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貴族襲来(その二)

 リガータの森北部を抜けると草原が広がっている。俺達はここを戦場に選んだ。到着まであと一日時点と早めに来たのには訳がある。罠を仕掛けておくためだ。


「よし! みんな打ち合わせの通り、速やかにアレを設置しろ! 設置場所を忘れた者は居ないよな?」


 トラックから降り、全員が並ぶやヴィアルは時間を惜しむかのように号令を発した。


「はい! 忘れたりしません!」


 ヴィアルを除く二十六名は一斉に背を伸ばし声を揃えて返した。


「では始めろ!」


 引き締まった表情で散らばっていくリンクス達を見送った後、ヴィアルの背をポンッと叩く。


「大丈夫だ。作戦通りにやれば目的の達成は約束されている。ヴィアル、おまえ達にできることをすればいいんだ。おまえ達は強いよ」


 そう。魔法拳銃の使い方だけは開発者の俺に分があるけど、身体の能力はもちろん武術の腕もヴィアル達の方が断然上だ。


 ――成長速度が凄まじいですね。これしかないと腹を括ってるからでしょうか? リカルド様にもこのくらい真剣味があれば……などと、傭兵隊指南役のソウヒから耳の痛くなるような、彼らへの褒め言葉が出るほどだ。


 少し緊張がほぐれた様子のヴィアルの肩を叩き、俺は俺の持ち場へ移動する。

 リガータの森の北側には一箇所だけ丘がある。俺はその上で状況を見渡してヴィアルに指示を出すつもりだ。


 俺の作戦案のキモは敵を一箇所に集めることにある。

 同程度の力量を持つ者同士であれば、敵集団を分断し少数の敵を味方の多数で潰していく各個撃破が勝利に導く。だがこの世界には魔法がある。魔法力に差があれば、各個撃破なんて面倒なことはしなくても勝てる。少人数でも大多数に勝てるのだ。


 何かしらの手段で敵を一箇所に集めて魔法で包囲してしまえば勝利は決まる。魔法のある世界では魔法力こそが戦力を決定する。貴族が社会の頂点に居続けられた理由だ。俺はそのことを貴族に突きつけてやる。そして今ではおまえ達には社会の頂点に居続ける力はないのだと思い知らせてやろう。


 イアンからの頼みがなければ、派手な魔法をぶっ放して殲滅してやりたいところだ。できるだけ命を奪わないような手段がなければやはり殲滅戦を計画しただろう。実際、勝つだけならその方が簡単だ。だけど可能な手段がある。リンクス達の心に深刻なダメージを負わせないためにも人の命をできるだけ奪わないで終わらせたい。

 ……大量殺戮って気持ちの良いモノじゃないからな。


 指示しやすい見通しの良い場所を確保した。あとはリンクス達の作業が終わるのを待って食事の準備にとりかかろう。熟成させた肉を大量に運んできているから、塩を振って焼くだけでも美味しい夕食になる。少しでも美味しい物を食べて心を慰め、明日からの戦いに向けて気持ちを落ち着かせて貰いたい。


・・・

・・

 

 俺も緊張しているんだろう、朝はいつもよりだいぶ早く目が覚めた。

 敵が視界に入れば偵察から連絡が来る。既に準備は終わってるから、心静かにその時を待てば良い。テントから出て敵が来るだろう北を見る。草原が地平線まで続いているようにしかみえない。静かだ。いずれこの静けさが破られる時が来る。破るのは俺達が先かそれとも敵が先か。


 騒がしくなったその時、俺達は一手、いや二手か、で勝敗を決定づける。

 必勝の信念なんてものは持っていない。だけど必ず勝てるプランならある。そしてそのプラン通りに進めさえすれば、今日この日を境に俺達を見る貴族達の目は変るだろう。

 エリザベス達が恐れているらしい変化を見せつけてやるのだからな。


 俺達は魔法力で誰かを支配したいなんて考えちゃいない。

 ただ自由に暮らせる環境が欲しいだけなんだけれど、強い力を持たない者は、特にこれまで持っていた者は自分達と同じように支配しようとすると考えるものらしい。誰かの従順、誰かの苦痛の上に胡座をかいて権力を握り、自分と周囲だけの幸せを守ろうとするなんて、そんな浅ましい考えは持ちたくない。きれい事だけで世の中を渡っていけるわけじゃない。だけどきれい事のない世界は他人の不幸に目をつぶって生きる世界で、俺はそんな世界は嫌いだ。


 そりゃいつも他人のことを考えて生きるなんてことは聖人君子でもなければ無理だろう。目に入らない不幸までいつも想像しながら生きるなんてことは平凡な人間には無理だろう。楽をしたいし、美味しい物を食べたいし、好きな相手と暮らしたいし、そういう欲を切り離して生きられるほど強い人間は居ないだろう。


 きれい事と自分の欲の折り合いをどうつけるか? とても面倒で難しいことだよな。でも、その難しいことと向き合って生きるのがより良く生きるってことじゃないか?


 魔力喰いの体質のせいで貴族の家から追い出された。平民が暮らす市井で暮らすことも許されなかった。

 ――俺達とは関わりのないところで好きに生きて勝手に死ね。

 そう言われたと感じた。だから気ままに自由に生きようとしてきたしこれからもそうするつもりで居る。


 貴族の誇りや責任を俺から奪ったのは貴族達だ。

 人間社会で平凡に生きる機会を奪ったのは人間だ。

 その上で手に入れたのが、似たような境遇で生きなければならなかった仲間と自由だ。

 俺からもう何も奪わせない。


 魔力喰いだからこそヴェイグの憑坐となって手に入れた力が創石だ。魔力喰いだからと俺を受け入れなかった者達がこの力を都合良く利用しようだなんて許さない。

  

 この十年それなりに幸せに生きられたから、今更誰も恨んじゃいない。だからイアンの頼みを聞いてこれからの戦いに向かおうとしている。


 ……早々に決着をつけてやる。そして俺と仲間達の自由を守る。


「今夜には帰りたいけど、難しいんだろうなあ」


・・・

・・


 戻って来た偵察から貴族軍がすぐそばまで近づいている報告が入る。横に立つヴィアルが偵察に頷き、俺に伝えてきた。


「では私も前線へ出ます。作戦開始の合図はお願いします」

「判った。ヴィアル、落ち着いてな?」


 ヴィアルは堅い表情を崩して口端を上げる。魔獣相手ではなく貴族の大軍相手なのに、いつもと同じ事を言われたものだから何故かおかしく感じたんだろうな。

 微笑みを浮かべて会釈し、ヴィアルは丘を下っていった。


 ――さてどこまで近づいてきたかな?


 遠くを見ると、貴族軍は三隊に分れていた。左右と中央に分けてこちらへ進軍している。作戦を開始するにはまだ少し遠い。騎馬を後ろにした重装歩兵が各隊の前に居る。


 ――こちらが魔法を使う情報は持っているだろう。あの鎧はきっと魔法抵抗力のある素材で作られているんだろう。重装歩兵で魔法を防いでいる間に騎馬兵でこちらを殲滅する。そんな感じかな。魔法で直接攻撃してくると予想した装備。だけどあの鎧は重い動きは鈍くなるだろう。こちらには好都合だ。


 徐々に近づく敵の位置を確認しながら、俺は魔法拳銃を空に向ける。そしてしばらくの後、作戦開始位置まで敵が入り込んだのを確認して俺は引き金を引いた。

 上空で赤い炎が散っていく。


 ドン! ドン! ドーン!と敵兵の周囲の地面が爆発し土煙をあげる。昨日埋めて貰った魔石が爆発したんだ。この魔石を創るのも難しくない。性質上相反する属性因子を込めた魔力は、そこに光属性の魔力を放射すると属性因子が活性化して魔石内部でエネルギーを増大する。そのエネルギーを放出するような術式が書き込まれていないと爆発するんだよね。いろんな魔石を創る中で発見した性質を利用してる。


 これで四方から土煙があがったために、中央は立ち止まり敵左右が中央へ寄るはずだ。視界が晴れる前に突撃したくても、重装歩兵には難しいだろう。視界が土煙で塞がれている上にどんな魔法が使われるか判らない中、のろのろと前進するのは恐怖だろう。


 突撃して来た場合でも対応は考えてある。というか、重装歩兵を揃えてるとは予想していなかったから、こちらの方が最初の作戦案だ。だけど、重装歩兵を揃えてきたから不要になった。こちらとしては楽になったと言っていい。馬は大きな音や衝撃に弱い。戦場に備えて訓練している馬でも、慣れない異常事態には弱いんだ。きっと騎馬兵は暴れてる馬の制御に苦労していることだろう。


 さてもう一度だ。俺は再び空に向けて拳銃の引き金を引いた。

 ドン! ドン! ドーン!と敵兵の周囲の地面が爆発し土煙を再びあげる。先ほどより中央の部隊に近いところの地面が爆発する。


 二度目の爆発が起きると、リンクス達は二人一組で敵軍へ近づいていく。ここからではどこに居るか判らないけれど、落ち着け落ち着けとつぶやくヴィアルも移動しているだろう。二十六名のリンクス達がお互いに近づきすぎないよう距離を置きながら敵軍へかけていく。


 土煙を破って出てくる敵兵の姿は無い。

 俺は最後の指示を出すために空へ拳銃を向け引き金を引く。今までより大きな炎が、空で花を描くように広がった。リンクス達は立ち止まり、一人は敵に備え、もう一人は敵に向けて銃を向けているだろう。


 リンクス達が放った魔法の影響で舞い上がった土煙が網状に変化していく。そして敵軍を包み込むように下りていった。視界は晴れ、中央軍を支えるように左右の隊は寄っていた。


 土の網の外に敵兵の姿は無い。

 

「勝った」


 敵兵は今、硬質化した土で編まれた網に捕らわれて身動きできないはずだ。移動はもちろん立ち上がることも難しいだろう。この硬質化した網の強度を確かめるためにソウヒに犠牲になって貰った。ソウヒが竜族の力をもってしても壊すことも破ることもできない網に捕えたんだ。もう敵は何もできない。


 俺は丘をおり、リンクス達のもとへ向かった。

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