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初陣とその裏

 リンクス達による傭兵隊『褐色の戦士』は総勢十五名になった。

 褐色の戦士という隊名は、リンクス全員の肌の色に由来する。髪や瞳の色は様々だけど肌の色だけは皆同じで薄い褐色だ。片親がエルフの子も居るけど、もう片親がダークエルフふぁからか肌の色は褐色、

 今後、別の肌のリンクスが入隊するかもしれないけれど、発足時の隊員がそうだったってことで納得して貰おう。……センスが無いと言われるかもしれないけれど、命名は俺だからさ? 諦めて貰おう。


 最年長二十二歳のヴィアルが当面隊長を務めるという。ヴィアルはもとからダークエルフの集落で暮らしていて、うちでの魔獣解体作業などの仕事歴も長い。混血児だからと避けられ続けた期間が長いせいか笑顔も口数も少なかったけれど、最近は口元に笑みを浮かべて仲間との会話も増えてきたように感じる。


 彼らの訓練に付き合っているソウヒとセキヒによれば、ヴィアルはどんなときも冷静だという。だから彼を最初の部隊長に指名したんだってさ。……いいんじゃないかな。


 ヴィアルが隊長を務める初めての仕事の依頼が来た。ベネディクト侯爵からの依頼だ。

 ドゥラーク領北東部で少数ながら頻繁に魔獣が出没しているらしい。魔獣は山岳地帯から下りてきてるように思えるが追跡できずはっきりしない。

 そこでどこから来ているのかの調査も含めて討伐をという内容。


 ベネディクトの気遣いが感じられる依頼だな。

 リンクスには緩衝壁を纏う魔法が発動する魔石を全員に渡しているから、魔獣からの攻撃で傷つくなんてことはない。小型や中型はもちろん大型魔獣からの攻撃でも怪我などしないだろう。実証は俺自身の経験だけど間違いはない。


 だけど、攻撃は別だ。傭兵の仕事に就く者には他のリンクスには渡さない幾種もの魔石を渡してるけど、効果的に使えないと使用者は体力面で疲労するし、過剰な攻撃は魔獣の革や爪などの素材や魔獣の体内にある魔石を損なう。肉も食用に回せるから資材などと一緒に売れるし、持ち帰られればリンクスの食糧にもなる。

 一応、リガータの森で実戦を繰り返しているけれど、その場にはソウヒが居るから皆安心して攻撃しているようだ。だから実戦の場でソウヒ抜きの彼らだけでどれだけできるかは未知数だ。

 だから比較的簡単な依頼が欲しかった。


 『褐色の戦士』はそろそろリガータの森の外の実戦に出てもいいかもしれない、と先日セキヒとソウヒが話していた。多分、エリザベスがそのことを手紙で伝えたのだと思う。そこでベネディクトは手近な案件を依頼してきたんだろう。


 この依頼をヴィアルに伝えると、静かに闘志を込めた瞳で「やらせてください」と答えた。

 リガータの森の外へ遠征するのはヴィアルを含めた七名で、魔獣討伐傭兵隊『褐色の戦士』の現在における遠征可能なメンバーだ。他の仲間はまだ練度に不安がある。

 彼らの戦い方が、彼らの討伐結果がリンクスへの評価を決める。そのことを自覚していない者は居ないとヴィアルは言う。戦いに向かない者達の支援も忘れず、必ず結果を出してきますと力強く伝えてきた。


 ドゥラーク領に入り込む魔獣の捜索と討伐。

 ベネディクトからは期限を決められていないけれど、ヴィアルは現地到着後五十日以内に決着をつけるつもりらしい。捜索範囲が広いから発見までに時間がかかるので五十日としたけれど、発見後は数日以内に討伐するという。


 自信があるというより、そうしなければならないと自分を追い込んでいるような感じがした。冷静なヴィアルでも初陣で緊張しているのか、それともリンクスの評判を上げるために責任を感じ過ぎているのか、少し危うい感じがする。


「ソウヒ。ヴィアル達に気付かれないように見守ってやってくれ」

「しばらくリカルド様のもとを離れるのは心苦しいのですが、私の教え子達ですのでそうさせていただきます」


 ソウヒが頼もしく頷いてくれた。


 過保護かもしれないとは思う。だけど、リンクス達の仕事が、彼らの生活が軌道に乗ってくれないと困るんだ。気になって気ままに生きられない。


 乗り物だと、エアーバイクの改良を終えたら魔導タービン船に挑戦しようと思ってる。魔導タービン船がうまく行ったら次は魔導タービン飛行船。


 挑戦したいのは乗り物だけじゃない。

 生活インフラ……例えば上水下水関係の設備、原泉に拘らない温泉設備も用意したい。農業や漁業の役に立つ装置だって作りたい。

 魔獣を容易く倒せる魔法を利用した兵器も作りたいしな。

 安心、安全な生活空間を整備したら次は娯楽に手を出すのもいい。


 創石だってそうだ。

 高等魔法術式を創石の際に霊力にイメージ書き込み出来るようになれば、転移や転送だってできるようになるかもしれない。ま、現実はそう甘くないんだけどさ。でも、今は基本属性因子を二種類混合する程度だけどもっといろんな種類の属性因子を組み合わせて複合魔法の種類を増やしたい。


 他にもやりたいことがある。


 それに、ヴェイグが目覚めたら生活も変るかもしれない。何せこの世に二体しか存在しない、竜族の頂点である真龍が目覚める。セキヒとソウヒは変らないとしても、他の竜族がどう動くか未知数。平穏な生活はまったく約束されていないんだ。


 祈るようにという言葉がぴったりの気持ちで『褐色の戦士』を見送った。


 彼ら用のクルマを用意してあげたかったけど、親方が忙しすぎて間に合わなかった。原因は俺じゃないよ? エルフからの依頼があって「ダークエルフの面子にかけて文句の一つも言わせない出来の品物を作る」と、その仕事に集中しているからなんだ。


 馬を購入して預けたけれど、次回はクルマ、もしくはエアーバイクを渡してあげたいな。


◇◇◇

 

「……簡単な依頼……そう受け取ってるのか」

「父上、何を楽しそうにしてるのですか?」


 夕食後ベランダにランプを灯し、エリザベスから届いた手紙を楽しんでいるところへ、嫡男のジュリアスが近づいてきた。


「ああ、ジュリアスか。エリザベスからの手紙だ」


 最愛の妹の名を聞き、ジュリアスは笑みを浮かべたがすぐ不安げな瞳を向けてきた。


「ベスは、健やかに過ごしてるのでしょうか?」

「おまえも読むか?」

「結構です! どうせリカルドなる者の話ばかりなのでしょう? 不愉快な気持ちでベッドへ向かいたくありません」


 まったくこやつときたら、エリザベスのこととなると駄々っ子のようだ。


「エリザベスはリカルドによって世界が変っていく様子を見たいだけでなく、我が領地が世界の変化に飲み込まれぬよう自身の力を捧げてるのだ。そう話したが、まだ判らぬのか?」

「……父上、本当に世界は変るのでしょうか?」

「変る。貴族から魔力生成力が失われつつある以上変らざるをえないのだ」


 そう。必ず変る。今までは魔法という力は貴族が持っていたと言える。魔法は貴族に誇りと義務、強大な権力を与えた。しかしリカルドによって魔法が誰でも利用できるものになるなら、貴族はこれまで持っていたものを手放すこととなる。それは国の在り方……人々の意識と生活を変えて行くだろう。エリザベスは真っ先にそこに気付き、リカルドと共に生きて我が領地を守る方法を探そうとしている。


 今回リンクスへ依頼した仕事は、わざわざ簡単な仕事を選んだわけじゃない。魔力生成力が弱くなった騎士達は、港に襲い来る海からの魔獣に対処するだけで精一杯で、領地周辺まで対処できないのだ。

 ――依頼した仕事が簡単だと感じられるというのが、既に、世界が変りつつある証拠。リカルドは私に恩を感じたようだが、好意的に受け取ってもらえて感謝したいくらいだ。


「世界が変るというのなら、それは貴族の手で変えるべきではないでしょうか?」

「傲慢だな、おまえは。魔法で力を示せなくなった貴族に何ができるというのだ?」

「我々には国を維持してきた誇りと経験があります」


 やはり若いな。夢や目標にむけて熱意と努力があれば何でもできると思っているようだ。だがそんなものは無知ゆえの確信だ。


「誇り? 例えば、クラウン領の領主のような貴族も大勢いるのだぞ? 貴族だからといって皆が誇りを持っているわけではない」

「誇りある貴族だけで集まれば……」

「愚かな。その中にリカルドと同じような才持つものが居るというのか?」

「居ないかもしれませんが、ですがそれでは貴族はどうすればいいのです?」

「貴族であることを止めるだけだよ。誇りまで失わなければいいのだ」


 そう貴族という地位に拘るから流れを見極められないのだ。これまでと形は違っても、家族と民を守れる力を持っていれば良いのだ。リカルドの力による影響を私達にとって有益なものにすればいいのだ。


 そのためにエリザベスは、これまでのあの娘には考えられない環境に身を置いて生活している。その生活で気付いたことを手紙にしたためて送ってくる。何でもいいから気付いて欲しいと願って、見たもの聞いたものを詳しく伝えてくれる。

 その気持ちに応えなければならない。


 ジュリアスも賢く優しい子だ。もうじき頭だけでなく気持ちでも判ってくれるだろう。


「父上、やはり私自身の目でリカルドとその力を確かめたく思います」


 妹可愛さで暴走するのでないなら、自身の目で確かめさせるのもいいだろう。


「……エリザベスの邪魔はけっしてしないと誓うか?」

「家族に誓います!」

「いいだろう。好きにしなさい」

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