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のどかな一日

 今日は親方に頼んでいたエアバイクの躯体が届いた。さすがに仕事が早い。見た目は車輪のないカウル付きの漆黒のスクーター。ボディーカラーを黒にしたのは、俺の中に居るヴェイグが闇の真竜だからでそれ以上の意味はない。


 この躯体にこれから魔石を組み込む。本当なら重力制御系魔術式を組み込みたかったんだけど、残念ながら俺の力量不足で空気圧変動系の魔術式を組み込んで浮揚移動を可能にした。浮くのも移動も空気圧だから、埃は舞うし近くの物体も軽いものなら吹き飛んでしまう。高等魔術式の重力制御魔術式を自在にイメージ書き込みできるようになりたいもんだ。


 障害物を避けるために必要な魔術式は波動制御系の魔術式を利用している。レーダーは電磁波を利用するけれど、この世界ではまだ発見されていないし当然利用可能なところにはない。だけど、無属性の魔力波は利用できるので魔力波型レーダーを用意した。

 最初は音波を利用しようかとも考えた。人間に知覚できない高音波ならと実験したんだけど、竜には聞こえちゃってさ。それで音波利用は断念し魔力波を利用することにした。

 だけど、これで森の中の移動で障害物を気にする必要はなくなる。


 創っておいた魔石を躯体の腹部にいそいそとはめ込んで、さあ、試運転! とワクワクしていた。当然早速乗り込んでハンドルを握り、ハンドルに付けたスターターボタンを押したんだ。


 ふわりとはいかないけれど、ボワッという空気の膨らみを操縦者の俺にすら感じさせながら浮かんだ。では発進とばかりにハンドルの握り……アクセルを回した。さあ! 行くぜと意気込んだものの結果は失敗。エアーバイクは真っ直ぐに走るどころか、上下左右あちらこちらに動き回って俺は振り落とされた。


 くそお、宙に在るから姿勢制御が難しい。これはあれだ。ジャイロセンサーと速度センサーが必要だな。ジャイロは親方に頼んで作って貰うとして、速度センサー用の魔石を創ってジャイロと連動させてどんな速度、どんな加速度でも躯体の姿勢を制御できるようにならないと走らせられん。


 失敗は成功のマザーだと前世の日本で昭和時代のスポーツ選手が言っていたという。

 そう、失敗を恐れちゃいけない。宙に浮いたし移動した。今日のところはここまでで良しとしよう。

 あとで親方に報告と相談しなくちゃな。


 そんなことを地べたに座り込んで考えていた。


「リカルド様! お怪我は在りませんか?」


 新しい道具の実験と聞いて見学に来ているエリザベスが、慌てて近寄ってきた。


「大丈夫大丈夫。どこも怪我していないから」


 エリザベスの心配を消すため跳ねるように俺は立ち上がる。

 この手の実験のためというわけじゃなく、いつどこから魔獣に襲われるか判らないリガータの森で、魔法は使えない上に身体的にも亜人より脆弱な俺は、ちゃんと防衛手段を用意している。

 俺が傷つくレベルの一定以上の速度で近づく物体があると、身体の周囲にクッションタイプの濃い空気層が生じる。この際の空気は単なる空気ではなく土属性魔法で見えない固体のようになっていて刃でさえ通さない。この緩衝壁を作るため、空気圧変動系魔術式を利用した魔法が自動的に発動する魔石が常時稼働している。


 今しがたエアーバイクから落ちた際もこの防御魔法が発動したから、地面にぶつかる寸前にエアークッションに守られた。ちなみにこの魔法は、我が家のジープや親方のところのトラックでサスペンション用に改変して利用している。


「そうですか、安心しました」


 胸に手をあてホッと溜め息をついたエリザベス。

 その手首には親方製造の金の腕輪が光っている。瘴気クリーナーの腕輪だ。あの髭面は、エリザベスからの依頼だと判ると、美人は他との差別化が必要だとか言って銀ではなく金の腕輪を作りやがった。その上腕輪の周囲にはどこかの職人に頼んで草花の装飾まで彫り込んである。真珠のように見える瘴気クリーナー用能石が一つだけはめ込まれているが緩衝壁用魔石も必要だろうな。


 どのみち魔獣討伐訓練をはじめるリンクス達にも創るのだから一緒に用意すればいいだろう。


「いいなあ、エリザベス嬢のような女神に心配されるリカルド様が羨ましい」


 ヴィアーナの頼みでここの見学を許すことになったモドラムが頭の後ろで手を組んでニヤニヤと笑っている。元商人で今はアレーゼ領の市場で管理役を務めているという。話してみると、なかなか賢そうな男だ。


 だけど、ダークエルフだろうとリンクスだろうともちろんエリザベスにもだが、とにかく適齢の女性と見れば声をかけるチャラい男だ。種族差別がないのは素晴らしいんだが、関心があるのは女性のみで男性となると種族関係なく興味がないのを隠そうともしない。「アレーゼ領の領主が麗しいヴィアーナ様だから官吏役に就いた」と臆面もなく言い放つ奴だ。


 見た目は、悔しいが俺よりは良い男だ。中身を知らなければ爽やかな好青年に見えるだろう。……二十代後半の割に若く見えるところも、二十五歳の割に老けていると言われる俺はほんの少し気に入らない。


 このモドラムがここに通うようになってから五日が過ぎた。何が楽しいのか知らないけれど、毎日俺のすることを観察している。そしてエリザベスはと言えばそろそろ二十日。コンコルディア王国と貴族社会についてリンクス達の講師を務めてくれている。


「リカルド様がもし怪我をしていたら、エリザベス嬢に看病して貰えたのに残念でしたね」

「やかましい、おまえが怪我しろ!」


 優しいエリザベスなら怪我をしたのが俺じゃなくても看病するだろう。だがモドラム、おまえはダメだ。エリザベスが看病しようとしたら俺が全力で邪魔してやる。


「私が怪我したら世の女性大勢が嘆き悲しみますので気をつけてるんですよ」

「ふん、そんなこと心配しなくていいぜ。おまえがもし死んだとしても、世の女性は別の男性に魅力を見つけて恋するだろうさ」


 痛いところを突かれた風な表情をしたが、俺の胸は痛まない。何故なら、モドラム、おまえのそれは傷ついたフリだからだ。俺には判る。この程度で傷つくような柔な神経をこいつは持っていない。


「エリザベス嬢、こんな意地の悪いことを言うリカルド様など見放して私に乗り換えてみては?」

「雄々しく空を飛ぶ気高き鷹には鋭い爪があるものです。傷つくのが怖いなら近寄らなければ良いのですよ」


 軽口を叩くモドラムにエリザベスからやんわりと注意が入ったようだ。ニッコリと笑いながらモドラムを刺してくれて、俺はちょっと嬉しかった。


「鷹には爪が、薔薇にはトゲが……良い勉強になりました」

 

 けっして美しいとは言いがたいウニにもトゲがあるけどな!

 でも、この世界にもウニっているのか? などと思いついて口にはしなかった。


「そろそろアレーゼ領へ戻るんだろ?」

「ええ、私の瘴気避けは限界ですので明日。リカルド様が瘴気クリーナー創ってくださらないから……」

「おまえのは絶対に創らん!」


 こいつが瘴気を気にせずにずっとここに居るような事態は何があっても避けたい。だから今後もモドラムの瘴気クリーナーだけは創らないと改めて誓う。


「いいんですけどね。ヴィアーナ様に会いたくなってきたところですので」

「ふーん、で、報告しなきゃいけないようなものは見つかったの?」

「ええ、おかげさまで。報告を終えたら瘴気避けを交換できるならすぐ戻って来ますよ」

「ああ、エリザベスに会いたいからだろ?」

「それはもちろんですけど、それだけじゃないですね」


 さも当然と言いながら、意味ありげな笑みを俺に向けている。どうやらヴィアーナへ報告すべきものが何かしら見つかったらしい。だけど俺は最初から何も隠していない。気ままに生きると決めてるから周囲にできるだけ左右されない。


「まあ好きにしてくれ。傭兵隊のお得意様になりそうなアレーゼ領だからな。最低限のお付き合いはするさ」


 この俺の言葉には返事せず、我が家の裏手に視線を向けた。


「次に来る時は、エリザベス嬢のお宅も完成していそうですね」


 我が家の裏手にあった森を切り開き、エリザベスが暮らす家が建築中だ。ベネディクト侯爵がダークエルフに依頼した、族長の別宅を一回り狭くしたような建物がもうじき完成する。あまり近くに暮らされるのも困ると思ったんだけれど、エリザベスはリンクス達への講師を務めてくれるから断り切れなかったんだ。


「ええ、完成すれば族長さんのところから通わなくても良くなりますので、本当に楽しみです」

「私も泊めてくださると有り難いんですけどね」

「……お父様に叱られてしまいますもの」


 めげない奴ってのはある種の害悪なんじゃないだろうかとモドラムを見ていると思うことがある。エリザベスは笑みを絶やさずに断っているけれど、これがアドリアあたりなら殴り飛ばしていそうな気がする。


 それにしてもエリザベスの家は立派になりそうだ。建物だけじゃなく魔獣対策の柵も二階まで届きそうなくらい高いしね。護衛役も男性と女性のペアだし、料理人を兼ねる侍女も二名付く。五名が暮らせる建物で家族が来た時のために客室も用意するらしい。庭なども設置するなど全体的に極力貴族らしい家にするそうだから我が家より大きな建物になるに違いない。


 さて、エアバイクの試運転で判った問題点を親方に相談しに行こう。それが終わったらリンクス達の錬石作業の訓練に付き合おう。なんだかんだ言って、今日は俺が望んでいる穏やかで自由な一日だ。この喜びを明日も手に入れられるよう頑張ろう。

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