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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第一部 情に棹させば流される    第一章 傭兵隊結成
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傭兵隊結成

 ダークエルフの集落から戻ったあと、いつものように仕事に来るリンクス達に「今日は帰宅前に話がある」と伝える。何の話ですかと聞き返してくる子も居たけれど、みんなに一緒に話すからとその場で話すのは止めておいた。


 セキヒが用意してくれた朝食を遅くなったけれど美味しく食べ、その後セキヒを交えて俺とソウヒはベネディクト侯爵と話したことを相談した。


「いいんじゃないでしょうか? リカルド様が懸念している彼らの生活に道ができるのですから私達が断る理由はないと思います。ベネディクト侯爵が何かおかしなことを企んでいるのでしたら、それが明らかになったところで潰せばいいだけの話です」


 セキヒは何のこともないという感じで意見を言う。


「潰すって、侯爵家を潰す?」

「ええ、リカルド様をだまそうとする輩なら、他の貴族達への見せしめにもなりますから潰した方がいいでしょう」

「おまえはたまに物騒なことを言うよね」


 ソウヒが言うように、セキヒはたまに過激な面を見せる。だけど、ソウヒだって今のセキヒの意見に反対しているようには見えない。口に出さなかっただけでセキヒより前向きかもしれない。

 二人がもともと竜だからなのか、大事なものを守るためとはいえ破壊に躊躇しないところがある。


「潰すのはちょっと困るよ。貴族と敵対するつもりはないんだ。……今のところはね」

「リカルド様がそう仰るなら潰すのはやめて別の方法を考えましょう。ですがもしこちらを謀るようなら報復はするべきです」


 報復ね。俺としては魔獣対策に手を貸さないってだけで十分報復になると思うけど、セキヒとソウヒは直接的でわかりやすい報復が必要と思ってるんだろうな。


「ま、今のところは謀られてる証拠もないし、その気配もない。話がうますぎるから俺とソウヒは警戒しているだけさ」


 セキヒ達が頷いたのを見て話を次に進める。


「それで傭兵隊を育成するなら二人にも協力して貰わなくちゃならない」

「例えばどのようなことでしょう?」


 身構えるというほどではないけど、二人の顔に緊張が浮かんだ。


「ソウヒは毎日魔獣を狩ってきてくれてるだろう?」

「ええ、食材は必要ですから」

「ソウヒには毎日感謝してるよ。ありがとう。でだ、その仕事をリンクスにさせるようにしたい。ソウヒには彼らの指導を頼みたいんだ。慣れない間は危険な場面もあるだろう。そんな時はソウヒが助けてやってくれ」

「教官役というわけですね。ふふふん」


 他人に教えるなんて面倒なだけに俺なら思うんだけど、ソウヒは勝ち誇ったような視線をセキヒへ向ける。セキヒはいつものように表情を変えないけれど、意外とソウヒには対抗意識を持ってるから内心はどうか判らない。


「そういうことになるね。ついでに体術や武器の訓練もお願いしたい。俺にしてくれたようにさ」

「お任せ下さい。小竜なら倒せるほどに鍛えてみせます!」

「ま、ほどほどにね」


「では私の役目はなんで御座いましょう?」

「セキヒには、戦闘以外の面全てを任せたい」

「すべて……でございますか?」


 すべてと聞けばとても大変に感じるだろう。実際大変な役目を任せることになる。だけど隊を維持し仲間全員の生活を守っていくとなると、戦闘技術を身につけるだけじゃダメだ。生活に必要なこと、交渉に必要なこと、いろんなことを身につけなければならない。人間社会でも亜人の社会でも、集団から切り離されがちなリンクスには、社会の中で生きる知恵も自分達だけで生活を成り立たせる知恵も足りない。これを補ってやらなければならない。


 セキヒは俺を守りつつ亜人達とも付き合ってきたし、交渉ごとの場面にはいつも居たから人間社会との付き合い方もよく知っている。だから任せられるのはセキヒしかいない。


「ああ、彼らだけで生きていくために必要なこと全てだ。料理に関してはソウヒに任せてもいいけれど、肉以外の食材を集めること。その中には農作業も含まれるね。道具作りなんかは親方に頼んでおくし、ダークエルフの協力が必要なときは俺からダヴィド=ハルに頼む。これが必要だと思うことを見つけたらセキヒの判断で教えてやってくれ」

「リカルド様のご期待に添えるよう務めてみせます」


 少ない言葉を力強く返してくれた。セキヒに任せれば大丈夫。それはこの十年で俺が一番知っている。

 二人を頼もしく見ているとソウヒが訊いてきた。


「で、リカルド様は?」

「俺は錬石の仕方と魔石の利用方法を教えるし、彼らにとって便利な道具や武器を考えるよ」


 俺は、時間がかかる作業の錬石を受け持つ。彼ら自身で魔石を見極められるようになるまで辛抱強く見守る時間が長い。だけど、魔石の成分を見極められるようになれば、あとはひたすら実践あるのみ。個々の魔力には差があるし、操作が得意な属性因子も異なるだろうから慣れるしかない。

 操作が得意な属性因子が判れば、得意属性が異なる者同士で協力して一個の魔石を錬石すればいい。


 創石よりも繊細で得意不得意がはっきり出る錬石技術は、ひたすら錬石作業を繰り返すことでしか身に付かない。身につけられれば俺に頼らずにそれなりに強力な魔石を作り出せるようになる。

 この技術は傭兵として戦う仲間の力にきっとなるだろう。


「方針はだいたいこんな感じでいいかな? あとは問題が出たときに改めて考えたい」

「宜しいのではないでしょうか? 私達はサポートするだけ。あとは彼ら自身の意思と努力次第ということですね」


 そういうことだ。俺としちゃ、生まれた時点で決まってしまうようなことを理由に差別されたり蔑まれる状況が自分の境遇と重なって気に入らないだけだ。そんな気に入らないことが身近で起きてるんじゃお気楽に暮らせないから困るって話だ。ま、アドリアだけは別。俺の命を救ってくれた恩人だから何があっても助けるし、できることは協力する。でも他のリンクスにはアドリアへほどの気持ちはない。同情だけで一生面倒は見られない。


 自立できるよう環境は用意するし、当面は手伝う。だけど将来は自分達の手で掴み取って貰わなきゃならない。この点は強く伝えなければならないだろう。弱いままの自分で居ちゃいけない。誰かに頼りすぎてもいけない。未来は自分が決めて自分の力で勝ち取るものだ。


 ……まぁ、生活の諸々をセキヒ達に頼っていて、ヴェイグの憑坐(よりまし)となったからこそ手に入れた創石能力のおかげで何不自由なく暮らしてる俺が偉そうなことを言っちゃいけないかもしれないんだけどさ。


 そういやヴェイグの再生もそろそろ終盤に差し掛かってるはず。その時が来たら俺の中のヴェイグが声をかけてくるだろうとセキヒは言っていた。だが今のところその気配は無い。まだ眠っているんだろうな。……目覚めたら何を話そうか。


 俺達は今後の方針と担当を決め終え、リンクス達の今日の作業が終わるまでいつものようにそれぞれの仕事に戻った。


・・・・・

・・・


 リンクス達には傭兵隊を結成して貰いたい等これまで俺達が話してきたことの説明を終えると、リンクス達とその親達はお互いに話し合っていた。さすがにすぐに決められないだろう。そう思っていたけれど、この場に居る者達の決断は想定外に早かった。


「やります! やらせて下さい!」


 言葉こそ違っても全員前向きな返事だった。

 どのみちリガータの森で暮らすなら魔獣との戦いは避けて通れない。彼らが技術を身につけるまで俺達がサポートしてくれるというのなら断る理由はない。戦いに向かない者は戦う者達をサポートする役割を担うと気持ちのこもった視線を俺に向けてきた。


「本当にいいんだな? 貴族と契約を結んで仕事するんだぞ? 出来ないでは済まされないんだ。判ってるか?」

「誰かに助けられてばかりの生活は嫌です。誰かに馬鹿にされてばかりの生活もまっぴらです。そうならないためにやれることがあるならやります!」


 ……良かった。

 彼らには自分への誇りが残っている。周囲からさんざん疎まれ馬鹿にされ、都合よく使用人として利用されてる現状に怒りも持っている。

 ウルウルしそうな気持ちを抑えて笑顔で皆を見渡した。


「じゃあ、これまで以上に毎日大変になるだろうけど頑張ってくれ。形になるまでは俺達がサポートするから自分達が強くなることやできることを増やすことに毎日集中してくれ。それと話はちょっとズレるんだけど、これからは混血児と呼ばれても返事をするな! リンクスと名乗れ! 意味は『繋げる者』だ。複数の種族を繋げる者として誇りを持って生きてくれ!」


 これまでは混血児と呼ばれてきたみんなは、リンクスとつぶやき何かを考えているようだ。

 

「誰も馬鹿にせず、そして馬鹿にされない存在になってくれ」


 これまで混血児と馬鹿にされ蔑まれて続けてきた者達が、魔獣討伐専用の傭兵集団として生まれ変わる瞬間を俺は目にした。希望、決意、不安などが入り交じっているけれど、誰一人としてその瞳が沈んでいる者は居なかった。


 ――俺も責任重大だ。だけどこれは俺自身のためでもある。やれることは何でもやらなきゃな。


 まだ人数は少ないけれどこれから増える。家も用意しなきゃならないし、訓練場所や道具も揃えなければならない。……俺も稼がなきゃな。

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