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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第五章 秩序崩壊への一歩
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囚われたリカルド

「何を言ってるんだ。この人は俺の父親だ。助けられるなら助けるに決まっているじゃないか」


 そう言いつつ父上の身体を仰向けにして寝かせようとしたとき、目隠しがずれて顔の上半分が見えた。目を閉じているから瞳の色は判らないけれどこんなゴツい鷲鼻じゃない。


「……父上、じゃ、ない」


 切られたのが別人と判りホッとしたけれど何がどうなっているのか混乱している。


「その男は何人もの貴族女性を襲った極悪犯だ。今日は訓練場で処刑せよとテリアス陛下からのご命令があり、さきほど合図があったので執行したのだ。もう一度聞く、何故、おまえはこの者に魔法をかけたのだ。事前に陛下から『誰かが魔法をかけに来ても止めてはならぬし、手出しも許さん』と命じられていなければ近寄った時点で切り伏せた。陛下が仰ったようにおまえはこの者に魔法をかけに来た。この男には身内はいないはずなのだ。おまえがこの男の息子であるはずはないのだ。だから理由が判らん」


 騎士の一人がそう言うともう一人も口を開いた。


「即死しないように処刑しろという不思議な命令を下されたが、陛下の予想通りの展開で驚いた」

 

 そういうことか。

 背格好と髪色が父上に似た犯人を選び、あたかも父上であるように見せかけて俺の前で処刑する。当然、俺は父上と信じて治癒魔法をかける。もし俺は動かなくても、もともと死刑囚だから命を落としたとしても問題は生じない。だが何の意味が?


 立ち上がってテリアスのところまで歩く。

 近づくと大笑いしているテリアスが見えた。


「あーはっはっはっは、面白い見世物であったわ。どうだ。おまえ達も見たか? あれが治癒魔法だ。余がこうまでしてこの者を手に入れようとする気持ちが皆にも判ったか? あーはっはっはっは」

「糞野郎め……」


 ギリッと奥歯を噛みしめ、怒りに身を任せないよう耐える。俺が治癒魔法を使えると周囲に知らしめて、自分の行動は正当だと誇っている。クソッ、嵌められた。死刑囚だろうと、企みに命を利用するとは感覚的にテリアス(こいつ)とは相容れない。

 

「さ、捕えさせて貰おう。牢の中で三日間よく考えるのだな。これだけは約束してやろう。おまえの返事を聞くまで家族……いや元家族の安全は保証しよう。おまえの態度を見ていると余の勝ちは揺るがないと確信しているがな! しばらくぶりに愉快だ……」


 「二人を捕えよ!」とテリアスの命令が聞こえると、周囲の騎士が近づいてきて鎖で俺とセキヒを縛る。セキヒの身体から漏れる魔力が吸われてるようだから、魔法を使えないようマギレウム合金を含ませた鎖のようだ。俺の銃も装飾具も全て奪われたからこんな鎖を使わなくても魔力喰いの俺に魔法を使う手段はない。

 セキヒならこんな鎖も騎士が十名居ようとどうとでもなるだろう。だけど、俺の家族が囚われていると知っているから黙って捕えられている。……すまないな。



 俺とセキヒは王宮地下の牢に別々に入れられた。小さな窓もない真っ暗な牢。両手両足を縛る鎖も外されず、冷たい石が敷き詰められた床に寝転がされている。


 これ、飯やトイレはどうすんだ?


 遠くから俺を呼ぶセキヒの声が聞こえる。


「俺は大丈夫だ。セキヒ、状況が判るまで静かにしていてくれ」


 「了解しました」と聞こえた後、セキヒの声は聞こえなくなった。これでとりあえずテリアスの出方待ちといったところか。しかし、どちらに壁があるのかも判らないほどの暗闇。状況を調べるといってもどうしたらいいのか。


 ここまでに判ったことだけでも整理しておこう。


 母上だけでなく父上も捕まっている。父上似の犯罪者をわざわざ選んで訓練場で処刑しようとした。母上があのテリアスに協力して父上の容姿をわざわざ教えたとは考えにくい。テリアス自身が父上を見てから選んだに違いない。証拠は無いけれど確信している。


 問題はルチアナだ。テリアスは元家族と言った。ならばルチアナも捕まっている可能性が高い。父上と母上だけ捕えてルチアナを捕まえないのは不自然だ。何よりも俺に対して有利になりうるカードは枚数が多い方が良いと、手段を選ばないテリアスなら考える。


 とにかく、家族三名が捕えられていると考えて行動した方が良いだろう。


 さて、これからどうするかだ。

 この鎖さえ外せれば、魔石を創っていろいろと出来る。

 どうにかならないものか? というか飯も食わせず、トイレにも行かせないつもりか?


 少しは俺の心証を良くしておこうとは考えないものかね。身分が上というだけで言うことを聞かせてきたからか? まあ、そういう輩だと再確認したよ。


 エリザベスは今頃ジョアナのところかな?

 あの糞王子、エリザベスにまで手を出さないだろうな?

 ヴェイグやスイシが居るから大丈夫だと思うけれど、俺を捕えてるからと脅すかもしれないなあ。もしそうなったら……。


 ちくしょう、こんなところで寝転がってる場合じゃないんだが、今は何もできない。待つしかない、何か動きが起きるまではジッと。


◇◇◇


「エリザベス。リカルドが捕らわれた。王都へ行くぞ」


 ヴェイグ様が部屋に入ってきて私を急かす。


「そ、それは本当でございますか?」

「ああ、十年もの間、身体と魂を共有してきた我とリカルドの魂は繋がっているのだ。魂と少ししか向き合えないリカルドには我と繋がっていることは判らないだろうが、我はリカルドの状況を把握できる」


 妻の私より深いところで繋がっているのは悔しいわ。でもそんなこと言っても仕方がない。ヴェイグ様はリカルド様と文字通り一心同体だったのですもの。


「リカルド様はご無事でしょうか?」

「今のところはな。テリアスとやらはリカルドの両親と妹を人質にし、リカルドとセキヒを牢に閉じ込めておる」

「牢に?」


 ヴェイグ様の瞳が金色に輝いている。神々しくそして怖い。リカルド様の身にに起きたことを知って怒ってらっしゃるのね。


「そうだ。セキヒもリカルドの家族の身を案じて今のところは大人しくしている。もっとも、リカルドを傷つけようとしたならセキヒはキレてしまうだろう。そうなったら人間が建てた王宮程度は瓦礫と化すだろうな」

「私が行っても何もできないのでは……」

「愚か者! ここしばらくの間、そなたはジョアナ達と何をしてきたのだ? リンクス達に何を作らせてきた?」

「あ!」


 言われて気づくなんて私って馬鹿なのかしら。そうよ。リカルド様に頼らずに王国と対抗できるよう、私達は準備してきたんじゃないの。


「予定より早まったが、今がその時だ。リカルドが居なくても身勝手な王の思い通りになどならないのだと教えてやる時なのだ。リカルドを利用するだけではもう時代の変化は止められないと知らしめてやる時なのだ」

「ええ、ええ、そうですね。ジョアナ様とお母様に連絡しなくては」


 夫の一大事に何も出来ないのは嫌です。今動かなくていつ動くというのです。


「急ぐのだ。我はソウヒに伝える事がある故しばらくここを離れる。戻って来たらすぐ王都へ向かう。準備しておけ」

「は、はい」


 そう答えたものの、プチ・インテーラから王都まではジープやトラックを使っても二十日近くかかってしまう。今からでは間に合わないのでは……。ううん、リカルド様を大切に思う賢いヴェイグ様がその程度のこと考えていないわけはない。きっと何か方法があるんだわ。今は言われたとおり、ジョアナ様、お母様、そしてリンクスの皆さんに連絡を急がなければ。


 パタパタと羽ばたいてリガータの森へ飛び去るヴェイグ様を見送りつつ、まずお父様の家へ向かった。


◇◇◇


「リカルド、起きろ!」


 いろいろ考えても当面手詰まりだったので、いつの間にか寝ていたようだ。目を開けると漆黒の闇だった牢が灯りで照らされている。


「リカルド、おまえもなかなか図太い奴だな。この状況で寝られるとはな」

「ああ、国王陛下か。何をしに来たんだ」


 鉄格子の外に二名の騎士を連れたテリアスの顔が、灯りに照らされ暗い廊下に浮かび上がっている。


「おまえが意気消沈していたら笑ってやろうと思っていたのだがな」

「残念だったな。そんな可愛らしい感情は十数年前に捨てたよ」


 「牢に入って鎖をほどけ」と横の騎士にテリアスは命令する。牢の鍵を開け、中へ入るとすぐ閉じる。慎重に行動しているのは判る。だけど家族を捕らわれている俺は抵抗するつもりはない。……今のところはな。

 俺を縛っている鎖の鍵も開け、俺から視線を外さないように騎士は牢の外へ出た。


「で、何の用だ? 国王陛下自ら夕食を運んできたわけじゃないだろう?」

「そんなわけがあるか。ここに居るのは辛いだろうから、チャンスをやろうと思ってな」

「チャンス?」

「余に忠誠を誓え。さすればここから出してやる上に、家族も返してやろう。おまえは嘘はつかぬと調べはついている」

「へえ、信用してくれるのか? 今回は嘘をつくかもしれないぜ?」

「調べたと言ったであろう。おまえの長所も短所もな」


 俺が嘘をつかないなんて誰が言ったんだ? 賊などの敵相手には嘘もつく。もちろん目の前の糞野郎に嘘をついても心は痛まない。だが今は嘘をつくつもりはない。姑息な癖にその自覚がない奴には真正面からぶつかって叩きのめしてやるのが一番だ。


「それはそれは手間をかけさせたな。だが断る! 卑怯者に忠誠を誓うほど俺は落ちぶれちゃいない」

「おまえは家族を人質に取ったことを卑怯と言うが、目的を達成するための必要悪だ」

「自分の卑しさに向き合えない奴は、己を正当化するためにそう言うんだ。賊だって生きていくための必要悪だと言って盗みもすれば人殺しもするからな」


 一瞬怯んだ表情を見せたが、テリアスはすぐに薄ら笑いを浮かべる。


「強がりは止せ。今のおまえは文字通り檻に入れられた獣だ。余の気持ち次第で生死が決まるのだぞ?」

「だったら殺せばいい。だけどおまえにはできない。俺の力がないと、国民に前国王より優れていると示せないからな」

「な、なぜそれを?」


 どうやら図星だったようで狼狽えている。


「化けの皮が剥がれたな。ここで何もすることがなかったから考えたのさ。何故俺に執着するのかをな」


 今だ行方の知れない前国王には王位を剥奪されるほどの失態がない。行方不明にして王位を簒奪したが、早めに実績を作って王に相応しいと国民に認められなければならない。それができないと、前国王と比較され悪く評価されてしまうかもしれない。昔ほど貴族に力が無い以上、不満が膨れ上がった国民を抑えられる力は国王にはない。そのことに気づかれる前に、国民から認められなければならない。

 これがテリアスの弱みだ。


 特に王妃側についてる貴族に知らしめなければならない。テリアスは自分の権力基盤が脆弱なことを知っている。一部の有力貴族に逆らえるほどの力はないと知っている。だから俺を味方につけ、テリアスに従えば魔力生成力が衰えようと魔法を使えるという状況を作りたいのだ。貴族にとって魔法の力は絶対だ。有力貴族でさえも、昔のように魔法を使える誘惑には勝てないだろう。


 騎士二万でも、有能な魔法騎士達を集めても俺とリンクスには魔法で勝てない。この事実を突きつけられたテリアスは俺こそが対貴族用の武器だと知ったのだ。


 魔法の力を取り戻し、魔獣討伐の実績を挙げ続ければ国民は貴族を見直し、その状況を整えたテリアスの方が前国王よりも優れていると認めるだろう。


 俺の評価が高くなりすぎている気もするが、多分、間違っていない。だが俺は金も権力も名誉も要らない。力づくでも従わせられない。だから家族を人質にして思い通りにしようとした。


 だが、不安なのだろう。テリアスが父である前国王を排除したように、俺が家族を見捨ててでもテリアスに反抗する可能性を捨てられないのだ。自分を正当化するからこそ、他人も同じ事をするかもしれないと考えてしまう。どれほど俺のことを調べ、どれほどテリアスと俺の違いを知っても、自分の行いを正当化するから俺も同じ事をするかもしれないと不安なのだ。


 だからここに来て「チャンスを与えよう」などといって懐柔しようとしているんだ。


「それが判ったからと言って、おまえが囚われの身である事実は変わらない」

「まあね。だけどあんたは俺の家族を無碍に扱えないし、俺を殺すこともできないと判ったから寝ていられたのさ」

「クッ、その強がりをどこまで続られる? まあいい。確かにおまえの力を必要としている。だがな? おまえがここに居れば刃向かう者が一人減るということだ。それだけでもおまえの家族を捕えた意味がある」

「それはどうかな?」

「いつまでも反抗する奴だ。……食事を持ってこさせる。囚人と同じものだが死にはしないだろう。せいぜい自分の愚かさを思い知るんだな」


 廊下の壁に松明を一つ掛けさせ、テリアスは奥に見える階段を上っていった。

 ……鎖を外してくれた。感謝するよ。これで創石の力を存分に振るえる。俺を調べたと言っていたが、創石関係については甘かったようだな。

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