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勝利と影響

 ヴィアルの前にリンクス達が揃って俺を待っていた。その表情には呆気なく戦いが終わった安堵が見える。


「もう判ってると思うけど、今日使った魔法は全て簡単な魔法だ」


 地面を爆発させた魔石はともかく、合図に使った魔法も土を網状にする魔法も日常生活で使用する魔法の応用だ。土の硬質化は崩れそうな崖の補修で使用するし、形を変えるのもやはり街や村の整備で使われる。


「魔法は使い方次第だと判って貰えたと思う。だ・か・ら、こういうことができないかとか、こういうことで困ってるなんてことがあったら教えて欲しい。問題を解決しようとするところから新たな知恵が生まれる。俺もこれからもっともっと勉強するからみんなも協力して欲しい」


 俺を見るみんなは浅いけれど眉間に皺が寄っている。


「リカルド様、良いお話しだとは思いますがそれ今言うことですか?」

「あ、ああそうだね。なんかホッとしちゃってさ」

「ですが、貴族達はまだあそこに居るのですし、彼らが降伏するまで油断は禁物です」


 硬質化した土の網に包まれている貴族軍。馬と共に横たわる騎馬兵や、膝を地面につきながらも剣で網を切ろうとあがく重装歩兵などの二万の兵がヴィアルが指さす先に見える。


「うん、まだ終わってないよな」


 確かに終わっていない。じゃあ、ちょっと行ってくるか。

 昨夜のうちに到着していたセキヒを連れて俺はうめく貴族軍へ近づいた。ちなみにソウヒはどこかから状況を見ているはずだ。異変があったら教えてくれることになってる。


 誰が指揮官か判らないので大きめの声で中央付近に向けて声をかけた。


「私はリカルドだ。指揮官が誰か判らないので、このまま話させていただく」


 「卑怯者!」「正々堂々と戦え!」「この網を外せ!」などと罵声が聞こえるけれど全部無視だ。


「降伏するならこの網は外す。だけど、そのつもりはないというのならこのままだ。これ以上攻撃してまで命を奪うつもりはない。だが、水も食べ物もこのままでは口に入れられないだろう。もちろん排泄も無理だ。装備を身につけたままでどこまで耐えられるか頑張ってみてくれ。私としては早い降伏を願っているしお勧めするよ」


 俺が言い終えると「指揮官は私だ」と無念そうな重苦しい声がする。声のする方を見ると、獅子の装飾のついた兜が動いている。


「指揮官殿のお名前は?」

「エリアル=ザンツ=ローエンと申す」


 網に押されて兜の一部が顔を歪めている。おかげで、多分威厳ある面持ちの指揮官なのだろうが、まったくプレッシャーを感じない。気を抜くと笑ってしまいそうだ。そんな気持ちを抑えて訊いた。


「降伏する?」

「少し時間をいただきたい。決めるにしても皆の意見を聞かねばならんのでな」


 歪んだ顔でも立場に合った毅然とした声。もっともな返事だったから認めて答えた。


「そうですか。一刻後再び来ますから、その時に返事を下さい」

「感謝する」


 今の彼らの状態なら反撃らしい反撃などできようはずもなく、こちらが生殺与奪の権を握っていると現状を理解しているのだろう。そうでなければ感謝するなどという言葉が返ってくるはずがない。

 だけど、この指揮官と同じ認識を持たない者も居た。


「せめておまえだけでも!」


 そう叫んだ兵が網の間から魔法具らしき短剣を俺に向けていた。きちんと見えないけれど、短剣のような魔法具の柄あたりに魔石がはめ込まれているのだろう。そしてその魔法具から稲光りを纏った炎が飛び出し俺を襲ってきた。


 魔法を放ってきたのはその兵だけではなかった。俺とそう距離のないところに居て、網から手を出せた兵が数名同時に攻撃してきた。でも俺は身動きもせず黙ってその様子を見ている。

 その攻撃は俺に当たる前に、バチィッと音を立てセキヒの手と足に払われてしまう。威力に乏しい魔法じゃこうなることは判っていた。俺への攻撃を見逃すセキヒではない。


 そして魔法を手足で払いのけたあと、即座にセキヒは反撃に移る。魔法具を持っている手を握るや躊躇いなく手甲とともにグシャリと握りつぶした。血しぶきがセキヒの顔に跳ねた。だげどそんなことは気にもせずに、一人あたり二秒もかけず、攻撃してきた敵兵全員の手は握り潰されていた。あの手だと部位欠損を治せる治癒魔法じゃないと元通りには戻らないだろう。そしてそんな魔法を使える者が今の貴族に居るのかは疑問だ。


 それにしても、大勢の兵を包み込んでいる不安定な網の上を、赤い髪を揺らし滑るように駆けてるセキヒはやはり恐ろしい。……セキヒが護衛役で良かったよ。実力は申し分ないんだけどソウヒは油断することあるんだよ。あれさえなければなあ。


 激しい呻き声をあげる敵兵に顔についた血糊よりも濃い紅の瞳を冷たく向けたセキヒは吐くように告げる。


「殺されたいのか? リカルド様は命を奪わないよう気遣って下さっているというのに、その恩情に背くとは……愚か者が」


 セキヒの射貫くような瞳が敵兵に向けられる。身体から周囲の空気を揺らめかせる魔力が溢れている。許可したらこの場で敵兵全員を躊躇いなく業火で燃やし尽くしてしまいそうだ。


「セキヒ、守ってくれて有難う。でも落ち着いてくれ」

「す、すまぬ! 何もできずこのまま帰れぬと短慮に走ってしまった者達には、許しもなく攻撃行動に出た罪を後ほど厳しく問い詰めた上で相応の罰を与える」


 顔は歪んでるけど、その必死で真摯な気持ちは伝わってきた。全軍の命を預かる指揮官としては、一部の暴走で全員の命を捨てるわけにはいかないだろうな。


「な? セキヒ。俺はあの指揮官を今回だけは信じてあげるつもりだ。気を静めてくれ」

「……相変わらずリカルド様はお優しい。ですが、その優しさに感謝しない者など消滅させてしまった方が宜しいのでは?」


 俺への明確な敵の存在はけっして許さない。見つめられたら切れそうに鋭い光を浮かべた紅い瞳はそう訴えている。


「セキヒ、許すのは一度だけだ。次は容赦しないさ」

「牙を向け合ったら竜に二度目などない。リカルド様にはその意識を持っていただきたいのですが、今はまだ難しそうですね。判りました、ご指示に従いましょう」


 いや、確かに真龍の憑坐(よりまし)だけど、俺人間だから、竜族じゃないからね? 俺人間。

 まあいいや。セキヒの魔力が収まった今がチャンス。


「じゃあ、一刻後に答えを。良い返事を待ってますよ」


 もう一度ありがとうとセキヒに伝え、やっぱり頼りになるねと持ち上げながらヴィアル達のもとへ帰った。



◇◇◇


「……その後、降伏を受け入れ貴族軍は粛々と帰路についたそうだ」


 リガータの森北部での戦いの十日後、イアン様とヴィアーナ様が報告のため私の家へ訪れました。戦いがリカルド様とリンクス達にまったく被害なく終えたことは既に知っています。ですが、重要なのは貴族側の空気です。この戦いの結果を素直に受け入れてリカルド様達と手を取り合おうというのであれば安心ですが、きっとそうはならないでしょう。私と同じ思いのお二人は、今回の戦いに兵を出した領地の情報を手に入れていらっしゃって下さったのです。


「貴族側の被害は、死者が二十名ほどでその全員が土の網が落ちてきたときに当たり所が悪かった者達。重傷者は数百名。もっともきつい怪我は、リカルド殿の従者に腕を潰された者達。もともとは優秀な魔法騎士であったが、今後は後方支援でしか役に立ちそうにないとのことだ。軽傷者は数知れず。リカルド殿が三十名に満たないのに無傷で二万の貴族軍に勝利したというだけでなく、戦傷者がこの程度で済んだのが驚きだ。私はできるだけ死者の数を減らしてくれと頼んだ身ではあるが、最低でも数百の死者、数千の重傷者は覚悟していたのだ。それが……」


 イアン様自身もよほど想定外の結果のようで、後に続く言葉を飲み込まれました。

 イアン様は、今回の戦いを唆したクラウン家の嫡男。リンクスやダークエルフを捕えて各所へ配り歓心を得ようと画策した領主の長男です。彼はクラウン家の伝手を使って状況を調べていらっしゃった様子。


 参加した貴族は、ダークエルフやリンクスを手に入れられないと困る者、縁があって断れなかった者、金を積まれて派遣した者、そしてリカルド様やリンクスの噂を面白く思わずに居た者のようです。


「父が首謀者の俺が言うのもなんだが愚かな奴らだ。リカルド殿を調べていれば、派兵など無謀でしかないのは明らかなのに。それどころか今回の戦いでは、手を抜かれていたということも判るだろう。だというのに……」


 リカルド様の力を味方につけたら魔獣被害は簡単に抑えられる。専用の傭兵隊が出来、力をつけ始めている現状なら尚更ね。だから、敵に回したら魔獣退治に苦労している貴族には勝ち目などない。イアン様の主張には私も納得できます。でもとても悔しそうなのは、リカルド様がイアン様のお願いを想定以上の結果で酬いてくださったからだわ。リカルド様が成し遂げたことの大きさを理解しない者が多いのが悔しいのよ。


「そう、リカルド達は運が良かっただけとか、相手を舐めすぎただけとか、頭だけは小賢しく回るとか、本来の力を発揮してさえいれば負けなかったと言いふらしてる者も出る始末。使われた魔法を見るだけで、魔法を使った力量の差は明らかなのにね。土魔法で網を作り相手を覆う? 私ですら相手が十人程度なら可能な魔法よ。だけど騎士の剣でも切れず魔法でも破れない二万名を覆う網を十数名で作ったのよ? 簡単な魔法だからこそ、使用された魔力量と構築された術式の優秀さが判る。エネルギー・ストレージタイプの魔石を利用しているだろうから、魔力量では(はな)から勝ち目はないのは判っていた。だけど、術式の技量でも敵わないとまでは思っていなかったわ。リカルドはどの程度の魔石を創れるというの? 敵に回してはいけない。その思いを強くしたわ」


 リカルド様を高く評価しているヴィアーナ様でさえ、今回の結果には驚きそして恐れてしまうのね。

 リカルド様は別に誰かを支配しようとしているわけじゃない。ご自分が為さりたいことを邪魔されたくないだけ。それだけの方なのだから、貴族は下手に手を出さなければいいはずなのよ。ただ、彼の創る魔石は貴族のこれまでを否定するモノ。だから影響が大きくなるのは判る。貴族達が彼を認めたくない気持ちも判る。

 でもそれじゃいけない。否定されているのは貴族が自身を守るために作り上げた秩序なのだから、新たな秩序を作る側に、新たな秩序に関われるように動くべきだと思いますわ。


「そうなんですよ。簡単な魔法で貴族軍を圧倒した点がね」

「簡単な魔法ではいけなかったのですか?」


 簡単な魔法で勝利してはいけなかったかのようにイアン様が仰るものですからつい訊いてしまいました。


「腕に覚えのある魔法騎士が息巻いているんだよ。リカルド殿と勝負して勝って見せようってさ。貴族に勝ったのは運のおかげで力量が高いためではないと証明するらしい」

「先ほどヴィアーナ様が仰ったように、簡単な魔法だからこそ力量の違いがわかるものではないのでしょうか?」

「見る目があり、事実を冷静に受け止められる度量のある者ならヴィアーナ嬢と同じように考えるでしょう。ですが、元貴族でも魔力喰いのリカルド殿が貴族を圧倒する魔法を使えるわけはない。そう思い込みたくて仕方ない者も居るってことなんだよ」

「確かに、リカルドは自分の力で魔法を使ってるわけじゃないから、まったくの間違いというわけでもないのが問題なのね」

「ああ、その通り。人間や亜人に一部の魔獣などの生き物が魔法を発動させるものと思っている。だけどリカルド殿は生き物に必要なのは発動させるきっかけとなる行動だけで、魔力の供給も発動させる魔法自体も魔石や能石が行なう仕組みを作った。それどころかエアバイクのように、操縦者が意識しなくても障害物を避ける仕組みを作ったんだ。私もあれには驚いた。避けるための魔法の種類も威力もタイミングも全部道具が勝手に行なうんだからね。もう生き物に必要になのは道具を動かす魔法を発動させるきっかけだけ。操縦者の能力なんて関係ない。だけど人が魔法を発動させているように見えてしまうから勘違いさせてしまう」

「リカルドの力で恐ろしいのはそこなのに、まだまだ理解していない人が多いのよ」


 そうよ。魔法を扱う者自身の能力がもうほとんど意味を持たない道具をリカルド様は作ってる。

 生まれつき持っている能力の中に、他の人の多くが持っているモノを持たなくてリカルド様は立場を失った。だから魔法を発動する力を持っているとか持っていないとか、そんなことを気にする必要のないモノを創った。

 本来はそれだけのこと。

 リカルド様の登場で、魔法は誰でも使えるモノになっただけ。


「ねえ、エリザベス。貴女はこれからどうするの?」

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