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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第三章 渡る世間は糞忙しい
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帰省

 アミルの治療した二日後、約束通りエリミアがやってきた。侍女役に遠縁の女性も連れてやる気に満ちた表情をしていた。リンクス達が建てた家を見まわり、それぞれの状態がどうなのか調べるところからエリミアは始めた。

 

「親が必要な家がどのくらいあるのか、どの家なのか、あんた達はちっとも教えてくれないからねぇ」


 笑いながらだったけれど、ちょっとしたひと言で胸をグサリと刺すエリミアはやはりエリミアだった。

 いや、リンクスの自主性に任せていたんで……って言い訳だな。


 親から捨てられたにせよ、両親が亡くなったにせよ、孤児となったあと彼らは彼らなりに幼いながらも生きていた。そのせいかここに来る子は幼くても結構しっかりしている。できることは自分でする癖がついている。それに加えて年長のリンクス達が面倒を見ていたものだから、俺はあまり気にしないでいられた。食事と衣服、それに寝床を用意すればあとは彼らが勝手にやってくれていた。


 我が家とダークエルフの集落との間に建てられたリンクス達の家を回ってエリミアは状況をつぶさに調べたようだ。


「思っていたより悪くないね。部屋は掃除していて清潔だし、洗濯もこまめにしている。年長組の手伝いもちゃんとやってるようだ。尻の一つでも叩いてさせるつもりだったが拍子抜けしたよ」

「そうですか」

「あの子達に足りないのは自分達より年上の甘えられる人間と一緒に過ごす時間だね。できるだけ身近に居て日々の出来事を聞いてやったり困ったことが起きたら相談相手になってやるだけさ」


 「あとのことは任せておきな、子どもがたくさん増えて生活に張りがでてきたよ」と愉快そうに笑うエリミアは、アミルの怪我を心配していたときのような子どもの成長を願う母親の顔をしていた。


 ……我ながら良い案だったようだ。夜にはエリザベスにも話そう。




 夕食後、エリザベスにエリミアの話をした。最初は楽しそうに聞いていたんだけど、途中から何かを考えている様子。


「何か考え事かな?」

「母と過ごした幼い頃を思い出してしまっただけですの」

「離れて暮らしてたことがあったの?」

「いえ、ずっと一緒に暮らしていました。けれど、お父様のお仕事の都合で社交の機会が増え、お姉様と私は毎日毎晩のようにお客様の前に出るようになりました。その頃からお母様と過ごす時間が減ってしまいましたの。そのことを少しだけ寂しく感じていたのです。ふとその時の気持ちを思い出しまして」


 エリザベスの表情から多くの懐かしさとほんの少しの寂しさが伝わってくる。そう言えば爵位を取り上げられたあと親戚を頼った両親はどうしているだろう? 昔のことは嫌なことが多いからあまり思い出さない。だから、家族の現在なんて考えたこともなかった。俺が顔出しても、家族に嫌な過去を思い出させるだけだろうから会うつもりもない。だけど……。t


「エリザベス、一度ドゥラーク領へ行こうか? 結婚式の時もあまり話す時間なかったしさ?」

「私の実家に行くと他の貴族の目もあるのですけどよろしいのですか?」


 エリザベスは表向きマイヤール家と縁を切っている。俺とリンクスが貴族の兵を戦ったためだ。もうエリザベスはマイヤール家と関係ありませんと体裁を整えていてもベネディクト侯爵を非難する者は居るだろう。しかし、一応体裁を整えておけば言い逃れはできる。もちろん裏ではそれなりにお金も流れただろう。


 だからエリザベスは実家に帰るのを躊躇っている。

 だけど、俺はいつかは堂々と帰れるようにしたい。リンクスは魔獣討伐で成果をあげているから、ドゥラーク領周辺でのリンクスへの評価は騎士団からだけでなく住民からも良好だと聞く。これまで差別の対象だったとしても、自分達の安全を守っている姿が知られ続けたらその目はきっと柔らかくなる。人は現金なものだから、リンクスが居ないと困るとなれば味方になってくれる人も増えるだろう。


 時間はかかるだろう。でもリンクスが領民に受け入れられるようになればエリザベスとマイヤール家の縁を再び元通りにすることも可能なんじゃないだろうか? 俺はそう思っている。


「ああ、俺はお義父さん達に挨拶したら、街をぶらついているからさ。エリザベスは家族と好きなだけ過ごすといいよ。久しぶりに人間の社会も見てみたいしね」

「ありがとうございます。とても嬉しいですわ」

「じゃあ、これから準備を整えて明日にはドゥラーク領へ向かおう」


 笑顔のエリザベスに俺も嬉しくなった。エリザベス付きの侍女とセキヒにも明日ドゥラーク領へ向かうと伝える。これで明日には出発できるだろう。ジープで移動すれば二日もあれば到着する。途中はアレーゼ領で一泊してもいいな。急のことだからヴィアーナに会う時間は作れないだろうけど、まあ、行きがけに連絡しておけば帰りならなんとかなるだろう。


◇◇◇


 アレーゼ領を大きく迂回する形でジープで移動する。ホバークラフトのように車体の下部から空気を噴射して浮揚するジープは地面の凹凸に対処するためのサスペンションは必要ないけれど土埃を舞い上げる。いずれ重力制御系の術式をマスターしたら、この問題も解決するんだろうけど今はまだ無理。こういうときはイメージをそのまま術式に変換して魔法を発動させられる力が欲しくなる。


 魔力喰いの俺には、貴族や平民の身分を問わずみんなが持っているその力が無い。だから通常の魔石に魔力を送るだけで魔法を発動できない。そのことを思うとちょっと残念な気持ちになる。それでも術式を理解できるようになれば、創石の際に術式を魔石に書き込めば魔法は発動するのだから、弱音を吐くよりもっと勉強するべきだろう。快適な移動のために頑張ろう。それは俺のためだけでなくエリザベスのためにもなる。そう思えばまだまだ頑張れる。


 夜は、ジープのシートを横に倒して簡易ベッドにし、エリザベスだけは車内で寝て貰う。俺を含むその他はジープの周りに毛布を敷いて休んだ。エリザベスは申し訳ないから自分も車外でと言ったけれど、俺は認めない。車内でだって宿とは違って快適に寝られるわけじゃない。それでも家族に元気な姿を見せて貰いたいから、少しでも楽に休める場所で寝て貰いたいからなあ。


 長い移動は身体に負担をかける。腰や背中も痛くなる。できるだけ休憩を取りながら移動していても、元貴族のお嬢様のエリザベスには大変なことだろう。長距離をもっと楽に移動できる手段を作らなければと、リガータの森に戻ったら始める作業を決めた。


 リガータの森を出て三日目にはドゥラーク領へ到着した。馬車でなら七日から十日は最低でもかかる日数だ。マイヤール家の皆さんがそう簡単にリガータの森へ来られないのも仕方がない。


 ドゥラーク領の領都とでも言うべき中心都市はアローニャ。

 ドゥラーク領の中心からやや東寄りにあり、人口は三十万人程度らしい。コンコルディア王国南部では最大の都市ということだ。ベネディクト侯爵からの依頼を受けるため、ここに何度も来ているヴィアルからの情報だ。


 魔獣出没地域から離れているからか城砦で囲まれていない。建物がそこかしこに建ち並んでいて、人の行き来が多い交易を主要産業としているせいか街にも活気がある。


「久しぶりで、なんだか懐かしい気持ちがします」


 領内で悪目立ちしないようジープは郊外の家に隠し、馬車を借りて乗り換えている。御者台にはセキヒが乗っていて、周囲に油断なく目を配りながら馬車を移動させている。箱形馬車の窓から外を眺めるエリザベスは見慣れた街並みを見てホッとしているのだろう。我が家でも安心した様子で過ごしているけれど、それとはまたちょっと違った落ち着いた雰囲気を感じる。幼い頃から過ごしてきた街に戻ってきたんだからそれも当然だ。


 俺の知らないエリザベスが居るような気がしてちょっと寂しい気もしないわけじゃない。でもそんなことよりもエリザベスが心から喜んでいるから嬉しい。


 アローニャの中心にマイヤール家の邸宅がある。

 門の前でエリザベスが窓から顔を見せると、門番はにこやかな笑顔を見せて門を開いた。今もまだエリザベスは使用人達に好かれていると判って俺はまた嬉しくなる。


 玄関前にはベネディクト侯爵自ら迎えに出ていた。

 先に下りて馬車からエリザベスの手をとって侯爵の前まで歩く。侯爵のすぐ後ろにはお義母さん……クリスティナ侯爵夫人の姿もある。俺は立ち止まり、エリザベスの背を軽く押す。彼女は淑やかに近づきベネディクト侯爵とクリスティナ侯爵夫人の双方に「ただいま戻りました」と穏やかな笑みを見せた。その後、お義母さんともゆっくり過ごしたいだろうエリザベスと別れた。


◇◇◇


 アローニャには初めて来たから俺とセキヒだけで歩いていれば誰からも注目されない。賑わう街並みを見つつあちこち歩き回った。時折、エルフや獣人の姿も見かけた。コンコルディア王国では亜人は国法で保護されていないから危ないんじゃとふと思ったけれど、アレーゼ領とここドゥラーク領では家畜や愛玩動物として認められていない生き物の取引きも所有も禁止されているからか亜人達の表情や態度に周囲を警戒する様子は無い。


 ……人々には笑顔が見える。きっと住みやすいところなのだろう。


 人と物が集まるためには地の利が良いだけではダメだ。安全や公正さのないところには偏った人や出何所(でどこ)の怪しい物ばかりが集まる。そんな場所はここアローニャほど栄えたりしない。


 ……この分ならいろいろと協力してもいいかもしれない。


 前世の知識を活かして作る道具はこの世界ではかなり異質だ。何と言っても魔法なんてものはない世界だからねえ。(かまど)に火を点けるだけでも魔法を使うこの世界とは当然発想が違う。魔法を使わずに魔獣と戦う有効な方法があるなんて思いもしないに違いない。


 魔法を使う前提でもいいんだ。道具そのものが魔法で動かなくても、道具を動かす動力のエネルギーとして活かせばいい。

 エネルギー・ストレージタイプの魔石なんて要は充電可能な電池のような石が創れないかなと思ったところからできただけなんだけど、ヴィアーナもイアンもエリザベスもとても驚いていた。魔力は体内で作られるエネルギーで他から調達し何かに貯めて使うという考えがないんだ。魔法の発動を可能にする魔力はとても便利なエネルギーだから、いろいろと応用すればいいのにな。


 俺は店に何が並んでるのかチラ見しながら街の散策を楽しんでいるけれど、セキヒはというとまったく関心がないようだ。ちょっとでも関心見せるものがあったらいつも守ってくれるお礼に買ってあげようと思っていたのだが、その目論見はどうやら達成できそうにない。


 ……ま、竜だからな。人間とは感覚が違うんだ。そもそも道具も何も使わずに生きていけるし、装飾品も身につける習慣も無い。食事の好みはあるけど、その他に物の好き嫌いを見せたことないしな。


 ちょっと残念だけど、セキヒ達への感謝の気持ちは別のことで現わすとするか。


 あまり長く外出していると心配かけるかもしれない。一旦戻って、もしエリザベスが家族との団らんを続けているようなら今度は港から入る荷でも見に行こう。


 マイヤール家の邸宅へ足を向けた。戻ると、門の前で騒いでいる集団が居た。

 領民をまとめる役割というのは大変だな。観た感じでは大きな問題がこの街にあるようには思えなかった。だけどそれでもどんな体制でも不満を持つ人は必ず居る。こういう騒ぎはどうしても起こるんだろう。そんなことを考えながら門に近づいていくと、騒いでいる連中からエリザベスを呼ぶ声が聞こえる。


 エリザベスに関係あることで騒いでいるというのなら無関心ではいられない。

 門番に近づき、何の騒ぎかと訊いた。


「エリザベス様に求婚していた貴族が……」

「は? 求婚?」

「ええ、領主様は何度もお断りした方なのですが、突然やってきてこの騒ぎを起こしているんです」

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