表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第三章 渡る世間は糞忙しい
32/75

運河建設

 リガータの森に戻ったあとはひたすら創石しまくった。ただし、これまでと違い全て一人でやらなくて済む作業も増えていて、そこそこ忙しいんだけど楽しい日々を過ごしている。俺が創らなくてはならないのは魔石の原石。魔力を石化し霊力でコーティングした石を創るだけだ。リンクスの中には、錬石の修練で各種属性因子を魔石に込められるようになってきている者も出てきている。彼ら彼女達が俺が創った原石に必要な光属性や闇属性の因子を満たす。霊力に刻む術式は俺がやるけど、ここでは完成した術式を刻むだけだから数分もあれば十個程度の魔石を完成できる。一番時間がかかる属性因子を込める作業が俺の手を離れたのは大きい。


 これまで創石作業は一人でやる仕事だったけれど、集団でやれるようになった。仲間と協力して何かを作る作業って楽しい。


 こんな感じで美容と健康グッズと設備に使用する魔石創りを進めているんだけど、他にも仕事ができてしまって本来俺がやりたかったことに手をつけられていない。


 ……飛行船作りたかったなぁ。


 他に出来た仕事ってのがこれまた大仕事。ドゥラーク領から戻る途中でアレーゼ領のヴィアーナと会って来たんだけど、とんでもないことを考えていた。その件でイアンはアレーゼ領に残ったんだ。


「運河を作るわ!」

「は? 何言ってるんだ?」

 

 街を見て回った後に領主宅へ伺うとヴィアーナは突拍子もないことを言い出した。


「運河よ、知らないの?」

「運河くらい知ってるさ。だけど大規模な工事が必要で……」

「リカルドが手伝ってくれれば来年の春にはできるわ!」


 嫌な予感がしたんだが当たっていた。昔、貴族の魔法生成力がもっと多かった頃には土属性魔法を利用して運河を掘っていたんだそうだ。当時作られた運河はアレーゼ領北部と中央部を十字に走っていて、今も穀物の運搬に利用されているらしい。今の貴族が保つ魔法力ではそう簡単な作業じゃないから、俺に頼ろうというのだろう。


 現在のアレーゼ領は当時より南側へかなり拡張しているという。南部にあった森を切り開いて農地を広げたためらしい。南部から中央までは馬車で穀物を運び、中央からは運河を利用しているとのこと。今までならばさほど不便は無かったけれど、リガータの森で狩った魔獣の肉を領民へ提供するとしたら距離があってとても不便になった。また、このところドゥラーク領との取引きも盛んになったため、馬車よりも大量に運送できる運河が必要になったとのこと。


 つまり、リガータの森の近くからアレーゼ領を経由してドゥラーク領側の海まで続く大きな運河を作りたいという話のようだ。


「そりゃ土属性魔法を利用して運河を掘るならそう難しいことじゃない。だけど、必要になる魔石を俺に創らせようというのならそれなりの代金をいただくことになるんだが?」


 運河工事は道路整備のための整地より規模が大きい。使用する魔法も広範囲で掘った後の土砂の処理にも魔法力が必要になる。それだけの魔法を数多く放つならエネルギー・ストレージタイプの魔石を頻繁に交換しなければならなくなるので個数も多くなる。使用する土属性魔法自体は難しい術式を必要としないけれど、威力が大きい魔法を放つ必要があるのでその分土属性因子量が多く魔力密度の高い魔石じゃなければならない。とすると創石時点で相当な精神力を求められる。単一属性だから短時間で創れる種類の魔石だけどかなり疲れる作業になるだろう。


 エリザベスに関することならいざ知らず、他のことではできるだけ楽したいし、そもそも金には困っていないんだからわざわざ面倒な仕事を受ける必要もない。ということで少しふっかけてみた。


「もちろん支払うわ。ただ分割にして欲しいのよ」

「分割? エリザベスと仲がいいからって調子に乗るなよ?」


 この世界での分割での支払いは、かなり親しい間柄か間にギルドを入れて行なう。信用が薄い間柄で行なうようなことじゃない。


「調子に乗ってなんかいないわよ。それにこの工事は貴方にとっても悪い話しじゃないのよ?」

「どういうことだ」

「前々からベネディクト侯爵と話し合っていたのだけれど、リンクスの中でもリガータの森では住めない者がそれなりに居るでしょ?」

「そりゃあな。人の住む街で生活していたのに、急に瘴気が渦巻きと魔獣の多いリガータの森で暮らすと言っても簡単に決められることじゃない」


 そうなんだ。特に両親と一緒に暮らしているリンクスは街や村を離れたがらない。両親には既に仕事もあるし、それは当然のことだからいくら差別されない場所だからと言っても無理に連れてくるようなことじゃない。今リガータの森で暮らしているリンクスは孤児だったり両親とは別に暮らしていた者達がほとんどだ。


「それにアレーゼ領にもドゥラーク領にも大勢の人が就く仕事が必要なのよ。私達の領地は王国内では豊かな方だけど、それでも仕事に就けなくて貧しい人たちがまだまだ居る、運河は工事でも大勢の人が仕事を手に入れられるし、完成後も維持管理や荷物の集荷や配送で仕事が生まれるわ」


 公共工事の目的の一つは地域に仕事を作ることだ。運河なら確かに作ったあとも仕事が生まれるし、内燃機関を備えたクルマと整備された道路網がないなら陸上輸送よりも水上輸送の方が大量にそして早く輸送できる。食糧で顕著だけど、輸送に時間がかからないメリットが大きいのは判る。広い地域で食糧を融通し合えるようになるから価格も安めに安定するし量の確保も楽になる。生きていく上でかかせない食糧の調達に苦労しなくなるということは、人々に安心を与え住みやすい環境を生むだろう。


 ……ただなぁ、俺の境遇とかぶる点が多いリンクスのためには動きたいけれど、世のため人のために生きたいわけじゃないんだよな。


 理屈ではヴィアーナの言うことに納得しているけれど、面倒だという思いも強くて素直にやると言いたくない。


「リカルド様。どのみち美容クリームなどの運搬もあるのですから良いのではありませんか? それに風に頼らない船も作りたいと仰っていましたし……」

「……エリザベス」


 エリザベスの「信頼していますよ」という微笑みが胸に刺さる。

 うーん、エリザベスの言う通り蒸気船はいずれ作ろうと思っていた。飛空船を作った後は蒸気船を作りたいとエリザベスに話した覚えがある。簡単な魔法を利用した蒸気機関を作って、その仕組みを教えておけばリンクス達にもいろんな道具が作れるようになるだろう。そう思っていた。ま、エリザベスと湖や海を蒸気船に乗って楽しみたいというのも本音の一つだけどさ。


「分割で支払うけれど、運河の使用量の一部の貴方にも渡すわ。エリザベスから聞いたけど、高価なマギレウムをたくさん使いそうな道具をまだまだ作る予定だそうじゃないの? そりゃお金に困っていないのは知っているけど、それでも収入源はあった方がいいんじゃない?」

「ぐっ……一部ってどのくらいだよ」

「そうね。毎月純利益の千分の一といったところかしら」


 純利益か。ということは赤字の月は収入無し。だけど運河のひと月の純利益が大金貨一枚だとしたら大銀貨十枚。大銀貨十枚は今の俺にとってはさほど大きな額じゃない。だけど魔獣肉がたくさん売れるようになれば運河を利用する人も増えるだろうからひと月に大金貨一枚ってことはないだろうな。

 正直、運河からの収入なんて無くても良い。


 それよりマギレウムだ。最近大量に使用するクルマなどを作っていたせいかとにかく高く感じる。マギレウムに代わる魔力伝導力の高い物質を探そうか? 何かの合金で作れないものか? そう考えている。実際、便利な道具を作ってもリンクス達全員に渡せるような状況じゃない。冷蔵庫に使用するわずかな量だって以前より高くておいそれと作ってあげられない。


 ……魔法に頼りすぎず、それでいてこれまでにない便利な物。前世を思えばいくらでも作れる気がするけれど材料がなあ。魔法をまったく利用しないで作れるほどはこの世界の文明度は高くない。かといって魔法に頼りすぎていたから道具を作るにしても材料の種類が少ないしなあ。素材から探さないといけない。ちと面倒だけど楽しいからいいか。


「協力する。ただし! 急かさないでくれ。先ほど話した美容と健康関係の仕事でリンクスの女性陣は手一杯だし、男性陣は褐色の戦士の仕事だけでなく集落近隣の警護もやってる。その他の仕事もたくさんあって人手が足りないんだ」

「そちらにも事情があるのは判る。でも春までには……何とかしたいのよ」

「何故春までになんだ? 穀物の輸送が忙しくなるのは野菜の収穫が最盛期になる夏以降だろ?」

「……中央から視察が入るのよ」

「視察?」

「アレーゼ領やドゥラーク領はクラウン領と同じように、魔獣討伐の依頼を中央に出してきたわ。当然、派遣されてきた討伐兵等の報酬や滞在中の世話もしてきた。だけど成果は捗捗しいものではなかったの。ほとんどの依頼で領内に相当な被害が出ていたし、襲来予定の魔獣の数が多ければ断わられるような感じだったの。正直諦めていたのよね。それが褐色の戦士に依頼するようになり、領地周辺の巡回もお願いするようになってから起きた被害は柵を壊された程度の被害がたった二件よ。領民からの評価もあがってる。接待などしなくていいから魔獣対策費は減ったわ。だから当然中央へ依頼しなくなったわけだけど、そうするとあちらは収入が減ったから不満が出てるらしいのよ」

「それで?」

「アレーゼ領とドゥラーク領は、混血児に酷いことをして成果をあげているんじゃないかってデマが流れてるのよ」

「酷い事ってなんなんだ?」

「餌として利用して魔獣を誘き寄せ、罠にかけて一網打尽にしている……みたいなことよ」

「よくもまあそんなデタラメを」


 開いた口が塞がらないとはこのことだ。そもそもリンクス達をモノ扱いしてきた側がそれを言うのかと。自分達のメンツを守るためなら自分達がしてきたことも記憶から消してしまえるらしい。恥を知れと言いたいよな。


「デタラメもいいところだわ。私やベネディクト侯爵が報告したような、リンクスが実力で成果をあげているとは認めたくないのよ。貴族は貴族にできることをすればいいのよ。魔法生成力が落ちて昔と同じ事はできないのにその事実を認めない。平民もうすうす気づいているというのに滑稽なことよね」

「だからヴィアーナは、リンクスや貧しい者達が運河の運営をして生活しているところを見せたいってわけか」

「そうよ。あなたに無理を言っているのは判ってる。でもここで中央に付け込む隙を見せてしまったら、リンクスを保護するためとか聞こえのいい嘘を元におかしな国法を作られてしまうわ。例えば、中央や北部の魔獣討伐を手伝わせるみたいな形をとって自分達に都合のよい合法的な労働力にしようとするかもしれない」

「だけど俺達は国民じゃないからその法に従う義務はないぜ?」


 言い返したら呆れた視線を向けられる。


「馬鹿ね。そういう法を作られたら南部で働かせられなくなるじゃない。褐色の戦士に魔獣討伐を依頼するのも禁じられてしまうかもしれないのよ」

「それは確かに困るな」


 中央や北部へ連れて行かれたら支援してやりたくてもできなくなる。それに今までを思えば、合法的にろくでもない扱いされる可能性もある。


「私も困るわよ。だからリンクス達が適切な待遇で働いているところを見せなければならないの」

「魔獣討伐じゃ、視察に来た者の予定に合わせて仕事するなんてできない。だからか……」

「そうよ」

「でも、適切な待遇で働いているところを見せるだけなら、運河を作ってる作業を見せてもいいんじゃないのか?」


 運河完成後の仕事じゃなく運河建設中の作業姿を見せ、待遇が適切であれば問題無いんじゃないか? そう思ったけれどヴィアーナは首を横に振る。


「それも考えたけど、作業では貴方が創る魔石を使うでしょ? あの力を目の前で見たら貴方を強制的に連れ帰ろうとするわね。私達にも王命か何かを使って協力させようとするでしょう。私達は国に従って、領民の安全を守っているリンクス達に力を与えている貴方を手放すか、それとも国に反抗するか選ばなければならなくなる。いずれにしても私達の領地にとって害しかないわね。それは絶対に避けたいのよ、これはベネディクト侯爵も同意見なの」

「な、なるほど」


 確かに、大規模な魔法を発動させられる貴族はもう居ないようだから、リンクス達が俺の魔石を使用して魔法を発動し、地面を広く深く掘りそして壁面に石材を整然とはめ込んでいる様子などを見たら、驚くばかりでなくそのような魔法を発動できる理由を調べるだろう。そして事情を掴んだら今度はその力を手に入れようとするのは間違いない。

 俺はヴィアーナの意見に素直に頷いた。


「その様子を見るとベネディクト侯爵は運河の件は何も話さなかったようね。エリザベスの父である自分から話すと依頼じゃなく命令同様になってしまうからと手紙に書いていたから判ってたけどね」


 そりゃな、義父からの依頼は断りづらい。エリザベスのことを思うとできるだけ協力しなければと考えるだろう。だけど相手がヴィアーナだったら対等の立場で考えて判断できる。

 どうやら気を使って貰っていたようだ。後日お礼を伝えるべきだろうな。




 こんなやり取りがあって、運河建設用の魔石や道具も早急に創らなければならなくなってとにかく忙しいんだ。春までは百五十日ほどあるけれど、リガータの森ではそろそろ魔獣の北上が始まるからそっちにも気を使わなくてはならない。のんびりとエリザベスとの生活を楽しめる日はまだまだ遠いみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ