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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第五章 秩序崩壊への一歩
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王族の思惑

 俺、セキヒ、国王に王妃の四名が王宮二階のベランダで、使用人も遠ざけてテーブルを囲んだ。最初にテリアスのしでかした事への国王からの謝罪があり、続いて次期女王となる王妃への支援を頼まれた。


「支援とはどういったものをお望みでしょう?」

「魔石と新たな魔道具の提供はどうだ?」

「……条件付き貸与でなら考えます」

「貸与? 所有は認めないということか?」


 国王から余裕が一切消える。


「そうです。平民やリンクスなどの弱者を弾圧したり、他国との戦争に利用されたくないので」

「貸与と言っても、こちらが返さなければどうしようもないのではないかな?」

「私やリンクスは魔石を作る際に組み込む術式には必ず使用者や使用可能期間などの条件を入れています。ですから誰にでも使用できるわけではなく、またこちらとの約束が守られなければ使用期限以降使用できなくなります。期限前に更新が必要になります」


 国王の顔色が更に悪くなった。俺やリンクスが用意する魔石に制限術式が組み込まれているとまでは想像していなかったようだ。王妃はというと、国王救出の際に貴族女性に渡した魔石から察していたようだな。れとも、俺達が用意する魔石の性格をジョアナから聞いていたのかもしれない。数日しか使用できないようにしていたとリンクスのみんなからは聞いている。それとも、俺達が用意する魔石の性格をジョアナから聞いていたのかもしれない。とにかく動揺した様子がちっとも見えない。

 ……王妃の方が肝は据わっているみたいだ。俺達と手を組む際の壁についていろいろと予想していたんだろうな。


「では条件とは何だ?」

「私は政治に首を突っ込みたくないんです。ですが、私達の用意する魔石を利用するというなら、リンクスのような弱者、貴族から理不尽な要求される平民の状況を改善して貰わないとね。

 弱者を弱者のままで生活させるというのならリンクスには不満が溜まる。これは確実です。状況が改善されないならリンクスから魔石を貸して貰えなくなるでしょう。もちろん私も貸しません。

 貴族自身にはさほどの魔法力がもう無いのに、これまでと同じ態度で平民を支配しようとするなら私は平民に魔石を用意する。リンクスにはまだ作れないほど力を持つ魔石を渡す。その結果、貴族と平民の間で戦いが生じるとしても私は知らない」

「平民に貴族に渡すより強力な魔石を……だと?」

「この程度は予想してらっしゃったでしょう?」


 国王は無言になり腕組みをして俺を睨む。


「……」

「国民を従わせようとするなら責任を果たさなければなりません。統治の片棒を担ぐ役割を私達に求めるならその代償を払っていただきたい。そういうことです。陛下もテリアスに仰っていたではありませんか。体制を変えてでも生き残る知恵が求められていると。まったく同感です」


 俺は笑みを浮かべ国王の反応を待った。しばらくの間を置いた後、国王は軽く溜め息をつき王妃にチラと視線を向けた後笑い出す。


「くくくくく、わははは……。リカルドよ。確かに予想から大きく外れていたわけではないが、現実に目の前で言われると憎らしいものだな。統治には力が必要だ。その力を貸してくれる相手には相応の対価が必要だろう。余は王妃に王位を譲る身だ。今後の王国を支配する王妃の意見に従うとしよう」


「私はリカルド君の意見に賛同しようと思うわ。ただ、一つ質問していいかな?」

「どうぞ」

「望めば、王になることも大陸の覇者になることも君には可能なのよ。魔法を自由自在に利用でき、竜族を味方につけているのだから簡単なことよね。なのに何故それを望まないの? 大陸を支配すれば君が希望している世界を作れる。何故そうしないの?」

「理由は大きく二つあります。一つ目は、多数の人々の生活に責任持てるほど気持ちが強くないこと。そして二つ目は、私は特殊な人間だからです。国を治めるのは特殊な人間であってはならないと考えているからです」


 国を治めるための知識はこの時代の知識であるべきだろう。理解できる考えで運営しなければ人々はついてこない。人権だとか平等だとか、前世で学んだ普遍的な理念に俺は縛られている。だがこの世界では普遍的どころか馴染みのない理念だ。簡単に言えば、この世界の大勢に理解して貰えない考え方をするのが俺だということだ。


 前世では人権などの普遍的な理念を長い歴史の中で手に入れた。古代や中世に人権だの平等だのと訴えても受け入れて貰えなかったに違いない。受け入れて貰うには受け入れられる器が必要になる。その器は悲劇的な事件を何度も経験した先に作られるものだろう。本来は辛く悲しい出来事に遭わなくても理解され受け入れられたいものだけれど、人はそこまで賢くない。だから、この世界で理解されるのはやはり経験を積んだ先のことだろう。


 俺は国王に要望はするし、俺が関わる以上は守って貰わないと困ることは伝える。だけど、俺自身が国を統治しようとすれば、自ずと俺の持つ価値観や思想で行なおうとするから国民には理解されないだろうし反発も大きくなるだろう。


 このような考えは、俺が転生者だと知らない国王や王妃に伝えようとしても無理だろうし、俺の特殊な事情を話すつもりもない。そして俺が言った特殊な人間という言葉の意味を、魔石を創れる力と竜族と親密な関係を持っている人間と受け取るに違いない。それもまた事実だから否定するつもりはない。


「国王が特殊な人間ではいけないの?」

「そう考えます。私にしかできないことが多くてはいけないのです。特殊な能力ある者が居なくても実行可能なことで、国や国民のためになることを責任を持ってやっていく方が国王に相応しいと考えます」


 平民と違って貴族は特別な人間という考えが一般的な世界だ。当然、王族も特別な人間と考えられている。だから俺の考えは不思議に聞こえたのだろう。国王も王妃も眉に皺を寄せ、俺が言ったことをどう受け止めようか考えてるようだ。


 リンクスにもエネルギー・ストレージタイプの魔石は作れるようになった。コンバータータイプは複雑な術式が必要な魔法のための魔石じゃなければ作れる。魔獣討伐には十分な魔石を作れるんだ。俺はもう必要ない。これから俺がすべきことは、魔法をエネルギーとして利用した道具の可能性をリンクスに伝え続けることだろう。国への支援もリンクスが担えるようになればいいのだ。俺の関与は極力減らし、リンクスが自分達で考えて国と接していけばいいんだ。


 支援するための条件はリンクスにもあるだろう。それは後ほど王妃に伝えて考えて貰う。その上で話がまとまったら、魔石と魔法を利用した道具類の提供は基本的にリンクスが行ない、リンクスには作れない魔石がどうしても必要なときは俺が相談に乗る。そう王妃に伝えた。


「リカルド君はこれからどうするの?」

「妻とのんびり暮らしていくつもりですよ」


 そう。経済的にはもう十分過ぎるほどの貯蓄も収入もある。まったく仕事しなくても良いけれど、それはそれで社会との接点が失われそうでなんか嫌だ。好きな仕事だけを選んで働き、自由な時間を多く作りたい。いわゆるスローライフが望みなんだ。


「国体を変えてしまうほどの力を持ちながら現役を引退した老人のように気ままに暮らそうというの?」

「ええ、気ままに生きる、それこそ私の望みですから」

「欲が無いのか欲が深いのか判らない人ですね」


 王妃は深く溜め息をつく。そんな残念そうな態度しても譲る気はない。


「私は贅沢なのです」

「判りました。あとは私が王位に就いた後にしましょう。それまでにお願いしたいことを具体的に整理しておきます。あなたもリンクスの皆さんと相談しなくてはならないでしょうしね」


 話は終わったとセキヒに目配せして席から立つ。胸に手を当て儀礼的に一礼したあとベランダから王宮内へ向かった。セキヒと「さあリガータの森へ帰るぞ」と話しながら玄関へ向かっていると、ベランダの外で見かけた侍従が「お待ち下さいませ」と駆け寄ってきた。俺達を呼び止めた用件は、王妃がまだ相談したいことがあるので今夜時間を作ってくれないかということだった。


「王妃殿下が即位後に話し合うはずだったと思うけど?」

「立場が替わる前にご相談したいことがあるようでして」


 王妃より女王の方が何かと動きづらくなるということか。そうだとしても何故先ほど話さなかったのか。もうじき引退する国王が居ては困るということもないだろうに。


「それは構わない。だけど明日には王都を離れる予定でこちらにも準備があるから、長い時間は無理だよ」

「そうお伝えします。後ほど滞在先へ使者を送りますので宜しくお願いいたします」




 使者によると、王妃は夕食が済む時間を見計らって訪問すると言うことだった。気になったのはエリザベスも同席して欲しいという点。もしかすると俺よりもエリザベスに話があるんじゃないだろうか。だとすればどのような話だろう? その話を聞いたエリザベスがこの流れを判っているようだったのがちょっと不思議だった。 


 王妃はお忍びということでそこそこの商人が着るような服装で、安っぽいマントを羽織らせた数人の護衛と共に訪問した。ちょっと見には高貴な方とは見えないように装ってきたのは、反国王側の貴族も居るという理由があり王都がまだ安全とは言えないからだろう。それでも王宮に再び招くのではなく自ら訪問したのは、国王の居ない場所での相談だかららしい。


 俺とエリザベスが借りている部屋ではなく宿に個室を頼み、護衛には部屋の外で見張らせて話し合うこととなった。


「エリザベスさん。お約束していた話をさせていただきに参りました」


 王妃がそう話し始めた。俺は驚いてエリザベスを見ると、彼女は判っていると頷く。


「ジョアナ様とフレイア様をお預かりする約束は守らせて頂きます」

「え? そんな話をいつ?」


 俺が捕えられたとヴェイグから教えられたエリザベスは、ジョアナとお義母さんのところへ行った。その後リンクスとも相談して俺を救出する方法を決め、ソウヒの眷属の飛竜の協力を得て王都へ来た。ここまではエリザベスから聞いて知っている。


 王妃に見せた……ジョアナから預かった手紙には、救出への協力依頼の他に、自分が世話になった俺を理不尽な理由で牢に捕えたということを知り、怒りと恥ずかしさから王族のままで居たくないという内容があったという。テリアスの暴挙を止められなかった王妃への強い非難も書いてあり、これまで両親を責めたことのないジョアナの怒りがどれほどのものかを王妃は感じたのだという。


 王妃は別の理由もいくつかあって、希望通りジョアナを王族名簿から外す決断をし、姉好きなフレイアも一緒に預けると決めたという。


「王妃殿下は王位継承者についてどうお考えに?」


 王族にとって王位を親族、特に子孫へ繋げていくのは最重要な課題だろう。複数の妃や妾を設け子どもを増やすことが責任のように考えられている。なのに王妃の反応はあっさりしている。それが不思議でならない。


「ゼルテンスを教育し直すと陛下は仰っております」


 王妃が言うには、王位簒奪事件がなければテリアスとゼルテンスの二人を教育し直すつもりだったらしい。しかしテリアスはしてはならないことをした。簒奪者を許しては王室の姿勢が問われる。残念だがテリアスを処罰しなければならなくなってしまった。


 息子に裏切られた国王はかなり精神的に参ってるようで国政を担い続ける気力がないそうだ。ゼルテンスに王位を譲るにしても王位継承権を奪ってまもない今はまだ難しい。そこで一時的に王妃が王位に就いて国政を担う。

 ……どうりでいきなりの譲位だ。国王が弱ってるとはなあ。病気じゃないから治癒魔法は役に立たないし。


 過去にも女王は居た。だから保守的な北部の貴族も内心はどうあれ表立って騒ぎはしないだろう。だが、テリアスを支援してきた北部としては次代の国王がゼルテンスというのは面白くないはずだ。国政への自分達の影響力が低下するのは極力避けようとするだろう。そこでジョアナとフレイアを取り込もうとするのは間違いない。


 王妃はジョアナとフレイアを王族から外す理由を深刻そうに説明を続ける。


「陛下も私も継承争いの火種を残したくないのです」


 エリザベスから協力を求められたときは、政変のゴタゴタに巻き込まれないようにとジョアナ達の身柄を守って欲しいと願った。しかし、国王を救出したあと話し合った結果、ゼルテンスを次期国王に就かせる準備が整うまで王妃が国王に就くとなったときジョアナ達が危ういことに気づいたそうだ。


「ジョアナとフレイアが希望すれば王族に復帰させられます。ですがそれはゼルテンスが王位に就き国体が安定してからの話です。つまり北部貴族達の影響力を削いだあとにしたいのです。国体が安定する前に北部の手駒にさせられぬよう二人の身柄を預かって欲しいのです」


 王妃は強い気持ちがこもった瞳を俺に向けている。

 

「で、エリザベスは二人を預かると約束したんだね?」


 エリザベスは「はい」と頷く。

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