「どのような武器や道具を持とうとも平民や亜人、まして混血児は貴族の下の存在であると思い知らせるのだ。手段があるならその手段を奪えば良い。テリアス第一王子が求めたリカルドという手段ではなくリカルドが持つ手段をな」


 そもそも平民以下のリカルドの力に頼って力を示そうというのが間違いだったのだ。私も勘違いしていたが、その手段では貴族が己の力を取り戻せないではないか。平伏させる力は何でも良いというものではない。貴族自身が持つ力が必要なのだ。


 何かあるはずだ。リカルド達の上に立つための力が……。過去の貴族が強大な魔法力を持っていた理由がきっとある。今の我々はその何かを失ってしまったのだ。だから探す。


 リカルド達からであろうと他の何かからであろうと、貴族が失った何かを知ることができれば、貴族が貴族らしくいられた昔のようにきっと……。


「……できるのでしょうか?」


 自分でもどうすれば叶うのかは判らない。だが我々は貴族だ。あやつらに出来て我等に出来ぬ事があってはならない。できるできないではない。やらねばならないのだ。


「今はできぬ。だから耐えつつ探すのだ。貴族の力を再び示す方法を」

「リカルド達から学ぶというのですか?」

「それも一つだ。他に方法があるならその方法を探す」


 格下から学ぶという行為への嫌悪がラーブの表情に浮かぶ。


「私は……」

「ラーブ、短気を起こすなよ? 戦いは最後に勝てば良いのだ。そしてこれは貴族の誇りを賭けた戦いで、長期戦かもしれぬのだと肝に銘じておけ」

「ハッ」

「では役目に戻れ。そして我等の復権に繋がるモノを探すのだ。私はおまえを信じている。貴族こそ至高の存在と憧れ、幼き頃から努力し自力で騎士爵の地位を手に入れたおまえをな」

「畏まりました。ファニア様の命令をこのラーブ必ず成し遂げてみせます」


 馬上から一礼し、ラーブは来た道を戻るように馬を駆けさせて去る。


「……短気を起こすな……か。私自身が何もかも壊してしまいたくなっているというのにな……」


 だが、やり遂げなければならない。私の代で出来なくとも孫子(まごこ)の代までかかろうとも、貴族の本来の姿を取り戻す。それがリデス家当主である私の務めだ。


◇ ◇ ◇


「フロウ、ファニアは焦っているようだな」

「はい、本人は自重しようとしているようですが、カリング様の考えられている通りかと」


 カリング様の黒い瞳がファニア様を嘲っているかのように細くなる。私の主はこういう方だ。少し離れた場所から他者を観察し、己の思惑通りに動かそうとする。


「確かに、リカルド(あのような者)の思惑通りに動くなど忌々しいが、貴族の復権などどうでも良いではないか。あのにっくき王族……旧トーリア王国を併呑したマイノス家を倒し、このマルテア家こそがこの大陸を統べるに相応しい家なのだと(あか)すことこそ重要なのだ。そのためにリカルドの力が有益ならば利用し、不要になれば切り捨てるだけだ。テリアス第一王子をそうしたようにな」

「ですが、我がマルテア家も降爵させられました」


 王位簒奪に手を貸し、影響力に乏しいテリアスを傀儡にするカリング様の企ては失敗した。さすがに失敗には悔しがっていたが、切り替えの早い我が主は次の策を考えているようだ。


「侯爵から伯爵へとか? だが領地に手をつけられたわけではない。税収をあげるために領法を利用できなくなったのは痛いが、その損失をリカルド達が補ってくれるというのだ。大きな問題ではなかろうよ」

「それは確かに」

「で、どうだ? セーラ女王からリカルド達を切り離す手はありそうか?」


 力ある者から力を削ぐ。戦いで有益な手段だ。カリング様の下で内務及び諜報を任されてきた私は何度もこの方法を実現させるため動いてきた。賊退治では内部分裂を画策し、魔獣退治では相手の不利な環境を見つけ出しては誘う。時間はかかるがこちらの損失を抑えるために有益な手段だ。今回も同じ行動を求められている。


「短期的には難しそうです。リカルドはセーラ女王との契約を破るような人柄ではありません。セーラ女王がリカルドとの約束を破るようなことでもあれば別ですが、カリング様もご存じのように、女王は王族の地位を確固とするために平民や混血児からの支持を利用しようとしております。両者の思惑は一致しております。ですので最低でも五年間は現状維持となりそうです」

「その後は?」

「セーラ女王は継続して手を組もうとなさるでしょうね」


 セーラ女王は賢い。テリアス第一王子のようにあからさまな手駒にしようとするのではなく、対等の協力者の立場を築いて手駒に変えた。貴族には経済的利益を、領民には魔獣からの保護と貴族の特権的介入からの自由を、混血児達には身分上の向上を与えた。そうすることで王族への支持を固めようとしている。……王族は特に苦労することなく利益を手に入れようとしている。本当に賢い。


「リカルド側は?」

「リカルドは地位や名誉に関心はありません。金銭も十分過ぎるほど手に入る状況です。美しい妻と自由奔放に生活したい、その程度が彼の者の希望です。王国内で混血児達の生活が平民と同程度に保証されるならば、少なくとも女王と敵対することはないでしょう」

「つまり五年の契約期間を終えても、女王の方針に反することはない。そういうことか?」

「お考えの通りかと」

「それは都合が悪いな」

「ええ、王族への支持……特に平民と混血児からの支持が固まると、魔法力が衰えた貴族では対抗しきれません。それは我々北部でも同じことかと思われます」


 そう。理不尽な要求であろうと、力で平民達に押しつけられた時代は終わっている。だから表面的には公平であるかのように接しつつ美味しいところだけは手に入れられる立場を作りそこに貴族が立たなければならない。


「……フロウ。我がマルテア家は、マキア家やケイル家と同様かそれ以上に女王セーラの方針に従う……そう見せかける。だが、王族の寝首を掻く機会とその手段は探し続ける。この考えは実現可能か?」

「王家の力が弱まるまでその機会は訪れないかと」

「その機会を早める良い方法は無いのか?」

「次期国王のゼルテンスを手駒にできれば、手駒に出来なくとも近しい関係を築ければ……可能性も高くなるのですが、テリアスに力を貸していた我々は警戒されておりますので女王セーラの目も厳しいでしょう。近づくのはかなり難しいと思われます」


 リカルド達を寄越したことでさえ、王家による北部貴族の切り崩し手段だろう。経済的利益を与えられる王族に、困窮している北部の貴族や平民は反抗しづらい。特に特権的地位などもたない平民は女王の方針を大歓迎している。いくら軍事力に定評ある北部とはいえ、平民の力を利用できないのはかなり痛い。


 北部で最も軍事力の高いマキア家や領地は広くとも軍事力は北部中で最も低いケイル家が女王と手を組んだ。北部が一致団結して王族と対抗できる状況ではない。下手に動くと、王族の力を弱めるどころではない。マルテア家が潰されてしまうだろう。


「……他には?」

「ジョアナ王女かフレイア王女との縁組みを利用できれば、王国内に再び王位継承争いを起こせるでしょうし、国内を分裂させられ王族の力を弱められます。しかし、お二人と北部貴族を直接縁付けるのは不可能でしょう。ですので、我々の影響下にあり、しかし我々との関係を疑われない者が王女達のお相手に……というのが望ましいのですが」

「そんな都合の良い者は居ない、今は……。そういうことか」


 そうそうこちらの思惑にはまる者がいるはずもない。そもそも主に告げた案はあくまでも王族の力を弱める可能性があるというだけで、実現可能な案かと言えばそうではないだろう。ジョアナ王女とフレイア王女は王国国外、それもリカルド達が守るプチ・インテーラで暮らしている。


 表向きには、王族から切り離されている立場でもある。ゼルテンス王子が生存している間は、王位継承候補とも目されていない。ゼルテンス王子にはまだ嫡子はいない。だが生まれればその子が第一王位継承者とされるのも既定路線だ。


「はい」

「作れるか?」

「国内では難しいでしょう」

「……連邦国家メフルナーズか」

「可能性があるとすれば……ですが」


 長期的にというのであれば、ゼルテンス王子の側妃にこちらの意のままに動く者を送り込み継承者を生ませる手段もある。だが、その手段が成功するのは、側妃が早期に子を産むことが大前提だ。その上、我々が絶対支持するだけの資質をその子が持っていなければならない。

 我が主カリング様は不確実性の高い策は好まれない。だからこれまであげた策より失敗する可能性の高い策は告げずにおく。


「フロウ、手駒になりそうな者を探させろ。あと、他の手段もな」

「畏まりました。では早速」


 主に告げる案である以上、事前に当たりはつけてある。連邦議会が開かれ、連邦政府があるアルザングは、連邦国家メフルナーズでも小さくない発言力を持っている。そのアルザング代表サムソン=フレイザーの次男。彼ならばジョアナ王女の婿の座を望む可能性は高い。ゼルテンスの手でメフルナーズを統一国家へとと望む彼ならばコンコルディア王国の力を望むだろう。


 女王セーラもゼルテンスも、様々な民族国家があるメフルナーズとの併合は望んでいない。だが影響力は持ちたいと考えている。ここに付けいる隙がある。


 カリング様の部屋を出た私は指示を出すため配下を呼び出した。

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