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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第一部 情に棹させば流される    第一章 傭兵隊結成
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錬石師養成

 エルフとダークエルフの集落から毎日、五歳以上の混血児が六名とまだ幼い混血児を持つ親が三名が我が家にやってくる。冷蔵倉庫に保管されているセキヒ達が狩った魔獣の解体作業という仕事をするためだ。


 血抜きはセキヒ達が、魔力抜きは俺が創った魔石が行なっているから、彼らは皮を剥ぎ、爪や牙を取り、部位ごとに解体する。それらの仕事を終えると、解体した部位の幾らかが彼らの食材となり、また俺から賃金を貰える。ちなみに時給計算で一刻あたり小銀貨五枚。集落でたまにある土木作業で稼ぐとしたら三刻でおよそ小銀貨十枚だから、割の良い仕事だと自負している。


 仕事は一日あたり少ない日が二刻で多い日でも三刻だ。小銀貨十枚から十五枚稼げれば、五日間は家族三名くらいの生活は困らない。仕事はほぼ毎日あるから、多少は貯金もできるだろう。


 それと、我が家には温泉を引いてあり、帰宅前に利用してもらっている。水浴び場で身体を洗うのがエルフやダークエルフにとっての普通だけれど、混血児は水浴び場でも肩身が狭い状況になりがちだから、我が家で身体を清潔に保ってもらえる。


 で俺は創石した能石そのものと能石を利用した道具を売って金を稼いでいる。俺が創る魔石や能石は使用者にカスタマイズするし、特定の使用者以外は使えないセキュリティ機能も付いている。だから、簡単に創れる単一属性の魔石でも大銀貨二枚。複合属性の魔石や、特別仕様の能石ともなると最低でも金貨一枚で売っている。


 通常、クズ魔石は小銀貨一枚、騎士が使う魔石だと大銀貨一枚からが相場だ。俺の創る魔石はかなり高額だけど、純度の高い属性因子の魔石は少量の魔力で魔法を発動するからエルフでもダークエルフでも欲しがる。魔獣を相手にしなければ生きていけないリガータの森で暮らすには、高品質の魔石があるととても便利だからな。


 いくら俺が創石した高品質の魔石でも日常的に使い続ければ劣化する。そして高品質の魔石を使って魔法を発動していると低品質の魔石では満足できなくなる。少量の魔力で強力な魔法を発動し続けてきたのだからそれも当然だ。


 だが、俺が創石すると高額なのは間違いない。

 だから、魔獣から採りだした魔石の品質をあげてやれば、懐に余裕の無い者でもそれなりに使い勝手の良い魔石を手に入れられる。俺が創石した魔石じゃなくても威力の高い魔法を発動できるようになるしね。


 自然界にある魔石の品質をあげる仕事を《《錬石》》という。亜人には今のところ錬石師は居ないし、人間でも世界に両手の数は居ないはずだ。魔法を発動するためには魔石が必要なのだから、錬石師はとても重要な職業なんだけど、技術を取得するために必要な条件が高いために数が少ない。

 俺は孤児達にこの錬石の技術を叩き込もうと考えている。

 

 魔獣から採れる魔石に含まれている属性因子は通常一種類じゃない。火属性因子の影響が強い魔獣から採れる魔石でも、火属性因子がもっとも大量に含まれているというだけで、水や土などの他の属性因子も含まれている。


 魔石に魔力を通すと含まれている属性因子が活性化し、通された魔力と融合して魔法を発動する。

 だが、使用する魔法の属性と異なる属性因子の存在は、発動する魔力の威力を減少させ、また必要な魔力量も増大する。


 だから基本的には魔石に含まれる属性因子は一種類の方が品質の高い魔石だ。もちろん複合魔法を発動させるためであれば、複数種類の属性因子が含まれていてもいい。ただし、複合魔法を発動させるには高度な術式が必要になる。魔石に魔力を送り込む際に、複雑で高度な術式をも構築して送るなんて芸当は、必要とされる魔力量を持っていたとしてもとても困難だ。貴族でもごく一部の熟練者にしか不可能だ。通常は一種類の属性の魔法の威力を上げようとする。それが強力な魔法を発動する近道だからだ。


 だから魔獣から採りだした魔石に含まれる属性因子が一つに限定されているならば、その魔石を欲しがる者は多い。エルフでもダークエルフでも他の亜人でも、もちろん人間でも喉から手が出るほど欲しがるだろう。必ず高値で売れる。


 では何故錬石という仕事が広まらないのか。


 魔石の属性因子を操作するには、魔石の中に存在する属性因子やその他の異物を感じられなければならない。とても繊細な感性を必要とする。

 俺が接してきた混血児は皆、この繊細な感性を持っている。つまり錬石という仕事で必須な基礎を持っている。混血児しか持っていない感性じゃないけれど、混血児に多く現れる資質だろうと俺は判断してる。あとは錬石に必要な魔法……不要な属性因子等を取り除き、必要な属性因子を増量する二種類の魔法を発動させられるよう訓練すればいい。


 言葉で言えば簡単に聞こえるけれど、けっこう難しい作業のはずだ。魔石から不要なモノを除去するのは魔法さえ覚えれば難しくないだろう。だけど、必要な属性因子を増量する方はそうはいかない。魔石の大きさや質を見極めて属性因子を加えていかないと魔石は壊れてしまう。魔石の見極めには経験が必要で、ここに時間がかかる。早く覚えられる者なら一年から二年ほどで可能だろうけれど、そうでないなら数年かかるはず。思い通りに魔石を創るより繊細で難しい技術だろう。一人で学ぼうとしてもかなり難しい。だから魔力や属性因子を操作できるような特殊な技術を持つ指導者が必要になる。

 錬石という技術を習得する際にぶつかる困難の一つだ。


 そして最大の問題はお金がかなりかかるという点だ。

 訓練中に壊れる頻度も最初は多くなるから魔石を数多く用意しなければならない。魔獣から採りだしただけのものでも魔石を購入するにはお金がかかる。魔石を加工する際に出るクズ魔石でさえ生活魔法で使用できるから、クズ魔石一個で小銀貨一枚とやはりタダでは手に入らない。最初はクズ魔石で訓練するとしても、ある程度技術を身につけたら大きな魔石で訓練しなければ錬石で必要な技術は身に付かない。要は、錬石師になれるのは裕福な家庭に生まれた者達なのが現実だ。いくら才能があり努力を惜しまないとしても、お金がなければ訓練できないんだ。


 ここにはセキヒとソウヒが居て、魔獣を狩って魔石を手に入れるのは簡単だ。俺が頼めば毎日十頭でも二十頭でも狩ってきてくれるだろう。技術は俺が教える。魔石はセキヒ達が用意する。この環境なら、貧しくて簡単に魔石を買えない混血児達でも錬石の訓練ができる。

 

 そしていずれは、俺達が育てた錬石師達が後継者を育てていけば良い。


 今日の解体作業を終えた混血児達に「錬石師の訓練をしないか?」と訊いた。もちろん錬石師という仕事を聞いたことのない者達ばかりだから、仕事の説明も、技術を身につけるまでには毎日の研鑽と数年かかる可能性も伝える。


 魔力や属性因子を感じる繊細な感性を持ちやすい混血児だからこそ進みやすい道がある。このことを俺は強調した。


「私達の子どもも五歳になったら教えていただけるのでしょうか?」


 エルフやダークエルフは五歳未満の子は家の外で働かせない。どんなに簡単な仕事でもさせないんだ。まだ幼すぎて働けないというだけでなく、子どもがなかなかできない種族は子どもを大切にする。そうは言っても、十五歳になれば一人前に働かなければならないから危険のない仕事を五歳から学ばせる。ここでも十歳未満の子は解体された肉に塩をすり込む作業だけしかさせない。


 まだ生まれたばかりで解体作業を手伝えない子を持つ親の一人が心配そうに訊いてきた。


「もちろん教えます。幼い内から訓練すれば、錬石に必要な感性に乏しくてもいずれは身につけられますからね」


 仕事をなかなか手に入れられない混血児の親としては、子どもの将来がけっして暗くはないと思えるのは幸せなことだろう。その手伝いができるのは俺にとってもささやかな幸せだ。

 セキヒ達から見れば、気ままに生きたい俺にとっては面倒なことのように思えるかもしれない。だけど俺と同じように生まれや体質なんかで生きづらい者達が居るなら手助けしたいと思うのも本音だ。だからこれも俺にとって《《気ままな生き方》》の一つなんだ。

 

 ――セキヒ達ならわざわざ言わなくても判ってくれそうだけどね。


 その日の仕事を終えた混血児達に、まず魔石の中に何が含まれているのかを感じられるようになるよう教えるところから始めた。

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