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対策

 ドゥラーク領アローニャにあるマイヤール家に来ている。王国軍にどのように対応するつもりなのかを話し合うためだ。困惑顔のヴィアーナも来ていた。出席者はベネディクト侯爵、ヴィアーナ嬢、俺とリンクスを代表してるヴィアルの四名。


 状況は皆理解していた。

 王子達はとにかくドゥラーク領とアレーゼ領の収入を我が物にしたいだけ。王子周辺の貴族も同様。こちらが何を言っても要するに「寄越せ」としか返ってこない。


「しかし五十万もの兵を投入できるなんて北部と中央は自領が安全なんでしょうね」


 そう俺が言うとベネディクト侯爵が首を横に振った。


「長期間領地を空けられないから大量の兵を参加させて一気に占領してしまおうという腹なのだよ」

「なるほど。こちらは二領合せても総数七万程度がせいぜいですから、正面からまともにぶつかっては勝ち目がない……と」

「……」


 ベネディクト侯爵とヴィアーナが無言なのは、俺とリンクスが出れば兵数の不利は考慮しなくていいと判っていながら、国民でも領民でもない俺達を表舞台に出すのは憚られるからだろう。


 それにこの戦いは南部二領の戦闘力を知らしめる戦いであってはいけないはずなんだ。主張の正当性を明らかにするために暴力をもって話し合う環境を用意するしかない場合もあると言う人も居るだろう。その意見に一理あるように感じる人は多いだろう。


 でもその際は既に勝者と敗者が決まった後で、勝者だから強く主張を通せる状況になってしまっている。正しいから主張が通るのではなく、実力行使の勝者だから主張が通る結果になる。話し合う環境を表向きは用意できるけれど、実は意見を押しつける場を用意できるというだけなんだ。


 もちろん敵が実力行使をもってこちらを害そうというのだから対抗しても悪いとは思わない。実際、そうするしかない場合もあるだろうし。でも他に手段があるなら極力戦闘は避けるべきだ。勝者と敗者を作るのはルールがあり何度でもやり直せるような場合以外は必ず禍根を残し、後々の関係にまで影響を与えるから好ましくないんだ。


 だから、俺はアーザルから情報を聞いてからずっと考えてきた。魔法力に差があるから勝とうと思えば勝てる。だけど、俺の魔石の力で勝ってしまって本当にいいのだろうか?  と。


「お二人はどう考えてるのですか?」


 俺は率直な気持ちを知りたかった。


「私の領地は交易で成り立っている。商いの上での戦いなら避けるつもりはない。だが今回のような戦いには関わりたくないと考えてきたし今回も同じだ」

「私の方は戦う相手は自然だけで十分よ。同じ国の相手に戦う理由が見つからないもの」

「そうですか。でしたらお二人とも領地を手放してはいかがですか?」


 ベネディクト侯爵もヴィアーナも「え?」と漏らした。領主に向かって領地を手放せというのだから驚くのも無理はない。


「私はこの情報が入ってきてからずっと戦いに勝つ手段を考えてきました。それも正しく勝つ手段を」

「戦争を仕掛けられてるんだ。勝つ手段を考えるのは当然のことだが正しくとはどういうことかな?」

「この戦いで重要なのは、領民に望まれているのは誰なのか、どのような統治なのか、それを明らかにすることだろうと考えました」


 俺もそうだけど人は可能な限り幸せに生きていきたい。じゃあ幸せって何だろう? と考えると人それぞれで答えはない。だけど幸せを追求するには、生活に必要な金銭を得るための働く場が必要で、働ける健康な身体と精神が必要という点は誰でも一緒だろう。


「私が見てきた限り、ドゥラーク領もアレーゼ領も美容健康関連商品で得た利益を領民に還元していました。けっして領主とその周囲だけが利益をあげる方法はとってこなかった。ドゥラーク領は増えた利益で船着き場の修繕や交通網の整備に投資し安全で作業しやすい環境を提供しています。アレーゼ領は農作業を楽にする機材を私から購入して領民に貸し出しています。おかげで作業効率があがり、少ない人手で今までより広い地域での耕作が可能になっています」

「それは領主にとっても益があるからだが?」


 聖人君子が領主になるわけじゃない。領地を受け継いだ貴族が領主になる。領主は自身に有益な領地経営を行なおうとする。問題はその経営の中身だ。


「当たり前です。私達は自分の幸せを追求しているのですから無益なことに投資などしたくありません。ですが投資が領民に有益なら、それは領主にも領民にもどちらにとっても幸せの追求に繋がる行為なのではないでしょうか?」

「そうあればいいと思っているが……」

「もちろん結果失敗に終わることもあるでしょう。それは仕方ありませんよ。私達は神ではないのです。予想の全てが成功に繋がるなんてことはあり得ません」


 予想外の出来事が起きなくても、必ず上手くいく経営なんてものはない。たまたま運が良かっただけという場合も多い。もちろん予定通りに進むよう情報を集めて精査するのも大事だし、運用面でのシステムや人材も大切だろう。念入りに準備し油断なく進めても失敗してしまい損害を出すことはある。政治は結果だと言われるのも、どんなに目的が素晴らしく気持ちが気高いものであっても、結果として失敗し領地や領民に与える損害が大きければ批判され責任を負うべきってことだ。その覚悟を持ち、事後の精算を果たす者にこそ領民に命令する権利があると俺は思ってる。


 ベネディクト侯爵に続いてヴィアーナが口を開いた。


「つまりリカルドは、領主と領民のどちらも幸せになるような姿勢で統治を行なってるのは誰かを今回の戦いで明らかにするべきだと言いたいのね?」

「その通り」

「話を戻すわね。私達が領地を手放すというのは領主の座から下りること、この理解でいいかしら?」

「いいよ」

「領主の座を下りることがどうして……あなたの言う正しい勝ちに繋がるのかしら?」

「それはしっかりと説明するべきだよな」


 この一年で美容健康関連商品がバカ売れした。南部貴族の女性陣は年齢に関係なくほぼ全員が使用したらしいし、平民用も領民の多くが使用してるはずという。クリスティナ侯爵夫人、お義母さんは「これを使用したら他の商品は使えない」と言っていた。ジョアナ王女が誕生日パーティーのために効果は落ちると判っていても求めた。それほど売れた商品の利益を港や運河の利便性を上げるために使用している。ドゥラーク領とアレーゼ領を繋ぐ道路をいくつも建設していたし平民用無料風呂も建てた。


 この状況下で二領の領主がその座から下り、領地から居なくなったろしたらどうなるだろう?


 これまでリンクスは巷では物同然の扱いを受けてきた。人としての扱いはされなくても、取引きは領の法律で止めてきた……今では平民並みに接している領主が下り、物同然の扱いに何ら手を打たなかった側の貴族が領主となったら、リンクスは魔獣討伐の依頼も受けないだろうし運河や領地の巡回もしなくなる。巡回のついでに各地の風呂施設や冷蔵倉庫に使用するエネルギー・ストレージタイプの魔石の交換もされなくなるだろう。


 ベネディクト侯爵やヴィアーナが領主じゃないなら俺も美容健康関連商品を卸さなくなる。便利な機材も売らない。つまりこれまで莫大な利益を出し、領民に喜ばれてきた商品を売れなくなるのだ。


 第一王子と第二王子は、南部二領を手に入れられれば大きな利益に繋がると考えて兵を起こした。王子達に協力する貴族も同じように考えているに違いない。だが実際占領した領地は、肝心の商品は無く風呂には特別な効用がない。魔獣討伐も北部や中央より頻度が多い。そんな領地を手に入れた王子達が領民達のために投資するだろうか?


「ええ、投資なんかするわけはないわ。それどころか必要な資金を手に入れるために増税するんじゃないかしら」

「私もそう思うよ」


 金銭欲しさに王国軍を動かすくらいだ。増税くらいはするだろう。そうしないと金欠の王子達は、背負った返済金を捻り出せない上に南征に同行した兵への報奨も賄えないに違いない。


 あまりに酷い事態の推移に諦めた様子のベネディクト侯爵が再び口を開く。


「リカルド君が王子達にも商品を売ればいいんじゃないのかね?」

「冗談じゃないですよ。王子達が起こした愚かな政争の尻拭いのために動くなんて絶対にしたくありません。ご存じのように私は王国民じゃないんです。協力する義務なんてこれっぽっちもないんですからね」

「でも君達の利益も失うじゃないか?」


 ああ、そこか。確かに南部二領からの収入は多かった。顧客が多数居る国だった。だけど隣国メフルナーズがある。ここプチ・インテーラにはダリウスだけでなく幾人もの商人が隣国からやってくる。美容関連商品はもとより魔獣肉も購入してる。その人数も取引量も増えている。


 喜んで貰っているようだし楽しいからやってるので利益をそこまで追求していない。だから俺とリンクスにとって、王国という市場を失うことは大した問題ではない。逆に、忙しすぎた今までと違い落ち着くと思えば、他にやりたいことも多いことだし、リンクス達も休暇を取れる。そう言う視点で見れば今回のトラブルは良い機会になるかもしれない。


「当面の収入は減りますけど、今まで忙しすぎたので休みを取るちょうどいい機会ですよ」

「君にはとても世話になってるから心苦しかったのだが、それならいいのだ。正直なところ、今回の件では王族にとても失望したのだよ。これでも王国貴族としての誇りも持っているだけでなく、国庫収入や流通面で貢献してきた自負もあるからね。次の国王があれではこれからも無理難題を押しつけてくるかもしれない。コンコルディア王国の貴族としてこれからやっていけるのか? 自信がなくなった。だから家族と関係者を連れてドゥラーク領を出るのは良い案かもしれない。こんな戦争で命を失う者を出す方が恥ずかしいよ。それに領民も国民だから王子達の統治もさほど酷いことにはならないかもしれないしね」


 ベネディクト侯爵は領地を去ることに前向きになった。寂しそうな瞳にちょっと辛くなったけど、今は感傷的になっちゃいけない。


「私は決めかねているわ。次期領主は弟のスレイだから領地を守って譲ることばかり考えてきた。ここで領地を失って良いのか悩むわ」

「事情は聞いているからその気持ちは判るよ。だけど、一旦は地位も領地も失うことになるけれど、数年後……短ければ二~三年、長くても五年以内にはベネディクト侯爵もヴィアーナも地位と領地を取り戻すだろうね」

「どうしてそう思うの?」

「人はさ? 楽に仕事する手段があると知ればその手段を求める。良い商品があって手に入る手段があるならやはり求めるんだ。その手段を手に入れられない理由が判れば排除しようとする。だから美容健康関連商品の効果を知っている人達はこれからも求めるし、魔力生成量の乏しい平民でも使える魔導器具があると知っているから使えないことに不満を覚えるようになる。もちろんそれ以前に領主と領民の間に信用関係があるというのが前提だけどさ。今回のトラブルで迷惑を被る貴族達も平民達も、二人に領主に座に戻って欲しいと願うだろうし、そのように圧力をかけるだろうね」


 特に貴族の女性は夫や友人に不満を述べるだろう。その不満を大きく強くする手段も俺はとるから、南部だけでなく中央や北部でも二人を領主に戻すよう圧力が強まるだろう。周囲に二人を領主に戻せという空気が蔓延したとき、王子達がどう始末をつけるのか今から楽しみだ。


「そうなのかしら?」

「まあ希望的観測に終わったとしても、プチ・インテーラはヴィアーナが作った村だから大きくしていけばちょっとした国っぽいものになるだろう。ベネディクト侯爵にも協力して貰えば、隣国の商人との取引き面は心配ないし商品面では俺達も協力する」

「……そうね。私もベネディクト侯爵と同じく、今後の王国で領地を守っていく自信がなくなってるの。考えてみれば、理不尽な国王の下で領主をさせるのはスレイにも可哀想だわ。配下に無意味な戦争させたくないし……」


 そして、方針が決まると二人は動きが早い。ヴィアーナは、領地に戻り雑事を済ませた後。身内と関係者に伝え一緒に国を出る者達とプチ・インテーラへ移動すると言い残しアレーゼ領へ向かった。ベネディクト侯爵もまた同じように身近な者達に話したあと移動すると言っていた。


 ヴィアルはそれぞれの護衛役を決めて配置すると言い仲間のもとへ戻っていく。俺はこの部屋の外で待機しているセキヒと一緒に帰路につくことにした。ベネディクト侯爵やヴィアーナが連れてくる者達のためにも、家を用意しなくてはならない。ダークエルフに頼めば二十日もあれば集合住宅くらいは建てられる。当面はそこで暮らして貰い、各自の家は徐々に建てていけばいいだろう。所有者の居ない土地ばかりだ。移住してから土地を選んで貰った方がきっと満足のいく家を建てられるに違いない。

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