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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第三章 渡る世間は糞忙しい
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襲撃

 二日後、マイヤール家での用事……エリザベスの帰省と新しい事業の相談を終えてリガータの森への帰路に就いた。


 試供品として渡した美容クリームを使用したお義母さんとファレナはエリザベスの母と姉に相応しい美人だと改めて思ったな。新たな事業の準備を始めるとファレナは自宅へ戻ったあの日の夜。夕食後には昼間塗ったクリームの効果がてきめんに現れ、お義母さんは幸福そうだ。


「これでも例のお風呂が無いと完璧じゃないのよね?」


 五歳ほど若返って見え、お肌も白くぷるんぷるんになったお義母さんは心底不思議そうに訊いてきた。

 

「はい。時間が経過するに連れて健康な身体の持ち主との差が現れます。健康な身体になればその状態が五日以上保ちます。長ければ七日は保つのです。ですが身体のメンテナンスが不十分ですと二日か三日で効果が落ちてきたのを実感してしまうことでしょう」


 俺の返答を聞いたお義母さんはエリザベスに視線を向ける。

 これはエリザベスやリンクスが試してみて判ったことだ。やはり健康体とそうでない身体とでは、いくら光属性因子が含まれたクリームを塗っても効果に差が出てしまうんだ。おかげでリンクス達用にも風呂を作ったんだけどさ。みんな大喜びしていたよ。


「そうなの?」

「はい。私の場合もリカルド様の仰るとおりでした。健康な身体をと作って下さいましたあのお風呂に入るようにしてからは、肌の良い状態が長持ちするようになりましたのよ」

「そうなのね。では早速建てることにします。やはり肌の手入れをする機会は少ない方が楽ですし、クリームも減りませんしね」


 エリザベスの返答を聞いたお義母さんはベネディクト侯爵に「貴方もいいわよね?」と訊く。


「ああ、もちろんだとも。若々しく美しいおまえ達を見られるのは幸せなことだし、領が行なう事業としても充分すぎるほど魅力ある話だからね」


 これまでよりも艶のあるお義母さんに見惚れているのが明らかなベネディクト侯爵は快く頷く。侯爵のお義母さんを見る目がなんか怪しい気がするけれど、きっと勘違いじゃないだろう。

 ……これは、エリザベスに歳の離れた弟か妹ができるかもしれないなぁ。


・・・・・

・・・


 ジープを置いた場所まで馬車で移動している間、家族が喜ぶ姿を嬉しそうに語るエリザベスの話を聞きながら、俺はあの日の侯爵とお義母さんの様子を思い出していた。


 突然、馬車が止まった。馬のいななきも聞こえる。急に止まった勢いで前倒しになりそうなエリザベスを両手で支える。御者台には、俺達の安全をいつも第一に考えるセキヒが乗っているのだから乱暴な操縦などするはずがない。


「何があった!」


 馬車の窓を開けて叫ぶとセキヒからすぐ返事がある。


「申し訳ありません。待ち伏せされました」

「待ち伏せ?」

「あのシルコウ=ロブレスと言った貴族が木と木の間にロープを仕掛け、通り過ぎようとする馬の足にかかるタイミングでロープを張ったのです」


 状況を説明するセキヒの声は落ち着いているけれど怒りが滲み出ている。こういうときのセキヒは、俺の安全を守るという自らに課した使命を邪魔した者への冷徹な殺意が滲み出ていることだろう。いつもそばに居る俺ですら竜の怒りの凄まじさを感じるほどだ。


 シルコウ=ロブレス、あの煩いエセ貴族がエリザベスを追いかけてきたのか。マイヤール家の近くでは邪魔が入るからと俺達の帰り道を狙っていたのだろう。……セキヒに殺されなければいいね。


「いかが致しますか? ここなら誰にもバレずに塵芥に返せますが……ただ、囚われてる者がおりまして、その者は私もリカルド様もご存じの方なのです」

「囚われている? 誰だ?」

「イアンとかいう貴族の小せがれです」

「小せがれって……それにしてもどうしてイアンが囚われているんだろう」


 「この中に居れば大丈夫だからね」とエリザベスに声をかけ、状況を確認するために俺は馬車の外へ出た。

 「出てきたか」とニヤついているシルコウにチラとだけ視線を送ったあと周囲を見渡す。シルコウを含めて三十人ほどが道の中央に居て左右にはそれぞれ二十人ほど。


 左側の木の前でイアンが縄で縛られているのが見える。多少は魔法を使えるイアンを縛っているんだから、あの縄には魔法を抑える力が付与されているんだろう。通常は魔法の使用を妨害する力のある金属……正確には魔力伝導金属マギレウムを加工した体内から魔力を放出してしまう鎖で縛るんだけど。あ、そうか。あの縄は縄とマギレウム製の針金を交えてるのか。なるほど。あれなら縛り上げるのは楽だし高価なマギレウムの使用量を抑えられる。あの針金もきっとマギレウムを混ぜた合金なんだろうな。


 おっと、好奇心を満たしてる場合じゃ無い。


「知人のイアンが縛られてるようだけど何故だ?」


 ニヤついているシルコウに訊くと、ごろつきっぽい男達とは違う……イアンのそばに居る違う普通の貴族らしい若い男が答える。


「兄上とは知り合いだそうだね」

「兄上ってことは、あんたはイアンの弟か?」

「そ、そうさ。クラウン家次期当主のライエル=マロウ=クラウン。兄上イアンの弟だよ」


 強気な態度だけどどこか自信のなさを感じる。視線が落ち着かなくて、隙を見せないイアンとは違う。


「それでどうしてイアンを縛ってるんだ? 兄なんだろう?」

「ふ、ふん。兄上はマロウ家を裏切った罪で処刑されるんだよ。父上の命令なんだ。探していたら、何かの用でここに来ていたところを見つけたのさ。それでそこのシルコウに協力して貰って捕まえてこれから処刑しようとしていたところに、君達が来るというから処刑は後回しにしているだけなんだよ」


 猿轡を噛まされていてイアンは言葉を出せずにいる。弟の話を聞いている間、縄を外そうとかそういった身動きもしないままだ。少しは抵抗したり、俺に助けを求めるような表情を見せたら可愛いところもあると思うんだけど、状況を受け入れているのか静かに目をつぶったままだ。


 イアンが裏切ったというのは、俺に貴族軍接近の情報を伝えたことだろう。あの情報がなくてもこちらは構わなかったけれど、事前に準備を整える余裕ができて死者の数を抑える役にはたった。大勢の命を奪っていたら、ベネディクト侯爵やヴィアーナ嬢だって俺達との付き合いに慎重になっただろう。今ほど気安い関係でいられたかどうか判らない。エリザベスだって俺達を恐ろしく感じていたかもしれない。

 そう考えると、イアンに恩を感じてもいいのかもしれない。

 

 横に立つセキヒに指示を出す。俺を害そうとする輩を前に苛々の限界が近づいてるセキヒのストレス解消してあげなければならない。俺も障害を排除したいしね。何よりエリザベスを奪おうという相手だ。容赦するつもりはまったくない。


「セキヒ、イアンだけは無事に助けてやってくれ。あと、シルコウとかいう奴とイアンの弟の命も奪うな。命を奪わなければ多少怪我しようと構わない。あとは任せるよ」

「承知いたしました」


 頷いたその後、セキヒは中型魔獣でさえ素手で倒すその力を解放した。

 俺が魔法拳銃使って倒してもいいけれど、そろそろセキヒに暴れさせないといけない。ストレスを溜めすぎるとセキヒはソウヒに八つ当たりする。竜と竜の喧嘩になる。一応は人の姿でやり合うんだけど、それでも凄まじい状況が生まれてしまう。少なくとも人間同士の喧嘩とは規模が違う。殴り飛ばされたあおりで、せっかく建てた建物の一つや二つ破壊してしまうのは目に見えている。建ててくれたダークエルフの職人達やリンクス達に申し訳ない。


 俺に魔法を放った貴族軍の兵は腕を握り潰された。それでもあれは戦争でお互いに相手を倒す前提の場でのことだった。ある意味お互い様の状況だった。理由はともかく戦うための場だったからセキヒも兵の反応を一応理解していた。だから腕を失う程度で済んだんだ。


 で、この場はというと、一方的に俺達は襲撃されている状況だ。俺からエリザベスと命を無理矢理奪おうというんだ。敵に容赦する理由がない。ストレス解消のため力を存分に奮おうとするセキヒを抑えるつもりなどまったくない。


 その結果が目の前で起きている。

 イアンとの間に立つ男達に腕を振るうと頭が言葉通り吹き飛んだ。数人分の血しぶきが宙に残り、頭は元の形を残すことなく肉と骨の欠片となる。セキヒが足を進めるたびに三人から四人の男達が胴体だけに変っていく。


 死ななければ良いというのが丸わかりの蹴りでライエルの腹部を蹴り、足下に横たわるイアンを片手で掴むと俺の後ろまでサササッと駆け戻ってきて置いた。


 地球時間で言えば三分もかからないうちに左側に居たごろつき達二十人ほどは既にこの世に居ない。何が起きているのか判らず、シルコウは逃げ出すこともできずに立っている。想像を超える事態に言葉も出せず、身動きもできずにいる。多少状況を理解したごろつき達の中には逃げようとする者も居たけれど、セキヒがそれを許すはずがない。指を向けて魔法を放ちごろつきの腹部を燃やす。保有する魔力量が少なく魔法抵抗力が弱いと、協力な火属性魔法で攻撃されると火に焼かれるというのではなく身体そのものが火を放つように燃える。


 何が起きたか判らない内に恐怖も痛みも感じることなく頭を吹き飛ばされたほうがある意味幸せかもしれない。腹部から燃えていくと、熱さや痛みそして死を実感してしまうだろう。恐怖と絶望の中死んでいくのは辛いだろう。……情けはかけないけど。


 剣を構えて俺に向かってくる者も居た。けれどそれは無謀というものである。セキヒが俺に迫る危険を見逃すはずはない。


「愚か者がっ!」


 その声と共にセキヒは片手を突き出し風属性魔法を放って襲ってきたごろつきの手足を切り落とす。


「私の主に手を出そうとした酬いだ。命が失われていく恐怖の中その愚かさを思い知るがいい」


 その後、立ち尽くしたままのシルコウをライエルが倒れてるところまでゴミを放るように片手で投げ飛ばすと、もう命が尽きた者達が転がる場に火属性の魔法を放ち肉が焼けた匂いだけを残した。


 俺の足下で座り込んで言葉は出せないまま状況を見続けていたイアンの瞳には恐怖しかない。セキヒやソウヒが強いとは知っていてもどの程度なのか知らなかっただろうから仕方ない。真龍ヴェイグが俺を守るために付けてくれた二名は竜族の中では頂点。本気を出せばこんなものではない。


 目の前で起きた凄惨な状況も、襲い来る何体もの魔獣をこともなく倒すというか、粉砕するというか……その様子を目の前で何度も見た俺にとっては当たり前の結果に過ぎない。創石の力を手に入れて魔法を使えるようになる前はセキヒとソウヒが居なければ俺は何度も死んでいた。


 リガータの森のそばで賊に襲われたこともあり、人が潰されていく様子も幾度か見ている。この世界で生きていくということは、命のやり取りに慣れなければならないということでもある。当然、遺体が散乱する酷い状況にも動じないようにならなければならない。そのことを家から追い出され村にも住めなかった俺は学んだ。


 遺体が焼けた匂いも消え、何があったかよほど細かく調べない限り判らない状態になったところで馬車の中からエリザベスを呼ぶ。食材になる魔獣の遺体は見せられても、人の遺体は彼女にはできるだけ見せたくない。だから貴族との争いもできることなら避けたい。


 既得権を持つ者はその権利を守るためになり振り構わない。リンクスをこれまで通りに商品として利用し続けようとしたクラウン領の領主だけがそうなのではない。力づくでも思い通りにしようとする。


 俺がやりたいこと、作りたいものはきっと貴族とぶつかる理由になる。エネルギー・ストレージタイプの魔石を利用する俺の魔石利用法は魔法生成力の多さを理由に保ち続けていた地位を脅かすだろう。また、前世の知識を元に作る物はきっと彼らの現在の利益を損なうだろう。エリザベスやヴィアーナ達はそう言っていたし俺もそう思う。


 だからきっと貴族とはぶつかるんだろう。ベネディクト侯爵やヴィアーナのように新しい流れに乗ろうとする貴族だって、魔獣被害が大きい地域の領主だから俺達と対抗しようとしなかっただけで、もしも魔獣被害の少ない地域の貴族なら今のように俺に協力的ではないだろう。


 ましてや、既得権益集団の頂点であり国を治めている王族なら俺を目の敵にするんじゃないだろうか?


 今から心配しても仕方ないんだけど、というか俺自身のことはまったく心配しちゃいないんだけど、エリザベスやリンクス達のことはやはり心配になる。俺に巻き込まれてしまうのは申し訳ない。


 エリザベスに声をかける前に、俺に巻き込まれた一人のイアンの縛られていた縄を外す。


「で、この弟はどうする?」


 このままセキヒの餌食にしてしまってもいいんだけど、一応は血の繋がりがあるイアンに処遇を決めさせる。すまないと礼をしたあと、呆れた視線を胸を押さえている弟ライエルに向けた。


「放してやってくれないか? こいつは父上に従っていればこれからも今まで通りに気楽に生きていけると信じている。時代の変化を感じられない愚かな奴だがやはり弟なんだ」


 イアンのライエルを見る目が呆れつつも寂しそうで「こいつも小賢しいだけの男じゃないんだな」と少し見直した。俺も家族は大切だし仲間も大事だ。権力争いで身内を排除しようとする輩は貴族に多いけれど、正直軽蔑している。だから命を狙った弟であろうと、この場だけでも救ってやろうとするイアンに好感を抱いた。


 「判った。ライエルはここに置いていく」と応えたあとエリザベスに「シルコウはここに放置していいか」と訊いた。


「これからもリカルド様を襲ってくるかもしれませんが宜しいのですか?」


 どうやらこの惨劇を経験してもこの男は諦めないようだ。そのことが美しい眉をひそめるエリザベスから伝わってきた。


「一度は逃がしてやるさ。でも次は生かしておかない」


 腰を抜かして座り込み、セキヒに怯えつつも俺には憎々しげな視線を向けている。「エリザベス、どうして……」というつぶやきも聞こえたけれど俺もエリザベスも無視だ。


「よし! イアンを連れて出発しよう」


 セキヒは気がすんだのか落ち着いたいつもの雰囲気を取り戻し、馬の足を調べてから御者台に乗った。ライエルとシルコウを置いて、イアンとエリザベスと一緒に馬車に乗る。

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