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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第五章 秩序崩壊への一歩
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解決後

 セーラ王妃に支えられながらもクレメンス国王は鋭く言い放った。


「くっ、偽の国王だ! 余に逆らう王妃の(はかりごと)に惑わされてはならん!」


 テリアスの命令に騎士達は動き出す。

 俺への備えとして控えさせていたんだろう。雛壇の後ろの扉からも出てきて総勢三十名ほどの騎士がクレメンス国王を捕えようと剣を掲げて駆け寄っていった。


 だが、その歩みはクレメンス国王の数歩前で止められる。魔法で空気の壁を作ったんだろう。俺がよく使う手だからすぐ判った。問題は、魔法を放ったのがリンクスじゃないという点。背後に居たはずの女性達が魔法を使用しているのだ。錫杖や杖、短剣や腕輪など、魔石が嵌められている物はそれぞれ違うけれど、発動している魔法は俺やリンクスのと同じだ。その証拠に騎士達が魔法を放っても空気の壁を突き破れない。あの強度の魔法を放てる貴族が、それも貴族女性がこんなに居るなら魔獣討伐の役目は女性のものになっているはず。

 ということは、俺やリンクスと同じくエネルギー・ストレージタイプの魔石を使用して魔法を発動させているんだろう。

 ……リンクスが貸したんだろうな。

 

「テリアス、おしまいだと言ったであろう。観念して投降しろ」


 テリアスにそう告げたあと空気の壁に魔法を放ち続けている騎士達にクレメンス国王は怒鳴った。


「そしておまえ達! これ以上我に剣を向けるのであれば、王位簒奪者テリアスと共に裁いてやる! そこの貴族達と一緒に滅びを選ぶか!!」


 騎士達が項垂れて魔法を止めると、「あとはお任せを」とリンクスの一人が国王に言い、他のリンクス達がテリアス達に銃を向け魔法を発動させた。広間の後ろや左右の出口から逃げ出した者もいる。


「追いかけなくていいのか?」


 リンクスの一人にそう訊く。


「王宮からはどうせ逃げられません。外には竜が待ち構えていますし、ヴィアル隊長が率いる仲間が王宮内をしらみつぶしに確認して回っています」


 誰と契約した仕事かは判らないけれど、こんな大仕事なのにヴィアルの姿が見えないと思った。王宮内にある隠し通路の情報も国王と王妃から聞いて抜かりはないという。隠し通路の情報を傭兵隊に教えていいものなのか? と一瞬思ったけれど、それだけ今回の件は大事件なのだろう。王位簒奪者と共謀者を捕まえるのだからそれも当然か。


「リカルド様!」


 振り向くとエリザベスが俺の胸に飛び込んできた。先ほどまでもう二度と顔を見ることもないと諦めていた。それが温もりと柔らかさを感じられる。なんて幸せなんだろう。つい涙ぐみそうになるのを必死に抑えた。


「心配しました。ご無事な顔を見られてやっと安心いたしました」

「あ、ああ、エリザベス。助けに来てくれてありがとう。聞きたいことがたくさんあるんだ」

「はい。後ほど全てお話しします。あの、王妃様とお母様にお礼を言って下さいね? あの女性の方々はみな、王妃様とお母様の説得で動いてくださったのですから」


 もちろんだ。助けてくれたことにもエリザベスに協力してくれたことにも深く感謝している。


「何を言ってる。エリザベスも凄かったのだぞ? リカルド様(そなた)がリガータの森に戻れないならば、王国との取引きは何があろうと二度としないと協力を迫る姿は王妃やジョアナも驚いておった。あの気迫は人間にしておくのは惜しいとスイシと共に感心したぞ」

「ヴェイグ様の言うとおりです。さすがはエリザベス様でした」


 いつの間に来たのか、エリザベスの横に寄ってきたスイシが誇らしそうに胸を張っている。さすがと褒めてくれるのは嬉しいけれど、俺としてはエリザベスに苦労させたくないんだよな。今回は俺の迂闊さが原因の一つにあるだろうからスイシに言うつもりはないけどさ。


「それとリカルド様のご家族は王妃様の別邸へお連れすることになっています。お父様とお兄様が一緒ですからご安心ください」

「え? お義父さんとジュリアスさんが?」

「ご心配はいりません。お父様達にもリンクスの皆さんが作ってくれた魔石をお渡ししてあるのです。馬車一台守りながらの移動には十分です」

「そ、そうか。……そうだ。地下牢にセキヒが閉じ込められているんだ。誰かを迎えに行かせてくれないか?」

「判りました。フェイナさん!」


 フェイナは以前アドリアが攫われた時に一緒に助けた少女。あの時は十七歳だったけれど今は二十歳になっているはず。チョコレート色のショートヘアは変わっていない。あの時は何かにいつも怯えていたけれど、この三年の間に仲間と暮らすうちに活発な女性へと変貌している。毎日鍛錬に勤しみ、『褐色の戦士』で女性陣をまとめる副隊長を引き受けるほどにまでなっている。


「地下牢にセキヒ様が囚われているようなので、誰かを迎えに行かせていただけませんか?」

「了解です! でも、セキヒ様ならお声をかけさえすれば牢を壊して出てきちゃいそうですけど」


 「そうかもしれませんね」とセキヒの力を知るエリザベスとフェイナはクスリと笑い合っている。

 二人の後ろ側に、テリアスが捕えられているのが見えた。国王と王妃が見守る中、俺を捕えていたものと同様の鎖でリンクスの女性兵に縛られている。国王が健在と周囲に知られてしまったからか、暴れることも騒ぐこともなく女性兵にされるがまま俯き立っている。


「陛下は暫定的に王妃を女王に就けるようですよ」


 国王達を見ていることに気づいたエリザベスが驚くべき事を教えてくれた。エリザベスは淡々と話しているけれど、男性の王位継承者が居ないなどの特殊な状況でもない限り王位は男性が継承するのが通常だから異例の決定だろう。


「な、なんで?」

「テリアス王子に捕らわれ隠し部屋の一つに軟禁されていたようなのですが、そのことで酷く傷ついたようです。きっと陛下には思うところがあるのでしょうね。詳しくは王妃に聞いてくださいませ」


 この三日の間にいろんなことが起きているみたい。判らないことばかりだけれど、どうにかひと息つけそうだ。そのことを喜び、どこか休めるところへ行くとしよう。喧噪としているこの大広間に居ても俺には何もできることはない。


「何かドッと疲れたよ。どこかで休みたいな」


 「判りました。ではこちらへ」と腕を絡めてきたエリザベスと部屋の出口へ向かった。


◇◇◇


 『テリアス五十日天下』

 『テリアス王位簒奪事件』

 王都ヴェリアラでそう呼ばれている事件が終えてから五日が過ぎたがまだ残っている。


 セーラ王妃……いや、セーラ女王は事件の事後処理を進めつつ即位に向けて活動している。ジョアナとフレイアも即位式に参加するためにそろそろ王都へ戻ってくる予定らしい。テリアスに協力しなかったゼルテンスは「兄上は何をそんなに焦って愚かなことをしでかしたのか」と寂しそうに語っているというが、おまえだって俺に対していろいろ画策しようとしてたじゃないかと言いたい。今だ謹慎中のくせに。


 ちなみにテリアスは行為が行為なだけに処刑は免れないという。テリアスに協力して国王の誘拐や王位簒奪に協力した貴族も同じく処刑されるらしい。自業自得だから仕方ない。処刑される貴族には北部と中央の有力貴族が結構な数が含まれていて、今後の国家運営が大変になるのではと懸念されている。だけど罪は罪。見合った罰で贖って貰わなければ国の権威が貶められてしまうとセータ女王は果断に処理するとのこと。


 このように国の上の方はかなり大変なようだ。この粛正が終わった後、健全な国家運営が行なわれるよう期待したいところだ


 俺は救出とテリアス捕縛に協力してくれた女性陣にお礼をしながら過ごしている。お義母さんとエリザベスに協力してくれた人数は貴族女性四十名、平民女性が七十名。


 驚いたのは、貴族女性四十名の大半がテリアスを王位に就けた貴族の伴侶か娘だったこと。リンクスが用意した魔石がそれぞれおよそ百二十個ずつで、魔石をもっと多く用意できたら協力者の数も増えていたとお義母さんが言っていた。


 テリアスは即位式こそ行なったけれど、王位継承に必要な手続きはしていなかったらしい。

 国王からの指名が無いなら、成人の王妃、ゼルテンス王子、ジョアナ王女と以上三名から事前に承認されなければならないらしい。全員に承認される候補者がいない場合は貴族達から推薦を募り、推薦した貴族を交えて二十日以内に決めるらしい。期限内に決まらなければ多数決になるとのこと。


 セーラ王妃は国王がテリアスによって王宮内に捕らわれていると最初から疑っていたという。

 王宮内には緊急時に備えて隠し部屋がいくつかある。王妃はそれらを調べようとしたが、テリアスに邪魔され続けていたという。実力行使に及ぶための手勢が足りなかったので、エリザベスとお義母さんからの申し出に即座に協力を頼んだ。諸貴族からの協力を得るための工作なども含めて、国王失踪からずっと行なってきたらしい。……エリザベスが秘密にしていたから、ぜんぜん知らなかった。


 どのようにして王妃側の手勢を増やすか。この辺りの話をお義母さんは嬉しそうに話してくれた。


 お義母さんの案だったらしいけれど、リンクスと手を組んで魔石を用意して貰い、女性だろうと平民だろうと騎士に対抗できる戦力に仕立てようということに決まったらしい。王妃側に付いている貴族男性の動きはテリアスに把握されている。平民だと騎士に対抗できないと思われているから警戒されていない。だから女性と平民を中心とした戦力を整備したという。

 ……最近思うんだけど、お義父さんよりお義母さんの方が策士だよな。


 女性や平民を戦力とすることに不安はなかった。プチ・インテーラでリンクスの女性による兵士を見ていたお義母さんはそう言った。魔獣に攻撃されても傷つかない障壁を発現させる魔法と、魔獣や賊を倒したり捕獲できる魔法があれば良い。俺と同じような魔石を作れるようになったリンクスの協力さえ得られれば、王妃の戦力に十分なれる。エリザベスもお義母さんと同じ意見だったらしい。


「エリザベスが信用しているリンクスですもの当然よ」

 

 俺の横で微笑んでるエリザベスを嬉しそうに見ながらお義母さんはそう言った。

 ……お義母さん、決断力半端ない。


 ヴェイグから俺の危機を聞いたエリザベスは、お義母さんやジョアナに「私、これから王都へ向かいます」と言って、竜族が全面的に協力してくれることを伝えたという。プチ・インテーラから王都への移動も竜族の力を今回は借りられるから数刻もかからずに移動できること、リンクスからかなりの量に魔石を預かっているから必ず王妃の力になれると断言したんだと。

 そして俺の救出に協力しないなら、王国との取引きもお義母さん達との関係も解消するとまで脅したらしい。


エリザベス(このこ)が脅しを口にしてまで決断を迫ってくるなんて本当に驚いたのよ」


 「おやめください、お母様」とエリザベスが顔を赤くしている。恥ずかしがっているエリザベスもとても可愛い。

 ……うん、俺も驚きだよ。


 王位簒奪を認めず王妃に協力するならばと、テリアス側の貴族女性に王妃、お義母さん、エリザベスは言ったという。リンクスが用意した魔石の威力も目の前で見せ、王妃側の目論見が成功するのは確実と思わせたらしい。またテリアス捕縛行動が事前に露見した場合、王妃に協力を約束しようと事前の約束は全て白紙にするときつく伝えたとお義母さんは言っていた。。


 テリアスの王位簒奪に協力した当主は裁くが、その他の家族には累を及ぼさない。

 テリアスに加担した家の爵位を下げるのは避けられない。だが領地は奪わない。

 などと並べた約束の最後に、プチ・インテーラから入荷する美容関連商品もこれまで通り手にできるとこっそり付け加えたと悪い顔をしてお義母さんは笑っていた。


「王妃派の女性しかあの美容クリームを手に入れられない状況を我慢できるはずないのよ。メフルナーズからの女性客だけが白く美しく若々しくいられたときの恨みと屈辱を王国の貴族女性はまだ忘れていないの」


 そりゃそうだよね。まだ数ヶ月前のことだからねえ。

 ……怖い、怖い。


 騎士を目指す男性ほどではないけれど、貴族ならば女性も幼い頃から魔法の訓練はそれなりにしてきている。エリザベスもやっていたと言っていた。だからリンクスが用意した魔石の力はすぐ理解してくれたという。

 日頃、夫に不満を募らせていた奥方や娘の中には「多少怪我させるくらいいいわよね。王位簒奪に加担したんだもの」と暗い笑みを浮かべる方も居て、お義母さんは「これはいける! 絶対に成功する」と確信したんだって。

 ……お義母さん、頼もしいけれどヤバイ人みたいです。エリザベスが心配するので早くこちら側に戻って来て下さい。


「エリザベスも魔法の実演したのよ? あの子のはリンクスじゃなくてリカルド(あなた)が創った魔石なのにね」


 エリザベスと一緒に聞いていたときには話さなかったことまでお義母さんはあとで教えてくれた。


「私はリカルド様の妻です。マイヤール家のことは今でももちろん大事ですけれど、リカルド様の次ですからね」


 この言葉を聞いたとき、義兄ジュリアスはがっくりと肩を落としたんだって。「これでやっと妹離れできるかもしれません」とお義母さんは軽く溜め息をついていた。


「それであなたはご家族……敢えてご家族というわね……とこれからどうするの?」

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