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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第五章 秩序崩壊への一歩
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審問会

 王位簒奪の協力者への尋問が終わり、テリアス自身の尋問が始まるらしい。それで被害者の一人である俺もその審問会への出席要請が国王からあった。


 王国民じゃない俺は法律上では守られる対象じゃない。奴隷と同じように人としてではなく、物として扱われる立場のはずだ。


 人権なんて概念のないこの世界じゃ審問会に出席したところで発言権も証人の資格もないはず。だから不思議に思って、俺はどのような立場で出席するのかメッセンジャー役の騎士に訊いたんだ。すると、「王族からの呼び出しに応じて王都訪問して拉致されたのだから、一定の手続きを踏んで訪問する他国の来賓や商人と同じ扱い」と言われた。つまり例外として国法上発言権を持つ立場ということらしい。


 正直なところ、王族に対する審問会なんていう仰々しいものに関わりたくはない。国王としては身内を裁く正当さを国民、特に貴族達に示したいのだろう。審問会でテリアスと彼を持ち上げた側の貴族の罪を公にするのは明白。セーラ女王の即位は正統であると示すために必要だろう。


 だけどテリアスと行動を共にした貴族は不満を抱えるに決まっている。彼らは彼らなりの理屈で自分達は正しいと考えているだろうから、自分達に下される処罰を理不尽と考える者も居るかもしれない。その不満は立場的に弱い者へ向かう。彼らにとっては平民ですらない俺であったりリンクスになるのは自然だ。その結果、トラブルに巻き込まれる可能性が高くなる。


 出席なんかしたくないとセキヒに愚痴を言うと、危険な色を瞳に浮かべてこう言った。


「何なら私が出席しましょうか? リカルド様を牢に閉じ込めた輩です。厳しい罰が下るようはっきりと言ってやりますよ?」


 牢を破壊して俺を連れ出すなどセキヒには難しくなかった。それは判っている。だけど俺が大人しくしているからセキヒは我慢していた。その鬱屈がセキヒに溜まっているんだろう。


「リカルド様が出席されないのは困ります。テリアス様や他の貴族を裁くためというだけでなく、王国のこれからを決めるための審問会になるのでしょうからちゃんと出席してくださいね?」


 エリザベスは俺が知らない何か知ってる様子だ。


「王国のこれから? それは俺が居なければ困ることなのかい?」

「はい。リカルド様とリンクスの皆様は力を持っていますから」

「それは貴族達より魔法を使えるという意味でかな?」

「魔法を誰でも使えるようにできるという点でです」


 今回、貴族女性を中心にした集団で王宮内の騎士団を制圧した。少なくとも貴族の中では魔法力も武芸にも優れているはずの騎士団が女性達に抗えなかった。俺とリンクスは貴族女性ではなく平民の集団でも同じ事を可能にする力を持っている。貴族が苦労している魔獣討伐を容易くできるその力が、もし王族や貴族へ向けられたなら国の体制は崩壊してしまう。


 だから国王と王妃は、これからのコンコルディア王国では俺やリンクスと協力関係を結ぶ必要があると考えている。


「結局のところ、テリアスと同じく俺達の力を支配に利用したいということだよね」

「そうですわ。でも、貴族が貴族らしくあるためにというのでなければ宜しいのではないですか? 力をお持ちなのは事実です。そして力は正しく使うべきではありませんか?」

「使わないという手段もあるよ」

「ええ、力があると知られていなければその手段も良かったと思います。ですが、知られてしまっているので意味がありません。リカルド様にはお判りですよね?」


 穏やかで芯の通った声でエリザベスは言い、俺の瞳をのぞき込む。

 彼女の言う通りだろう。自分達を上回る力を持つ者の存在は脅威と見做されてしまう。敵意の有無は関係ない。戦いとなった際に勝てない存在を恐れるのだ。本当に危険な状況じゃなくても、危険が想像できるというだけで恐れてしまう。それは自分の身を守るためには必要な意識だけど、不必要なほど過剰な危機感を生み攻撃的な反応に繋がりやすいからやっかいなんだよな。


 万が一に備えるためにと言えば聞こえがいいけれど、要は、戦いになれば自分達が勝てる裏付けを欲しがる。それは人間同士なら相互に同じ反応を見せ武力増強競争という結果を生む。

 ……俺はその状況が嫌いだ。


「だけど、国家と深い関係になるのは嫌だよ」

「どうしてもでしょうか?」

「うん、どうしてもだ」


 エリザベスは俺の気持ちを確かめるようにじっと見つめている。晴れた日の海のような明るい瞳は俺から逸らされることはない。俺も彼女から視線をそらさずにいた。


「……安心しました」

「え?」

「これまでに何度も聞いていましたが、リカルド様はやはり政治に関わらないと判って安心したのです」


 柔らかい笑みを浮かべ、エリザベスは胸を撫で下ろしている。


「エリザベスは、俺に王族を手伝って欲しいんじゃ?」

「いいえ、私は今の生活が気に入っています……」


 エリザベスは自分の気持ちを説明し始めた。

 今回、俺の危機と判りヴェイグ等竜族とリンクスに協力を求めた。最初から積極的に俺を救おうとしていたヴェイグ等はもちろんリンクスも躊躇うことなく快く了承してくれたそうだ。

  

 俺の救出には王妃の協力が必要だった。竜族とリンクスの力を前面に出して力づくで救出することも可能かもしれないけれど、セキヒを伴っている俺がどうして捕まったのかを考えると迂闊なことはできないとエリザベスは慎重に動いたことを教えてくれた。


 ヴェイグが命じてソウヒの配下の飛竜を数体呼び出しエリザベスとリンクスを王都まで運んだそうだ。王都では真っ先に王妃に会い、俺の救出に力を貸して欲しいとお義母さんと共にエリザベス頼んだという。そこで俺の救出には国王の力も必要と先に国王救出を始めた。


 国王は王宮内にある隠し部屋を探せば必ず軟禁されているに違いない。王妃はそう言ったそうだ。テリアスには王位簒奪はできても国王殺害はできないと見抜いていたらしい。

 この仕事は俺を救出する直前にリンクスとソウヒが見張り役を捕縛して国王を救出した。


 救出した国王に竜族とリンクスが王宮内に攻め込んだことと、テリアスとその仲間の貴族を捕まえる許可を貰った。救出に協力したテリアス派に属する女性貴族の夫や父の処罰の際には刑を減じることも約束して貰ったという。 


 その後、俺の救出とテリアス捕縛に動いた。

 竜族とリンクスの力で王宮内の騎士達を無力化するのは簡単だった。問題は彼らの力を国王と王妃に見せてしまう結果になったことだとエリザベスは言う。


「リカルド様を助けるためにはなり振り構っていられませんでしたから」


 竜族とリンクスの力を知った国王はその力を利用しようと必ず考える。つまり形は違ってもテリアスと同様に俺を味方にしようとするだろう。だけど俺は政治に関わるのを嫌っている。でも、まだ王国国内で暮らすリンクスが居て、彼らの地位や立場の向上を条件に出されたら、俺がどう動くか心配だった。だからまず俺の気持ちを確かめ、そして国王と対峙した際の対策をエリザベスは練りたかったらしい。


「うん、判った。それについてはもう決めているよ」

「そうなのですか?」

「エリザベスの話を聞いている間にだけど、これからの方針は決めた」


 俺の考えをエリザベスに説明する。それを聞いたエリザベスは「そんなことをお考えだったのですね」と苦笑している。この国は変わらなくちゃいけない。変わらなければ今回のようなことはいつかまた繰り返される。変えても同じようなことは起きるかもしれない。それでも変えないよりは良いという状況くらいは作りたい。


 これまでと違う体制が生じるからもちろん反発はあるだろうけどね。だけどきっと生じる抵抗を一つ一つ潰していきながら変えて行かなきゃならない。 


「判りましたわ。王妃様やお母様は私が説得します」


 俺の説明を聞いたエリザベスは大きく頷き、楽しそうに瞳をキラキラさせていた。


・・・・・

・・・


 審問会でのテリアスは、こちらが拍子抜けするほど素直だった。国王からの厳しい指摘に対し何も隠そうとすることもなく答えている。


 テリアスの主張は一貫していた。


『貴族社会の維持は王族の維持に直結している。だから貴族社会のあり方を変えてはいけないと考えた。しかし国王は貴族社会のあり方を変えようとした。それはコンコルディア王国の安全を脅かす。国王の新たな方針が定着してしまえば、平民は新たな体制を当然と受け止めるようになる。貴族はその権利を侵食されて力を失うことになりやはり国の安定を損なう。変化を受け入れてはいけない。変化させてはいけない。変化させないために国王には退場して貰うほかはなかった』


 退場はさせるけれど、命を奪うつもりはなかったと付け加えたという。


『そうは言っても、貴族の魔力生成力が弱くなっているのも事実。果たせなくなりつつある魔獣討伐などの貴族の責務が果たせなくなるのは、貴族の誇りを傷つけそして平民からの侮りに繋がる。それを防ぐためにリカルドの力が必要だった。確かに家族を盾にして従わせようとしたのは卑怯だったかもしれない。しかし危急の際だから仕方ないと考えていた』


 誤魔化すことなく毅然と答えていたのは立派だと思うけれど、正直なところ身勝手な主張としか聞こえなかった。でもまあ国のあり方には様々な形があり、そのどれもに長所も短所もあるということを知らないのだから仕方ないのかな。


 国王は、王宮から離れた所にある塔にテリアスは幽閉すると伝えた。テリアスに協力した貴族もほぼ同様で、死刑に処せられた者は少数だという。他は賊を捕えている牢に賊と同じ待遇で入れられると聞いた。


「陛下、私に対しての罰は受け入れましょう。しかし一つだけお聞きしておきたいことがございます」


 刑を言い渡されたテリアスは、鎖に縛られたまま顔をあげ国王クレメンスに静かに問いを投げる。


「リカルドをどうするおつもりでしょうか?」

「それはこれから話し合うことだ。まだ決めておらぬ」

リカルド(あの者)は王国の基盤を揺るがします。大型魔獣と同じ程度に恐ろしい者なのです。いえ、竜族と繋がりがある以上大型魔獣よりも脅威でしょう。ですから国王の手で鎖に繋ぎ、王国のために動くようにせねばならない者なのです」


 揺るがぬ信念。勇ましい言葉だ。テリアスの俺への見方には信念が感じられる。

 ……今の王国の体制が絶対に正義だという信念で凝り固まっているよな。


「言いたいことは判るが、そなたの見方は甘い」

「甘い……ですか?」

「ああ、甘いな。リカルドは魔獣などではなく天災と比較すべき者だ」


 天災かよ。国王は国王で酷い言い方をする。

 

「テリアスよ。火山の爆発に我等は抵抗できぬ。大きな嵐にも土砂崩れにもだ。天災が生じても安全を保つために必要なことは、災害の性質を知り対策を講じることだ。こちらの思い通りに動かそうとしてもそれは雲を思い通りの方向へ動かそうとする行為に等しい。つまり無駄だ」

「無駄でございますか?」

「そうだ。自然の動きが脅威にならぬよううまく付き合うしかないのだ。我等には体制を変えてでも生き残る知恵が求められている」

「しかし、それでは王国の伝統と秩序が……」


 テリアスは自分自身の気持ちと国王から投げかけられた言葉との間で揺れ動いているのだろう。先ほどよりも言葉に力が無くなっている。


「伝統とは時代の変化に負けなかったもののことを言うのだ。時代や環境の変化に適応しなくなっているというのに頑なに存在させるものではない。秩序とは時代の変化に沿って貴族や平民の生活を安全に保つためのルールだ。ルールはその時その時の状況に合せて変化させるものであり、古くなり現状に適していない秩序に合せて貴族や平民が生活すべきではない。状況に合わない伝統や秩序は社会を歪にし国の安寧を損なうのだ」

「ですがそれでは平民以下のリカルドの意思に添わなければなりません。王族や貴族の権威が損なわれるではありませんか?」


 テリアスは国王を諭すように訴えかけた。


「権威か……。権威は過去だ、思い出だ。権威ある立場を維持するには未来永劫結果を残し続けなければならない。そのようなこと万能ならざる人間には不可能だ。権威などに頼らずに実績を築こうとする姿勢こそ王族や貴族には重要なのだ」

「では私は全て間違っていたと?」


 信念を否定され拠り所を失い不安げにテリアスは聞き返す。


「伝統、秩序、権威……それらを大切にすることは国を維持し国民の生活を守るために資するこもある。だから全てが過ちとは考えぬ。しかし、それらを絶対視し固執したのは全くの過ちだ。そなたは人生における自身の挑戦を怠った。王族に求められる挑戦する勇気を持てなかった。時代や状況の変化に対応する知恵を求めなかった。それがこの結果に繋がったのだ」


 国王から視線を外してテリアスは俯いた。


「他に聞きたいことはないか?」

「ございません」

「テリアスを連れていけ」


 国王の命に従い騎士二名がテリアスを立たせて審問会の会場となった部屋から連れ出していった。


「ではリカルドよ。部屋を移して話し合おうか。もちろんテリアスがしでかしたことへの詫びもさせて貰おう」

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