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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第二部 いつもご馳走を食べ、ご婦人達の面倒をみよ。 第一章 王国改革
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北部四氏族会議

公私ともに忙しく前の投稿からかなり時間が開いてしまいました。またちょぼちょぼと投稿していきます。

 現在のコンコルディア王国北部と呼ばれる旧トーリア王国、その王都だった現ゴッドラン領領都ラマイン。歴史の洗礼にも負けない古い石造りの建物が並ぶ。暗く重く感じる雲が多い日がほとんどで、都市の雰囲気は一見すると重々しく薄暗い雰囲気すら感じる。こうして馬車の窓から眺めているだけでも陰鬱な感想さえ抱かせる空気が漂っている。


 ……だけど私はこの都市を立てた祖先が持っていた熱気と力を知っている。

 

 ゴッドラン領は冬の期間が長く、多くの農作物の生育には適さない寒冷地だ。食糧調達に苦労する地域だ。が、荒波でもまれた魚類や大型の動物を狩って生きる……不屈の精神力と強靱な肉体をもち多様の魔法を駆使する我等の祖先はこの地を愛しラマインを王都としていた。水棲魔獣や厳しい寒さをものともしない凶暴な陸上魔獣とも戦って勝ち、日々の糧を手に入れつつ、この苛酷な地に暮らす我々の誇りを祖先は積み上げてきたのだ。


 しかし、いつからだろうか?

 地位高き者達が弱き民……平民や奴隷を苦役に就かせて食の糧を得るようになった。古き激しい戦争に敗れコンコルディア王国に併合されて後、貴族という地位を得た我々は弱き民を一層働かせるようになったのだ。領民のために率先して戦うのではなく、自らの安寧のために領民を利用するようになってしまった。


 ……力と地位を持つ我々は民を守らず、気高い誇りを失っていったのよ。


 夫のリュギア=マキア=ゴッドランは政争に明け暮れ、テリアス第一王子の最大の後ろ盾として国の権力を握ろうとした。そして失敗し処刑された。夫の失敗に繋がる国王救出に手を貸したのは……私がセーラ女王の手を握ったのは《《あの》》美容液を今後も手に入れるためだった。それがきっかけだったのは間違いない。


 でも、マキア家当主の立場に就き、これからどのようにして生きていくべきかを考えるため領地領民を見て回って思った。


 私達は変らなければならない。

 民に親しまれなくとも良いし恐れられるのも良い。しかし、民に敬われる存在でなければならない。

 矜持を取り戻さなければならない……と。


 貴族特権を最低限にしようとするセーラ女王の方針を利用し、法に守られなくとも領地領民を守り栄えさせる存在としてみとめられなければならない。特権を失う程度で力を失うならば貴族が敬われるはずはない。同じ環境であっても平民より秀でていると示せないのなら、貴族など領民に寄生するだけの虫けらよ。


 今日行なわれる北部四氏族会議では、理想論だとか夢物語だと笑われるかもしれない。


 でも、マキア家当主の責任を担うために必要と領地内を見て回って、これからは民と向き合う姿勢を変えなければ貴族は滅ぶと感じたわ。だってリカルド達がもたらした《《あの魔石》》があれば平民でも強力な魔法を使えるようになるんですもの。もう、貴族は魔法で優位に立てないの。

 貴族と平民が戦いになったなら戦闘員の質ではさすがに貴族側が優位にあるけれど数的に圧倒的に劣勢なのは明らか。それどころか、リカルド達から魔石を与えられるのが平民ならば武力面でも不利になる。


 ……貴族は平民と対立してはいけない。そんな時代になろうとしている。

 だからあの魔石を手にし領地領民を守るのは貴族なのだと、リカルド達から……いえ領民達から認められなければならない。


 テリアス第一王子はリカルドを自らの下僕(しもべ)にしようとして失敗した。竜族とも手を組み、どのような魔法をも利用できるリカルドを意のままに動かそうとするのは人の身には不可能というもの。だから、平民よりも卑しいなどと蔑むことなくリカルド達とも手を組み、自らの力を高め見識を広め、志と誇りの高さを示し、貴族は畏敬するに値する存在なのだと知らしめなければならない。


 これまでと大きく異なる体制を築かなければならないのだから楽な道ではないのは判っている。

 今の立場を維持するには領民を利用し続けて居る方が楽なのかもしれない。リカルド達の力に頼った方が良いのかもしれない。

 しかし私はテリアス第一王子や亡夫と同じ轍は踏まない。我が一族と領地の未来のために茨の道であろうと必ずや踏み越えてみせる。


 我々北部を併合した王族……セーラ女王の敷いた道に沿って歩きたくはないけれど、私達貴族が他者に誇れる力を取り戻すにはこの機会を利用すべきね。王命という大義名分を利用して我が領地、いえ、北部をより強く、北部貴族をより気高い存在へ昇華させてみせる。


 それこそが、旧トーリア王国王族の血を引く……現マキア家当主である私エイーネ=マキア=ゴッドランのすべきことよ。

 

 ……もうそろそろ会議堂に到着ね。北部四氏族をまとめる最初の戦いを始めましょう。 



・・・・・

・・・


「……以上が王室からの命令です」


 マキア家次期当主の嫡男ダナエル。今年三十歳になる息子は、亡き夫によく似た引き締まった精悍な顔立ちで、その表情を更に鋭くしつつ女王セーラが発した宣言を北部四氏族の代表達に説明した。


 セーラ女王の宣言の要旨は……。

 一つは、貴族特権は徴税権や徴兵権などのうち一部の例外を除いて廃止される、貴族と、平民や亜人そして混血児との間に身分上の差異を設けてはならない。

 二つは、これまでは国法に反さなければ各領地で自由に制定できた領法だが、今後は国の許可が必要となる。これに伴い、これまでの領法は全て無効とされる。

 三つは、貴族が平民達を使役する際には必ず穏当な処遇――基本的には貴族身分の者達と同じ待遇――を与えること。

 以上の三つだ。


 ダナエルの話を聞いた他領の領主達の表情は一様に優れない。

 北部は軍事力にこそ優れているけれど、経済的には王国中央や南部に比べて貧しい。この経済的に不利な地域特性を持っているからこそ、旧トーリア王国はコンコルディア王国に併合されることとなった。


 北部の軍事力は、貴族兵の勇猛さと共に徴兵された民それぞれの武力に支えられている。貴族兵には参戦すれば最低限の補償があるが、徴兵された民は戦いに勝利すれば恩賞を与えられるが負ければ何も与えられない。徴兵兵の戦意を支えてきたのは、”勝たなければ戦い損になる”という面だった。貴族としての矜持など持たない平民が、勝敗に関係なく最低限の補償を得られる貴族と異なり、高い戦意を保てた理由だった。


 戦では勝てば敵から賠償を得られる。土地や金銭を得て、そこから参戦した兵に分配できた。敵が国家ならまだいい。賊だったり魔獣だったら勝っても賠償など得られない。


 これまでは敵が何であれ戦いが生じる際には必ず徴兵してきたが、領地が貧しいままなら今後は難しくなる。だから領地を経済的に栄えさせなければならない。

 

「この宣言は、北部だけでなく王国全土へ向けてなのだな?」


 深く刻まれた眉間の皺をさらに濃くして、マルテア家当主カリング=マルテア=ドルンが睨むようにダナエルへその濃紺の瞳を向ける。


「はい、全国へ向けての宣言です」

「表向きはそうでも実質は北部向けの嫌がらせではないか!」


 カリングに答えたダナエルに、机に拳を落としながらリデス家当主ファニア=リデス=ゴーバルドが吼える。


「いえ、そうとは言い切れません。経済的に豊かな南部二領はまだしも、中央のほとんどにも損になる話でしょう」

「だが最も負担が重いのが北部なのは間違いないではないか!」


 北部に最も辛い話。その通りだと言わんばかりに、目を血走らせるファニアにカリングは無言で頷く。 


「仕方ありません。我々北部四領はテリアス第一王子を支持してきました故……」

「ふん、女王と手を組んだマキア家とケイル家は降爵を免れたものの旧当主は処刑され、マルテア家は侯爵から伯爵、リデス家は伯爵から子爵へと降爵されたしな」


 その通り。マキア家の存続、北部四領への処分軽減を条件に私は王位簒奪に積極的だった夫のリュギアを含む反国王派を捕える手助けした。私と同様に夫サリスの捕縛に手を貸したケイル家当主に就いたロナ=ケイル=ブルグトと視線を合わせ目を細める。


「我々は結果的に王位簒奪に組みしたのですから処分は軽かったと考えますが」

「そうかもしれぬ。そうかもしれぬが……」


 冷静に状況を把握し意見を述べるダナエルから視線をテーブル上に移し歯噛みして怒りを抑えるファニア。


「私はこの機を活かし、領地の……いえ北部地域の体質を変えるつもりです」


 直情的なファニアが大人しくなってきたところで私は口を開いた。前もって話を合わせているロナが私の横で頷く。


「体質を変える?」


 ファニアよりは冷静なカニングが私を怪訝そうに見る。


「ええ、平民や混血児による奴隷と、奴隷に準じる身分の者達を身分差や武力によって力づくで使役して体制を維持するのではなく、《《彼ら》》との協力関係を築いた体制へと変えるのです」

「彼ら……だと? 平民や混血児などの卑しい身分の者と対等であるかのような物言いだな」


 私のモノ言いが気に触ったファニアが皮肉を言いたそうに鼻に皺を寄せる。


「我等と彼らは対等ではありません。ですが対等であるかのように接する必要が今後はあるでしょう」

「何故だ! 何故そのようなことをせねばならん!?」

「彼らには、領地経営改善のために積極的に動いて貰わなければならないからです」

 

 平民の現状は自分達の食い扶持を稼ぐことに必死で、領地のために働く視点がない。だから新たなことチャレンジすることもなく、これまで続けてきた仕事をこなすだけの生活を送っている。奴隷は当然、主に命じられたことをこなすだけで、仕方ないから働いている。そこには向上心などなく、当然領地のためになどどいう考えも無い。


「これらの状況を変えるために、セーラ女王の協力を得られる約束をしています」

「協力だと?」

「はい。《《あの》》リカルドの力を借りられるようにしてくれるとのことです」


 リカルドの名にファニアとカニングは反応し、カニングは不満そうに口を開いた。


「はぁ? 元貴族とはいえ、今はリガータの森で亜人等と暮らす……平民以下の者の力を借りるというのか?」

「ええ、誰でも強力な魔法を使える魔石を用意できるだけでなく、南部二領を栄えさせた知恵も持ち、プチ・インテーラという新たな村を食に困らない豊かな土地へと変えたそうです。その力を借りられるのです」

「テリアス第一王子が王位簒奪に焦るきっかけともなったあの者の力を借りるというのか……」

「過去に目を向け有益な協力を拒むのは生産的ではありません」


 私を後押しするようにロナが静かに意見をあげた。


「そなたとエイーネ殿は、《《あの美容液》》を今後も欲しいだけではないのか?」

「あら? カニング殿のご夫人やご令嬢達には必要ないというのでしたら……」

「そ、そ、そんなことは言ってはおらぬ! ただ、女性の欲を満たすためが本音で、領地改善などは建て前ではないのか危惧しておるのだ」

「女性の欲を満たすことと領地改善を両立できるとしたらいかがです?」


 リカルドが提案した北部改善案の一つをここで明かす。


「そんな都合の良い話があるというのか?」

「ええ、リカルドが言うには、《《あの美容液》》を作るには大気中にある光属性因子が不可欠で大量に必要ということです」

「……」


 既に内容を知っているロナとダナエル以外は、疑わしそうに静かに私を見ている。


「北部ならば南部よりも大量に効率的に集められるので、美容液製造工場を建て、属性因子を探知する力に優れる傾向の強い混血児達を働かせる。そうすれば、今は南部地域が独占している美容関連の権益の半分以上を手に入れられるようになる、とのことです」

「俄には信じられんな。南部がわざわざ大きな権益を……その一部とはいえ手放すとは思えん」


 腕組みしてテーブルの上に視線を落とし、ファニアは唸る。ファニアの感想は普通の感覚だ。今やコンコルディア王国で強い発言力を持つ南部二領の力の原泉はその経済力だ。その力の一部を手放す妥当な根拠など考えにくいのだ。


「リカルドが言うには、美容液の権益の一部を北部に渡しても南部は困らないそうです。それどころか、人手が足りないために、需要に生産が追いつかない状況が続いているため、製造面だけでなく流通面でも混乱が生じがちで北部で美容液製造が行なわれるならば助かるとまで言っておりました」

「この大陸中の女性が求めて止まないあの美容液製造の権益を一部とは言え北部に渡しても南部は困らない……恐ろしいな」


 そう、リカルドの家に金を生む木があると言われても信じてしまいそうよね。北部改善案をリカルドから聞かされた時には、カリングと同じく恐ろしかったわ。


 でも美容液製造工場建設以外の改善案も聞いて、私は賭けてみようと覚悟したのよ。

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