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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第一部 情に棹させば流される    第一章 傭兵隊結成
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専用武器

 試作品に改良を加えた魔法拳銃をブルーノ親方が持ってきた。

 リボルバー型拳銃を模した魔法拳銃を早速持ってみる。


 良い感じだ。握ったグリップの感触、引き金から感じる適度な反発。腰のベルトに着けた専用のホルスターとの出し入れと、その際に感じる重さ。親方から渡されたリボルバー型魔法拳銃は全て要望通りの出来だ。


 拳銃を左右に降ると回転輪胴部分がガチャリと出てくる。回転輪胴部にはコンバータータイプの魔石を六個収められる穴が開いている。その穴の一つに準備していた魔石をカチッと音がするまではめ込んだ。回転輪胴部を銃に戻し、ターゲットとして用意した的に向ける。的は木のツルを利用して枝に吊してあるのでゆったりと左右に揺れていた。


 狙いをつけて引き金を引く。撃鉄部に嵌められたエネルギー・ストレージタイプの魔石と回転輪胴部に嵌められたコンバータータイプの魔石がキュッと魔金属マギレウムを挟んで接触した音が聞こえると、的はボッと燃えだした。撃鉄部は回転輪胴部から離れるが、本来のリボルバー式拳銃と異なり、弾丸が撃ち出されるわけじゃないから回転輪胴部はずれない。


 今回装備したコンバータータイプの魔石は熱変動系魔石の一種。火属性因子と魔力でコア部を創り、術式を封入した霊力でコーティングしている。

 術式は四種込めた。生活魔法程度の炎を生み出す術式、燃えやすいターゲットを燃やせる程度の火力の魔法が発動する。二種類目はターゲットを包み込むような強い火力の魔法が発動し、中型魔獣程度ならその皮膚をこんがりと焼く力がある。三種類目はターゲットを中心とした家一軒分の範囲を燃やす火力の魔法が発動する。そして四種類目。エネルギー・ストレージタイプの魔石に残る魔力を一気に使用して村程度の範囲ならば爆消させられるほどの火力を持つ魔法を発動させられる。この四種目ならば大型の魔獣相手でも対抗できる。ただし四種目はあまりに威力がありすぎるからリミッターをかけていて、ただ引き金を引くだけでは発動しない。拳銃の横に付けられたセーフティを解除しないと四種類目の魔法を使用しようとしても魔石は反応しないのだ。


 魔石をコーティングする霊力には、魔法発動術式の他にこのように発動条件や使用者も創石の際に書き込める。特定の使用者の霊力にだけ反応するよう術式に書き込んである上に、意思に沿ってどの種類の魔法を発動させるかを決定する術式も書き込んである。


 俺だけの、そして俺が魔法を利用して戦える武器。自身の力だけでは魔法を発動できないのは今までと同じだけれど、自由に魔法を利用できるというだけで俺の心は沸き立つ。これでセキヒやソウヒに守られなくても魔獣を倒せる。ここまで十年かかった。長かったようにも思えるけれど、魔石を研究し創石の技術を高める日々は楽しかった。


 俺は用意した的を一通り燃やすと、横で様子を見ている親方にニヤリと笑う。


「文句なしだね。あと一丁も……」

「判っとるよ。数日後にはもう一丁用意できる。一度造ったものだからな。次はそう時間はかからんよ」


 まだもう少し触れていたかったけど魔法拳銃をホルスターに収める。


「そういえばセキヒから聞きましたか?」

「ああもちろんじゃ。次は、エ……エアーバイクとかいうシロモンじゃろ?」

「はい、構想は理解して貰えましたか?」

「うむ。また忙しくなりそうじゃ。肝となるのは車体バランス、あと魔導タービンでどの程度魔力の消費量を抑えるか……じゃな」


 車の内燃機関の代わりに魔法でタービンを回す魔導タービン。車両や洗濯機などに使える回転エネルギーを生み出す装置だ。初歩的な魔法で動くので魔力消費量がとても少なく済む使い勝手の良い装置だからか、親方はこの魔導タービンをとても気に入っている。


「魔力消費量はエネルギー・ストレージタイプの魔石を通常の倍積めば問題ないと思うので……」

「そうか。では魔石格納庫を工夫するとしよう」

「お任せします」

「そうじゃ。混血児に錬石を教えてるらしいじゃないか」


 うむうむと満足そうに頷いたあと、思い出したように錬石教室の話を振ってきた。


「はい。俺が居なくなっても生きていける(すべ)を身につけさせたいんで」

「その話をアドリアにもして、おまえも錬石を学んではどうかと言ったんじゃが」

「アドリアは親方から鍛冶技術をみっちり叩き込まれてるんですから、錬石を覚えなくても大丈夫でしょう」

「ワシも生きていくだけなら大丈夫と思うんじゃが、錬石の方が儲かるんじゃないか?」


 青みがかった銀の瞳を俺に向け親方は、混血児の孫のアドリアの行く末を心配している。確かに、錬石の方が鍛冶師より儲かるだろう。魔石は消耗品だから定期的に新たな魔石に交換する必要がある。騎士ならば一年に一度は属性一種類ごとに交換するだろう。錬石した魔石は最低でも一個大銀貨三枚になる。小銀貨で計算すると三百枚になる。慎ましい生活ならば家族三名で一日辺り小銀貨一枚で暮らせる。つまり錬石済みの魔石を二個売れば食べていくのに困らない。一人の騎士が最低でも三個は魔石を一年で必要とするから、浪費さえしなければ十個錬石すれば豊かな生活が望める。


 鍛冶仕事だと細かい仕事を毎月四回、大きな仕事ならふた月に一回請け負わなければ豊かな生活は望めない。儲かるのが圧倒的に錬石なのは間違いない。


「儲かるのは錬石でしょうね。でも親方並みの鍛冶技術を身につけたらアドリアが混血でも仕事には困らないでしょう?」

「アレもだいぶ職人らしくなってきたしな。まあいい。アドリアが何かで困った時は力を貸してやってくれ」


 帰り支度をしながら親方は、アドリアのことを満更でもない風に褒めた。やはり孫のことが可愛いんだろう。


「もちろんですよ。アドリアは俺の命の恩人ですからね」


 家から追い出され街でも暮らせなかった俺はリガータの森へ入りこんだ。魔力喰いのおかげで土属性魔力が無秩序に漂う……森の瘴気は気にならなかったし、多少は武器を扱えたから狩りでもしながら生きていこうと思ったんだ。

 だけどリガータの森は甘くなかった。

 俺が狩れる程度の動物は滅多に見つからないし、頻繁に魔獣と出くわして逃げるばかり。俺が知ってる程度の森で食べられそうな草木も滅多に見つからなかった。

 飢えて死にそうだったところをアドリアが見つけ助けてくれた。そしてその後ヴェイグと出会って……といろいろありながら今も生きていられる。


「頼んだぜ」


 俺は後ろ手で手を振り集落へ向かう親方を家の外で見送った。


 

 その後、魔石に含まれる属性因子を感じ取る訓練に集中する子ども達の様子見守り、感覚を掴めるまで地道に魔石と向き合うようにと帰り間際の孤児達へ伝える。そしてソウヒが用意してくれる夕食へ向かった。


 今夜は、グレイボアというイノシシに似た小型魔獣のロースステーキとリガータ鳥を煮込んだスープ。


 グレイボアもリガータ鳥も、血抜きと魔力抜きをせずに口に入れるとクソ不味い。

 血抜きと魔力抜きをしないと、獣臭さが濃厚だし、顎が疲れるほど噛んでもかみ切れない。血抜きくらいはどんな獣に対してもする。だけど魔獣はそれだけでは食用としてダメだった。

 ところがある日、俺のそばにあった魔獣を解体したら、いつもなら感じるようなきつい獣臭さではなくほんのりと香る程度だった。そこで試しに食べてみたら、メチャクチャ美味しくかったんだ。


 俺はその時たまたま魔力喰いの力を解放していたのを思い出し、もしかすると魔獣の肉から魔力を奪うと美味しい肉になるんじゃないかと、その日のうちにセキヒに頼んで魔獣を狩ってきてもらって実験した。……ビンゴだったよ。血抜きと魔力抜きをすれば魔獣も立派な食材になる。そう確信した。


 グレイボアは豚肉を更に甘く感じるような味で、余計な手間をかけない方が美味しいかもしれない。もちろんシチューに入れても炒め物に入れても美味しいんだけど、俺としては塩を振っただけのソテーが好み。そんな俺の好みを知っているソウヒは、この日ロースをソテーしてくれた。


「うまい! うまいよ、ソウヒ」


 噛むたびに甘い脂が肉汁と一緒に口にひろがる。あっさりとした味付けだから飽きずに頬張り続ける。リガータ鳥のスープには鶏肉の他に酸味のある野菜が一緒に煮込まれていて、ロース肉の脂を洗い流してくれるようだ。ダークエルフの集落から購入しているパンをちぎって頬張り、またソテーを頬張りスープに口をつける。


「今夜も満足させていただきました! ソウヒありがとう」


 幸せの溜め息をついて、居間のソファに座ろうとしたところ、扉を強く叩く音がする。「こんな遅くに誰でしょうね」とセキヒが扉をあけた。


「リカルド! 大変だ! アドリアが街から戻ってこねぇ!」


 浅黒くてちょっとくらい顔色が変った程度じゃ判らない親方の顔が真っ青だった。

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