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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第五章 秩序崩壊への一歩
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国王との面会

 国王が滞在している屋敷の居間に通されたあと、治癒魔法で治療したことのお礼を国王自身の口から改めて伝えられる。王都で会った時よりかなり顔色もよく、国王を見守る王妃の表情も柔らかかった。きっと治癒魔法の術式が対応していない疾病もきっとあるだろう。術式を構築した先人も俺も想定していない障害も必ずある。治癒魔法ですべての傷病が治るとは思っていない。だから国王の病には有効だったと判り正直ほっとしている。


 通された居間は、静養場所の屋敷の居間とあって調度品は質素だ。質は良いけれど装飾など一切していない家具ばかりで、国王が過ごすにはどうかなと思うところもある。だけど、ベネディクト侯爵もヴィアーナも短い期間で苦労しながら用意したんだろう。そう思うとしばらく過ごすには十分な環境が整っているように見えた。


「さて今日来て貰ったのは、リカルドときちんと話してみたいと思ったからなのだ。そなたのことはジョアナから聞いている。だが、あの()はそなたに痣を綺麗に消して貰ったからどうしても見方が甘くなる。ここプチ・インテーラではいろいろと見せて貰った。正直驚くようなものばかりで、その影響力を考えると厳しい目で見なければならないと思わざるを得ない。ジョアナの意見を鵜呑みにするわけにはいかない。そう思ったのだ」


 国王としての威厳はある。綺麗に切りそろえられた立派な口髭のせいじゃない。多くの試練を国王として乗り越えてきたのだろう。ゆったりとしたソファに深く座り、物腰は柔らかいにもかかわらず隙のない国王の態度が、この人に誤魔化しはきかないぞと俺に伝えてくる。


「話せることでしたら何でもお答えします」

「単刀直入に訊こう。そなたは貴族など不要と考えているのか?」


 ああ、なるほど。魔力が乏しい者でも魔法を発動させられる道具や武器などは、これまでなら貴族でなければ不可能だった作業や戦闘を平民にも可能にする。街を造るにも身を守るにも貴族の力を必要としない。

 そのことをいっているのだろうな。


「貴族の役割がこれまでと変わるとは考えていますが、不要とまでは」

「これまでと変わる。それはどのように変わると考えておるのだ?」

「国でも領地でも誰かが統治する必要があります。平民は自分の生活や仕事のこと以外に思いを馳せるようなことは不向きです。国や領地全体を見て行なうべき仕事は今後も貴族が担えば良いだろうと考えております」


 平民にはできない仕事を担っている矜持を、貴族はこれからももつべきだろう。名誉や誇りを持って使命を果たそうとすることに貴族は向いている。


 だが、貴族だからできるということじゃない。そのことは自覚して貰わなければならない。実は誰であろうと学んで経験を重ねれば可能な仕事を、単にこれまでの経緯で担いやすい環境に居るから受け持っているのだと理解して貰わなければならない。


 失礼にならないよう言葉に気をつけてこれらのことを国王に伝える。


「そなたは国王も貴族と同じように変わるべきと考えているのか?」

「血筋を根拠に統治という仕事を担当するのが正しいのか判りません。陛下は賢明だとしても王子達も……次の国王も賢明だとは限りませんから」


 第一王子が正当な理由もなく俺を捕えようとした件を思い出したのだろう。国王は深く溜め息をついて俯き間を置いた。そして再び視線を上げて俺を見る。


「では国の仕組みやあり方を変えるべきだと?」

「さあ? 私は世直しを考えて魔石や道具を作ってるわけじゃありません。ご存じでしょうけれど、私は魔力喰いで魔法を使えない体質で生まれ、魔法を使えることが貴族としての最低限の資格だと言われて家から追われました。だから魔法を使える者が偉いという考え方には反発してしまいます。自力で魔法を発動できなくても魔法は使える。たまたま手に入った創石の力を利用してそのことを証明しつつ、自分の存在価値を確認しているだけですから」


 疑わしいと言いたげな光が国王の瞳に浮かんでいる。


「だがこのままではいずれ王国の秩序は崩壊する」

「誰かにも同じ事を言われました。貴族社会の秩序が崩壊してしまうと。ですが、仰られている秩序とは貴族による貴族のための秩序であって平民は押しつけられているだけですし、王国民でもない私にはまったく関係のないことです」

「……平民は今の秩序に不満を抱えていると?」


 意外そうな表情を国王は見せる。いや、意外そうなのが意外だよと言いたくなる。


「そりゃあ不満に感じない方がおかしいですよ。同じような罪を犯しても貴族は裁かれず、平民は下手したら斬首ですよ? そんな状況に不満を持たない平民はいません。貴族だからというだけで様々なことで優遇されている。お金を稼ぐ手段にしたってそうです。平民は一日働いてもその日暮らす程度の収入しかないのに、貴族は平民を安く使って利益の大半を手に入れる。みんな、貴族だからしょうがないと表面上諦めたことを言います。ですが、本音の所では怒りはありますよね」

「だが我のところにはそのような声は聞こえて来ぬ」

「国王陛下のところまで聞こえるような騒ぎを起こしたら貴族に処刑されますから、皆口をつぐんでしまうのですよ」


 こういう平民の状況って、建国当初の国王の方が知っているんだよな。

 いろんな不便を押しつけていると判っていてもいずれ改善するから今は仕方なしとしているもんだ。平民側もとりあえず戦争による混乱が治まるからと、不満はあってもとりあえず当面は良しとしていたりね。それがいつしか年数を重ね時代が進むにつれて、改善されずにいる状況が貴族側も平民側も当たり前になってしまって、様々な不満を抱くことが社会の体制に逆らう形になるんだよ。


 前世で囓った歴史を見るとそんな感じだった。きっとこの世界でも同じのような気がする。


「平民が不満に感じているから、今の秩序など壊していいというのか?」


 国王は反論せずに、多分だけど本音を口にする。不満そうな口ぶりだけど俺に向けている瞳は柔らかい。この会話でそのような瞳を向けている気持ちはどのようなものなのだろう? さっぱり判らないけれど、見ている物が俺とは違うに決まっているから察しようとすること自体無理なんだろうな。


「私はそうは考えていません。ただ、今の秩序を守る社会が永遠に続くと考えるのは間違いだろうと思います。その時代、その時々の状況次第で秩序は柔軟に変えて行くべきだろうと思います。これまでの秩序に拘るのではなく、状況に応じた新たな秩序を作り上げていく知恵と気概が貴族側には必要だと考えています。それができなければいずれ今の体制は壊れてしまうのではないかとも思いますね」


 国内に溜まった不満が大きくなれば、内乱が続出するだろうし国力は弱まる。そうなればあとは国内から新たな勢力が生まれて革命が起きるかもしれないし、他国から戦争を仕掛けられても抗う力を持たない国になるんだろう。


 俺が言いたいことは、貴族が貴族としてあり続けたいのであれば、状況の変化に応じて貴族のあり方を含めて秩序を変えて行くことを恐れちゃいけないということだ。そしてこれまでの体制が疲労し、歪さが表面化してきた現状に固執する姿勢こそが秩序を崩壊させるものだということ。


「フフフ……ワハハハハ。好き勝手なことを臆面もなく言う奴だな」

「恐縮です」


 急に表情を明るくして国王が笑った。罵倒されるかもと思っていたけれどそうはならなかった。俺としては言い足りないけれど、これ以上は言わなくてもいいことまで言いそうでさすがに憚られる。儀礼的に一礼だけしておいた。


「だがそなたの言うことに一理あるのも事実だろうな。特に貴族の魔力生成力が衰え続けている現状を省みればそなたの意見は真っ当なのかもしれぬ。耳が痛いことを言われたからといって反発するのは過ちだろう」

「あくまでも私が勝手に思っていることをお話ししただけです。真っ当かどうかは陛下がご判断ください」


 身分が低い俺の言うことだろうと受け入れる度量の大きさはさすが国王といったところか。それとも病を治した俺の言うことだから大目に見ているだけなのか。その辺はどうでもいいことかもしれないな。とにかくこの場で怒りを買ってない点だけは喜んでおくとする。


「ふむ。後ほどゆるりと考えてみることにしよう。話は変わるが、どうしてあのような物を考えつくのだ?」

「あのような物とは何でございましょう?」

「今日見た熱気球とやらもそうだし、蒸気船という船もそうだ」


 前世の世界について話すつもりはない。別の世界で生まれ、そして死んだあと世界で生まれ変わったなんてことを信じてくれるのはヴェイグ達とエリザベスくらいなものだろう。逆に、付き合いが浅い俺の言うことを信用するようなら、何か腹に隠しているのだろうと勘ぐってしまう。そういう嫌な気持ちになりたくもないから話さない。


「思いつきです。思いついただけのものを、仲間と一緒に形にしただけでございます」

「嘘を申せ。そなたがほとんどの部分を設計したと聞いておる。無理に話せとは言わぬよ。残念ではあるがな」

「恐縮です」


 誤魔化しはきかないと判っているけれど、転生に関しては本当のことを話す気にもならない。食いついてこなくて良かった。国王は俺の反応を観察している様子。動揺していないけれど、いつもと違う反応してしまうかもしれないからこれで転生に関わる話が終わったのは助かった。


「さて、今日のところは最後の話となるが、そなたいつまで我が国との取引きを止めたまま隣国との取引きを続けるつもりなのだ? 王子達の所業については詫びる。あやつらにも詫びさせよう。今回の静養を終えて王都へ戻ったら移動にかかった経費の賠償もするつもりだ。だがドゥラーク領とアレーゼ領についてはベネディクト侯爵とヴィアーナ伯爵の二人が今のところ領主を引き受けぬ。そなたの王国側の窓口になり得るベネディクト侯爵とヴィアーナ伯爵がおらぬと一切取引きしないつもりなのか?」


 そろそろ元に戻せと言いたいのは判る。だが人気商品でもあるし、商品だけでなく風呂などの施設の運営もあり信用できるまとめ役が必要だ。顔を合せる相手を選びたいリンクスの感情面も考えると意外と元通りにしにくい。


 実はベネディクト侯爵達がしばらくは領主に就かない上に、もしかすると誰も領主にならないかもしれないのでどうしようかと考えていたことだ。メフルナーズに売っているから収入面だけを考えると王国と取引きしなくても困らない。


 美容クリーム関連商品を王国側で売らないために生じている非難は今は王子達側に向かっている。だけど、長く続けば風向きは変わりその非難はこちらに向かってくるだろう。非難されるだけなら王国で暮らしていない俺達は痛くもかゆくもない。気になるのは王国内で暮らしているリンクス達に八つ当たりが向かうことだ。


 そこで以前から考えていたことを国王に話してみる。


「これはお願いになるのですが、元クラウン領の嫡男イアン=マロウに王命を与えてくださいませんか?」


 イアンは父親であるクラウン領領主ケイウースから勘当された上に裏切り者として秘かに命を狙われている。

 俺とリンクスが使える魔法の威力を知っていたイアンは、貴族側の被害を減らそうと貴族軍の情報を伝えた。その気持ちを汲み取って俺達は被害が少なくなる手段を使って貴族軍に勝利した。


 イアンからの情報が無くても貴族軍には勝てただろう。だけど遭遇戦のような事前に準備が整わない状態での戦闘であったなら貴族側の被害を減らすような対応はできなかった。客観的に見れば、イアンのとった行動は貴族の命を守る結果に繋がったはずなんだ。なのに家族から命を狙われている。

 この状況が俺は不憫でならない。


 賢い奴だし、貴族の誇りを重んじる奴でもある。だから、暗殺等の危険がない状態へ戻してやりたいと思っている。


「イアン=マロウにどのような命令を下せば良いのだ?」

「ドゥラーク領のバローネ商会と私達との間に入り、プチ・インテーラからの商品の流通に関する税手続きや関連施設の監視等を行ない、王国国内で混乱が生じないように努めるようにと」


 義姉ファレナの旦那さんロレンツォ=バローネが営む商会と直接取引を行なってもいいけれど、その場合、関税的な税の徴収が個人経営のバローネ商会任せになる。少額の取引きならそれでもいいけれど、俺達の商品は大量に求められていてこれからも増える予定だ。まして王国内での反響が大きい商品やサービスだ。適切な処理が行なわれ国庫に税収入が入る状態を整備して置くべきだろう。つまり、多大な利益を生む商売に介入し、欲の深い貴族が身勝手で不正な方法で利益を得ようとする行為を防いでおきたいのだ。


 誇り高いイアンなら、懐を肥やすための不正は行なわないだろう。イアンは油断できない男だがそういう点では信用している。リンクスも今では顔見知りだからイアンと共に仕事するのを嫌がることはないだろう。


 これらのことを説明すると国王は「その程度のことで良いのか?」と返してきた。


「はい。陛下直々のご命令であれば、イアンの仕事を邪魔したり命を狙う行為は国王に逆らう行為と見做されます。そのようなトラブルが起きたら国王としても放置できないでしょう?」

「うむ、しかるべき処置を行なうな」

「私が求めているのは、有能で信用のおける者に窓口役を務めて欲しいということです。そして公正かつ適正に処理が行なわれるならば王国にも利があることと考えます」

「判った。王都に戻り次第勅令を出そう」

「ありがとうございます」


 イアンへの勅令が下り次第、王国との取引きを再開させる約束をし、俺は国王が滞在している屋敷を後にした。……これでイアンへの義理は果たせたかな。

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